銀河英雄伝説 〜無能なる俗物が勘違いで英雄に祭り上げられ、気づけば貴族連合盟主としてラインハルトと雌雄を決する件について〜   作:斉宮 柴野

59 / 219
読者の皆さま、本日もお越しいただきありがとうございます。
今回は、ヴァンフリート4-2の泥と血と胃薬の香る戦場で、
アルとシェーンコップが実質プロレスをお披露目しております。

会議→突撃→撤退→殴打→降伏→胃痛——と、
銀英伝本編では絶対に読めない幕の内弁当みたいな回になりました。

アルの頬は無事?ですが、レンネンカンプの胃は無事ではありません。
どうか皆さま、参謀長にも労いの心を向けてあげてください。

それでは、戦場へどうぞ。


ヴァンフリート三度目の正直(なお殴られる)

正直、あの作戦会議室に入った瞬間から帰りたくなった。

 

会議の名目は「基地攻略に向けた作戦会議」実態は、老人たちが「わしは若い頃な」と言い出す前夜祭にしか見えない。今も老将Aが、モニターに映る偵察データを見ながら、眉間にシワを寄せてうなっている。

 

「危険すぎますな閣下。敵の罠かもしれん」

 

その横で老将Bが、同じ顔のまま頷く。コピー&ペーストかなにかか。双子か。クローンか。どっちでもいいが、こういうときのテンプレは大体同じだ。危険だ、罠だ、静観こそ上策。要するに「自分の任期中にややこしいことは起こすな」という祈りが、軍服を着て歩いているだけだ。

 

ロイエンタールが、目の奥で冷たい光を浮かべる。

 

「閣下。あの男もなかなかのものですよ。迅速な威力偵察で端緒をつかみ、橋頭堡を確保し、今この場で発言権と主導権をまとめて握りにきている。相当な曲者です」

 

「お前がそれを言うな」

 

思わずツッコミが出た。ロイエンタールほど、他人の働きと空気を利用する達人は珍しい。自覚があるのかないのか、皮肉っぽい笑みだけ残して黙った。

その間にも、グリンメルスハウゼンの沈黙タイムは終わり、ゆっくりとまぶたが開いた。

 

「……ふむ。攻略の件、よかろう」

 

老将AとBが同時に「閣下!」「しかし!」と声を上げかけたが、ジイさんは手を軽く上げただけで黙らせた。

「リューネブルク准将に陣頭を任せる。副将にミューゼル准将。ファルケンハイン大将、よろしいか」

 

「喜んで」

 

即答してやった。俺が渋ると思っていた老人たちの顔が、露骨に驚きに変わる。貴族社会では、面倒ごとを自分から取りに行く奴は少数派だからな。

ラインハルトが小声で囁く。

 

「本気か、ファルケンハイン。わざわざ厄介な任務を」

 

「厄介な任務ほど、評価は高い。お前、そこまで計算に疎くはないだろ」

 

「俺は、計算よりも」

 

「知ってる。そろそろ黙れ。顔に全部出てる」

 

会議はそのまま、基地侵攻の具体的な手順の確認に移っていった。リューネブルクが矢継ぎ早に指示を出し、俺とラインハルトが口を挟み、アナとロイエンタールが要所を補強する。

 

モニターに映る作戦図を見ながら、内心で別のことを考えていた。

 

あのリューネブルク、陸戦隊の専門家にしては海の方で持て余されてるな。きっと持ち腐れになるタイプだ

 

そのタイミングで、隣のアナが、また耳元で囁いた。

 

「アル様。噂ですが、彼が結婚した貴族令嬢が、あまりに美しすぎて、ある高官にやっかまれたそうです。その嫌がらせで、今のような扱いに」

 

思わず咳き込みそうになった。

 

「嫁が美人だから左遷?そんな馬鹿がいるか」

 

「おりますよ。帝都には、いくらでも」

 

アナが淡々と答える。説得力がすごい。俺は思わず彼女の横顔を見た。光沢のある黒髪、冴えた黒い瞳。軍服を着ていても一瞬でわかる整った姿。たしかに、これを横からかっさらった俺は、帝国の敵にされても文句は言えないか。

 

「ご心配なく、アル様」

 

アナが微笑んだ。

 

「アル様は、すでに全員を敵に回しておられますから。今さら増えません」

 

「慰めになってない」

 

「事実です」

 

この女、容赦がない。だが、嫌いじゃない。

リューネブルクは、そんなこちらの小芝居など気づかないふりで、作戦図に印を入れている。その手際を眺めながら、俺はロイエンタールにささやいた。

 

「なあ。うちの艦隊、陸戦の専門家いないだろ」

 

「ええ。せいぜいホーテン閣下とキルヒアイス大佐が、白兵戦のエースという程度で」

 

「リューネブルク、欲しくないか」

 

ロイエンタールが口端だけで笑った。

 

「ようやく本音ですね。偵察の後に、評価が固まったところで、さりげなく『ファルケンハイン艦隊ならもっと活かせますよ』と耳打ちするおつもりで?」

 

