昨日はキーボードの「A」が急にぽろっととれて参りました。ボンド万歳、69話です。
里が出来て66年目の二月上旬……その日、隔離病棟の病室の中で、波風クシナは漸く実子ナルトとの面会が叶った。
「ナルト! 随分と大きくなったってばね!!」
ちょこちょこと短い手足を振りながら病室に入ってきた息子の姿を見たと同時、うっかり普段は出さないようにしていた口癖が久し振りに出てしまい、クシナはゴホンと恥ずかしそうに咳払いを一つする。
それから、髪に負けじと頬を赤く染めつつ、潤む目元を瞬きで誤魔化しながら、彼女が身を任せているベットの目前に来た、齢五歳の我が子に問いかける。
「ナルト、わかる? お母さんよ」
それにナルトは、マジマジと母たる女性を見上げながら、「母ちゃん……?」と呆けたような声で呟く。
「わぷっ」
そんな息子の様子にたまらなくなって、我慢できずにクシナは手を伸ばし、息子をその腕の中に確保すると、そのままぎゅーと抱きしめ、頬ずりをした。
「え、うわ、え、えぇ!? 母ちゃん!?」
展開についていけないのか、頬にヒゲのような三本線の入った金髪碧眼の幼児は、おどおどとした態度で困ったようにクシナの腕にされるが儘抱かれていたが、彼女が万感の思いを込めながら「色合いはミナト似だけど、顔は私似かしらね……? フフ、本当に、会いたかったわ……ナルト」と涙混じりの声で囁くと、漸くその女性が自分の母親である自覚が持てたのだろう。「オレも、会いたかったってばよ……母ちゃん」と、クシナを呼び、顔をぐしゃぐしゃにしながら声を上げて泣き出した。
(良かった……良かったねェ……ナルトくん、クシナさん)
そんな親子の再会シーンを見て、ほろりともらい泣きをする女子が一人。
ナルトの父である波風ミナトがかつて担当した直弟子の一人にして、当木ノ葉医院に勤めている医療忍者……のはらリンである。
そんなかつての教え子を微笑ましく見ながら隣に立つのは、四代目火影である波風ミナトだ。
クシナの夫であり、ナルトの父である彼だが、彼は今、一歩引いた場所で弟子と共に二人の再会を見守っていた。
ミナト自身息子のナルトを大切にしてきたつもりだが、それはそれとして子供にとっては父親よりも母親のほうが重要だと思っているし、それをここまでお預けにしてきたのだ。
クシナが目覚めた日から約二週間……息子からは母親を、母親からは息子をそれだけ取り上げてきたのだから、今は二人で喜びを分かち合ってほしいという思いがあった。
火影としての自分は仕方ないと思ってはいるけど、それでも一人の父親として、夫としては、感動の母子の再会をここまで先延ばしにしてきたことに罪悪感はある。
まあ、でも目覚めてすぐに会わせてあげることが出来なかったのは、本当に仕方ない事だったのだ。
なにせ、家族である前に二人とも九尾の器……人柱力なのだから。
クシナの中には九尾の陰のチャクラが、ナルトの中には九尾の陽のチャクラが封印されている。
そしてクシナは、五年と四ヶ月ほど前……ナルトを出産し、九尾をあの鬼面の襲撃者に引きずり出され、陰陽に分割して再封印した日からずっと、長いこと昏睡状態にあった。
いつ何時何があってもいいように、結界術と封印術で守られた病院内で隔離され……そんな眠り続ける
幸いといっていいのか、息子のナルトはこれまで尾獣がらみの騒動を起こしたことはなく、問題なく封印は正常に稼働している。
強いて言うなら、チャクラを練るのがどうも苦手なようだが、これは本人の生来の不器用さ由来の可能性もあるし、まだ小さな子供なので様子見だ。
とにかく、クシナのほうは何年も変化がなかったし、ナルトも今のところなんの問題も起きていないから、ナルトがクシナの病室に見舞いに訪れることは、上層部からは問題なしとされていたのだ。
