Q.転生者の存在意義とは?   作:七黒八白

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A.何でも一人で出来れば、いつだって人は苦労しません。



第十二話 Q.結局他人頼りですか?

 

 

 

 2022年12月23日の午後15時50分。攻略組でも指折りの精鋭を連れて、俺達は第五層迷宮区のフロアボスの部屋の前に立っていた。

 メンバーはお馴染みのキリトにアスナのコンビ。キリトの人望と本人の懐の広さから参加してくれたエギルさん達のアニキ軍団、マジで感謝感激雨あられ。二層からのキリトの知り合いらしいネズハ(ナーザって呼んだら何故か感激された……ホントになんで?)に、ボス戦は初参加の筈の情報屋アルゴ。そして、俺とToLoveるな出会い方をしてしまったフィリア。

 そして残りは、俺が殆ど見知らぬメンバー達も含めて、今回の五層ボス()()()のメンバーとなった。()()()、把握していないと色々と不味いので、迷宮区に入る前に《はじまりの街》から愛用しているメモ帳にレベル順で書き連ねたものを再確認する。

 

 オウル LV19(暫定的コンビ)

 キリト LV18(馬鹿ップル)

 アスナ LV17(馬鹿ップル)

 エギル LV16(アニキ軍団)

 フィリア LV16(暫定的コンビ)

 シヴァタ LV15(K・R所属)

 ウルフギャング LV15(アニキ軍団)

 ローバッカ LV15(アニキ軍団)

 ナイジャン LV14(アニキ軍団)

 リーテン LV13(K・R所属)

 ネズハ LV12(L・B所属)

 アルゴ LV不明(俺の見立てでは14~15程)

 

「…………十二人、か」

 

 命懸けのフロアボスに挑むメンバーにしては、かなり少ない。唯一の救いは大半はフロアボス戦は経験済みで、レベルも平均的に高水準と言える事か。

 因みに『K・R』はディアベルのギルド名《ナイツ・リスプレンデント》で、『L・B』がネズハの所属する《レジェンド・ブレイブス》だ。だから、キリトからそのギルド名を聞いた時、『Nezha』は『ナタク』か『ナーザ』と読むと神話や伝説、水木先生を神と崇める妖怪オタクの俺はドヤ顔で────止めよう、不毛だ。

 

「どうしたよ? ()()()()? なんか不安でもあんのかい?」

 

「…………そうですね、この偵察レイド部隊を率いるリーダーであるプレイヤーが、どう考えても役者不足感が否めないって事ですかね」

 

「まぁ、ディアベルから任されたのはオウルだし。一層のボス戦では俺達を率いてたじゃないか…………ウマい、コーヒーが欲しくなる」

 

「四人と十二人じゃあ、違いすぎるだろ…………でも口の中が乾くよな、ソレ」

 

 元気付ける為に肩をバシバシと叩いてくるチョコレート色の肌の巨漢、エギルさん。《マナナレナ》のロールケーキを切る事無く、丸かじりしている《ブラッキー》と呼ばれているらしいキリト。キリトはゲーマーとして、エギルさんは人生経験から、責任の重さを理解していてそれを背負わずにいる事に安堵していると同時に、自惚れでなければ俺の事を励ましているのだろう。しかし、俺の不安要素は決してそれだけではない

 エギルさんのアニキ軍団は未だしも()()()()()()()()()()()()()()()()()()、《K・R》のメンバーは入れたくないのに、シヴァタとリーテンがいるのか。時間は少しだけ遡る。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「────そういうわけで、今回の五層ボスのクソデッカイゴーレムは、ベータ時代と同じならステータスが高めに設定されている筈だ。今までは偵察戦無しでもやれていたかも知れないが、今回ばかりは慎重に立ち回った方が良い」

 

 ディアベルにPK集団が攻略組に潜在しているかもしれない可能性を伝えた後に、そんなやり取りは無かったかのように『やあ! 久しぶりに会ったね! 折角だからお茶しようよ!』と、キバオウとリンドという副リーダーを連れている所に俺は話しかけた…………いや、ここまで爽やかでもなければ、フレンドリーじゃなかったな。

 

「なんや、久々に顔見せたと思うたら、エライ殊勝な事言うやないか。────ほんで? ジブンはワシらに、どないせいっちゅうねん」

 