「お前がやれ」

 

「喜んで」

 

こいつも本当に性格が悪い。信頼している。

ラインハルトはといえば、まだリューネブルクを横目で睨みながら、ぶつぶつ言っている。

 

「フン。あんな男に主導権を握られるとは気に入らん」

 

「いいから結果を出せ。結果を出したやつが正義だ。どう転んでも、お前の武勲は消えない」

 

「……ならば、誰よりも目立つ働きをしてみせる」

 

危険な宣言をした。やめろ。その「誰よりも」がだいたい問題の原因になるんだよ。俺は内心で頭を抱えつつも、表面上は笑顔を崩さない。

 

会議が終わり、解散の合図が出た。老人たちはよろよろと立ち上がり、それぞれの持ち場へ戻っていく。グリンメルスハウゼンのジイさんは、最後にちらりと俺の方を見た。

 

「ファルケンハイン大将」

 

「はい」

 

「……抜かりなくやれ」

 

沈黙五秒を省略した、珍しく短い一言だった。俺は姿勢を正して答えた。

 

「もちろんです。俺の身内は、みんな無事に帰します」

 

ジイさんの目がわずかに細められた。何かに気づいた顔だ。

 

「……身内、か」

 

それだけ言って、老人はゆっくりと背を向けた。

会議室を出るなり、ラインハルトが俺の胸ぐらをつかんできた。

 

「ファルケンハイン!俺はまだ納得していないぞ!」

 

「何をだよ」

 

「なぜ俺が、あのリューネブルクの『副将』扱いなのだ。俺が主役であるべきだ」

 

「落ち着け。主役が誰かなんて、戦場が決める。名目上の役職なんか、後でどうとでも書き換えられる」

 

「書き換える気なのか」

 

「俺の嫁が報告書をまとめるんだぞ。察しろ」

 

ラインハルトが黙り込んだ。屈辱と期待と、妙な信頼が混ざった顔になっている。大丈夫だ。どうせこいつは、放っておいても前に出る。ならば、俺の仕事は、その暴走をできるだけ安全なコースに誘導することだ。

 

「というわけで、次の地獄行きツアーも、俺たちが最前線だ。喜べ、金髪。お前の望んだ舞台だぞ」

 

「望んでいない」

 

「うるさい。男は一度は地獄を見ろ」

 

俺の言葉に、ロイエンタールが小さく笑った。

 

「その分、閣下は後方でホーテン閣下とイチャつく時間が減りますな」

 

「それが一番の問題だ」

 

アナが肩をすくめた。

 

「その分、戦場から無事に戻ってきたときのご褒美を増やして差し上げますから」

 

ラインハルトが顔を背けた。

 

「……公衆の面前でそういう話をするな」

 

「お前が一番真っ赤になってどうする」

 

 

 

 

 

 

 

正直に言う。三回突撃して三回とも追い返される経験を味わうとは思っていなかった。

 

 今、俺はヴァンフリート4-2の高地で、黒焦げになった装甲板の陰にしゃがみ込み、装甲服のヘルメットの縁を指で弾き上げて深呼吸をしている。あちこちからレーザーの残光が走るし、砲撃で舞い上がった砂ぼこりが鼻に入る。横ではリューネブルク准将が無表情で銃のエネルギーパックを換え、前方ではアナがトマホークを片手でぶん投げて敵の装甲服をまとめて切り裂いていた。

 

「なかなかやるな、同盟軍も」

 

 思わず口からこぼれた声を、爆風が半分さらっていく。こっちは帝国軍の新鋭艦隊から選りすぐった強襲部隊だ。リューネブルクは元ローゼンリッター、アナはうちの狂犬中将、ロイエンタールは説明不要の鬼畜イケメン、ラインハルトとミュラーも射撃に関しては信用できる。なのに三度突っ込んで三度押し戻された。

 

 一回目は、正面からの突撃で見事な十字砲火を浴びた。一歩出るごとに、岩が一個ずつ吹き飛んだ。俺の勲章候補も一個ずつ吹き飛んだ気がする。

 

 二回目は左翼から回り込んでみたら、待ち構えていたローゼンリッターの分隊に正面からカウンターを食らった。あいつら、岩の中でほぼ全員が迷彩の岩になりきっていた。気づいたら目の前の岩が動いて斬りかかってきた。岩石のふりをする重装突撃兵というのは、なかなかホラーだ。

 

 三回目は右翼側から地下壕の入口を突く作戦で、順調に進んだと思った瞬間、天井の爆薬をまとめて起爆されて真っ白な粉塵に包まれた。視界ゼロ、耳キーン。小麦粉を見ると条件反射で身構える体になりたくなかったのに、もうなっている。幼年学校の倉庫事件を思い出して、思わず首をすくめた。

 

「閣下、前に出すぎです」

 

 背中を引っ張られる。振り返るとロイエンタールが眉間に皺を寄せていた。黒髪に砂がついているのに、なぜか絵になる男だ。砂ぼこりすらアクセサリー扱いできるあたり、貴族遺伝子の無駄遣いだと思う。

