ヴォルデモートが青い石っころを手に入れてから一ヶ月弱が経った。
当初の目論見であった『エリエザー・フィグの分霊箱を手に入れること』は失敗した。
となれば、次の目標は死の秘宝である。
これまでも死の秘宝の在り方は捜索していたが、今一度ニワトコの杖捜索に全力をあげることが決定したのだった。
─不死同士の戦いは、死の秘宝を制したものが勝つ。
そうしてついに、ヴォルデモートはニワトコの杖の元保有者であったグリンデルバルドへと辿り着く。
〜
一方その頃。
死の秘宝のシンボルの謎を追っていたハリー達御一行は、ラブグッド家に訪れ、シンボルの正体を知る。
しかし、娘ルーナ・ラブグッドを人質に取られた父親ゼノフィリウス・ラブグッドが、ハリー達を死喰い人に差し出そうとしていた。
そうして起こった逃亡劇の末、マルフォイ家の屋敷に捕らえられたハリー達は、ヴォルデモートが来る前に脱出を図ろうとしていた。
……なお、ラブグッド家の玄関口にいた銀の剣はまたしても見つけてもらえなかった。
「クルーシオ!」
苦しみに悶える、唸り声が聴こえる。
「お前のような裏切り者を!あたしが生かしておくと思うのかい!」
「……お前のような人間に、未来はないぞ。」
ブラック家の因縁は、途切れてはいない。
ハリー達が牢に入れられた後。
シリウスだけが残され、ベラトリックスに拷問をかけられていた。
これはひとえに、今度こそシリウスに直接トドメをささんとする彼女の意地であり、前回失敗したことの鬱憤晴らしでもある。
シリウスは杖を取り上げられ、磔の呪文に耐えきれず膝をついていた。
周囲にはマルフォイ一家と人攫いたち。
そして、天井のシャンデリアに何故か引っかかっている銀の剣が一本─
─そしてそれを足場にしている屋敷しもべ妖精が一人。
「!?」
打開策を見つけるため、周囲を見渡そうとしていたシリウスと、天井から響く異音に気付いたベラトリックスが上を見るのは同時だった。
ベラトリックスは直ぐ様後方へ飛び退くことで回避するが、磔の呪文により意識がハッキリしていなかったシリウスは反応が一瞬遅れた。
「シリウス!」
しかし、既に牢からの脱出を果たしていたハリー達がシリウスを自分たちの方へと引き寄せたことで、最悪の未来は回避された。
「ッチィ!お前たち!」
「来るぞ!」
戦いが始まる。
ハリーは武装解除呪文を主軸に、シリウス─杖は牢の番をしていたピーター・ペティグリューから盗んだもの─と共にベラトリックスへ攻撃を仕掛ける。
ラブグッド親子はマルフォイ一家に。
ロンとハーマイオニーは人攫いを。
「ぐっ!」
「パパ!」
ゼノフィリウスはルシウスの攻撃を受けよろめく。
元より強力な魔法使いであるドラコ、ルシウス、ナルシッサの三人を二人だけで相手取るのは困難だった。
しかし、人攫いに対応している二人を呼ぶ訳にはいかず、この場で一番強いベラトリックスを一人で相手取らせることも出来ない。
─だが、まだこちらには戦力が残っている。
パチン。
指が鳴る。
「ッ父上!」
突如、杖ごとルシウスが吹っ飛んで行き、暖炉に背中から突っ込む。
もしも火がついて入れば、そのまま全身に火傷を負っていただろう。
「ありがとう、ドビー!」
屋敷しもべ妖精、ドビー。
色々あってマルフォイ家からハリーに鞍替えした彼は、現在この場において大きなアドバンテージを持っている。
それは、不意討ちである。
基本的に一対一の攻防になりやすい魔法戦において、どこからともなく攻撃が飛んでくるというのは厄介極まりないのだ。
しかも、的そのものが小さく、すばしっこく、そして杖いらずなため無力化が困難となれば、なおさらである。
そんな彼のお陰で、数的不利を抱えたこの戦闘を優位に進めることが出来ていた。
しかし、ベラトリックスの元まではドビーの手もまわらなかった。
