隻眼の木遁使い   作:EKAWARI

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ばんははろEKAWARIです。
サスケ&紅回。


70.決心

 

 

 

 木ノ葉隠れの里は、千手とうちはという長いこと争っていた戦国の両雄が結ばれ、生まれた忍びのための共同生活体だ。

 最初は千手とうちはの二族だけだった里も、今では多種多様な一族が同じ里人(なかま)として共に暮らしているし、昔ほど一族偏重の考えを持つ者もさしていない。

 一人前の忍びが里内のどこに住むかなんて、当人の自由だ。

 とはいえ、名家……特に血継限界を継ぐ一族としては、好きに住んで良いと言われても、「はい、そうですか」といかない理由もある。

 一族で扱う秘伝もそうだが、そういった特定の一族にしか受け継がれない力は、その力を得たあとの修行も同族間でノウハウの共有や指導をしていくわけだから、一カ所に固まっていたほうが面倒がないのである。

 そう思えば、写輪眼開眼済みのうちは一族でありながら、他の一般忍びが入居しているようなアパートで一人暮らしているうちはオビトのほうこそ、例外的で異端な存在なのだ。

 だからこそ、うちはの神を祀る南賀ノ神社に近い立地を意識して、うちは一族の住む家が軒を連ねている。

 これが通称うちは居住区である。

 そこの通りに住んでいるのが殆どうちは一族のみであることからそう呼ばれているが、別に正式名称というわけではない。

 上にも述べた通り、里の理念としては里内のどこに住もうがそれはそのものの自由なのだ。

 自由であるが、その上で敢えて一カ所に纏まり生活している。

 それだけといえばそれだけの話だし、それはうちはに限った話ではない。

 うちは同様に三大瞳術を継ぐ日向一族とて、そうだ。

 彼らも先祖代々受け継いできた白眼と、その柔術を守る為に一所に家を建て、同じ通りで暮らしている。

 そちらも通称日向通りと、そう呼ばれている。

 

 ……月が綺麗な夜だった。

 半分に欠けた月に、キラキラと輝いている満天の星々。

 こういう月を、上弦の月とそう呼ぶのだったか。

 いや、上弦の月と呼ぶには少し丸いか。

 はて、じゃあなんて呼ぶのだろう。

 なんて小首を傾げながら、黒髪黒目の幼い少年は父の部屋に向かう途中の縁側でふと足を止めた。

(……兄さんにきいたらおしえてくれるかな?)

 と、中忍として働いている大好きな兄を思い浮かべながら、その少年……うちは一族族長うちはフガクの次男坊である、うちはサスケは思った。

 まあ、兄は忙しさを理由に「許せ、サスケまた今度だ」そういって、またデコトンで誤魔化して、碌に答えないのかもしれないけど。

 なんて事を思いながら、とてとてと父の部屋に向かう。

 普段は月や星のことなんて気にしたりしないのに、ついこんな事を考えてしまうのは、緊張しているからなのかも知れない。

 先ほど、仕事を終えて家に帰ってきた父に言われたのだ。

「サスケ、話があるから後で父さんの部屋に来なさい」

 と。

 正直、父にそんなことを言われたのははじめてで、話とはなんなのか想像も出来なくて、胸がバクバクしている。

 今まで部屋に呼ばれるのは兄さん……兄のイタチばかりで、父さんは自分には興味がないんじゃないかとすら、サスケはどこかで思っていたから。

 こんな風に夜に父の部屋に呼ばれるなんてはじめてだ。

 すぅと、息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。

 それからよし、と決心がついたように顔を上げて、コンコンと規則正しくノックをした。

「サスケか。入りなさい」

「うん」

 そう答えて、サスケは父の部屋に入る。

 これがもし次男のサスケではなく長男のイタチであれば、「失礼します、父上」などと声をかけ、そつなく隙の無い洗練された身のこなしで入室するのであろうが、生憎相手はまだアカデミーにすら入学していない五歳児だ。

 実年齢相応の幼さで、感情を隠す事も無く振る舞う。

 そんなサスケの、長男には無かった稚(いとけな)さがフガクは可愛くて仕方なかった。

 が、表に出したりはしない。

 いつも通りのどっしり構えた態度で、感情を表に出す事は無く次男に向き合う。

 もしもこの場面を妻であるミコトが見ていたら、呆れた口調でこう言ったことだろう。

「アナタ……そんなだから、サスケに自分は愛されてないんじゃないかって不安がられるのよ」

 と。

 

