とんでもスキルで異世界放浪メシ【イレギュラーな少年を添えて】 作:一般通過炎竜
「着いたぞ」
「早すぎない!?」
「飛ばしたから全然時間かかんなかったね」
カレーリナを出発した翌日、ムコーダ一行は紡績の街クレールに辿り着いていた。道中魔物と出くわすこともなく、とても平和な旅路だった。
「見てこれムコーダさん、凄く触り心地がいいよこの布」
カエデは近くの露店にある裁縫用の布を持ち上げる。手触りがサラサラで、なおかつ肌に吸い付く様な質感はその布が上質なものであることを物語っていた。
「お嬢さん、その布もいいけどコッチのスカーフなんてどうだい?その布を使ったウチ特製だよ!」
「いいね、買うよ」
カエデは購入した赤のスカーフを早速首に巻き、身なりを整えてから他の店に立ち寄った。あっちへふらふら、こっちへふらふら。忙しない動きにフェルが大きくため息を付いた。
「何をモタモタしている、さっさと依頼をこなしてダンジョンに行くぞ」
「まぁまぁ、カエデくん楽しそうだし」
『スイはよくわかんないやぁ』
と言いつつ、ムコーダも私生活に使えそうなタオルなどを購入していた。次にカエデが入ったのは絨毯を売っている店だった。
「お〜、ふかふかサラサラだ」
「お嬢さんお目が高いねぇ、それは先月入ったばっかの新作でね。手触りはもちろんのことデザインも然る事乍ら実用性ばっちり!湿気を逃がしてくれる優れものだよ」
「寝る時に敷こうかな……よし、これください」
「毎度アリ!」
しばらくショッピングを楽しんでいると、フェルの機嫌がどんどん悪化していく。
「おい……買い物如きにいつまで時間をかけているつもりだ」
「わかってないなぁフェルは。良いものを探し、予算と向き合いながら後悔の無いように買い物をする。これはもはや戦闘と言っても過言じゃないんだよ?」
「やかましすぎる」
カエデはアイテムボックスに次々と購入していった物を入れていく。
「でもまぁ、いい加減に冒険者ギルドへ向かうとしますか」
「初めからそうしろ」
「せっかちだぞ、フェル」
一行は商店の通りを抜けて冒険者ギルドへ。受付へ向かうと、そこには犬獣人の女性が忙しなく書類などを整理していた。
「すみませーん」
「は、はい!ようこそクレールの冒険者ギルドへ!本日はどんな御用ですか?」
カエデは冒険者カードと紹介状を取り出し、受付の女性へ渡す。
「これ、カレーリナのギルドマスターからの招待状。ここのギルドマスターに用事があるんだ」
「は、はいっ!ちょっとお待ちください!」
受付の女性はドタバタと奥の部屋へ入っていった。カエデは受付のテーブルに頬杖を付き、走り去った女性を見る。主に耳と尻尾を。
「獣人、カレーリナじゃ見なかったけどコッチにはいるんだね」
「だなぁ、噂通りこの国は亜人や獣人に優しいんだね」
「頼んだら触らせてくれるかな…」
「失礼だからやめておきなさい」
カエデが唇を尖らせて不貞腐れていると、ドスドスと重い足音と共に小柄な男性が歩いてきた。小柄と言っても、たくわえているヒゲや鍛え抜かれた筋肉が特徴の『ドワーフ』だ。
「来たか!待っていたぞい、儂がこのギルドのギルドマスターのロドルフォっちゅうもんじゃ。よろしくな!」
「すげー、本物のドワーフだ。ヒゲ触ってみていい?」
「こらカエデくん!」
「ハハハ!ドワーフを見るのは初めてか?儂のヒゲは良く手入れしておるから他の連中よりサラサラじゃぞ!」
ほんとだー。と言いながらヒゲを触るカエデをムコーダは羨ましそうに見ていた。その後、ヒゲを堪能したカエデと一行はロドルフォに案内され奥の部屋へ。
「さて早速依頼の話じゃが、お主らにはイシュタムの森の調査を依頼したいんじゃ」
「調査?討伐とかじゃなくて?」
「うむ。『ヴェノムタランチュラ』という蟲の魔物は知っておるか?」
タランチュラ。そのワードを聞いたカエデがほんの少しだけ顔を歪ませたのを、気付く者は誰もいなかった。
「いや、知らないけど」
「街の北にあるイシュタムの森に生息しておる大型の蜘蛛の魔物でな、この魔物から採れる糸で織った布は最高級品と言われる程じゃ。おお、ちょうどお主が付けておるスカーフもそうじゃな」
そう言われた瞬間、カエデは目にも止まらぬスピードでスカーフをアイテムボックスに仕舞った。
「しかし最近、その森の様子がおかしくての。そのせいで森にも入れず糸を採れない状況になっておる」
