白兎が黄金裔とともに英雄になるのは間違っているだろうか? 作:猪のような
ファミリアでの訓練…それは今まで戦いとは無縁だった僕にとって、地獄のような日々だった…
「ひぃぃぃぃ!?」
「ベルー!頑張れー!この子も応援してるよー!」
「グォォォォォォォン!!」(訳:あははー!待て待てー!)
「なんかそんな感じじゃない気がするんですけどぉぉぉぉぉ!?」
庭の走り込みでは、大地獣に追いかけ回され…
「も、モーディスさん…!腕立て伏せ、終わりました…!」
「よし。次は腹筋を同じ回数こなせ」
「きゅ、休憩は…?」
「ほう、明日の訓練が更に厳しくなっていいのか?」
「喜んでやらせていただきます!」
モーディスさんにはひたすら身体を鍛え上げさせられ…
「ベル、振りが鈍くなってきているよ。一振り一振り、常に相手の命を断つつもりで振るんだ…って、ベルにはちょっと分かりづらかったかな?取り敢えず、後素振り200回頑張って!」
「は、はい…」
ファイノンさんには剣の扱いを教えられた。優しかったけど普通に厳しかった…庭の大地獣やキメラ達からは新しい遊び相手だと思われた…
そして、お昼を挟んで午後からは…
「上層は確かに弱く、単純なモンスターしかいませんが、中層や更にその先に比べれば数は圧倒的です。実際、冒険者の犠牲者が最も多く出るのは上層です。特に気をつけなければならないのはインファイト・ドラゴンやウォーシャドウ、キラーアントなどで…」
(お、覚える事が多い…!)
肉体の次はアナイクス先生の『大地獣でも分かる!ダンジョン徹底講座!』により限界まで知識を叩き込まれ、僕は頭から煙を出しながら必死に食らいついた……
「つ、疲れた……」
ベルは今日の訓練や講習を終え、雲石の天宮の上層にあるファミリア専用のバニオで身体を労わっていた。因みに雲石の天宮は基本混浴なので入る際は専用の衣類に着替える必要がある。
「お疲れベル。今日はどうだった?」
「あ、星さん、三月さんに丹恒さんも…」
「うわ〜その様子じゃ今日も徹底的に扱かれたみたいだね〜…」
「ラフトラ、飲み物を四人分頼む」
丹恒がそう言うと近くにいたマネキン人形であるラフトラが動き、飲み物を持って来る。
「アナイクスもモーディスも容赦ないよね〜。あ、ベルは何飲む?」
「えっと、じゃあリンゴのやつを…」
「じゃあウチはオレンジ〜♪」
「丹恒、このソーダ豆乳は渡さないよ」
「取るつもりはないから安心しろ。それでどうだ、特訓は?」
「自分がどれほど浅はかだったか思い知る事ばかりです…冒険者向いてないんじゃないかとも考えるようになっちゃって…」
「そう?ベルはよくやってると思うけど。ベルってすっごく教え甲斐あるし」
「そ、そうですかね…?」
「何回か遠くから見てたけど、あんたモーディスの特訓にもアナイクスの講義にもちゃんとついて行ってるじゃん!もっと自信持っていいよ!」
「だな。今の調子なら近い内にダンジョンにもいけるだろう。武器はもう決まったのか?」
「えっと、ファイノンさんやモーディスさんと話し合って。取り敢えずナイフってことになりました」
「それが良い。戦闘経験の少ないベルでも扱い易いだろうからな」
「流石にダンジョンの付き添いはファイノンとモーディスじゃないよね?ウチらでついて行こうよ!」
四人はバニオに浸かりながら、ベルの今後について話し合っていた…
一方その頃、カイザーの執務室では
「で、どうだ烈日卿、ラキアの王よ。白兎卿は?」
「ベルは本当に良くやっていると思うよ。成果が出そうなのはまだ先だと思うけど…」
「ふん、ハッキリ言って才能が無いな。根性はあるがそれまでだ、アレを俺達に並ぶ戦士にするには俺や救世主がここまで来た倍の時間を要するだろうな」