「っ!」
「ハリー!大丈─ッぐお!」
一瞬、顔を顰めて動きを止めたハリーに気を取られたシリウスが吹き飛ばされる。
シリウスは直前まで磔の呪文を喰らい、杖も他人のものを使っている。
さらに、何の因果かハリーはラブグッドの家から逃走する際、
数では勝っていても、二人は万全ではなかった。
そうして両者の間が開けたとき、彼女の目にあるものが写り込む。
それは杖を取られたロンが破れかぶれに振り回していた銀の剣だった。
その瞬間、ある仮説─彼女にとってそれは殆ど確信だった─が彼女の中に生まれる。
突然出てきた屋敷しもべ妖精と、金庫にあったはずのグリフィンドールの剣。
それら二つを関連付けないでいることはできなかった。
「お前か!あたしの金庫から盗んだな!」
激情に包まれたベラトリックスの放った呪文が、ドビーの身体を切り裂く。
致命傷ではない。
けれど、屋敷しもべの体躯ではあと数回と受けられない程度の深さだった。
「ちょこまかと!」
「ドビー!」
ドビーは痛みに悶えながらも、ある一つの決断を下す。
「みなさん、こちらへ!」
自分が殺されれば、この場にいる全員揃っての脱出は不可能である。
そうである以上、今すぐにでも姿くらましをする必要があった。
「ドビーは自由な妖精です。ハリーを、友達を無事に帰さなければなりません!」
そうしてドビーの元に集まったハリー達は手を繋ぐ。
パチン。
ドビーを中心に、彼らの姿がぼやけていく。
咄嗟だった。
ベラトリックスは己の杖を投げ、その中心部にいる盗人を討たんとした。
杖は狙い通りに姿くらましの中心へまっすぐと進み、ドビーの胸を貫く─
─はずだった。
上から
〜
「は……?」
『アクシオ』。
困惑するレストレンジの元へと、独りでに杖は戻って行く。
杖にはあの男の血と、その脳髄と思われる物体がべっとりと着いていた。
「─今、お前は殺人を犯した。」
そんな杖の行き先は当然─その背後で持ち主の首に手を掛けているオレの元だ。
そのままレストレンジの喉元に、杖を突き立てる。
「インペリオ!─そして今、
レストレンジはオレの手元から杖を受け取ると、胸元から半透明の何かを引き摺り出す。
これはレストレンジの魂だ。
コイツに今、魂を裂かせた。
「……ドビー、借りは返したぞ。」
パチン。
指を鳴らす。
途端、レストレンジとその魂が焼かれていく。
こうすることで、コイツにも死後無限の苦しみを味わわせることが出来るんですね。
……こんな事を本当に実行する日が来るとは思っていなかったが。
「ぎぃぃやああああ!」
魂を裂いていたって、痛いものは痛いのだ。
ただ、死なないというだけで。
「分霊箱はどこにある。」
「あっ……があ!『─』……『─』……!」
そう叫ぶと直ぐに、レストレンジはボロボロに崩れていく。
裂いた魂はそのまま自らの杖に宿ったらしいが、それもしっかり焼けたようだ。
悪霊の炎さまさまだな。
「父上!」
声の方に振り向けば、杖をこちらに向けようとしているルシウス・マルフォイと、それを止めるドラコ・マルフォイがいた。
「いやはや、あんたのお陰でコイツらを始末できたんだ。感謝するよ。」
いや、ポッター達と接触しようと思ったら全然身に覚えがない『座標』が一緒にいたものだから少々驚いたが。
どこでマーキングしたかは全然思い出せないが、ここを経由したお陰でマルフォイ一家以外全員始末できた訳だし。
「貴様……!」
「父上!」
正直、マルフォイには悪いが両親については普通に殺しておきたい。
今も息子に止められていなければこちらを攻撃する気満々だし。
実際、魔法省のお偉いさんと死喰い人の幹部を同時にこなせる人間が弱い訳はない。
オレから分霊箱を取り上げるのは不可能にしても、何か策を弄されれば面倒なことになりそうだ。