「それで父さん、話ってなに?」

 ピンと背筋を伸ばして座る父につられたように、幼い黒髪の少年も出来るだけ姿勢を正しながら問いかける。

 それにむっつり。

 いつも通り重々しく口を引き締めていた父は、「先月の正月の宴のことは聞いているか?」とそうサスケに尋ねた。

 それに黒髪の幼子は「うん……確か、オビトさん、だっけ? が夜の神社で神楽をおどったんだよね?」と母から聞いた話を返した。

 うちは一族の正月の宴は、正規の忍びでないものも、うちは一族の血を引くのであれば参加は可能である。

 が、開催時間が夜の19時から21時……一部の大人は日付変更線辺りまで飲み明かすのが通例である、という幼子であれば眠りに就く時刻に開催していることもあり、基本アカデミーにも入学していない幼児が参加することはなく、先月の正月の宴も、母と共にサスケは家で留守番することになったのだ。

 だから、夜の神社で行われたというその神楽の奉納を、サスケも……彼にその話を教えてくれた母も見たわけではない。

 だが、父と兄は直接見たはずだ。

 とはいえ、何故急に父はそんなことをサスケに尋ねたのだろうと、幼子は不思議に思う。

 神楽って何、と問うたサスケに母は答えた。

「神様にささげられる踊りや歌のことよ。ほら、武練祭でも櫓の上でおどっていたでしょう? 神様の為の舞いや歌を『神楽』っていうのよ。」

 と言われたので二年と半年前の武練祭の事を思い出してみたが、生憎当時のサスケは2歳だか3歳の物心ついたかも怪しいようなお子様だった。

 言われてみればなんか踊ってた気がするが、よく覚えていない。

 なので、同じ一族のオビトって人が正月の宴で、みんなの前で神様に捧げる踊りをおどったらしい、というのを情報としては知っているが、本当の意味でちゃんと理解しているかと聞かれたら怪しいものがあった。

「そうか」

 そんな息子の戸惑いには果たして気付いているのか、気付いていないのか。

 父はいつも通りの態度と口調で、重苦しく頷き、そしてサスケが想像もしていなかった言葉を投げる。

「サスケ、お前はその神楽を継ぐ気はあるか?」

「……え?」

 

 * * *

 

 話は三日前に遡る。

 その日、うちはフガクは四代目火影である波風ミナトの自宅へと招かれていた。

 表向きは友人との私的な飲み会だ。

 妻の快気祝いとして、妻の親友の夫であるフガクと細やかな祝賀会を……という、建前である。

 その実、本題が違うことくらいは誘いをかけられた時から気付いていた。

 そして思った通り、話とは、先月の望月の日に起こった事についてであった。

 まるでいつもとは別人のように、その纏う空気も表情もガラリと変えたうちはオビトが突如始めた月神に捧げる神楽舞い……アレがただの神楽でないことなど、フガクとて気付いていた。

 否、気付いていたというより、正確には一族で誰よりも強く理解していたとさえ言えるだろう。

 神懸かりという言葉があるが、それほどあの夜のオビトを差すに相応しい言葉もない。

 フガクの写輪眼に写るチャクラの動きも、普段のオビトとはまるで別物だった。

 自然に近い澄んだチャクラを、その身に取り込み循環させ、世界に還していた。

 神の依代というものがこの世にあるのなら、神威(しんい)に満ちたあの夜のオビトはまさにそれそのものであった。

 そのフガクの見解に補足するようにミナトが言う。

「武練祭の剣舞神楽を元にオビトが昇華させ、完成させた破邪神楽……あれは悪意祓いの結界術であり、同時に封印術でもある。その術式理念はうずまきの封印術である四象封印に等しく、神への神楽の奉納を通じて自然チャクラ(かみ)へと、その加護を願い顕現させる、そういう代物だ」

 と。

「術式理念からして、月(いん)と太陽(よう)、二つの神に奉納することによって真価を発揮するようになっている。これが正常稼働すれば、今後悪意を持って他国の忍びが火の国に潜り込むことは難しくなるだろうね」

 だからこそ、これからもオビトにはうちはの正月の宴と武練祭双方で破邪神楽の奉納を続けて欲しいと思っている……が、一つ懸念があるのだと、金髪碧眼の美丈夫は言う。

「多分、フガク、アナタの見立ては間違っていない。オビトは依り代に選ばれたのだろう。誰に……って聞かれても困るけどね。でもそういう事は古来より、ある(・・)ことではあるらしいよ。……波長があったんだろうね」