こちらでもベルのあれこれについてケリュドラやヘスティア。ファミリアの幹部級のメンバーで話し合っていた
「も、モーディスくんは相変わらずズバッと言うね〜…けどちょっと待ってよ…二人の倍って事は……」
「最低20年といったところか。長過ぎる、そこまで待つ余裕は無いぞ、叡智卿、何か案は無いか?」
「私をなんだと思っているのですか、ある訳ないでしょう。何か方法があるならオラリオは今頃第一級冒険者だらけです」
「しかしだな叡智卿。20年となれば剣旗卿がレベル7になるまで掛かった時間より僅かに短いくらいだぞ?」
「それは彼女がおかしいだけです」
「今回ばかりはこのヒュポクリテスに同意します、カイザー」
「金のマスと緑のイルカの意見が合うとは…珍しい事もあるものだな。というか緑のイルカ、その格好は…」
アナイクスは大地獣パジャマを身につけていた。
「寝る寸前で呼び出されたのです。着替えるのが面倒なのでそのまま来ました」
「……カイザーの執務室に、それもヘスティア様の前にそのような装いで現れるとは…あなたにも一度身嗜みに関する講義が必要のようですね?」
「あ、アグライア君?」
「おやおや、金織殿の講義とは実に興味深い。一体どのような窮屈な話が聞けるか、興味はありませんかヘスティア殿?」
「あ、アナイクス君もダメだよ〜そんなこと言ったら…」
「アナクサゴラスです」
するとケリュドラが机にチェスの駒を叩きつけ、まるで木槌のように大きな音を立てる
「そこまでにしろ、今は白兎卿に関する話だ。戦闘訓練の方は分かった…叡智卿、知識の方はどうだ?」
「…少なくとも、生徒としてはファイノンや星よりは優秀ですよ。ちゃんとアナクサゴラスと呼んでくれますし、話を遮ったりもしませんからね。非常に真面目で勤勉です」
「ええ?アナイクス先生、僕も優秀な生徒だと思うんだけど…」
「当然です。少なくとも、生徒として姿勢だけは彼の方が良く出来ているというだけですよ。授業をして中々に楽しめたのは久しぶりです」
「ふむ、戦闘に関する才能は無いが、内面性に光るものは有りか……これならスキルや魔法の特殊性に期待した方がいいな。
「流石にそれは早計だろう。先ずはダンジョンで使えるかどうかだ」
「私は構わないと思いますがね。大地獣に好かれる者に悪い者はいません」
「アナイクス君ってたまに判断基準がガバガバだよね…」
「アナクサゴラスです」
「とにかく、開拓卿、長夜卿、蒼龍卿達が乗り気らしいからな。ダンジョンデビューの付き添いは彼らに任せるとしよう。それまでに白兎卿を最低限仕上げておくように。では、今日は解散とする」
「うん、じゃあ皆おやすみ!モーディス、明日からは君も実戦的な訓練を多めにした方がいいんじゃない?」
「ふん、いいだろう。体術は貴様より俺の方が教えられるだろうからな」
「
「気軽に言わないでください。素材だけでどれほどのヴァリスが必要になると思っているのですか」
「まぁまぁ、ベル君の今後に期待しようぜ。じゃあ皆おやすみ〜!」
そうして首脳陣の話し合いも終わり…
数日後…
「こ、ここがダンジョン…!」
ベルは星、三月、丹恒と一緒に遂にダンジョンに足を踏み入れていた。
「ダンジョンデビューおめでと〜ベル!今日はウチらがしっかり見ててあげるから、訓練の成果を思いっきり見せてあげて!」
「先ずは俺達が戦うところを見せよう。モンスターの動きを観察するんだ」
「お、早速出て来たね」
星がそう言うとゴブリンが二匹前方に現れベル達を認識した瞬間、鳴き声をあげながら突撃してくる。
「よーしベル!見ててね、この銀河打者のバット捌きを!」
星はバットを両手で握り、ゴブリンに接近すると勢いよく右から左へと振り抜く。ゴブリンの頭部が砕ける音が響きながら、壁に吹き飛ばして叩きつけ、次の瞬間には灰となって小さな魔石が地面に落ちた…
