能力値が低いモブウマ娘とG1トレーナーになりたい新人トレーナー   作:きゅうりにや

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色々すっ飛ばして初重賞のお話。
書きたい(見たい)場面が思いついてもその前後のお話に整合性をとりつつ肉付けできるかどうかは別の話なんだなって書くたびに実感します


初重賞

2年目の初夏、私は歓声に包まれていた。

 

『見事に勝ち取った初重賞!レコードを塗り替え堂々の勝利です!』

 

あの日、選手生を捧げても良いとトレーナーが思わせてくれた日から約1年かけての初重賞。実況はやや大袈裟だが、レコードでの勝利。

 

「負けたよ。やっぱレースになると普段の雰囲気なんか当てにならないね」

 

話しかけてきたのは最後まで差し合った相手。

最後まで勝てるかどうかわからなかった。正直なんで勝てたかもわからない。そのくらい強かった先輩ウマ娘。

 

「いやぁ、私1人では勝てませんでしたよ。最後の最後で、トレーナーの声が背中を押してくれた気がして。って〜、おかしなこと言ってる自覚はあるんですけどね〜」

 

実際には幻聴だったのかもしれない。歓声と私たちの膂力がレース場を踏み鳴らす音に満ちるレース中に特定の人の声が聞こえるなんて現実的じゃない。でも、確かに聞こえた気がしたのだ。

 

「私にも聞こえたよ。あんたの名前を必死に呼ぶ声。だからこそ余計に負けたくなかったし、自分でも今の限界以上の力を出せたと思ったんだけどね。ところでもうちっと喜んでもいいんじゃないか?仮にも重賞、しかもレコード勝ちだぞ?それもGⅠ経験者を破ってのレコード勝ち」

 

「いやぁそうなんですけど…」

 

あはは〜と笑いながら、私のトレーナーに視線を移す。関係者に飛び出すのを警戒されながらいまだに私の名前を叫んでる。うん、自分以上に興奮してる相手を見ると一周回って落ち着くよね。

 

「あー…確かにあれはすげーな…でも羨ましいよ。たった1人にアレだけの情熱を注いでくれるトレーナーってのも。私も本当は来て欲しかったけどさ、後輩のレースが被っちゃって、そっち行ってあげてって、強情貼っちまった」

 

トレーナーのことを見ながらどこか眩しそうな目をする先輩。

 

「見に来てもらってれば私も勝てたのかな…」

 

「先輩…」

 

「っと、つい弱音吐いちまった。悪いな。そろそろ行ってやれよ。今にも飛び出しそうだ」

 

見ると警備員に押さえ付けられている。何やってるんだあの人は。

 

「すみません……ありがとうございました」

 

「おう、またあとでライブでな」

 

先程までの痛々しい表情はもう消えてカラッとしたいつもの笑顔を浮かべている先輩に頭を下げてトレーナーの元に走っていく。

 

GⅠまで無敗の強い人だった。GⅠでもそれこそ全てのウマ娘の頂点とも言える人と差し合いを演じたこともある強い人だった。……もうレース復帰は出来ないとまだ言われた故障を乗り越えレースに再び舞い戻ってきた本当に、強い人だった。きっとあの人は今日で引退をするのだろう。漠然と、でも確かな確信が持てる。最後に競り合ったのが自分で良かったのかなと思う。最後に競り会えたのが自分で本当に良かったと心から思う。あの人の最終直線での押しつぶされるような威圧感。あの肌を刺すような凄まじい殺気にも似た執念。あの人に引導を渡した身として私はあの情熱を背負って行かなければならない。柄にもなくそんなことが頭に浮かんだ。蹄鉄が少し重くなったような気がした。

 

 

 

 

「ちょっとトレーナーさん、みんなこまってるよ〜?そりゃ嬉しいのはわかるけど落ち着いて、ね?ほらもう顔ぐちゃぐちゃじゃん」

 

トレーナーの前までくるとトレーナーのお尻ポケットからハンカチを取り出して顔を拭いてあげる。いつもは逆にタオルを渡してくれるけど今は私が拭いてあげてる。…お世話するのも良いかもしれない。

 

「落ち着いてるよ!よくぞ、よくぞやってくれたな!ハハハ!初重賞でぶっちぎったな!レコードだぞ!」

 

「はいはい、頑張りましたよ〜。ぶっちぎってはないけど。そんな頑張った愛しのウマ娘に何かかける言葉はないのかな?」

 

「大好きだ!今度なんでも欲しいもの奢ってやる!」

 

「っ…!ほんとにもうこの人は」

 

いつもこうだ。簡単に好きって言うしなんでもしてやるって簡単に言ってきて困る。それを聞いて簡単に嬉しくなってしまう自分もにも困ってしまう。

 

「そうだ!この前良いって言ってたドレスでも買うか?あの真っ白の豪華なやつ!ところどころに黒のレース入ってるアレ!」

 

「んなっ!」

 

言った。確かに言った。前々回の戦勝祝いで行った水族館とカフェの帰りに言った。でもそれは—

 

「それはウェディングドレスでしょ!しかもショーウィンドウの前で少し見惚れてただけじゃないですか!」

 

「あれ?そうだっけ?でもお前の目がキラッキラになるのってレース以外じゃ中々なくて目に焼きついちゃってさ!」

 

この!こいつ!ほんとなんでそんなこと覚えてるんだ!レースが終わってようやく落ち着いてきたのにまたドキドキし始めてきた。

 

「だからってこんなところで言わないでください!デリカシー!ほらもうウイニングライブの準備!行きますよ!」

 

絶対ライブでは逆にドキドキさせてやる!私以外視界に入らないくらい夢中にしてやるんだから!

 

後から聞いた話だが、先輩曰く「トレーナーと話し始めたと思ったら耳ピクピクし始めてだんだんと尻尾が嬉しそうにぶんぶん振られていた。話の内容を後から聞いてこんなやつに負けたのかとちょっと腹が立ったので引退先延ばしにすることにした」とのことだった。くっ、嬉しいけど、気恥ずかしいのがギリ勝つ!

 

 

 


 

 

「これは一体どういうことですか?2人揃って一面を飾るなんて随分と仲良しなんですね?」

 

次の日の朝、理事室に呼び出された私たちを待っていたのは困り顔の理事長と般若のスタンド発現してるニコニコ笑顔(笑っているとは言ってない)たづなさん。そして、『熱愛発覚!?ご褒美はウェディングデートの真実!』『熱烈ファンサ お相手は愛しのトレーナー♡』 『歓声をかき消す愛の叫び あわや乱入寸前のトレーナーの実態』 『ウィニングライブを私物化 多方面に物議』などなど私たちの『やらかし』を取り上げるウマ娘関連の雑誌や新聞の数々だった。

 

ト、トレーナーのせいです!絶対!ぜーったい!




ちなみに先輩ウマ娘のトレーナーが付き添いに行った後輩のレースはどんなレースか考えていません。そもそも先輩ウマ娘は書いてる途中で急に生えてきた。名前はバンブフェニックスとかかもしれない。
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