――ちょっとお待ちやがりなさい!
ハンナさんとのお買い物デートに合わせて、服を寝間着から外行きのものに着替えてハンナさんの前に出たところ、ハンナさんの焦ったような顔が見えました。
正確には、焦っている、というよりも、心配してくれているような、そんな顔。私を見上げるその顔は、可愛くて愛おしくて、抱きしめたくなります。
でも今抱きしめようものなら、すぐに『こんの――ノンデリクソ女!』と怒られてしまうから、我慢、我慢。
「貴女、そんな格好で出て行くおつもりですの?」
「え? そうですけど」
着ているのは、ユニク○で買ったシンプルなデザインのセーターに、ストレッチ性の高いパンツ。色だとかの部分は正直よく分からないので、ハンナさんが選んだものを参考に――真似たとも言います――して買うようにしたら、結果として同じような色合いの服になりました。
牢屋敷の人たちと会うときにその服で行ったら、それはそれはお揃いだのペアルックだのと
「それでは寒いでしょうに。防寒はしっかりと、ですわ!」
ハンナさんは私の服を上から下までじいっと見た後、そうはっきりと言ってのけました。
私自身、寒さにはほどよく強い自覚があるし、その分ハンナさんが寒い思いをしないようにと思ってるのですが。少し季節が進んで、心配する側が逆になっている気がします。
ハンナさんに気に掛けてもらえることは嬉しいし、私を心配してくれるというその気持ちも、嬉しい。けれどそれはそうとして、ハンナさんを心配させたり、悲しい思いをさせたりはしたくないと思います。だから、私は。
「分かりました! じゃあハンナさん」
私はハンナさんに向けて、両手を広げて見せました。ハンナさんはこれで分かってくれると思います。きっといつものようにため息を吐いて、『しゃーねーですわねぇ』と、どこか嬉しそうに言ってくれるのでしょう、と思いきや。
「…………大事なことは、言葉にして、言いなさいな」
――あれ。
珍しく、はっきりと断られました。
ハンナさんは怒っている――ようには、見えません。目をほんの少し伏せて、どこかもじもじとしているのが見えます。
――なるほど、ハンナさんははっきりと言われたいのですね。
確かに、今の今までそういったことは『伝わっているだろう』と思って、言わないことも増えていたように思えます。そこがきっと、ハンナさんにとって不安だったり、不満だったりするのでしょう、と。私はどこか、ハンナさんに甘えていたのかもしれません。反省、ですね。
大好きな人に心配をかけさせたり、不安にさせたりするのは、私の本意ではありません。だから、これからははっきりと伝えることにしよう、と心に決めました。
「ハンナさん、
着せてください、と言うと、ハンナさんは困ってしまいそうだから。別の言い方をしたのですが――かえって変な表現になってしまったかもしれません。
「ま、そう言われると思ってましたわ」
やれやれと息を吐きつつも、ハンナさんは「そこで待っててくださいまし」と言って、私の部屋へと入っていきます。
そしてハンナさんは、私の部屋から持ってきた上着とコートを着せてくれて、その上からマフラーを巻いてくれました。
ハンナさんが私にマフラーを巻いてくれるとき、ほんの少しだけ背伸びをします。ハンナさんと目が合ったとき、いつもと目線の高さが違うのが、なんだか嬉しく思えてしまって、ついつい、顔が緩んでしまうのが分かります。
「なにニヤニヤしてやがるんですの」
「ハンナさんが可愛いなぁって思いまして」
「…………」
ハンナさんは露骨に視線を逸らします。ほんの少し顔が赤い。そんな照れ屋さんなハンナさんは、可愛いと思うし、愛おしいと思うし、そして、大好きだなって、思います。
――そういえば、はっきりと伝えることにしよう、と決めたんでしたっけ。
「ハンナさん、好きです」
最後の部分は、ちゃんと口に出します。
ぐっと、首が絞まる感覚。
もちろん、ハンナさんが私の首を絞めようとしようとしているわけじゃないのは、目を見開いて、口をあわあわとさせて、顔を赤くしているところから、すぐに分かります。
そしてわざとじゃないということも。
更には、悪いのはきっと私だということも。
「な――――――」
これは、言うタイミングを間違ってしまったかもしれませんね。
けれど、可愛いハンナさんの反応を見られたから、よしとしましょう。
◇◇◇
ハンナさんとお買い物デートをしていて、ふと思い立ちます。
――私は思った以上に、ハンナさんに言葉として伝えてなかったんですね……、と。
ハンナさんの心を惑わせるようなことは、割と意識的に言ってきたきらいがあります。それこそ、ハンナさんに『このノンデリクソ女!』と言われるときは、大体そのパターン。あえて、口にする。――もちろん、無意識的に言っちゃうときもありますけど。
そしてそれ以外の言葉は、意外と、口にしていないことに気づきました。
「シェリーさん、今日はお鍋の予定ですが、水炊きと鶏団子鍋ならどっちがいいです?」
カートを押しながら、ハンナさんが聞いてきます。
カゴの中は既にたくさんの物が入っていて、最後に野菜や生鮮食品をカゴに入れて、レジに向かういつもの流れ。
この時点で、ハンナさんが持ったらよろよろとよろめいてしまいそうな量。ですが、そんな時の
「んー、ハンナさんはどっちが食べたいですか?」
聞くと、
「わたくしは、貴女に、聞いてんですのよ? シェリーさんには、買い物の
ほんの少し拗ねたように、ハンナさんは言います。ジト目で、ギブアンドテイクだと、ハンナさんは言ってきます。
私は、ハンナさんが作ってくれるおいしいご飯を食べられるだけで幸せなのに、好きなものを選ぶというわがまままで言っていいんでしょうか?