「……星、それではモンスターの動きを観察出来ないぞ」
「あ…テヘッ☆」
「はぁ…」
「グギャァ!」
ため息を吐く丹恒にもう一匹のゴブリンが飛び掛かると、槍で軽くいなしながらベルに話しかける
「ベル、アナイクスの授業でも教えられたと思うが、見ての通りゴブリンは非常に非力で動きも単調だ。今のベルでも一撃で倒せるだろうし、攻撃を喰らっても大した傷は負わない」
言い終えると丹恒は素早く槍を突き出してゴブリンの槍を突き出し、胸を貫くとゴブリンは灰となり消滅した。落ちた魔石を丹恒は拾い、ベルに見せる
「そしてこれがモンスターの心臓である魔石だ。魔力の籠った石で、これを加工して様々な魔石製品にすることで日常生活の様々な場面で役立てている」
「といっても、これくらいの魔石じゃ少ししか使い道ないけどね〜」
「他にも更に下のモンスターは魔石以外に倒した後も身体の一部が灰とならずにドロップアイテムとして残る事もある。これらは基本的に装備品や魔道具、ポーションなどのアイテムに使われるな。この辺りの話もアナイクスから聞いていただろう」
「んで、沢山稼いだり貴重なドロップアイテムを潜る為には出来るだけ下に潜る必要があるんだよ。ウチらみたいな大派閥だとこんなちっぽけな魔石じゃ幾らあっても足りないんだから!」
「そういう事だ。ヘスティア・ファミリアは基本的に遠征で深層まで潜り、大量の魔石やドロップアイテムを換金して資金にしている…まぁ、これは他の探索系ファミリアと変わらないな」
「他と違いがあるとすれば、私達の場合稼ぎがダンジョン探索だけじゃない事だよね。温泉とか、アグライアの服屋とかもあるし」
「ウチって手広いからね〜。ま、色々話したし!ベル、次はアンタの番だよ!ほら!」
なのかが指差す先には、新しいゴブリンが三匹いた。
「い、いきなり三匹ですか!?」
「大丈夫大丈夫!これも冒険だって、ほら!」
「危なくなったらすぐ助けるからさ」
「…わ、分かりました!いきます!」
ベルは覚悟を決めて、ナイフを構えるとゴブリン達に突撃していった。
「初めてのダンジョンで三階層ーっ!?」
ダンジョンから戻ってきたベル達はギルドに換金しに行き、エイナに三階層まで行った事を伝えるとめちゃくちゃ驚かれた。
「いやいや!流石にそれは許してよエイナ!レベル4のウチら三人が付いてたんだよ?三階層くらい良いじゃん!」
「そうだよ。私達ならベルを守りながらリヴィラの街に行くのだって余裕だよ?」
「絶対にしないでくださいね!?」
「流石にそこまではしないが、俺も二人と同意見だ。事実、特に問題なく帰還しているし、ファイノン達との訓練のお陰でベルのステイタスや知識なども三階層くらいなら問題無く探索出来る程になっている」
「そうかもしれませんけど…!じゃああそこで真っ白になってるベル君はなんなんですか!?」
「えっと〜…それは〜…」
エイナが指差す先にはソファで真っ白になり座り込んでいるベルがおり、三月は目を逸らし、丹恒も目を瞑っていると星が平然と言い放つ
「それは今日だけで三階層のモンスターを50体以上は倒したからだよ」
「はぁ!?」
「ちょ、ちょっとアンタ!なんで言うの!?」
「仕方ないじゃん、なんやかんやベル倒しきったし。これも私やファイノン達の訓練のお陰だね」
「…チュールさん、これはだな」
「三人とも、正座」
「「「はい」」」
「で、三人ともお説教されちゃったのね」
「そうなんだよキュレネ〜!もうエイナったらホントに過保護なんだから〜…」
「そう言うな三月。専属アドバイザーとして彼女の言う事も間違ってはいない。実際、今日はベルに少し無理をさせ過ぎたかもしれない」