 

「お前が後ろに下がりすぎなんだよ。ほら、もう少し前へ出ろ。弾が余ってるなら撃て」

 

「弾は節約するものです。無限ではありません」

 

「俺の命も無限じゃないぞ」

 

「それを自覚しているようには見えません」

 

 口の減らない副官だ。だが、その直後、前方の塹壕から飛び出してきた同盟兵の胸装甲を、ロイエンタールの射撃がきっちり貫いた。言動と腕前のギャップが腹立たしい。撃ち抜いた後で、さりげなくマントの裾を払って砂を落としているのも腹立たしい。

 

 視線を右にずらすと、ラインハルトが岩陰から身を乗り出し、ミュラーに短く指示を飛ばしていた。いつものきれいな軍服ではなく、泥だらけの装甲服姿だが、金髪が夕陽を反射してやたら目立つ。敵の狙撃手への良い目印なので、本当はやめてほしい。

 

「ミュラー、右の稜線に三人、岩陰。抑えろ」

 

「了解しました、ラインハルト様」

 

 二人の銃火がほぼ同時に閃き、敵の影が三つ、まとめて崩れ落ちる。うん、頼もしい。頼もしいが、俺の指揮下の准将と中尉が、なぜここまで普通に地べたを這っているのか。本来なら艦橋で冷静に指揮する役だろう。

 

 まあ、その理由は、俺が「俺も行こう」と言い出したからだ。身内は現場で守る。これが俺のポリシーだ。責任の所在という言葉は、今日だけ忘れておく。

 

 敵陣からの射撃が一瞬やんだ。どうやら向こうもエネルギーの再充填に入ったらしい。遮蔽物の陰に集まり直した部隊の顔ぶれをざっと見る。生き残りは多い。重症者もいるが、誰も戦意を失っていない。三回も押し返された後でこの士気なら、うちの教育は悪くない。

 

「さて、次をどうするかだな」

 

 つぶやいた時、ヘルメットの内側で通信回線が震えた。ロンゴミニアドからの暗号だ。戦場の喧騒の裏側で、艦隊に何か動きがあった合図。嫌な予感しかしない。

 

場面を少し遡ろう。

 

 

 

 はるか上空、エメラルドグリーンの装甲を光らせたロンゴミニアドの艦橋では、レンネンカンプ参謀長が冷や汗と胃酸の両方と戦っていた。

 

「敵艦隊、急速接近。数は三万。速度は高く、こちらの警戒網を突破しつつあります」

 

 オペレーターが声を上ずらせる。艦橋の空気が一気に張り詰めた。情報表示パネルには、赤い点の群れがじわじわとこちら側へにじり寄ってくる様子が映し出されている。見ているだけで胃に悪い画面だ。

 

「慌てるな。もっと落ち着いた声で報告しろ」

 

静かな叱責が飛ぶ。さすが堅物参謀長、動揺のかけらもない。少なくとも表面上は。

 

内心では、別の戦いが繰り広げられている。

 

またか。なぜ私はいつも、この手の状況で艦隊を預かっているのだ。大将とその婚約者は地上で遊撃戦の真っ最中、艦隊の指揮権は事実上こちらに丸投げ。敵は三万。こちらは一万五千。しかも味方の一部は地上に降ろしている

 

 胃の左側が、じわじわと熱を持ってくる。それを意識で押さえ込みながら、レンネンカンプは次の指示を飛ばした。

 

「全艦に通達。偵察情報を確認。敵は三波に分かれているはずだ。第一波には右翼で応じる。第二波は中央で受け止める。左翼は一歩下がり、反転攻勢の準備。地上部隊には撤収信号を発しろ」

 

「し、しかし閣下、ファルケンハイン大将とホーテン中将が地上におられます。あの方々を置いて撤収命令など…」

 

 副官が顔を青くして口をはさむ。気持ちはわかる。俺も逆の立場なら同じ反応をする。だがレンネンカンプは机を軽く指で叩き、言葉を切り捨てた。

 

「だからこそだ。あのお二人が楽しそうに前線で暴れておられる間、艦隊を守るのが我々の仕事になる。艦隊を失えば、お二人の帰る場所がなくなる。地上部隊全員に通告しろ。五分後に軌道火力の使用を検討する。各自、指定ポイントへの後退を急がせろ」

 

そう言いながら、心の中では別の声が叫んでいた。

 

どうして私は参謀長なのだ。平凡な辺境駐留部隊の司令官で、のんびり任期を終えるはずだった。それが気づけば、ファルケンハイン艦隊の参謀長。あの二人を止められる人間など、この銀河に存在しないのに

 

 机の引き出しには、最新鋭の胃薬が三種類並んでいる。医務官から「一日の限度量を守ってください」と念を押されたが、参謀長の責任はその限度量を簡単に超えてくる。薬の箱に印刷された「服用は一日二回まで」という文字が、今ほど恨めしく見えた日はない。

 

「参謀長、地上への回線、つながりました」

 

「つなげ」

 