それに、見舞いにくるといっても、幼い息子が一人で単独行動しているわけでもなく、もしもナルトが接触することで、彼女が目覚めたのならめっけものであると、そんな風に思われて許可をされていた。
だが、クシナは目覚めた。
ナルトとは関係のない、全く別の理由で。
クシナと、彼女の見解を聞いたミナトからしてみれば、彼女が目覚めた理由は明白であるのだが、尾獣と人柱力について把握している上層部からしてみれば、唐突的で不可解といえる出来事である。
……あの日、満月の夜に、オビトが月神に奉納した神楽。
アレには確かな力があった。
しかしあの神楽の原型となったものこそ武練祭の剣舞神楽であるが、オビトが術式として最適化し完成させたアレは、最早元の神楽とは別物で、ほぼ彼のオリジナルといって良い代物になっていた。
彼女が目覚めることが出来たのも、クシナが『破邪神楽』と名付けた、それの影響で恩寵だ……と言われてもこれまでこの里、世界に存在していなかったものだし、「はい、そうですか」とは中々いかないものがある。
何せ、あの日起きた異変に気付いたものより、気付いていないもののほうが圧倒的に多いし、あの夜火の国中に広がった破魔のチャクラといえる
そしてあの日起きた変化について、翌日、里の人間から世間話の体で情報収集したところ、「いつもよりぐっすり眠れた」とか、「今朝からやけに調子が良いんだよなー」とか「なんか肩が軽くなった」とかそんな曖昧な気のせいかも? で割り切れるような効果しかなかったようである。
とはいえ、そう答えたのが1人2人ならいざしらず、同じ日に10人中9人が調子が良くなっただとか快眠出来ただのと答えた時点で、十分異常と言えるのだが……。
あの夜放たれた加護に、劇的な効果はなくても確実な効果はあったのだ。
それにもう一つ、影響がわかりやすく出た場所があり、それがここ木ノ葉医院である。
病院に入院している怪我人や病人には、当然痛み止めを処方されているものも珍しくはない。
そんな彼らが、調べによればその日は薬に頼らずとも、揃ってよく眠れたとそう言っているのだ。
人は、眠りに就くことによって身体を回復させるが、これは忍びも怪我人病人も同じである。
寝なければ回復などしない。
だから、快眠出来た。
たったそれだけの恩恵が、何よりも大きなものとして跳ね返ってきたのがここ、病院という施設である。
ほんの少しだけ、医師の見立てよりも患者の傷や病の回復が早まった。
それが……入院患者の殆どがそうなったというのは、偶然なんて言葉で片付けられない問題だ。
客観的に見ると大きな影響はない、といっても確かにあの日の影響はそんな風に随所に出てる。
だからこそ、上層部は事態の解明を求めたし、目覚めたクシナの検査などもあり、上層部は
陰陽に分かたれた二人の九尾の人柱力が接触することで、なんぞ新しい問題が起きるのではと、接触させるならもっと慎重に、詳しく自体を調べてからにしろと、そう火影であり二人の家族であるミナトに要求を突きつけてきた。
まあ、気持ちはわかる。
火影として、ミナトにはこの里に住まう人間全てに対し責任がある。
何かがあってからでは遅いのだ。
だから、大丈夫だと、確信が持てて初めて九尾の人柱力である親子二人の面会は許可された。
とはいっても、本当に何もないという保証もないので、立ち会い人として一流の医療忍者にして特別上忍であるのはらリンと、当代火影にして稀代の封印術の使い手でもあるミナトが見守ることとなったのだが。
「良かったですね……ミナト先生」
ひっそりと、他の人間に聞こえないように潜められた声で、リンはミナトに対して久しく呼んでいない懐かしい呼称を口にする。
上層部の心配は杞憂に終わり、今のところ何の問題も起きていない。