「そうかな?僕は初めてダンジョンに潜った時はもっと下に…」
「アンタは恩恵貰う前からオラリオの外でモンスターを狩まくってたんでしょ、ベルを一緒にしないで!」
帰ってきた後、ベル達は食堂で夕飯を摂りながら今日あった事をファイノンとキュレネに話していた。
「アナクサゴラス先生からステイタスについても色々教えてもらったんですけど、黄金裔の皆さんって、やっぱりステイタスも特別なんですか?」
「うーん…どうなんだろ」
「統計的に見れば、黄金裔は確かに珍しいスキルや魔法が発現することは多いが、必ず強くなれる訳ではない。結局は本人次第だな」
「ファイノンとかモーディスとか、セイレンスを参考にしちゃダメだからね!三人は恩恵を授かる前からダンジョン産じゃないとはいえ外のモンスターを平然と倒すような人なんだから!」
「す、凄いですね…!」
「あはは、僕はただ故郷の村を守る為に剣の腕を磨いただけなんだけどね…」
「ファイノンさんの故郷…」
ベルがそう呟くと、机のベルの目の前になる場所にドンッと豪華な肉料理が置かれる。
「わっ!も、モーディスさん!?」
「食え、明日も行くのだろう。食事は戦士にとって最も重要だ。強くなりたければ食らえ」
「は、はい!ありがとうございます!」
モーディスはふん…と鼻を鳴らしてその場を去り、皆でジーッとその背を見つめる。ベルはモーディスが置いて行った料理を口に運ぶと…
「むぐっ…!?こ、これ凄く美味しいです!」
「あーじゃあそれモーディスの手作りだね」
「えっ!?」
あまりの美味しさに感嘆の声を漏らしたベルに対して星がするっとそう言い、ベルは一瞬驚いて喉が詰まりそうになると、丹恒が水を差し出し「飲め」と言う。
「ふふっ、驚いたかしら?実はモーディスってファミリアで一番料理が得意なのよ♪」
「ゴク…ふぅ…そ、そうだったんですね…!なんだか意外です…!」
「実は僕も料理上手いんだよベル!」
「ファイノンさんもですか?」
「サラダしか作らないけどね」
「サラダだけ!?」
「ベル〜私にも一口ちょうだーい」
「え、あ、ちょ、星さん!?」
そんなこんなで皆と話しながら食事を楽しんでいると、ふとファイノンがベルに問いかける。
「ベル、どうかな。今日初めてダンジョンに潜った訳だけど、目標は達成出来そうかい?」
「!えっと……」
ベルは少し考えると、ファイノンを真っ直ぐ見据えて答える。
「まだ、強くなって、誰かを助けたり、強いモンスターを倒したりする自分は想像出来ませんし、英雄になるって目標が果てしなく遠いって事しか分からなくって……けど、目指しているものの形が少し分かった気がするんです!ファイノンさんやモーディスさん…今日ダンジョンについて来てくれた星さん達みたいに、僕もなれるようになれたらなって…」
「や、やだ〜何かちょっと恥ずかしいじゃん!」
「ごめんベル。ベルじゃ私みたいな美少女銀河打者にはなれないと思う」
「それはならなくていい」
「あはは…けど、うん…そっか。なら明日からも頑張ろう、ベル!きっとベルならいつか僕達に追いつけるよ!」
「ファイノンさん…!はい、僕、これからも頑張ります!」
そうしてベルは、訓練や授業、ダンジョン探索に日々精を出した。そんなある日……
「えっ、付き添いが出来ない…?」
ベルは自身のプライベートルトロで星達とメッセージでやり取りしていた。
『私、明日はゴミキング探しに行くからついて行けない…』
『ウチも明日は買い物に行こうって思ってて…』
『すまない、俺も少し庭の方でやる事があるんだ』
「えっと…『じゃあ、明日はダンジョンに行かない方がいいですかね…?』っと」
『けど明日って、ファイノンとモーディスはセイレンスと訓練って言ってたし、流石にあの三人にはベルは混ざれないでしょ…』