 レンネンカンプの声は相変わらず落ち着いていた。彼の胃袋が悲鳴を上げていることを知る者は、まだ少ない。

 

 

通信の背景ノイズが消え、艦橋の声が耳元に届いた。

 

『こちらロンゴミニアド。参謀長のレンネンカンプだ。地上部隊全員に告げる。五分以内に指定座標まで後退せよ。敵艦隊接近中。軌道からの支援射撃に備える』

 

「敵艦隊?」

 

俺が聞き返すと、わずかなため息を含んだ声が返ってきた。

 

『はい。数三万。こちらの上空を押さえに来ている。大将、あなたが地上で三度目の突撃を満喫しておられる間に、状況は悪化しました』

 

「満喫してない。かなり痛い。肩とか太ももとか、もう正直限界に近い」

 

『それを聞いて少し安心しました。限界を自覚していただけているだけ、まだ救いがあります』

 

「褒められている気がしないな。まあいい。撤収だな。だが断る!リューネブルク、聞いたろ。五分で下がれだそうだ。だが好機だ。俺たちはこのまま基地を攻略する」

 

俺は手で合図しながら、周囲の兵たちに指示を飛ばした。

 

「全員、耳を貸せ。再度進撃する。歩けるやつは負傷者を担げ。装備で捨てていいものは全部置いていってもいいが基地攻略が優先だ」

 

 リューネブルクがあごをしゃくり、部下に同じ指示を繰り返す。あいつは相変わらず不機嫌そうだが、命令の内容については何も言わない。

 

 

 ロンゴミニアド艦橋。レンネンカンプは各艦から上がってくる報告を確認しながら、撤収が予定通り進んでいることを確かめていた。

 

「地上部隊、第一収容ポイントに撤退しません!敵基地内部に侵入開始!」

 

「‥‥…」

 

「あと二十分で射程内に入ります」

 

参謀長は短く考え、決断した。

 

「先頭波に対してはこちらから先に火を開く。威嚇ではなく本気で撃て。第一斉射で、奴らにこちらの本気を理解させろ。第二波は、ミュッケンベルガー艦隊への連絡が届き次第、連携して対処する。左翼の予備戦力は、必要に応じてこちらの援護に回せ」

 

「了解」

 

指示を飛ばした後、レンネンカンプは一瞬だけ目を閉じた。

 

大将、早く戻ってきてください。

 

 自分で思って苦笑する。完全に末期症状だ。ここまで来ると、主君への忠誠か、胃痛による麻痺か、境界があやしい。

 

 

 地上で前に出すぎた俺の尻拭いを、上空の堅物参謀長がやってくれている。元帥を目指す道のりは、どう考えても胃袋の耐久勝負だ。俺だけの話ではない。周りの胃も巻き込む。

 

 

「よし。戻ったらレンネンカンプに一番良い胃薬を差し入れてやろう。ついでに賞与も増やしておくか。あいつが潰れたら、俺が困るしな」

 

 そうぼやきながら、俺は再びヘルメットをかぶった。まだヴァンフリートでの騒動は続く。人生も戦争も、今日も安定の六十五点だ。

 

 

 

 

 

 

基地内部の通路は、煙と粉塵で視界が悪い。さっき三度目の突入に成功したばかりなのに、敵の抵抗は衰えない。固定砲台は沈黙させたが、歩兵の数が減る気配がない。壁の影からはブラスターの光が延々飛んでくる。

 

「閣下、左側の角、二人」

 

ロイエンタールの声が冷静に飛ぶ。俺はそちらに向けてトマホークを一閃、ついでにブラスターを三連射。盾代わりになっていたコンテナにへばりついていた同盟兵が、情けない悲鳴を上げて転がった。

 

「よし、このまま中枢へ進むぞ。司令部は近いはずだ。……ラインハルトは前にいるか?」

 

そう口にして、ようやく違和感に気づく。視界のどこにも、あの主張の強い金髪が見当たらない。

 

「おい、ロイエンタール。あの金髪の孺子は?」

 

「ミューゼル准将なら、とっくに先行されました。司令部方面へ単独で特攻中です。引き留めは試みましたが、聞き入れられませんでした」

 

「あいつ、武勲をポイント制で管理してるのか。功績が不足すると死ぬ病気でも抱えてるのかよ」

 

呆れながら隣を見たが、そこにいるはずの姿も見えない。さっきまで一緒に敵配置を解析していたアナの姿が消えていた。

 

「……アナは?」

 

「ホーテン中将は、敵増援の出入り口になりそうな通路を潰しに向かわれました。『あちらの方が楽しそうですわ』と」

 

あれもポイント制かもしれない。いや、あれはただのストレス発散だな。ともかく、今この通路で頼りになりそうな戦力は、俺とロイエンタールしかいない。

 

「まあいい。個人的な武勲を稼ぐには、悪くない配置だ」

 

自分でそう言った三歩後に、未来の自分へ土下座したくなる出来事が起こった。

 