これなら、クシナが退院したあと家族三人で暮らす許可を取るのも、然程難しくないだろう。
「うん、ありがとうリン」
そう同じく潜めた声でミナトが礼の言葉を言うと、どういたしましてというように、茶髪茶目の妙齢の女はフワリと笑った。
暫し二人で笑い合う。
それから、すっと火影とその部下の顔に同時に切り替えて、「明日からだね」とそうミナトは呟く。
「はい」
木ノ葉隠れの里が霧隠れと同盟を結んだのは、今から二年前の事だ。
結んだ理由やいきさつについては、まあ政治的なアレコレがあったわけだが、霧とは同盟を結んだあともつかず離れず、手探りで距離間を図りながらこれまでやってきた。
だが折角の同盟国なのだから、それをアピールするイベントも必要だろう。
そう、声が上がったものの、この業界、なんでもかんでも情報を開示出来るわけでもなく、それでもと話し合いの結果決まったのが、来年の中忍試験から同盟国間で持ち回りで中忍試験を合同開催するという話と、明日から開催予定の霧、砂、木ノ葉合同での医療研修の話だった。
病払いの蛞蝓姫と謳われた加藤綱手の影響もあり、木ノ葉隠れの里の医療技術は頭一つ抜けていると言われているが、なんだかんだ砂漠地帯にある砂隠れの里や、島国で閉鎖的な環境であった霧隠れもまた、独自の医療技術を発展させてきた。
それで三国の忍び里合同で医療研修を行う事によって、それらの基礎知識を互いに取り込もうとそういう事になった。
とはいえ、流石に他里に秘伝を公開する事は出来ないので、目的は若手の基本的な知識と技術の向上である。
その為、今回の三国医療研修に研修生として参加するのは、医療忍者なりたての若い下忍や中忍達が主であり、この度木ノ葉隠れの里から研修生の
研修期間は三週間ほど。
開催地は、先日大規模な土砂災害が発生した雨の国だ。
暁が率いる雨の国は、同盟国というわけではないが、交流はあるし、向こうから国を通じ正式な依頼があったのだ。
三国の医療研修開催地として他里の忍び達を受け入れる代わり、土砂災害で発生した避難民達の治療費を格安にしてほしいと……まあ、貧困国だからの言い分である。
とはいえ、互いにWin-Winであることもまた違いない。
実地に勝る学びもなしなのだから。
一応戦忍も二小隊ほど護衛につくし、リンも最早小さな女の子ではない。
きっと彼女なら立派に役目をやり遂げるだろう。
「……ん、頼んだよ」
「はい、お任せ下さい、四代目様」
そういってリンは力強く肯く。
「コラ、ミナト! アナタ、いつまでそんな端っこに突っ立ってるんだってばね……! 早くこっち来なさいよ!」
そういって照れ隠しにブンブンとクシナが、右腕を振り上げながら、赤い長い髪を振り回す。
そんな母親に同調するように、色合い以外は彼女とよく似た息子が、「そーだそーだ! とうちゃんもくるってばよォ!」と彼女と同じく右腕をブンブン振りながらはしゃぐような声を上げた。
「はいはい、二人とも、今行くよ」
そういって三人で抱き合いもみくちゃになりながら笑い合う。
そんな……本当なら五年前には既に叶っていた筈の幸せそうな親子三人の姿がそこにあった。
* * *
二月中旬、木ノ葉隠れ歴史資料館内にある貸部屋の一つにて、隻眼の木遁使いの名で知られる黒髪隻眼の青年……うちはオビトは、数々の衣装やら小道具やらに囲まれながら頭を抱えていた。
「しっかし、まさかオビトが武練祭で神楽を踊るなんてねェ……意外だわ」
「ほら、オビトオマエいつまで落ち込んでるわけ? 辛気くさいんだけど」
「フフ、このエリートが任されたからにはしっかりプロデュースしますよ、オビトくん」
なんて、そんな風にガヤガヤ言う同期二名プラス一名の言動を受けて、オビトは内心で叫んだ。
(なんでこうなったァ~!!)