『アナイクスは?』
『昨日から研究室に篭っている。暫くは出てこないだろう』
「うーん…休みは昨日取ったばかりだしなぁ…」
『…じゃあもう一人で行ってもいいんじゃない?』
「えっ」
『ええっ、大丈夫なの?』
『…確かに、ステイタス的には5…いや、4階層までなら余程の事が無い限り大丈夫だとは思うが』
『ソロでダンジョンに潜る経験もそろそろ積ませようよ。という訳でベル、明日は無理の無い範囲で一人で頑張って』
「ええ…けど、最近は3階層くらいなら三人には本当について来てもらうだけだったしな…『分かりました!』よし、明日は一人でダンジョンに行こう…!」
そうして、記念すべきベルのダンジョンソロデビューは……
「ほぁあああああああああああああああああああ!?!!?」
「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
とてつもないアクシデントにより、大惨事となっていた…
「な、何で5階層にミノタウロスがぁ!?」
本来なら中層に居るはずのLv.2の牛頭人体モンスター…ミノタウロスが何故か上層に現れ、ベルは追いかけ回されていた…
「はっ、そういえば…!」
ベルはアナイクスの言葉を思い出す…
『いいですかベル。基本的にモンスターは産まれた階層から移動することはありませんが例外はあります。階層移動をするモンスターや、水棲のモンスター。レアなケースだと、強化種が下の階層に降ったり、何かから逃げたモンスターが上に上がるなどもあります。前者は放置すればやがて冒険者に大きな被害が出ますし、後者も本来出現する筈の無い階層で想定されてない脅威が現れるのはかなり危険な事態です。特に、中層のモンスターが上層に上がってしまう場合は…』
「それってこれですよねアナクサゴラス先生っー!!た、助けてぇぇぇぇぇ!?」
幸い大地獣に追いかけ回された訓練の成果が出たのか、ベルはミノタウロスに追いつかれずにいた。しかし…
「い、行き止まりっ…!?」
初めて来た5階層のルートを把握しておらず、行き止まりに当たってしまう。振り向くとミノタウロスは荒く息を吐きながらベルにゆっくりと近付き、追い詰める。
(お、終わった……)
壁に背中をつけ、ガタガタと震え、腰を抜かす。
(僕のステイタスじゃ、コイツに傷一つつけられない……)
ベルの頭に思い浮かぶのは、ヘスティア・ファミリアの面々…最初に出会った星、ファイノン、キュレネ…お世話になった三月、丹恒、モーディス、アナイクス…他にもヘスティアやケリュドラ達の顔が思い浮かぶ。
(う、浮かれてたんだ…ヘスティア・ファミリアに入って、皆さんに鍛えてもらって、いつか強くなって、追いついて、それで可愛い女の子とも出会えたらって……いや、可愛い女の子には沢山出会えたな…あ、荒笛さんに結局会えてない…)
そんな事を考えているとミノタウロスはもう目と鼻の先、大きな拳が振り上げられた瞬間…ベルの頭に走馬灯が駆け巡る…
訓練をつけてくれたファイノンとモーディス
色んなことを教えてくれたアナイクス
いつも気にかけてくれた星、三月、丹恒、キュレネ
ヘスティアやケリュドラ、アグライアなどのメンバー…
冒険者を志すきっかけとなった祖父…
それらの記憶が流れていき…全てを諦めそうになったから…最後に思い出したのか……
───
知らないけれど、知っているような、誰かの声だった。
「ッ!!」
瞬間、ベルは反射的にナイフを構え、ミノタウロスに向けた瞬間…
「え?」
「ヴォ?」
ミノタウロスの身体に赤い線が走り。
『グブゥ!?ヴゥモオオオオオオオオオオオオオ!?』
ミノタウロスの断末魔が響き、暴れながらも身体は次々と切り裂かれ、大量の血飛沫がベルに浴びせられると、ミノタウロスは消滅し、その先には……