前方の曲がり角の向こうから、重たい足音が近づいてくる。床がわずかに震える。普通の兵隊では出せない音だ。嫌な予感というやつが、全力で警報を鳴らし始める。

 

煙の幕が風で流れた瞬間、そいつの姿が現れた。

 

「うわぁ……最悪のタイミングで最悪の顔を見た」

 

思わず本音が漏れた。背は高い。肩は岩。筋肉でできた壁にモヒカンを乗せたような男。自由惑星同盟の陸戦狂、ローゼンリッターの問題児、シェーンコップ。前回、森の中で俺の頬を拳で再設計しようとした張本人だ。

 

「やあ。この間の気絶寸前大将殿じゃないか」

 

向こうもきっちり覚えていやがる。忘れてくれていても良かったのに。

 

「この間は、俺の顔面に親しげ過ぎる挨拶をどうも。医務官が真顔で骨格図を取り出してきたからな」

 

「左右のバランスは保たれている。芸術点は高い方だ」

 

「敵に顔面の評価までされる筋合いはないぞ」

 

会話している間にも、周囲では味方と同盟兵が撃ち合いを続けている。ロイエンタールは部下に指示を飛ばしながら、半歩下がって俺とシェーンコップの間合いを眺めていた。あいつの「どこまでなら笑って見ているか」のラインが、毎回よく分からない。

 

「大将殿、貴様の正式な名を聞いていなかったな」

 

シェーンコップが戦斧を肩に担いだまま問う。ここで偽名を名乗るという選択肢も一瞬過る。だが俺の口は正直だ。あと、こういうタイプは嘘を付くと余計面倒そうだ。

 

「アルブレヒト・フォン・ファルケンハイン。帝国軍大将だ。覚えておけ」

 

シェーンコップの片眉がぴくりと動く。

 

「大将?前線で自分の名前と階級を自ら名乗るとは豪胆だな」

 

「豪胆というより、もう疲れているだけだ。お前が名乗れと言ったんだろうが」

 

「気に入った。階級に見合う腕かどうか、確かめる価値はありそうだ」

 

やめろ。その方向にテンションを上げるな。

 

言うが早いか、奴は床を蹴った。姿が一瞬ブレる。戦斧が、空気を唸らせながら俺の頭上へ振り下ろされる。

 

「っとおお!」

 

本能で身体が横に滑った。ギリギリで軌道を外れた斧は床をえぐり、火花を散らす。すかさず反撃。俺のトマホークが逆袈裟に走るが、斧の柄で弾かれた。筋肉の塊みたいな腕が、軽く受け止めてきやがる。

 

「重いぞ、このやろう」

 

「そちらもなかなか。椅子に座る時間の方が長そうな肩をしているが」

 

「俺の筋肉に喧嘩を売るな」

 

一撃ごとに腕がしびれていく。こいつ、本当に人間なのか。反射速度も体幹も、数値が常識を超えている。森で殴り飛ばされたときに身をもって知ったが、近距離で改めて実感すると、さらに腹が立ってくる。

 

「ロイエンタール、うっかり援護射撃をしようなんて考えるなよ。本気で巻き込むぞ」

 

「ご安心を。閣下の尊厳が完全に粉砕されそうになった瞬間だけ、誤射を装って支援します」

 

「お前の中の『尊厳』の定義を詳しく聞きたい」

 

毒舌を飛ばしながらも、トマホークと戦斧の打ち合いは激しさを増していく。金属音が耳に突き刺さり、足元では、さっきまで撃ち合っていた兵士たちが息を潜めてこちらを見ていた。戦場のど真ん中で、一騎打ちショーを開催するつもりはないのだが、現実はいつも俺の意思を無視する。

 

「大将殿、白兵戦が専門か?」

 

「いいや。俺の専門は、総合的なサボりだ」

 

「そのサボりでこの動きなら、帝国軍の教育水準は侮れんな」

 

「褒めてるのかそれは」

 

本音を言えば、俺は白兵戦に関して「まあまあやれる」くらいの自己評価だ。アナ、ロイエンタール、キルヒアイス、その辺の連中と同列に並べるつもりはない。そこにこの色男が加わると、俺のランキングはさらに怪しくなる。だからこそ、ここで退くのは面白くない。

 

「さっきから妙に必死だな、大将。何か理由でも?」

 

「ある。お前がアナに勝つようなことがあれば、俺のプライドが粉末になる」

 

「あの黒髪の女中将か。確かに腕は立ちそうだった」

 

「だから、少しでも削っておきたいんだよ。心理的に」

 

「男の嫉妬は厄介だな」

 

「今のところ、それを意地と呼んでごまかしている」

 

そんなくだらない会話を挟みつつも、攻防はさらに激しくなる。斧の軌跡が徐々に読めなくなってきた。汗が掌に滲み、スーツの内側で心臓の鼓動が早まる。ここしばらく、こんな真正面からの殴り合いはしていない。

 

「どうした大将。さっきより舌が回っていないぞ」

 

「息を節約してるんだ。会話は贅沢品だと教本に書いておくべきだな」

 