遡ること、今から二週間と少し前。
波風ミナト邸に呼び出されたうちはオビトは、彼には青天の霹靂とも言える提案……もとい命令を当代火影から告げられた。
「オビト、今年の武練祭、君が神楽を舞うんだ」
「…………へ?」
はっきり言ってオビトにとっては思ってもみなかった命令である。
実際に、神楽を舞っている最中は、彼はトランス状態になっているので平気なのだが、素の状態のオビトにとって、そうなっている状態の自分というヤツは、ほぼ黒歴史のようなものである。
神楽を舞っている最中の自分は、冷静に後から思い起すと、やけに悟りきってて、無駄にかっこつけてるような感じで、クールを気取ってる感がクソ恥ずいのだ。
そんな風に思っているのだから、みんなの前で神楽を舞えと言われたら、「勘弁して下さい」になるのも仕方ないってヤツだろう。
だが、そんなオビトの羞恥心などミナトにとってはなんの関係もないし、天然も入っている波風ミナトは直弟子である彼のその心情を汲む事も無く、真剣な顔と態度で淡々と何故オビトが神楽を舞う必要があるのかを解説する。
曰く、オビトが舞った神楽……剣舞神楽をベースに完成させたそのオリジナル……クシナが名付けた呼称「破邪神楽」には実際に、破魔の力と、邪気祓いの効果が備わっていると。
「キミの作り上げた破邪神楽は、その術式理念と構想からして、
それが結果として、この里や国を守ることにも繋がると師は言う。
「破邪神楽には悪意払いの結界術、という側面もある。それはつまり、悪意を持つものがこの地に踏み込むのが難しくなるってことだ。影響としては小さなものだけど、長い目で見ればその積み重ねで守れるものは増えていくように思う。だから頼むよ、オビト」
とそう波風ミナト……時空間忍術だけでなく、結界術の才能も初代並と太鼓判を押されている男は語った。
正直、戸惑う気持ちはあるし、羞恥心もある。
だが、それがこの里を守るためにもなると言われたら、受ける以外の選択肢はオビトにはなくなる。
そもそも、オビトが火影を目指しているのだって、木ノ葉隠れの里が好きで守りたいからなのだから、自分の神楽で余所からくる悪意を祓えるというのなら、是非もないのだ。
「わかりました」
ならば、引き受ける以外はなかった。
とはいえ、素の状態のオビトにとって、あのトランス状態のオビトが羞恥心を煽る存在である事も、変えようのない事実である。
「わかりました、けど! その、武練祭でオレが神楽を踊るのはいいんですけど、それがオレとわからないようにしてほしいんですけど……!」
とそんな条件を加えた。
そんな部下を見て、ふむ、とじっくり一秒ほど波風ミナトは考える。
確か、今年の武練祭で武練演舞に選出された上忍は、オビトだった筈だ。
皆が見ている前で神楽を舞うだけでも目立つのに、その舞手がそのまま火影との武練演舞を演じるとなるととんでもない注目を集める事だろう。
ただでさえ、隻眼の木遁使いの名で既に世間から注目を集めている状態というのに、そこに新規神楽の舞手の側面まで増えるとなると……まぁ情報過多だ。
とはいえ、将来火影を目指すのなら、目立ってなんぼなのも確かであるが……しかし、ミナト自身オビトに解説したように破邪神楽はただの舞踊ではなく、舞踊の形をとった儀式術式であり、悪意払いの結界術でもある。
それに気付く他国からの間者もないとはいえない。
悪意を維持しにくくなるとなると、他国から来たスパイも諜報活動や工作がやりにくくなるだろうし、そうなれば破邪神楽の舞手は邪魔で消したい存在になる筈だ。
ならば、リスクの分散という意味で、神楽の舞手が誰なのかは伏せておいたほうが良いのも確かだ。
だから、ミナトはにっこり。
いつもの感情の読ませない笑みを浮かべて「わかった! 破邪神楽の舞手が誰なのかはキミのいう通り伏せさせて貰うよ」と答え、どんな変装にするのか、祭りの衣装や段取りについてはまた後日連絡するとして、その日の話は終わった。