 そう苦笑しながらミナトは語る。

「でも、人身御供にしろ、依り代にしろ、そういう神への供物は清い身体(・・・・)であると相場は決まっている。まあ、絶対とは言わないし、オビトがそうでなくなったとしても、大丈夫な可能性もあるけど。でも、万が一を考えたら、ね。継承者は用意しておくべきだと思う」

 忍びなんていつ何時命を落とすか分からない職種だからこそ、尚更だと四代目火影を継ぐ男は言う。

「幸いにも、というべきか……オビトは陰と陽、どちらも同等に適性が高かったけど、でもそのオビト自身こそが稀で例外的な存在だと考えたほうがいい。だから、継承者は二人用意する。陰の加護が高い子供と、陽の加護が高い子供だ。破邪神楽の舞手は神への依り代でもある以上、子供のほうがいい」

 そしてひたりと青い瞳でミナトはフガクの顔をじっと見た。

 隠遁の適性が高い、うちはの族長の顔を。

「陽の継承者はオレが用意する。だからフガク、アナタに陰の継承者の選定を頼みたい」

 それが里を、この国を守ることにも繋がるのだと、そうミナトは囁いた。

 

 * * *

 

 そうしてあれから三日。

 フガクはじっくりと考えた。

 ミナトの考えはわかる。

 あの日、あの晩。オビトが月夜で舞ったあの神楽が、実際にその手の力を秘めていた事は、このフガク自身が誇る写輪眼でしかと目撃している。

 だからこそ、継承していきたい。

 それが里や国を守ることに繋がるというミナトの言い分は、一族を守る義務を持つうちは一族族長であるフガクにも理解出来る主張だ。

 子供に継がせたいというのも、子は七つのうちは神の子というように、大人よりもそういったものと親和性が高いから……という他に、子供であれば確実に清い身体である、というのもあるのだろう。

 では誰を選ぶか。

 最初に思い浮かんだのは長男であるイタチである。

 が。

(いや……あいつはやめておこう)

 と思い浮かんだ次の瞬間、脳内で却下した。

 長男のイタチはまだ齢10の子供……の筈だが、ぶっちゃけ父親であるフガクも長男の子供らしい面を見た思い出はない。

 そつなくなんでもこなし、幼くしてアカデミーを飛び級首席卒業し、僅か九歳で中忍になり、真面目に働いている、とてつもなく優秀で才色兼備文武両道な息子は自慢ではあるのだが、そつがなさすぎて、親であるフガクから見ても、イタチが何を考えているのかよくわからないのだ。

 ただ、優しい子なのは知っている。

 弟の面倒もよく見ているし、何かとミコトと一緒に自分の事をサスケにフォローしてくれていることも知っている。

 だが、本当に子供らしくない子供なのだ。

 あまりに優秀で大人びすぎてて……見た目も中身も実年齢よりずっと年上に見える。

 子供らしい純粋無垢さからはほど遠い、そんな長男だ。

 とてもじゃないが、破邪神楽の継承者に相応しいとは思えなかった。

 あとイタチであれば、フガクの知らない間にさらっと童貞を捨てててもおかしくないな……なんて思いもあったりも。

 いや、まあ優しい子ではあるんだ……ただ、優秀すぎて、大人びすぎてて、そういう事しててもおかしくないなと……真相を確かめたいとは微塵も思わないが、アイツならやりかねないな、とつい思ってしまうのだ。

(……そういえばミナトは、オビトは清い身体だと断言していたな……)

 うちはフガクは黒髪隻眼の青年を脳裏に思い起す。

 うちはオビト。

 先々代族長だったうちはマダラの曾孫にして、うちはの姫巫女の孫息子で、実母は……傍系の千手一族出身の医療忍者であった、同族の青年。

 うちはの血継限界である写輪眼を開眼済みであるほか、初代火影千手柱間と同じ木遁を発現した希有なる存在。

 うちはと千手両方の架け橋となる存在として期待され、隻眼(赤眼)の木遁使いとそう呼ばれている男。

 隻眼、と通称についている通り、片目はないし、右の顔面には渦のような皺のような傷が無数についているが、屈託のない笑みに、うちはにしては珍しいくらいに明るい性格と人好きのする性格をしており、困った年寄りを放っておけないお人好しで話しやすい事から、一族関係なく幅広い層に好かれている。