その時だ。頭上のスピーカーから、ノイズ混じりの声が流れ始めた。この、無駄に自信に満ちた、演説慣れした声の主に心当たりがない者は、帝国軍にはいない。

 

『こちら、帝国軍ミューゼル准将だ。基地内の全兵士に告げる』

 

「あ、始まったな」

 

俺が息を整えながらつぶやくと、シェーンコップも一瞬だけ斧を止めた。刃はまだ俺のトマホークと組んだままだが、耳は完全に天井へ向いている。

 

『この基地の司令官、セレブレッゼ中将は、すでに我が捕虜とした。抵抗は無意味だ。全員、ただちに武装を解除しろ。これは命令だ』

 

ラインハルトの顔が目の前に浮かぶ喋り方だ。映像が付いていなくても、どんな角度で顎を上げているか想像できる。あいつ、絶対カメラ目線を意識している。

 

「やるじゃないか、あの金髪の孺子」

 

そう言うと、シェーンコップは分かりやすく舌打ちした。

 

「司令官を抑えられたか」

 

「上司が降伏したぞ。勤務時間終了のお知らせだ」

 

「部下全員が従うとは限らん」

 

「それはうちも同じだ。ただ、ここで帝国軍大将の首を跳ねたら、明日には銀河中で『同盟軍、帝国大将を討ち取る』の見出しが踊るぞ。政治部が騒いで、講和の席で延々利用される。お前の上も、うちの上も、胃薬を大量消費する未来になる」

 

「……我々の政治屋は、そういう話が大好物だ」

 

「知ってる。だから余計に面倒だ。ここで殴り合いを続けると、胃が何個あっても足りん」

 

シェーンコップは、ほんの数秒だけ目を閉じた。斧にかかる力がわずかに抜ける。このタイミングで斬りつけることもできる。だがそれをやった瞬間、今度は敵の部下が「大将の仇」とか物騒なことを言い始める未来が見える。それはそれで面倒だ。

 

「……クソ」

 

低い悪態と共に、シェーンコップは斧を引いた。周囲の兵士たちが、一斉に息を吐く。ロイエンタールも、肩の力をわずかに抜いた。

 

「今回は譲る、大将。借りは、近いうち必ず返す」

 

「返さなくていい。その概念ごと、この惑星に置いていけ」

 

「そうはいかん。名乗り合った仲だ。次は、もっと条件の良い場所で改めてやろう」

 

「面白い戦争を用意しておけ、大将。次までに退屈させるな」

 

「その予約は帝国の誰に入れればいい?俺は今、元帥昇進ルートで手一杯だ」

 

「なら元帥になってから、もう一度会おう」

 

そう言い残し、シェーンコップは部下に撤退を命じた。通路の奥へ、素早く姿を消していく。追撃しようとした帝国兵の肩を、俺は片手で押さえた。

 

「追うな。あいつを本気で追いかけ始めると、こっちの死傷者の方が増える」

 

「しかし、取り逃がしてよろしいのですか、閣下」

 

「任務はもう完了している。これ以上は任務じゃなくて私怨だ」

 

ロイエンタールが、苦笑とも溜息ともつかない表情で俺を見る。

 

「つまり、頬を殴られた件も含めて、完璧な任務達成と」

 

「当然だ。この痣を見ろ。帝国軍の勲章だ」

 

言い合っていると、ヘルメットの通信機からレンネンカンプの声が飛び込んできた。聞いているだけで胃の辺りが痛くなる、真面目なトーンだ。

 

『こちらロンゴミニアド。敵艦隊接近中。地上部隊はただちに撤収せよ。繰り返す――』

 

「聞いたな。撤収だ撤収。俺たちの勝利条件はもう達成済みだ。金髪の孺子は司令官を捕まえた。俺は二発殴られた。この二本立てで十分だろう」

 

「評価配分がおかしい気はしますが、異議はありません」

 

ロイエンタールがそう答え、部下に撤退指示を送る。地上で暴れる役は、今日のところはこのくらいにしておく。

 

「よし、揚陸艇に向かうぞ。乗り遅れたら、アナに説教される」

 

「『また無茶をなさいましたね』と微笑みながら、トマホークを砥ぎ始める姿が目に浮かびますな」

 

「やめろ、そのビジョンは本能に悪影響だ」

 

俺とロイエンタールは、部下たちを引き連れ撤退路へ駆け出した。背後では、自動音声が降伏手順を繰り返し案内している。ラインハルトが捕らえたセレブレッゼ中将は、今ごろ捕虜収容所行きの準備でもしているだろう。

 

 

 撤退用の揚陸艦の中で、俺は壁にもたれて座り込みながら、じんじん痛む頬を押さえている。

 

 さっきのシェーンコップに、またいい感じのフックをもらったせいだ。

 

 鏡を見たら、たぶん貴族の華麗な横顔ではなく喧嘩に負けた大学生になってる。許さん。絶対に許さん。

 

 床には泥と血と焦げ跡。兵士たちが、ぐったり座り込んだり、武器を磨いたりしている。

 