「いいんですのよ。シェリーさんに好きな物を食べてもらいたいっていう、わたくしのわがままですわ」
「ありゃ、顔に出てました?」
「口にしなくても分かりますわよ、そのくらい」
目を細めて、ハンナさんは言う。視線を合わせて、数秒。どちらからともなく、ふふっと声が漏れました。
私の思考は、どうやらハンナさんには丸わかりだったようで。嬉しくもあるし、くすぐったくもあります。そして――そんなハンナさんが、愛しいと思います。
「…………あぁ」
――大事なことは、言葉にして、言いなさいな。
ふと、今朝のことが、頭を過ぎりました。
ハンナさんには、思っていても、あまり口にして伝えていませんね、と。
どんなことであれ、口にしないと伝わらないことはあるのですから、と。
「ハンナさん、好きです」
「はいは――――――」
ハンナさんの声が途切れて、隣で思いきりこちらを向くのが見えました。
「な。………………に、言ってますの貴女」
「え? 言いたいなって思っただけです。特に気にしないでください」
まじまじと私の方を見て、まん丸に見開いた目をぱちくりと
「…………気に、すんなってのが、無理ですわよ…………」
ハンナさんはきっと、今朝言ったことはそこまで気にしていなかったんだろうと思います。
けれどその言葉は、はっきりと私に響いてきましたし、すとんと
だから言った。――の、だけれど。
ハンナさんはやっぱり不意打ちには弱いようで。耳まで赤くして早足でカートを押していきます。
「鶏団子でいいですわよね」
「はい、ハンナさんが作った料理は全部おいしいですが、そのふたつなら、鶏団子鍋が好きです!」
はっきりと口にすると。ハンナさんは小さく。「なら余計なこと言わないでとっととそう言いなさいな……」とこぼすのが聞こえました。
お買い物が終わった後、そのまま帰ってもよかったのですが、ハンナさんともう少し外で話したいな、という思考が過ぎりました。
ちょうど併設されているドーナツ屋さんがコラボをやっているという情報を得ていたので、それを口実にハンナさんを連れ込みます。
そして、コラボのドーナツを買って、店内で食べることにして。
「…………シェリーさん、容赦無く切りますわね」
「写真を撮ったら、あとは食べるだけですからね~」
ざっくりと買った物を半分にしたら、ハンナさんが呆れてるのか吹き出しているのか、微妙な顔をしているのが見えました。
「その言葉には同意しますけど。……やっぱり容赦ねーですわね」
「そうですかねー?」
黄色のネズミのキャラクターと、茶色のもふもふしたキャラクターを模したドーナツと、赤と白のボールを模したドーナツを買って、シェア用にとナイフを借ります。ハンナさんの方にトレーごと渡して、可愛らしいドーナツを撮ってもらったあとで、半分にざっくりと切りました。ハンナさんと話しながら、残りも。ざくりと。
――食べ物のコラボって、キャラクターの顔とかを食べ物にするのどうかと思うんですよね。だってこうなりますし。
気にする人は気にするし、気にしない人は気にしないのでしょう、と思います。ハンナさんはどうやら前者なのかもしれません。そういえばコラボの食べ物をいっしょに食べたのは、初めてかも――だとか思いつつ、半分に切ったドーナツを持って、向かい側に座るハンナさんの方へ差し出します。
「はい、ハンナさん」
ドーナツ屋さんのテーブルは、小さい作りになっています。手を伸ばせば、簡単にハンナさんの口元へドーナツを持って行くことも可能。つまり、そういうことです。
ハンナさんは私の手の先にあるドーナツと、私の顔との間で視線を何回も往復させます。
そして視線は、私の顔の方で止まりました。
――どういうことですの?