 キバオウが威圧的に────ではなく、普通に疑問形で聞いてくる。そのつもりは多分本人には無いだろう事が最近漸く分かってきた。なんか関西弁ってチンピラっぽく聞こえるよな、俺だけか? そしてキバオウの疑問は、ディアベルは兎も角としてリンドも同じ考えなのだろう、その視線は同じ様な意味合いが含まれている。慎重に言葉を選んで、突発的(に見せかけた)会議を誘導していかなくてはならない。

 

「結論から言うと、偵察戦を俺が選抜した少数精鋭メンバーで請け負うよ。ディアベル、アンタのギルドメンバー全員だと大人数で事故率が高いし、ギルドに属してないプレイヤーから反感を買いたくないだろ? ────俺なら、その点問題ない。()()()()()()()()()()

 

「…………フン、どないしましょう? ディアベルはん?」

 

 意外な事に、キバオウは俺のかなり自分本位な要求を跳ね除けなかった。ビジネスや心理学でよく用いられる『ドアインザフェイス』の要領で、無理目な要求から少しずつ誘導していくつもりだったのが…………流石に、年上を舐め過ぎたか? あからさまなつもりはないのだが、見透かされたかと不安が僅かに過る。

 そしてキバオウに提案を振られたディアベルはというと、腕を組んで何やら深く思考を巡らせている。ほぼ間違いなく、PK集団とギルドフラッグの性能、そしてプレイヤー間の不和による対立構造を造らない為に、妥当な落としどころを探しているのだろう。

 

「────どうもこうもない! キバオウさん! ディアベルさん! コイツの()は知っているでしょう!? そんな奴の事を信じるんですか!?」

 

「…………ちょお黙っとれや、リンド」

 

 そんな思考による沈黙を最初に破ったのは、曲刀使い副リーダーのリンドだった。机に激しく拳を叩きつけて、語気を荒げて俺の提案を突っぱねる…………これは、あれだろうか? 尋問でよく使われる『良い警官・悪い警官』で、会話のイニシアチブを取ろうとしているのか? となるとキバオウか、無いと思うがディアベルが良い警官役と考えるべきだ。俺は警戒心を一段階上げて発言する際には、まず落ち着いて一呼吸することを念頭に置く。

 

「大体、お前は重要な事を言っていないだろう!?」

 

「…………重要な事? なんですか? ちゃんと具体的に言ってほしいですね」

 

 怒り心頭といった様子のリンドは素早く俺に指を突きつける。冷静さを失っている彼の様子から誘導尋問では無さそうな気もするが、慎重に発言する。

 

「────()()()()()()()()!!! これはベータテスターからの情報源だ! お前も当然知っているんだろう!? 偵察戦なんて言って本当は自分のギルドを造るつもりなんじゃないのか!?」

 

「ギルド……? 俺が……? くくく…………」

 

「な────何が可笑しい!?」

 

「ふー…………そりゃあ、可笑しいに決まっているでしょう? さっきリンドさん自身が言ったじゃないですか、()()()()()()()()()()()について、そんな奴が立ち上げたギルドなんて……誰が入りたいんですか?」

 

 自らの論法が破綻している事を指摘すると、リンドのアバターに青筋が浮かび上がる。《圏内》である為に全く無意味なのだが、その手が僅かに曲刀の柄に近づいた瞬間に、ディアベルが腕を下して目を見開く。漸く納得できる結論が出たようだ。

 

「止そうリンド、オウルさんはそんな卑怯な事をする方じゃないよ。でも確かに、フラッグの件は捨て置けないな────こちらから監視役の()()()()()()()()()()()()()()、それが条件だ。そして言うまでもないが、誰も死なせない事。それさえ出来るなら、別に偵察戦は失敗したって構わない」

 

「ほ、本気ですか!? もしも、その二人にフラッグがドロップしなかったら────」

 

「────ええ加減にせえ!!! さっきから黙っとれば失礼過ぎんぞリンド!!!」

 

 ディアベルの鶴の一声とキバオウの一喝。流石にそれでリンドも頭が冷えたのか、少しだけしゅんとした様子で席に戻った。やや気不味い空気が流れ始めたが、ディアベルが空気を断ち切って念押しと補足を付け足す。

 

「さっきも言ったけど、飽くまでも君達に頼むのは偵察戦だ。()()()()()()()()()()()、そんな状況は無いとは思いたいが()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、これは()()()()()フラッグがドロップした場合は────」

 

「────ああ、快く譲るよ」

 

 ────ぶっちゃけ俺はアレ要らんし。

 