 その一角で、ロイエンタールが、いつも通りの不機嫌そうな顔でアーマーの血糊を拭っていた。

 

 アナは、そんなロイエンタールの隣で、平然とトマホークの刃こぼれをチェックしている。

 こいつら、本当にさっきまで地獄のど真ん中にいた連中か?落ち着きすぎだろ。

 

「閣下、頬の色がなかなか見事ですが」

 

 ロイエンタールが、薄く笑ってこちらを見る。

 

「新たな勲章のつもりですか?」

 

「黙れ。これはなぁ、戦略的撤退に伴う、僅かな損耗だ」

 

「俺の頬一つで、帝国軍大将と自由惑星同盟の装甲擲弾兵連隊長が、どっちも死なずに済んだんだぞ。感謝しろ」

 

「ほう。殴られて煙幕炊いて逃げただけの出来事を、そこまで高尚に表現できるとは。さすがは我が主君」

 

 ロイエンタールの皮肉が、今日も安定して胃に来る。

 

「アル様、頬、冷やしてください」

 

 今度はアナが、簡易医療キットから冷却パックを取り出して、当然の顔で俺の頬に押し当ててくる。

 

「腫れが残ったら困ります。私が見ていて楽し……いえ、皇帝陛下がご覧になったとき、見苦しいでしょう?」

 

「今、楽しそうって言いかけたよな、お前」

 

「言っていません」

 

即答で否定された。絶対言いかけた。

 

と、そのとき、艦内スピーカーが不機嫌そうな声で鳴り響いた。

 

『こちらレンネンカンプだ。地上部隊全員に告げる。敵艦隊接近中。揚陸艦は予定通り上昇を開始する。全員、座席に固定されろ』

 

思わず吹き出した。

 

「うわ、レンネンカンプの声、キレてる。絶対胃が痛くなってるやつだ」

 

「当然でしょう」

 

 ロイエンタールが肩をすくめる。

 

「艦隊司令部の主力三人がそろって地上に降りて、楽しそうに白兵戦をしていたのです。上で指揮を執る立場の人間としては、悪夢としか言いようがないでしょう」

 

「楽しそうに、って言うな。命がけだぞ、こっちは」

 

「殴られた頬を押さえながら、『任務は完璧だ』と笑っていた人の言葉とは思えませんがね」

 

 くそ。

 俺は、さっきのやり取りを思い出す。

 シェーンコップにぶん殴られ、館内放送から流れるラインハルトの勝利宣言。

 そして、煙幕弾で退散。

 うん。客観的に見ると、完璧な負け試合だな、これ。

 

「……まあいい。結果的には勝ちだ」

 

 俺は自分で自分に言い聞かせるように、わざと大きな声を出した。

 

「ラインハルトは基地司令を捕虜にした。リューネブルクは無傷。アナもロイエンタールも生きてる。俺も、頬がちょっと痛いだけ。これ以上何を望むんだ?」

 

「閣下のプライド、では?」

 

「俺のプライドは最初から65点基準だ。35点分は最初から諦めてる」

 

 ロイエンタールが呆れた顔で笑う。

 アナは、そんな俺の額を、軽く指で小突いた。

 

「それでも、アル様は、決して自分を『負け犬』とは言わないのですね」

 

「当たり前だ。俺は負け犬じゃない。『美しく撤退した大将』だ」

 

「シェーンコップの拳で、頬を飾られながら?」

 

「やかましい」

 

 揚陸艦が、重々しく浮上を始める。

 下では、まだ爆発が断続的に起きている。

 基地の一部は炎上し、黒煙が空に昇っている。

 でも、その煙の中に、うちの部下の死体は、できる限り少なく抑えたつもりだ。

 

 そこへ、ラインハルトが、まだ泥と血にまみれたまま、通路をずかずかと歩いてきた。

 顔はいつも通りの美形なのに、目だけがやたらギラギラしていて怖い。

 

「ファルケンハイン!」

 

「おう、功績キチガイ」

 

「誰が功績キチガイだ!」

 

 即座に噛み付いてくる辺り、本当に元気だなこいつ。

 

「基地司令のセレブレッゼ中将は、確かに捕虜にした。だが、敵の陸戦隊は健在だ。あのシェーンコップという男も、倒しきれなかった。まだ、勝利には遠い」

 

「十分だろうが。お前、敵の中将を生け捕りにしておいて、その口ぶりか」

 

 俺は笑いながら、ラインハルトの肩を軽く叩いた。

 

「それとも何か?敵の軍団を全滅させて、司令官も参謀も全員捕虜にして、ついでに財務資料まで押収しないと気が済まない性格か?」

 

「可能であるなら、そうしたい」

 

「それを世間では『危険思想』って呼ぶんだよ」

 

ラインハルトは、何か言い返そうとして、ふと俺の頬を見た。

 

「……その顔は、どうした」

 

「同盟軍最強の陸戦隊長からの、愛のこぶしだ」

 

俺は、あえてさらっと言ってみせた。

 

「ありがたいことに、まだ顔の骨は無事だ」

 