「……様子がおかしいって、具体的には?」
「イシュタムの森には毒を持つ蟲の魔物が多い、だがそれだけなら儂らで事足りるのだが…」
「最近、なにやら恐ろしい魔物が森に出はじめたそうでの」
そう聞いた途端、ムコーダは怯えて思わずスイを抱きしめる。
「その魔物を恐れ森中の魔物が殺気立って凶暴化し、その魔物に襲われたと被害も出ておる。並の冒険者では森にも入れんから、このままでは糸不足で商会との取引もままならん。商会からも納品はまだかと急かされてのぉ…」
「あー、分かりますそういうの…」
元社会人のムコーダは死んだ目で返事をする。
「討伐にせよ調査にせよ、腕の立つ冒険者に任せたい。そこでお主達に調査してきてほしいというわけじゃ、頼んだぞ!」
ちなみにヴェノムタランチュラは塩ゆでにすると美味い。そう聞かされたカエデはムコーダの服の裾を持って立ち上がる。
「よし、じゃあ行こっかみんな」
「あれ?今回は俺も行く感じ?」
「うん。スイもフェルもね」
「でも俺別に役に立たないんじゃ」
「行くよ」
「わわっ、引っ張んないで!?」
カエデはムコーダを引っ張って部屋を出ていく。その微笑みが張り付いたものだと知るのは、もう少し後のことだった
一行は無事イシュタムの森に辿り着いた。森は生い茂る木々や植物達に空を塞がれ昼前だと言うのに薄暗い。魔物や怪鳥の鳴き声もどこからが聞こえてきて、雰囲気はバッチリだ。
ムコーダは歩き、スイはムコーダの鞄に入り、フェルも歩いている。しかし、珍しくカエデは杖ではなくフェルの背中にいた。しかも姿勢を低くしておりフェルの毛でほとんど見えない。
「おい、貴様が受けた依頼だろう。我に乗ったままでどうする」
「あとで肉奢るから乗せて」
「よかろう」
ムコーダは明らかにいつもと様子が違うカエデを心配し、声をかける。
「カエデくん、大丈夫?体調悪いなら今日じゃなくても…」
「別に体調は平気」
「そ、そう?ならいいんだけど…。そういえば、ロドルフォさんは毒を持った蟲の魔物が多いって言ってたけど、大丈夫かなぁ…」
「蟲か……我は蟲が嫌いだ」
「えっ!?」
「お前が!?」
「ヴェノムタランチュラもだ。あの殻がどうにも食い辛くてな…」
「問題そこなの?」
そこでムコーダは感じていた違和感に確信を抱きつつあった。ムコーダが驚くのはいつもの事だが、カエデも珍しく素直に驚き、しかもそれをネタにフェルをからかいもしなかった。
そこで、ムコーダが辿り着いた結論は…。
「カエデくん、もしかして蟲がにが、うっぷ!?」
ムコーダは言いかけた言葉を中断せざるを得なかった。何故ならムコーダの顔面にベタベタした蜘蛛の巣がへばりついていたからだ。
「巣に触れたか…来るぞ」
「なにが!?」
フェルがそう言った瞬間、近くの茂みから猪程の大きさはある蜘蛛が出てきた。件のヴェノムタランチュラである。
それを見た瞬間、絶叫が森中に響き渡る。
「ひゃあぁぁぁ!!??」
フェルは素早く雷魔法でヴェノムタランチュラを仕留る。
「ふん、他愛も無い」
「お、おぉ…流石だな」
「これがヴェノムタランチュラだ。我の姿を見ても尚襲ってくるとは相当興奮しておるな」
「で、でけぇ〜〜……」
『おっきぃむしさんだねぇ』
ムコーダが魔物の死骸を枝でツンツン突ついていると、気になって仕方が無かった話題を口にする。
「……ところでさ、今の悲鳴ってもしかして……」
「……うむ」
見ると、カエデが顔を赤くしてガクガクと震えながらフェルの背中にしがみついていた。フェルは呆れながら、ムコーダは呆然とした顔でカエデを見る。スイはいつも通りだ。
「な、なにさっ!ああそうだよ、ボクは蟲が苦手だよ悪い!!?」
「何も言っておらんわ」
「大体あんな大きい蟲なんて誰だって苦手でしょ!?ムコーダさんだってそうでしょ!?」
「いや、俺はどっちかと言うとカッコ良さが勝つかな…」
「バカじゃねーの!?」
「おい、そんな大きい声を出すとまた…」
フェルの忠告虚しく、茂みから続々と追加のヴェノムタランチュラがやって来る。ついでにムカデ種、ヤスデ種と行った多足類の魔物まで現れた。
「バカじゃないのバカじゃないのバッカじゃないの!?」
半狂乱に陥ったカエデは手当たり次第に魔物達に炎魔法を浴びせ続ける。風魔法までプラスされた大魔法で勢い余りすぎて森林火災が始まったがお構い無しだ。
「ちょ、カエデくんストップストップ!?森が焼け野原になっちゃう!?」