その目は言葉にしなくても、はっきりと分かりました。
「ハンナさんに食べてもらいたいなぁって思いまして」
「……自分で食べられますわよ。――――ちょっと、シェリーさん」
ハンナさんがトレーを奪おうとするのが見えたので、手前側に引きます。ハンナさんの手が綺麗に空振って、じとっとした目で見てくるのが見えました。
「はい、ハンナさん」
にこーっと笑みを見せて、ハンナさんの口元へドーナツを差し出します。お買い物はハンナさんが主導――というよりも、冷蔵庫の中身はハンナさんが管理してくれてるから、実質的に私は荷物持ち。だからハンナさんがお買い物で頭を使ったのなら、甘味で使った分を補給してもらおうという、シェリーちゃんの考えだったりもします。
はぁ、とひとつ息を吐いてから、ハンナさんは口を開けるのが見えました。けれど、開けるだけ。ドーナツに噛み付いて来ないのを見ると――。
――そこまでやるんなら、食べさせてくれるんですのよね?
半目のハンナさんが、そう言うのが聞こえた気がしました。ゆっくりとドーナツを口の中へと持って行くと、ハンナさんの口が閉じられて、ドーナツが
噛んで、その目が大きく見開かれるのが見えます。ハンナさんの『おいしい』という感情が顔全体に現れるのが見えました。ハンナさんが甘い物を食べるときの顔は、とてもとても可愛い。
一緒にお買い物をして、一緒に甘い物を食べる。ハンナさんの色んな表情が見える。温かい時間を過ごしている自覚があります。だから。
「ハンナさん、大好きです」
「………………シェリーさん?」
思ったことを口にしました。まださっき囓ったドーナツが口の中にあったのか、驚いた顔の後にごくりと飲み込んだハンナさんは、再びジト目になって、私の方を見てきました。
――何のことでしょうか。私は思ったことを言っただけですけど。
そう伝えようと片目を瞑って合図をしてみたものの、ハンナさんは口を尖らせるだけでした。
ドーナツ屋さんから出て、帰り道。
普段であれば私一人が片手ずつで持てる量なのですが――それでも半分はハンナさんが持ってくれて、空いた方の手を繋いでくれます――今日に限っては袋が三つ分にもなってしまって、ハンナさんと手は繋げないままでいました。
冬で外を出歩くのが大変だからか、買い物の回数を減らそうというハンナさんの思いやりなのかもしれませんね。
――ハンナさんは優しいですね。私の事まで考えてくれるんですから。
そんな、ハンナさんが。
「ハンナさん、好きで――」
「シェリーさん!!!!!」
言い切る前に、隣から叫ぶような声がしました。
「あ――――貴女! 今日は本当! なんなんですの!」
シェリーさん、貴女は! もう! と言葉が続きます。
今ハンナさんと手を繋いでいたなら、手の感覚でハンナさんの事が分かるんでしょうけど、今はそれができないから、ハンナさんの様子で判断するしかありません。
顔を赤くして、頬を膨らませて、口元をぎゅっと結んで、ジト目で睨むようで、だんっと地面を踏みしめて――。
――ああ、怒ってますね、ハンナさん。
それだけは、はっきりと分かりました。怒る、の中でもどちらかと言えば、照れて怒ってるような、そっちの方向の、怒り。
ハンナさんがそうなる時は――と、考えて。
「………………好き好き、言いすぎ、ですわよ……」
それから、弱々しい声が、聞こえてきました。
ハンナさんが本当に怒ってるわけじゃない、ということは分かりました。
でもそれはそれとして、ハンナさんには笑っていてほしいとも思うので、そうなってしまった理由を考えて。
――いや、考えるまでもないのですが。
今日ハンナさんと一緒に過ごして、私が変わったことといえば。私が学んだことといえば。
ハンナさんに、思ったことは口にしよう、としたことで。
でも、それは。
「ハンナさんが言ったんですよ? 言葉にして言いなさいな、って」
ハンナさんがそう望んでいるのなら、はっきりと言おう。そう決めました。
顔は赤いまま、きょとんとした顔を見せて。それから数秒が経って、「あっ……」とでも言いそうな顔が見えました。
ハンナさんの反応からすると、無意識、というよりも、そこまで考えて言ったことではなかったのかもしれません。