「……大丈夫ですか?」
美しい金色の髪と瞳、青い装備と銀のライトアーマーに身を包む、華奢な美少女…彼女の事を、ベルは知っていた…ヘスティア・ファミリアと同じ、オラリオ三大派閥の一角…ロキ・ファミリアの第一級冒険者…【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだと。
「あの、大丈夫、ですか…?立てますか…?」
腰を抜かしたまま動かないベルにアイズが声をかけ続けると…
「だ…」
「だ?」
「だぁああああああああああああああああ!?」
大声で奇声を上げながらいきなり立ち上がり、アイズの横を全速力で通り過ぎようとした。アイズが少し驚き、横を通るベルを目で追うと、ミノタウロスの返り血が付いてない後頭部の白い髪を見て、少し目を見開いた瞬間、咄嗟に振り返りながら手を伸ばし、そして一瞬だけ、指先が白い髪を撫でた。
「っ…!」
「あああああああああああああ!!」
ベルはそんな事にも気付かず、その場を走り去ってしまう。アイズはベルが走り去った方を眺めていると、近くにいた仲間である狼人は腹を抱えて笑いを堪えているのを頬を赤ながら睨みつけると、白い髪に触れた右手に目を向ける。
「……何であんなことしたんだろう」
「エイナさぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「ん?この声はベルく…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
ベルは、血まみれのままダンジョンを出て街を横切り、ギルドへと訪れ、ニッコニコの笑顔でエイナにそう叫んだ。
「ベル君、君ねぇ!返り血浴びたならシャワーくらい浴びて来なさいよ!君がまだ周りにヘスティア・ファミリアって認識をあまり持たれてないから良かったけど、下手したらファミリアにも迷惑かけるからねコレ!?」
ギルドの応接間にて、ベルはシャワーを浴びた後エイナに説教されていた。
「はい、すみませんでした…」
「ホントに気をつけてよ?ヘスティア・ファミリアは探索系ファミリアの中じゃ一、二を争うくらいに評判良いんだから…」
「肝に銘じます…」
「はぁ…で、アイズ・ヴァレンシュタイン氏の情報だっけ?どうしてまた?」
「じ、実は……
この後、一人で5階層潜ってミノタウロスに遭遇して死にかけた事を話し、また説教された……
「星さん達とはもう一度よく話す必要がありそうね…!」
「あ、あの〜…それで、ヴァレンシュタインさんの事…」
「う〜ん……ギルドとしては冒険者の情報を漏らすのは御法度だし…教えられるのは公然となってる事くらいだよ?ただでさえ君は大派閥の人間だし…」
「好きなものとか趣味は…」
「知らないし知ってたとしても教えません!てか何、ベルくん、もしかしてヴァレンシュタイン氏の事好きになっちゃったの?」
「いや、その……はい……」
「そっかぁ………いや何で…?ヘスティア・ファミリアにも綺麗な人沢山いるじゃん…」
「エイナさん?」
「こほん…あのねベルくん。まだ半月しか経ってないとはいえ、君はただでさえ火追いの旅を先導するヘスティア・ファミリアの一員なんだよ?そんな君がロキ・ファミリアの幹部を務めるヴァレンシュタイン氏お近付きになるのは難し……」
エイナはそこまで言うといきなり発言を止め、少し俯きながら口に手を当て、何かをぶつぶつと言って考え始めた。
「いや待てよ…そういえばロキ・ファミリアの団長とヘスティア・ファミリアの団長って……あ、あり得なくは無いのかな…?い、いやけどアレも噂程度で…」
(え、エイナさん、どうしたんだろう…?)