 知人の子供という感覚が強いが、先日二十歳の誕生日を迎えたいい大人だ。

 もうアイツも子供ではないのだし、引く手数多なのだから、そういう事は経験していてもおかしくない筈だが……。

(いや、確かに好きな女がいるとは聞いていたが……アイツ、あんなにモテている癖に童貞なのか……)

 なんだか、微妙な気分になるフガクであった。

 まあ、それは兎も角として、継承者選びだ。

 とりあえず長男であるイタチは無しとして、ではどの子を選ぶかであるが、一応族長として公平に、どの子が一番相応しいかじっくり三日かけて考えたのだ。

 結論としては、親の欲目を抜きにしても、次男であるサスケが尤も適しているのではないかという答えだった。

 うちは一族の血を色濃く受け継ぐサスケは、必然陰遁の適性も強く引き継いでいる。

 その上で、何色にでも染まるような純粋無垢さをもつ、子供らしい子だ。

 だからこそ、神を降ろすその依り代には相応しいだろう。

 とはいえ、無理にやらせても意味はない。

 だからフガクは問うた。

「サスケ、お前はその神楽を継ぐ気はあるか?」

 と。

 

 サスケは動揺している。

 多分、思ってもいなかったことを言われたからなのだろう。

「サスケ、オビトがあの夜舞った神楽……破邪神楽は、これからもうちはの正月の宴の日と、武練祭に奉納されることが決まった。だが、いつまでもオビトが続けられるわけでもない。だから、その継承者を選ぶ必要がある。それに、オレはお前を選びたいとそう思っている」

 そんな父の言葉に、少しだけ俯いて、眉間の皺をぎゅっと深めながら、震えるような声でサスケは言う。

「……兄さんじゃなくて?」

「……ああ」

「……なんで僕なの?」

「お前が相応しいと思ったからだ」

 そうフガクが答えると、息子は大きな黒い眼に涙をたっぷり溜めて、ポタポタと頬から零した。

(何故泣く……)

 まさか泣かれるとは思わず、表向きの態度はともかく内心フガクは狼狽える。

 そんな父親の動揺に気付くはずもなく、サスケは溢れる涙を手で拭い取り、「やるよ、父さん。僕、継承者になる」とそうはっきりした声で答えた。

「そうか、引き受けてくれるか」

「うん……」

「流石は、オレの息子だ」

 そういってぐしゃりと不器用にフガクはサスケの柔らかい頭を撫でる。

 すると幼い息子は頬を林檎のように染めながら、さっきまで泣いていたのが嘘のようにはにかみ、笑った。

 

 * * *

 