 そう心の中で続けて、先に席を立つ彼らを見送る。ディアベルとは前もって口裏を合わせていたので勘定は俺が払うつもりだったのだが、ギルドリーダーとしての矜持か見栄なのか、幾ばくかのコルを置いていかれた…………まぁ、想定外の出費もあったから有難く頂戴しよう。

 

「────それじゃあ、偵察戦の()()()()()()()頼んだよ、オウルさん」

 

「────…………ゑ?」

 

 

 

 ♢

 

 

 

「そんな訳で、俺はホイホイとリーダーを請け負ってしまったのであった」

 

「なんで説明口調なの?」

 

 ロールケーキをハムスターみたいに頬張りながら、雪の様な白髪に空の様に青い瞳が特徴的な片手剣士────私のコンビ相手であるオウルが呟いた。口元にケーキのクリームが付いていて、彼の凛々しい雰囲気をデバフ効果の如く著しく低下させている。

 

「気にするな、それよりもフィリア。お前本当にボス戦に参加するんだな?」

 

「うん、レベル的には問題ないでしょ? それに邪魔なら未だしもこんなに人数が少ないなら、それこそ猫の手だって借りたいんじゃない?」

 

「そうだな、梟を頭に据えるくらい切羽詰まってる」

 

 口元のクリームを親指で掬い取り、僅かに出した舌で舐めとりながら言う。少し険しい表情と鋭い視線も相まって、どこか妖しく官能的な物を感じさせる。黙っていれば格好良いのだろうが、そういう事に彼は頓着しないのはここ数日で私も理解した。オウルは何かしら書かれたメモ帳をストレージに仕舞って、今度はリズベットに作って貰った片手剣を留め具から外して、耐久値など確認する。

 細長い刀身は、鋭い印象から細剣と思わせるが分類は片手剣だ。白銀の刃はスタンダードな鍔から始まり、握りの部分には滑り止めの濃紺色の革が巻かれて、シンプルな錘型の柄頭で終わる形となっている。見た目が細目の剣である事以外には、特に変な所は無いように思えるが────強化試行回数が、なんと25回となっている。

 

 『どぉ────してえええええええええ!?!?』

 

 リズベットから受け取った時、オウルはまるでアイデンティティを失ってしまったかの様に、全身を震わせ叫んだ。目が飛び出す程の驚きを隠せない彼に対して、その場いた私とリズベットとリーテンは直ぐに他人の振りをする。一々ネタに走らないと気が済まないのだろうか……。

 だがしかし、オウルの驚愕は無理もない。私が今使ってるメインウェポン、《ブレッシング・ダガー+8》ですら、七層後半までしか使えない。それでもレアドロップ品なのだ────強化試行回数で単純計算、その三倍の強さ。

 

『え……? 作っといて言うのもなんだけど……なんでこんなのが出来たの?』

 

『品質はランダムになるんだから、偶然なんじゃないの?』

 

 オウルと同じく驚きを隠せないリズベットとリーテンが唸る。そう、武器の作成は決して最高品質の物が出来上がる事が保証されているわけではない。《芯材》とモンスターなどの《素材》ランク、そして鍛冶師のスキル熟練度に左右される。これらの要素によってランダムにインゴットを叩く回数が決まり、この叩く回数が武器のレアリティに繋がるらしい。繋がる、らしい…………のだが。

 

『オウル? その武器のスペック……どのくらいなの?』

 

『未強化の状態で…………大体、九層店売り品と同等くらい? 下手したらもっと強い』

 

 現在五層の後半と考えれば、明らかにオーバースペックだ。これからボスの討伐に向かうのだから、ありがたいことこの上ないが。オウルは意味深に白い刀身を眺めてから、黒い鞘に納める。ふと、私は気になったので聞いてみた。

 

『ねぇ、その剣の銘はなんて言うの?』

 

 すると、オウルはどこか歯切れ悪そうな雰囲気を出したが、答えてくれた。

 

「あれ? オウル、剣を新調したか?」

 

「あぁ────《セヴァー・ザ・ギルト》。強化回数は5回で全部《鋭さ》に振ってる」

 

 キリトの疑問にオウルが答える────《咎を断つ》、あえて言うならそんな意味だろうか? 