するとエイナは突然机をバンッ!と叩き、身を乗り出しながら「とにかく!」とベルに詰め寄る。
「こんな無茶はもうしちゃダメだからね!あと、ヘスティア・ファミリアの一員って自覚をしっかり持つように!」
「は、はい!」
その後、今日回収した魔石やドロップアイテムを換金し、ベルはエイナと共にギルドの入り口に向かう。
「…ベル君」
「あ、はい、何ですか?」
帰り際にエイナはベルに声を掛ける。
「あのね、女性はやっぱり強くて頼り甲斐のある男の人に魅力を感じるから…えっと…めげずに頑張れば、その、ね…?」
「え、エイナさん…!」
「あ、それと…」
エイナは更に近付いて耳打ちしてくる
「ヴァレンシュタイン氏に関する事は、私よりもヘスティア・ファミリアの人に聞いた方がいいと思うな。ヘスティア・ファミリアとロキ・ファミリアの付き合いはかなり長いから…あと、ヴァレンシュタイン氏に助けられた事はちゃんと報告する事」
「しないと、何かあるんですか…?」
「ファミリア間での貸し借り…特に大きな派閥ではこういうのは凄く大事なんだ。ほったらかしにしてたら後からちょっと問題になったりもするし、一応ね」
「…分かりました!エイナさん!」
「うん?」
「大好き!ありがとぉぉぉ!!」
「ええっ!?」
ベルはそう言い捨てて走り去り、その背をエイナは顔を赤くしながら見送ったのだった…
「5階層でミノタウロスに襲われた上、ロキ・ファミリアの【剣姫】に助けられた、だと?」
「は、はい…すみません、カイザー…」
ベルはホームに帰り、ヘスティアにステイタス更新してもらいながら事情を説明し、ヘスティアと一緒にケリュドラに報告していた。側にはいつも通りアグライア、セイレンス、トリビーがいる。
「…謝る必要は無い。寧ろ、ミノタウロスに襲われながらもよく生還した、白兎卿よ」
「5階層にミノタウロス…いくらなんでも上に上がり過ぎじゃないか?」
「少し調べてみる必要があるかもしれませんね。ですが今はそれより…」
「えっと…ロキ・ファミリアにちゃんとお礼をちに行かないとダメだよね?」
アグライア達は視線をケリュドラに向ける。ケリュドラはチェスの駒を軽く机に何度も叩きながら何かを考えていた。
「あ、あの、神様…やっぱりカイザー、怒ってるんじゃ…?」
「怒ってないよ。ケリュドラ君はその…ロキ・ファミリアの団長とちょっと色々あってね…」
「?」
「…分かった、後日、日を改めてロキ・ファミリアには礼をしに行く。向こうも遠征帰りでドタバタしているだろう。取り敢えず、ヘスティア、剣旗卿、金織卿、運命卿、白兎卿、三日後は空けておけ」
「分かったよ」
「分かった」
「分かりました」
「うん!」
「わ、分かりました!」
「よし、話はこれで終わりだ。白兎卿、災難だったな。今日はゆっくり休むといい」
「は、はい!ありがとうございました!」
ベルが部屋から出ていくと、ケリュドラはため息を吐く。
「あの【勇者】に会いに行かねばならんとはな…」
「カイザー、大丈夫か?」
「問題無い、ただ、臣下を助けてもらった礼をするだけだ」
「あの〜ちょっといいかな?」
ヘスティアが気まずそうに手を上げながら口を開く
「何だヘスティア。他に話すことでもあったか?」
「…ベル君なんだけど…今日のステイタス更新で…スキルが出た」
「えっ!?もう!?」
「おお」
「それにしてはベルの様子は普段と変わりないようですが……」
「…えっと…ベル君には、何も言ってないんだ」
「…見せろ」
ケリュドラがそう言い、ヘスティアは用紙を机の上に置き、皆でそれを覗き込む。ヘスティアがベルに誤魔化す為に消しかけた文字を指でなぞると、光で文字がハッキリ見えるようになる。そこに書いてあったのは…
【
・早熟する
・
・
「は?」
「どうするコレ…?」
「……つまり、なんだ、白兎卿はまさか…」
「…ヴァレン何某に惚れちゃったみたいで……」
ケリュドラ、アグライア、セイレンスは絶句し、トリビーもあちゃーと頭を抱えている。
「…今すぐ烈日卿、叡智卿、ラキアの王を呼べ。色々と話すことが出来た…!」
こうして、ベルに初めて発現したスキル【
ここでちょっと情報開示〜
ヘスティア・ファミリアの主要メンバーのレベル
ケリュドラ Lv.5
セイレンス Lv.7
アグライア Lv.6
トリスビアス Lv.5
ファイノン Lv.6
モーディス Lv.6
アナイクス Lv.4
キャストリス Lv.4
ヒアンシー Lv.3
サフェル Lv.5
星ちゃん Lv.4
丹恒 Lv.4
三日なのか Lv.4
キュレネ Lv.4
こんな感じっすね。あれ、めっちゃ強くね…?感想と高評価お待ちしてるのだ…!