「あなた……」
隣で怯えているのは母親のナルシッサ・マルフォイだったか。
この前見た騎士団の資料にいた気がする。
……流石に息子の目の前で両親惨殺はなあ。
それきっかけでヴォルデモートの支配関係なく敵になられても困る。
一応彼も守るべきホグワーツの生徒だしな。
「どうやら、君のお陰で命拾いしたみたいだね。マルフォイ……スリザリンに10点やろう。」
ひとまず、ここいらが落としどころか。
いつかは殺すが、今じゃない。
パチン。
指を鳴らす。
/
「よく考えたらあの家の屋敷いくつか燃やしてるのに10点は無いか……?」
それについても一言いっておくべきだったかも。
「どう思う、ドビー?」
「!フィグ先生、ご無事でなりよりでございます。ドビーめは心配しておりました……して、何の話でしょう?」
「いや、何でもない。それより、怪我は大丈夫か。」
「このドビーを心配していただけるとは!ええ、もちろんですとも。先生がくださった薬のお陰でこの通りでございます。皆様にはドビーに安静にしているように言われましたが。」
本当にドビーは幸せ者にございます、とベッドで横になっているドビーは付け加える。
良かった良かった。
ドビーには屋敷しもべ妖精式の魔法について教えて欲しいことがまだ山程あるからな。
さて。
忘れないうちにポッター達と残りの分霊箱の情報を共有しておかないと。
ドビーに別れを告げ、部屋を出て階段を降りていくと、そこにはポッター達と一部騎士団メンバーが揃っていた。
なんて良いタイミングだろう。
「エリエザー・フィグ!貴様!どういうことか説明してもらおうか!」
こちらを見るなり、ムーディにめちゃくちゃキレられた。
何かしたっけ。
以前渡した、追加で眼球を装着できるアタッチメント付きの眼帯を着けたムーディがズンズンと近づいてくる。
目の横にさらに球体があるっていうのはこうも不格好なのか。
うん、改善の余地あり。
「誰が無差別に周囲を石にする目を作れと言った!」
どうやら彼に渡した義眼が気に入らなかったようだ。
やっぱりバジリスクの目を使ったのはマズかったかな……?
「ちゃんと魔法制御で瞼が開くって説明書に書いただろ?」
「暗号化を何重にもかけた文書を説明書とは言わん!お陰で何人も石にしたわ!」
彼が装備を失った直後に急造品の義眼を渡したあと、ちゃんと良い奴を作り直して送りつけたので、ムーディが今着けているのはそれだろう。
そしてその義眼のほぼ真横、若干斜め上くらいについている球体、その中にあるのがバジリスクの目の魔改造品だ。
魔法制御で瞼が開き、目があった奴らを片っ端から殺していくようになっている。
石になった、ということは鏡の前で試運転でもしたんだろうか。
ちゃんと気をつけるように注意書きしといたのに。
「そんなことより、分霊箱についてだが─」
夜。
今、アルバスの墓に向かっている。
別に墓参りとかじゃあない。
この前作ったニワトコの杖のレプリカを入れに行く所だ。
今入っているのは、本物が手に入る前に作ったやつだ。
取り敢えず周囲にバレないように作ったやつなので、あまり出来は良くない。
やっぱり、表向きニワトコの杖として入れておく以上、ある程度クオリティがあるものを入れないとね。
ということで、ちゃんと作り直したのだ。
……あれ。
無いじゃないか。
確かに、アルバスの死体が抱えるようにアレを持っていたはずなんだが。
もしかして墓荒らし?
しまったな。
まさか持ってかれるとは思っていなかった。
こんなジジイの死体しかない墓を狙う奴がいるとは。
まいっか。
でも墓荒らし対策の呪文作らなきゃなあ。
もちろん墓荒らし対策としてはやばめな罠は張っていましたが、某墓荒らし帝王が破壊しました。
一般魔法使いなら普通に粉微塵です。