 

「皆、そろそろ時間だ。休憩は充分に取れただろう?」

 

 オウルは外した片手剣を留め具にしっかりと固定し、腰から下げる。ボス部屋に繋がるだろう大階段の前に立ち、三々五々にたむろしているプレイヤー達に彼は語りかける。静かに、滔々と、特別美声では無かったが、よく通る声音だった。

 

「先ずは集まってくれた事に感謝する、本当にありがとう。俺達はこれからボスの偵察戦をする訳だが……ベータ版の話をするなら、五層ボスは巨大なゴーレムだった。アルゴのストーリークエストの情報からも、ボスはゴーレムで間違いないと思われる」

 

 オウルの隣に立っていたキリトは、少し離れて顎に手を当てて何かを考えこんでいる。アスナはそんなキリトを心配そうに見ていて、一緒にリズベットとケーキを食べていたリーテンはシヴァタという男性プレイヤーの手を強く握っている。気負っていない様に見えるのは、オウルとエギルさん達くらいだろう。

 

「だが、ベータ版では五層のボスはステータスが高かった。恐らく五の倍数の階層ボスは少し強めになっている。ゴーレムはブレスやソードスキルの類は使わないが、その代わりに攻撃力が半端じゃない。流石に軽装剣士でも一撃死は無いと思うが、危ないと思ったら直ぐに離脱していくれ」

 

 彼の注意事項に皆が無言で首肯する。ゴーレムの大きさにも依るだろうが、パリィや武器防御は現実的では無いかもしれない。もういっそ軽装剣士なら割り切って、攻撃は全部回避するつもりで挑んだ方が良いだろう。

 

「そして最後になるが、もしも四層の時の様にボス部屋から離脱が困難になった場合は、その時は決戦になると思っていてくれ。大丈夫だ、ボスの攻撃を見切って時間をかければ討伐は充分に可能だ。先ずは俺とキリトがボスの攻撃方法を確認してくる、皆はキリトが戻ってくるまで入ってこないでくれ────悪いが、混乱を招かない為にこれは()()してくれ」

 

「おい、オウルの方が敏捷性高いんだから伝令役はそっちが適任だろ? ボス部屋には俺が残るよ」

 

 その命令に、キリトが異を唱えた。何か彼を一人にする事に抵抗があるのか、その目はどこか縋るような印象を受けた。今更だけど、よくよく考えてみると彼とオウルの関係性を私は知らない。でも今聞く事でも無いだろう。ボス戦が終わった後に聞いてみよう。

 

「一応、レイドリーダーだから聞いて欲しいんだけどな……分かった、なら公平にジャンケンで決めよう。キリトの言う事も一理あるしな」

 

 そして始まる二人のジャンケン勝負、緊張感の無い『さーいしょはグー! ジャンケン!』の掛け声と共に手が振り下ろされ────キリトはパー、オウルはチョキだった。今からボス戦なのに何をしてるのだろう、この二人は。

 

「ぐわぁああああ負けたぁあああ!!! 俺はッ! 弱いッ!」

 

「俺の勝ち! 何で負けたか、明日まで考えといてください。そしたら何かが見えてくるはずです。ほな、いただきます」

 

「いいから早くしなさい」

 

「「へーい……」」

 

 まるで仲間を失った未来の海賊王の様に落ち込むキリトに、プロサッカー選手のCM構文で小ボケ挟むオウル、そんな二人をアスナは冷ややかに見ていた…………いつもこんな感じなんだろうか? アスナにすげなく一蹴されたからか、そこはかとなく哀愁を漂わせて白い背中と黒い背中が大階段を昇っていく。

 通常、迷宮区は二十階層で構成されており、その高さは約百メートルと言われている。これが九十九階層続いているのなら、私達は最低でも九千九百メートルは昇らないといけない事になる。とんでもない高度だ、どれほどのデータ量になるのか、まるで見当も付かない。

 

「…………でも、この階段はどういう事なのかしら?」

 

「そうだね、前に来た時も思ったけど……もしかしてボス部屋に直通なのかも」

 

 しかし、迷宮区の構造は全て同じという訳ではない。その階層のテーマに沿って遺跡風に作られていたり、神殿風だったりする。今回の迷宮は複雑な迷路に、関門としての再湧出しないボスモンスターが立ちふさがっていた。それは別にいい、迷路はアルゴさんのお陰でショートカット出来た事もあるし。だがこの迷宮区の二十階層の奥は、ボス部屋に繋がる部分が分かり易い大階段になっており、高度的にもそれ以上昇れば六層に通じるという位置になっている。オウル曰く、ベータ版はこんな構造では無かったらしい。

 それは、つまり────

 

「────直接、階段からボス部屋に繋がっているの?」

 