そしてそれから二週間と少しが過ぎた本日、四代目から指名の極秘任務……ただしランクはDだ、だと言われ、カカシに連れられてきたのが、ここ歴史資料館内にある貸し部屋の一つであり、そこにいたのが夕日紅、エビスの両名であった。
曰く、ミナト先生からの指名極秘任務のコレだが、端的に言えばオビトの武練祭での変装及び舞い装束の選定が本日のミッションだったらしい。
その証拠のように、色んな衣装や小道具がずらりと並んでいるその部屋で、タジタジになっているオビトに対し、カカシは「オレが今日のミッションの隊長ね」と自己紹介し、紅は「私は、女性目線でのアドバイスもいるだろうってことで選ばれたのよね」と答え、エビスは「ま! 衣装選びもこのエリートに大船に乗ったつもりでお任せですぞ!」とか言いながら、眼鏡をクイクイした。
ここで、オビトは自分とミナト先生の間に認識の食い違いがあることに気付いた。
多分、このメンバーを集めたのはミナト先生にとってはよかれと思ってのことだ。
破邪神楽の舞手が誰であるか伏せるにしろ、神楽と谷の戦いの両方に出る以上、協力者はいる。
ならば、オビトをよく知る顔見知りが協力者になったほうがいいだろう。
知り合い相手ならオビトも落ち着くだろうし。
そういう配慮なんだろうなってのはわかった。
(ミナトせんせェーーー!! 違う、そうじゃねーんだよォ!)
だが、しかし、オビトとしては、全然知らないやつより、知り合いに知られる方がずっと嫌だった。
全然知らない相手が協力者になったほうが断然良かった!
知り合いにあのトランス状態を見られて、「何コイツオビトのくせにウケルー」とか思われたら耐えられない。ぜってーからかわれる!
もう嫌だ帰りたい。
オビトのテンションはがた落ちである。
だが、まあこの場に集まった三人からしてみれば、なんでオマエそんなに恥ずかしがってんの? 確かにオビトが舞うのは意外だけど、武練祭の神楽に選ばれるとか普通に名誉でしょ、とそっちのほうがわからないものなので、キノコが生える勢いで落ち込むオビトを尻目に普通に話を進めていた。
大体、どんなくだらない任務だろうが任務は任務である。
「さてさて、オーダーは一見してオビト君とわからないように、かつ武練祭の神楽に相応しい装いで荘厳に頼む。とのことでしたが、誰か案のある方は?」
そう眼鏡をクイクイしながらエビスがそう問いを投げると、カカシは棚にずらりと並べられたウィッグを一瞥し、一言。
「そうね……お前、髪長いとかなり印象変わるし、
……と、これが数年前、長髪のオビトに解釈違いを起こして、彼の髪をバッサリ切った男の発言である。
あの時はあれだけ憤ってたくせに、それはそれ、これはこれと言わんばかりの怠そうな態度だった。
それを聞いて紅は、「どれどれ?」と言って、ひょいと並べられているウィッグやかぶり物の棚から黒髪の鬘を選択し、ガボリ。
いまだいじけて座り込んでいるオビトの頭にかぶせる。
「わ、ちょ、おい紅」
いきなり頭に鬘を被らされたオビトが思わず抗議の声を上げると、同期一の美女はパチクリとその赤い目を瞬かせながら、意外そうな声を出して言う。
「あら……驚きね。絶対似合わないと思ったのに。オビトって意外と長髪映えする顔立ちだったのね」
「おい、紅。それは褒めてんのか、貶してんのかどっちだ?」
「褒めてんのよ」
というが気怠げなその態度は、面倒くさいという感情が隠し切れていなかった。
「まあでもそうね……これも似合うけど、オビトだってバレないようにするなら、黒髪より白髪のほうがいいかしらね?」
「片目がないのも逆側の顔に傷があるのも有名ですし、顔が見えていたら、オビトくんだと一発でわかりますからね……片目がないというのも目立ちますし、いっそ目元全体を面で隠すというのはどうでしょう? ほら、これとか」