けれど、私の胸にしっかりと刻まれたのは確かで。ハンナさんから、またひとつ、大事なことを教えてもらった気がします。
――大事なことは、言葉にする。
顔を赤くして、どこかもじもじとするハンナさんが見えます。ぷんすかとしているハンナさんも可愛いと思いますし、静かに照れるハンナさんも可愛くて愛おしく思えます。ぎゅーっと抱きしめたくなります。――ああ、言うことにしたんですっけ。
「ハンナさん、大好きです。抱きしめていいですか?」
少し前なら、何も言わずに抱きしめてしまって、胸の中でハンナさんにもごもごと言われて背中をばしばしと叩かれたのでしょうけど、今のシェリーちゃんは違います。はっきりと言う事にしました。はっきりと聞くことにしました。他の誰でもない、ハンナさんが言ってくれたことですから。
おずおずと私の方を見上げて、口を開いては閉じて。
「買い物袋、持ってます、から…………」
言われたのは、嫌という言葉ではありませんでした。
ハンナさんの手から買い物袋をもらい、地面にそっと置いてから、ハンナさんの頭をぽすんと胸に迎え入れます。
ハンナさんの匂いがさっき以上に感じられて、落ち着く気持ちがして。ハンナさんの背中に手を回すと、私に遅れてハンナさんの手の感触も、私の背中に感じるようになりました。
抱きしめる手にきゅっと力を入れると、お返しをするかのように、ハンナさんの手にも力が込められるのが分かりました。
気持ちが伝わっていると分かるのが、なんだか嬉しくて、ハンナさんが愛おしく思えます。
静かに頭のてっぺんに口づけをすると、ハンナさんがぺしりと背中を叩いてきます。この行為の意味がなんなのかは分かりません。ハンナさんが口にしてくれれば分かるのかもしれませんが。
――急にキスしてくんなー! ですわ!
辺りでしょうか。真相は闇の中です。
「…………わたくし、まだ、いいとも悪いとも、言ってねーですわよ」
「そうでしたっけ?」
胸の方から、ハンナさんの声が聞こえます。どこか拗ねたような言葉、でもどこか、嬉しそうな声色。
ハンナさんから嫌と言われてないから、抱きしめたのですが。今のハンナさんからはどっちの感情なのかは、読み取れません。突き放されないことからすると、少なくとも、嫌ではないのだと思いますが。
……私は、人の気持ちを察するのは、やっぱり、不得意なようです。だからハンナさんによく『ノンデリクソ女』と言われるのですけれど。照れたように怒るハンナさんは可愛いと思います。でもそれとは別に、ハンナさんを理解したいとも思います。
ハンナさんのことは、何でも知りたい。できるなら、ハンナさんを理解したい。もっと、もっと、たくさん、理解したい。
良いことも悪いことも、ハンナさんが考えていることもしたいことも、ハンナさんの気持ちを、ひとつでも、少しでも、分かりたい。だってそれが、恋人というものだから。ハンナさんの隣を、ずっと、歩いて行きたいから。ずっと一緒に生きていきたいから。
「…………抱くなら、勝手にしろー、ですわ」
――わたくしは、拒みませんから。
小さく小さく、ハンナさんのもごもごとした声が聞こえてきて。抱きしめたのは、間違ってなかったんだなと思えました。
「――ありがとうございます、ハンナさん」
嬉しくて、胸がきゅっとなって、ハンナさんを抱きしめる手が、思わず強くなってしまったようで。背中をばしりと叩かれます。ごめんなさい。
ほんの少し抱きしめる力を緩めて、でも抱きしめる体勢は変えません。ハンナさんの温かさを、柔らかさを、感じる事にします。
冬の日の外。ハンナさんが『防寒対策はしっかりとですわ!』と着せてくれたおかげで、寒さは全然感じません。ハンナさんの温度を感じているおかげで、より、ぽかぽかとして感じられます。
「ハンナさんのおかげで、ぽかぽかです」
そう、口にして伝えると。
「…………あったかいのは、確か、ですわね」
そう、ハンナさんからも返ってきて。愛おしさでまた、強く抱きしめたくなりました。また背中を叩かれたくなかったので、おでこにキスするだけにしたのですが。
やっぱり背中を叩かれました。
――なんででしょうね?