「どんなボスなのかしら…………ねぇ、そういえばフィリアちゃん?」

 

 正直に言えば初のボス戦に緊張している私に、隣の紅いフェンサーであるアスナが何か聞いてくる。少し前に一緒にエルフクエストの手伝いでお風呂に誘ってもらって以来、数少ない女性プレイヤーという事もあり敬称無しで呼び合えるほど打ち解けた。キリトとオウルにはまだツンツンしているけど、それもこのSAOの情勢を考えれば仕方ない事だろう。

 長い琥珀色の髪をハーフアップに纏めて、色素が少し薄い茶色の瞳は日本人らしさを僅かに残しているが、整ったその容姿から服装さえ変えれば本当にファンタジーのお姫様にも見えるだろう。何を聞かれるのか、返答しながらも彼女を見てそんな事を考えていた────だから、ちょっと不意を突かれた。

 

「フィリアちゃんって────オウル君とはどういう関係なの?」

 

「ど、どういう関係って────」

 

「────恋仲だったり?」

 

「────はあ!!?」

 

 細剣のソードスキルの如く、鋭い指摘が飛んできた。アスナのその質問と私の驚きに周囲に『おっ、なんだなんだ』とどよめく。いや確かに、ここ最近はずっと一緒に行動しているけど、それはPKプレイヤーからの護衛やトレジャーハンター的な効率重視や何よりもボス戦に挑むメンバーに自ら志願したという理由であって、決して男女の仲的なアレではない。

 

「ち────違うよ!? 会ってまだ一週間も経ってないし! それを言うならアスナはキリトとどういう関係なの!?」

 

「べ、別にキリト君とは効率的だから組んでるだけです!」

 

「へぇ~? その割には一つ屋根の下で寝泊まりした事も何度もあるみたいだけど?」

 

 因みに、情報提供者は青目に白髪のソロプレイヤーである。私の脳内で勝手に無駄にいい笑顔でサムズアップして、お酒を呑んでいる。

 

「なっ────フィ、フィリアちゃんこそ! オウル君が土下座までして守ろうとしてたじゃない!? アレって()()()()()()()()()()()()!?」

 

 ────どういう事なんだ! 

 

 と思わず叫びたくなるが、確かに今にして思えば少しだけ不自然な気もする。それだけ情が深いと考える事も出来るがアレは、そうだ、まるで、()()()()()()()()()()()()()────。

 

「────皆! ボスの攻撃傾向がある程度判明した! 付いて来てくれ! かなり特殊なタイプのボスだった!」

 

 だが私の疑念は、階段から飛び降りる形で抜剣したままキリトが帰ってきた事で遮られる。急ぎ視界端のHPバーを確認するがオウルもキリトも無傷だ。どうやらボスから不意打ちを貰うという最悪は避けられたらしい。私は思考を中断して残りのメンバー達と階段を駆け上がっていく。すると、先導していたキリトがボス部屋の前で手で待ったを掛けた。

 

「いいか? 今から言うことを守って部屋に入ってくれ。まず、足元の青いラインを踏まない様にして壁際まで行く。この時に天井のラインがサークルになったら急いでその場から離れるんだ。もちろん逃げる先は壁際だ」

 

「ど、どういう事だ、キリト? わざわざ逃げる先が限定される壁際まで行かなきゃならないって────」

 

「────見れば分かるよ、エギル。時間を掛けて説明したいけど、ずっとアイツを一人にする訳にはいかない。順番に俺が合図を出すから三人ずつ部屋に入ってくれ。くれぐれも足元のラインは踏まない様に! まずは軽装剣士タイプからだ!」

 

 キリトが慎重に部屋の中を覗き込んでから、手招きで合図を出す。最初にアスナ、次にアルゴさん、最後に私が短剣を構えながら部屋に入ると、そこはかなりの広さがあるドーム状だった。迷宮のマップデータは十九階層までしか無かった事を考えると、一フロア分丸ごとボスに充てられているらしい。

 少し薄暗いが壁に備え付けられた燭台が視界を確保しているので、スキルの補正無しでもボスの姿を見逃す事は無いだろう────にも拘らず、この場には今入った私達と少し先にいるオウル以外見当たらない。

 

「どういう事? ボスは?」

 

「おいキー坊? そろそろ教えてもくれてもいいんじゃないカ?」

 

「いいから! まずは壁際まで退避だ、そこなら安全だから。足元のラインは踏まない様に!」

 