そういってエビスは鼻から上を覆うタイプの白い狐の面を差し出す。
「いいんじゃない? 口元は露出しているけど、これくらいなら化粧で多分隠せると思うわ」
そういって紅とエビスはオビトに白髪の鬘と狐面を装着させた。
「……意外と似合うわね」
「もう好きにしてくれ……」
カカシは我関せず、オビトはヤケクソモードだった。
とりあえず武練祭本番の日も、この面と化粧で顔を誤魔化す方向で行き、当日は控え室で紅が化粧を施してくれるのだそうだ。全く有り難すぎて涙が出てくる話である。
それからああでもないこうでもないとわいわい話し合う紅とエビスの言われるがままに、色々な衣装を着せられ暫し、着せ替え人形に甘んじる。
この貸し部屋の利用時間は二時間までと決まっている以上、時間を無駄にするわけにはいかないので妥協の選択であった。
そうして、これで本決定でいいかなと、衣装を選定し鏡の前に立たされる。
「お、おお?」
そこには白髪の長髪に狐面、白い上着に黒い袴を履いた普段のオビトからは想像出来ない姿をした自分らしからぬ自分が写っており、オビトも思わず少し驚く。
自分で言うのもなんだが、中々に格好いい感じである。
あと髪がちょっと自来也師匠とおそろいっぽくて、嬉しく思ってしまったのはきっと気のせいだろう、多分。
そうして鏡の中の自分をマジマジと見つめているオビトに対し、紅が言う。
「ところで、武練祭の神楽に指名されたってことはアンタ踊れるのよね? ちょっと見せてくれない?」
「え? なんでだよ」
オビトは嫌そうに眉をしかめながら言う。
「実際に動いてみないとどんな感じかわからないでしょうが。イメージと合わない部分があれば修正するから必要なことよ」
「そうですね、オビトくんお願いします」
オビトとしては気が進まないのは確かだが、しかし紅やエビスも仕事としてこの場にいるのである。
なら、しょうがないか。
(剣舞神楽の基礎、巴の舞い一小節分だけ、演るか)
そう思い意識を切り替える。
「……!」
すると、ガラリと纏う空気まで変わるものだから、銀髪の相棒は呆気にとられたように目を見開いた。
だが、そんな驚くカカシの姿も、既に神懸かり状態に突入したオビトにとっては些事である。
彼は舞う。
タン、タン、タタンタン。ダン。
床に踵を打ち鳴らし、まるで剣か錫杖をその手に抱いているような動きで、巴を描くように神卸の舞いを、世界に影響がない程度に繰り出す。
僅か30秒ほどの演舞だというのに、妙に目が引き寄せられる。
その終わりを告げるように、狐面に取り付けられた鈴がシャンと澄んだ音を鳴らした。
「……おい、終わったぞ」
エビスと紅、二人ともポカンとしている。
カカシは一見、驚いていないように見えるが、よく見るといつもより少しだけ眠たげな瞼が上に上がっているので、ポーカーフェイスで誤魔化しているだけで、彼もまた驚いていたように見えた。
三人はチラリと目配せする。
それだけで互いの心境が通じ合ったような気がした。
(……オビトのくせに、普通に格好良よくて吃驚したんだけど……)
(オビトくんやりますね……普段は抜けてるのに、コレですか……! もしも、これがキミだと公言していたら、きっとファンが倍増してましたぞ、いやはや伏せてしまうとは残念ですな)
(ま、オビトが格好いいのは前から知ってたけどね、オレは)
……流石オレの英雄! なんてドヤっと内心理解者面で心の中で肯くカカシを思えば、やっぱり実は通じ合ってないのかも知れない三人であった。
続く
オビトの武練祭用衣装は、鬘は自来也イメージ。上半身はノースリーブ黒インナーの上に原作六道マダラ装束イメージ衣装+黒手袋、下半身は原作六道オビトイメージ衣装デス。
顔は狐面で、傷跡は祭り本番は化粧で隠す方向性。
因みに挿絵に使った画材は、万年筆、ぺんてる筆ペン、薄墨筆ペン、朱色筆ペン、コピックのW3とE95でヤンス。
次回「決心」