「それでは、今日も無事任務が終わったことを祝して、乾杯!」

「乾杯」

 そんなカカシの言葉を合図に、オビト、紅、エビスの四名はグラスを重ねた。

 昼の武練祭の衣装選びの任務が終わった後、四人とも珍しく今日は他に予定は入っていなかったことが判明し、こうして四人で飲みに来ることになったのだ。

 いわば、お疲れ様会というヤツである。

 オビトも先日で二十歳の誕生日を迎えたことだし、酒類も無事解禁なので、気にすることもなく注文したビールをぐいと飲み干す。なんとも心地よいほろ苦さだ。

 そうして酒を飲むようになって気付いた事だが、どうもオビトは酒に強いらしい。

 おそらくだが、柱間細胞がアルコールが害に前に中和し、術式によって貯蓄エネルギーに変換してしまうのだろう。

 意識して中和能力を低下させたら、ほろ酔い気分にはなれるが、酔い潰れるほど深く酔えそうにはない。

 自分でいうのもなんだが、なんとも便利な身体であった。

 だが、こうしてなんとなく酔った気分になりながら、美味い酒とつまみに舌鼓を打ちつつ、気の置ける仲間達とだべる。

 かつては水と油の関係だとさえ思っていた、銀髪の相棒が……今は誰より親しい友として隣にいる。

 それだけで十分に幸せで、楽しかった。

 ……まあ、欲を言うなら、この場にリンがいたらもっと言う事なしなんだが。

 というオビトの思考はバレバレであったらしい。

 オビトの正面の席に座る紅がジト目で見ながら「リンは任務で里を出てるからいないわよ」と言う。

「わかっているよ」

 と返して、誤魔化すようにビールを呷る。

 雨の国で行われる、三国の忍び里合同での医療研修。

 リンは指導者として、その研修生達の隊長(リーダー)に抜擢された事が調べでわかっている。

 とても名誉なことだ。

 流石リン、と誇らしい気分だ。

 その一方でやっぱりリンに会いたいなー寂しいなー、どうせならオレがリンを守る戦忍部隊につきたかったなーという思いがあるのも事実。

 だってしょうがない。

 リンの事がこの世のなにより好きなのだから。

 とはいえ、オビトが武練祭で神楽を舞うことは出来れば知り合いに知られたくなかったので、そう思えば今日はリンがいなくて良かったような気がしなくもないのだが。

 羞恥心と恋心の板挟みで、オビトの心境は複雑なのである。

 まあ、ともあれ、今宵は無礼講。

 大いに飲み、食い、喋って穏やかな時間を過ごした。

 そうしているうちにまっさきにエビスが潰れた。

「あーあーハイペースで飲むから」

 とか言いながらカカシが呆れた様な声をかけ、しょうがないから介護慣れしているオビトがへべれけになったエビスの介抱をする。

「うぃっく……すみましぇん……」

「すっかり出来上がってるわねえ……」

 紅も呆れた声であとは転がしておけばいいでしょ、とぞんざいに言い放つ。

 まあ、もう二時間はこうしているし、そろそろお開きか。

 そんな空気が漂う中、「ちょっと便所」と声をかけてカカシが席を立つ。

 カカシが帰ってきたら割り勘で会計し、店を出たらいいだろう。

 エビスの分は後日請求したらいいか。

 そんな算段をつけるオビトに対し、「ねえ」と紅がいつになく真剣な瞳で問いを放つ。

「アンタ、いつまでそうしているつもり?」

「?」

「リンの話よ。囲い込むだけ囲い込んで、決定打は言わない。あの子もあの子で駄目なところはあるけど、ちょっと卑怯だとは思わない?」

 そう言われ、思わずオビトはたじろぐ。

「えっと……」

「アンタ、リンの事好きなんでしょ。ならなんでそれを本人にちゃんと言わないの? オビト、アンタ、いつまでもそんな調子だと、そのうちトンビに油揚げをかっ攫われるわよ」

 それは今の関係でどこか満足していたオビトに刺さる台詞だった。

「アンタと付き合っていると思われているから、わかりやすく近づいてくる男がいないだけで、リンを狙っている男がいないと思うならそれは勘違いよ。今のあの子は、仕事一筋でそういう気にはなれないみたいだけど、だからっていつまでもフリーだとは思わない方がいいわ」

 少し眉間の皺をよせながら、紅はぐいと男らしさすら感じる仕草で焼酎を飲み干しつつ、そう呟く。

「若い女の時間は無限じゃないの。女の旬は……男が思うよりずっと短いんだから」

 だから、いつまでも逃げているんじゃない、とそう糾弾する言葉だったが、そこには妙な実感があった。

 きっと、今この里にはいない猿飛アスマを思い浮かべているのだろう。

 紅自身はきっとアスマを捨てる気はない。

 だけど、あまりの女心への察しの悪さに、いっそ捨ててやろうかと思った事もあるんだろうなと、そう伺わせるような声と表情だった。

 

 オビトは暫し、目を瞑る。

 脳裏に浮かぶのは彼にとって、光明に等しい誰よりも輝いている幼馴染みの笑顔だ。

 ずっと共にいたいと願う女性の微笑み。

 それは何の努力も無く、手に入るものでもない。

「紅……」

「何?」

「ありがとうな」

 そう、気付かせてくれたことへの心からの感謝を込めて、オビトは微笑んだ。

 そんなオビトにつられるように、優しい顔をして紅も笑った。

「どういたしまして」

 

 今までずっとなあなあにしてきた。

 彼女に負担をかけたくないとそんな言い訳をして、逃げ続けてきた。

 だが決心はついた。

 もうオビトは逃げない。

 次の非番、彼女が帰ってきた時に。

 

 ―――リンに告白する。

 

 続く




オビトが童貞の伏線回収回。
人柱など人身御供の贄は大抵処女で女の子が定番ですが、一部では男子でなければならないってパターンもあります。あと隻眼が望ましいパターンも。
どっちにしろ、神への捧げ物となると清い身体であるべきとされますね。
日本語では処女と童貞で違う言葉ですが、英語だとどっちもヴァージンじゃし、まあつまりそういうことってわけで。
まあ、本作では贄ではなく、あくまでも依り代なんですが。

次回「告白」
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