 アスナの疑問は私も感じたが、さりとてここで押し問答している場合では無い。ここには間違いなく、フロアボスが居て、たったの十二人で挑もうとしているのだから。

 キリトの注意事項の通り床に目を落とすと、足元にはLEDの様な青いラインが蠢いていた。そこまで速くないので避けながら壁際に行くことは難しくない。私達はキリトを残して無事に移動を終える。そして続々と同じ要領でラインを避けて、皆が入ってくる。六人、九人、だが最後にタンク役のシヴァタさんとリーテンさんが入る時────それは起こった。

 

「りっちゃん、足元に気を付けて────」

 

「うん、シバも────! シバ! 上!」

 

 リーテンさんの鋭い声が響く、つられて視線を上に向けるとそこには青いラインがサークルを描き、シヴァタさんの丁度頭上に出現していた。キリトの表情が強張り、焦燥を感じさせる叫びが響く。

 

「────飛び退け!!!」

 

「くっ────なに!?」

 

 瞬間、タンク役である二人を分断するように上から何かが落ちてくる。いや落ちたのではない、()()()()()()()のだ────遺跡と同じ質感の、太く巨大な足が。幸いにも速度は見てからでも回避できる程度だったので、辛うじてシヴァタさんは直撃しなかった。しかし、スタンプによって生じたショックウェーブに足を取られて《転倒(タンブル)》してしまう。

 

「な、なんだ!? おいキリト! 今のがボスなのか!!!」

 

「それよりも早く起き上がれシヴァタ! ()()()()()()()()()()()!」

 

 戸惑いながら叫ぶシヴァタさんに、リーテンさんが無理矢理引き起こそうとする。SAOにおいて《転倒》は立派な状態異常の一つである。私も経験があるから分かるのだが、倒れた瞬間にアバターが一瞬硬直してしまい、どうしても起き上がるのにワンテンポ遅れてしまうのだ。一部のスキルなどには回避出来る手段があるようだが、それ以外の方法では周りに助け起こしてもらうしかない。

 それを理解しているからだろう、彼女はシヴァタさんが床の青いラインに触れているのを見た瞬間に駆け寄り────

 

「駄目だ! 近寄るな!」

 

「────え!?」

 

 ────今度は下から()()()()()()()()()()。キリトの叫びも虚しく、魔法陣の様にサークルの中から召喚された剛腕はタンク二人を掴み取り、そのまま握りつぶそうと力を込める。視界端の二人のHPバーがほんの極僅かに、減り始めていく。このままでは不味い! そう思いアバターの足が前に出そうになった時だった。

 

「────対面側に《バーチカル・アーク》!」

 

「────あぁ! 了解!」

 

「エギルさん! 手から落ちたら二人を回収して下さい!」

 

「おう! 任された!」

 

 素早く指示を出しながら既にソードスキルを放ち始めていたオウルに続き、キリトも全力でソードスキルを放った。肉や植物を斬る音とは違う硬質な物が削れる音と共に、二箇所をVの字で斬り裂かれた腕は手中の二人を落とした。その隙にすかさず、エギルさんが引き起こして二人を壁際まで退避させる。どうやらサークルが生じる際にラインが減るようで、腕が出ている時はかなり自由に動けるようだ。

 

「総員傾聴!!! ボスはさっきの手脚がそうだ!!! 両手両脚で計四本! 脚は上から! 腕は下から出てくる!! フルレイドだとこのボスは犠牲者が出るかもしれない! ────だから余裕がある様なら! 討伐も視野に入れる!!!」

 

 大声で叫びながら、オウルは身軽に巨腕を足場に三角飛びの要領で、天井に戻っていく脚に片手剣四連撃《ホリゾンタル・スクエア》を叩き込む。空中であるにも拘わらず、全く不自由さを感じさせない身軽さは、トレンチコートが翻る様が白翼を連想させた。ライトブルーの剣閃が菱形を描き、その全てが一際甲高い音を立てて斬り裂き、ボスの脚が大きく痙攣した。

 

「Attack on Titan!!! 囚われた屈辱を晴らす為に────攻略開始だ!!!」

 

 ────おお!!! 

 

 どこか聞いた事があるそのフレーズに、一騎当千のプレイヤー達は勇ましい声で応えフロアに響き渡り、見計らった様に天井から不気味にボスが顔を出す────名前は《Fuscus the Vacant Colossus》。

 

「────(うなじ)が弱点だったりしないかな?」

 

 

 

 





イェエエエエエガァアアアアアア!!!
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