◇◇◇
どのくらい抱きしめていたのでしょうか。
ハンナさんの手が背中から離れたと思うと、ぐい、とお腹を押される感覚がありました。
それが『そろそろ終わりになさいまし』の合図なのは分かりました。
背中に回した手を離すと、ハンナさんの顔がやっと見えるようになります。先ほどと同じように顔が少し赤くて、でもどこか、満足しているような顔でもあるように感じます。
そんな私は、ハンナさんをぎゅーして満ち足りているのですが。
「はー、ハンナさん成分を補給できました」
思ったことは言わないと、と言ったところ、ハンナさんは私をじぃっと見上げた後に、小さく息を吐いて。「貴女はほんと、お気楽ですわね……。わたくしの気も知らないで……」と小さく呟くのが聞こえました。
はっきりと聞こえたので聞き返すことはしません。ハンナさんも小さいながらも、はっきりと口にしてくれる部分は口にしてくれます。
――はて。
そういえば、と思考が頭を過ぎります。
今日は、ハンナさんに気持ちを伝えよう、の気持ちで一日過ごしてきましたが、ハンナさんは? と考えると。……そういえば、聞いてない、ような。
私が好きと言うと、ハンナさんからもいつもとは言いませんけど、大体は返ってきていたものだったので。今日のハンナさんは照れ屋さんなのかもしれません。
それは、そうとして。思ったことは言おうと決めているので、言う事にします。
「私、ハンナさんからまだ聞いてませんね」
言うとハンナさんは、目を丸くして、そして私の方をじいっと見てきます。
眉をほんのりと
――何言ってやがりますのコイツは……。
そんな声が聞こえて来そうな顔。でも声にして聞こえては来ないから、私の中の想像だけなのかもしれません。
ジト目は、やがて伏し目に、迷うような目に。
口元が結ばれて、視線があっちにこっちに。指は身体の前で組まれて、指が組まれたり離れたり動いたり。
そわそわとしているハンナさんが見えました。そしてそれは、『ぜってー言わねーですわ!』ではないのだと思いました。
なので私は待つことにしました。ハンナさんが言ってくれるまで、ずっと待ち続けます。
ハンナさんの顔が上がり、目が合いました。にっこりと笑うと、ハンナさんの顔が、より赤くなっていくのが見えます。
まだかな、と思いながら、待つことにします。
ハンナさんをじぃっと見て、ハンナさんが恥ずかしそうに目を逸らすのが見えました。
「あ、言うんでしたっけ。まだですか、ハンナさん」
口にすることの大事さを、今日教えてもらったので、言う事にします。
そしてハンナさんはまじまじと私の方を見てきて、はぁ、とため息。
それが失望だとか怒りだとか、そういうものじゃないのは、ハンナさんの耳が赤いことからも、その頬が緩んでいることからも、分かります。
――ハンナさんが今、胸の中で葛藤しているであろうことも。
「~~~~~~ッ!」
なにやら目の前でうなるような声。がばりと顔を上げたハンナさんが、口を開いて。
「…………しゃがみやがりなさい」
「はい」
何をしてくれるんでしょうか。何を言ってくれるんでしょうか。
わくわくとした気持ちで、胸が高鳴るのが分かります。
今日一番、ハンナさんの顔が赤いのが見えます。視線が一瞬だけ合って、ハンナさんの目が大きく見開かれて、手が動きかけるのを必死で止めるのが見えました。仕草のひとつひとつが可愛くて愛おしく思えます。
「………………」
目線の高さが一緒になったハンナさんの顔が、ゆっくりと近づいてくるのが見えて。
その顔が、横に。耳元に、ハンナさんの吐息を感じて。
「大好き、ですわ。…………シェリー、さん…………」
微かに、けれど、はっきりと。ハンナさんの言葉が、聞こえて来て。
どきりと、胸が勝手に音を立てると、思ったのと同時に。
ちょんっと、耳に、柔らかい物が触れる感触がありました。そして冬の空気にさらされて、すーすーと涼しく感じます。
隣を見ると、口元に人差し指を当てて、片目を瞑ったハンナさん。
その顔は。
――やってやりましたわ。
そう、言うかのような、どこか満足げな顔に見えました。
7月29日はシェリーちゃんの誕生日!おめでたい!
ので、シェリーちゃんの誕生日のSSを投稿したいのですが、原稿に手いっぱいで作れていなかったのでまた後日!
今日投稿したものは、夏コミで頒布するシェリハン同人誌『大事なことは、言葉にして』からの一編です。
これとは別にハンナちゃん視点の物語もありますので、実本媒体をお楽しみに。
夏コミのシェリハン本、本日入稿しました。印刷所さんからの連絡をいただいたら正式に告知します。
夏コミでもよろしくね。後ほどアンケートなど取ります。