「ふざけているのか」

 

「本気だ。あいつは強い。俺一人でどうこうできる相手じゃない。アナとロイエンタールがいて、やっと五分だ」

 

ラインハルトの目つきが、少しだけ変わった。

 

強敵と聞くと、すぐこれだ。

危ない。

俺は補足しておく。

 

「その上でだ。あいつを仕留める価値があるかと言われると、そこまでじゃない」

 

「何故だ?」

 

「殺しても、その瞬間に、『戦功』の数字が、ちょっと増えるだけだ。だが、生かしておけば、向こうの軍の中で、面倒くさい局地戦やゲリラ戦を全部引き受けてくれる。そういう男だ」

 

ラインハルトは、眉をひそめる。

ロイエンタールが、肩をすくめて言葉を継いだ。

 

「要するに閣下は、『シェーンコップのような面倒な奴は、敵側に居続けてくれた方が便利』という発想なのです」

 

「そうだ。自分の陣営にああいうのが来ると、胃が死ぬ。レンネンカンプを見ろ。あれを二人増やしたくないだろ?」

 

その瞬間、艦内スピーカーから、レンネンカンプの怒鳴り声が再び飛び込んできた。

 

『地上部隊、全員の回収を確認!全艦、反転して敵艦隊を迎え撃つ!ファルケンハイン大将、ホーテン中将、後で司令室に顔を出してもらうぞ!』

 

アナスタシアが、くすりと笑う。

 

「アル様、怒られていますよ」

 

「知ってる。さっきからずっと怒ってる声してる」

 

「レンネンカンプ参謀長の胃は、既に限界を迎えているでしょうな」

 

 ロイエンタールが、仏頂面のまま、妙に楽しそうに言った。

 

「だからこそだ」

 

「俺は、あの人の胃薬代を、武勲で払うつもりだ」

 

「どういう理屈だ」

 

「簡単だ。レンネンカンプがきっちり艦隊を守ってくれてるおかげで、俺たちは地上でバカをやっても死ななかった。だから次の会戦では、ロンゴミニアドの火力を全開にして、敵艦隊を派手に吹き飛ばす。その武勲のおかげで、参謀長の評価も上がる。つまり、胃薬代だ」

 

ラインハルトが、少しだけ、口元を緩めた。

 

「相変わらず、下らない理屈だな」

 

「だろ?でも、下らない理屈の方が、人は案外動くんだよ」

 

そのとき、端末に新しい通信が入った。

レンネンカンプから、簡潔な報告が表示される。

 

『敵艦隊、なお接近中。我が艦隊は迎撃態勢を整えた。地上部隊全員の撤収完了を確認。ファルケンハイン大将、次の会戦での主攻は、貴官の艦隊に任せる』

 

「ほらな。俺たちのピクニックの後始末をしながら、きっちり仕事する男だ。レンネンカンプは有能だよ。あと二十年は胃が持たないだろうけど」

 

「その原因の半分は、閣下ですよ」

 

ロイエンタールがすかさず突っ込む。

 

「残りの半分は、ミューゼル准将でしょうか」

 

「何故だ」

 

 ラインハルトが不満そうに睨んでくる。

 

「俺は至って真面目に、軍務に励んでいるぞ」

 

「真面目すぎて、周りの寿命が縮むタイプってやつだよ、お前は」

 

立ち上がり、まだじんじんする頬を撫でながら、ニヤリと笑った。

 

「まあいい。とりあえず、今のところ、俺たちの『偵察(という名の殴られイベント)』は、成功だ。敵の存在も、戦力も、指揮官の顔もわかった。シェーンコップの拳の重さもな」

 

「それは情報に含めなくていい」

 

「いや、俺の顔が痛いんだから、公式記録に残す権利がある」

 

「くだらない」

 

ラインハルトは、呆れたように、しかしどこか楽しそうに、鼻を鳴らした。

アナスタシアは、もう一度、そっと冷却パックを押し当ててくる。

ロイエンタールは、深いため息をつきながらも、口元にうっすらと笑みを浮かべた。

 

けれど、誰も死に急がなかったし、次に繋がる情報も得た。

部下たちも、こうして揃って笑っている。

 

「よし。戻ったら、レンネンカンプに最高級の胃薬を送ろう」

 

「名目は、『ファルケンハイン艦隊の良心へ』だ」

 

「その文面で送ったら、参謀長は本気でキレると思いますが」

 

「だよな。やめとくか」

 

揚陸艦は、宇宙へと飛び出していく。

 

この後に待っているのは、大艦隊戦という、また別の地獄だ。

 




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

もし皆さまの中で、

「シェーンコップ戦が熱かった!」
「ラインハルトが可愛い」
「レンネンカンプ頑張れ」
「アルの頬の行方が心配」

など、
ひとつでも心に引っかかった場面がありましたら、
ぜひ感想欄で教えていただけると大変嬉しいです。

そろそろ長期連載になってきたので章ごとに簡単なあらすじ(ネタばれあり)をつけるべき?

  • つけるべき
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。