「ええい、情けない奴め!」
「ぎゃんっ!?」
フェルは気絶に特化させた雷魔法をカエデに浴びせ、カエデは速やかに意識を手放した。穏やかな寝顔である。
「スイ!お主の水魔法で消火するのだ!」
『わかった〜!』
幸い、スイの水魔法で多少焼け野原になった程度で済んだ。しかしヴェノムタランチュラ達は丸焦げになっておりとてもでは無いが使い物になりそうにない。
「こりゃひどい……」
「こやつも目覚めんし、もうお主が調査を続けよ。我は疲れた」
「嘘つけ伝説の魔獣っ!」
◻︎
「うぅ……いい匂い…?」
気絶から目を覚ましたカエデは、焚き火の光に瞼を細めながら起き上がる。
「あ、起きた?」
「ムコーダさん、ここは…」
「まだイシュタムの森だよ。調査を続けてたら暗くなっちゃったからご飯食べてから帰ろうって話になってね」
「そっか…ボク蟲見て混乱しちゃって…。ごめん、ムコーダさん」
「別にいいって」
そこで、カエデの腹からぐ〜っ。と音がした。
「はは、ご飯食べる?」
「た、食べる…」
寝起きにはちょっと重いかもだけど。そう言われ手渡されたお盆にはギョーザと白米、そして味噌汁が乗っていた。
「美味しそう…。いただきます」
ギョーザを一口。噛んだ瞬間に中の良く味付けされたタネから口いっぱいに肉汁が溢れる。皮もパリパリで食欲を更に刺激するようだ。
「美味しい…!」
カエデがそう言うと、カエデの肩に軽い重みが伸し掛る。スイでも乗った?そう思ったカエデは自分の肩を見てみると…。
「キュイッ?」
「…………なに、キミ?」
そこにはとても小さい、しかし造形は立派なドラゴンが乗っかっていた。
「あ、『ドラちゃん』。さっき自分の分食べただろ?それはカエデくんの!」
「キュイッ!キュキュイッ!」
なにやら抗議しているようだが、カエデにはなにを言っているか分からない。
「もしかして、従魔契約?」
「うん、色々あってさ」
カエデは箸を置いて、ドラちゃんというドラゴンとムコーダに繋がっている魔力の線を自分に繋げる。こうすると念話を聞くことができるのはスイで実証済みだ。
「えーっと、ドラちゃんなんか喋ってみて?」
『お前が蟲見て気絶したっていう情けないヤツか?』
「は?」
『うわっ!?おっかねー魔力!』
ドラちゃんは素早くムコーダの後ろに隠れる。
「気絶させてきたのはフェルだし」
「似たようなものだろうが」
「うるせーし」
カエデはぶつくさ文句を言いながらもギョーザを完食。お茶を飲んで一息ついたところでムコーダに事情を聞くことに。
「で、なんでドラゴンを従魔に?」
「それがさぁ…」
ムコーダが言うには、そもそもイシュタムの森が荒れていたのはドラちゃんという名のピクシードラゴンが自由気ままに暴れていたからであり、それに森の魔物達が外敵排除に躍起になっていたのが原因だと言う。
「え、じゃあ氷漬けにする?討伐対象じゃん」
『すんなよこえーな!?』
調査が難航したので帰ろうとしたが、腹が減ったのでメシに。そこへやってきたピクシードラゴンにムコーダがギョーザを分け、その美味しさに釣られてムコーダと従魔契約を結んだという。
「メシに釣られた魔物がまた一匹増えたわけね…」
「そういうこと」
気になったカエデはドラちゃんに鑑定を使う。
【種族】ピクシードラゴン
【名前】ドラちゃん
【年齢】116
【レベル】126
【体力】895
【魔力】2879
【攻撃力】2652
【防御力】865
【俊敏性】3269
【スキル】
・火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・氷魔法・雷魔法・回復魔法・砲撃
「ふーん、体力と防御力以外はボクより下か」
「え、カエデくん今そんなに強くなってるの?」
「あぁ、そういえば最近見せてなかったね」
カエデは自分のステータスを表示し、ムコーダ達に見せる。
【種族】人間
【名前】カエデ
【年齢】16
【レベル】208
【体力】358
【魔力】──
【攻撃力】3964
【防御力】250
【俊敏性】1680
【スキル】
・無限魔力・火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・氷魔法・雷魔法・回復魔法・属性複合魔法・飛行魔法・身体強化魔法・風の女神ニンリルの大いなる加護・土の女神キシャールの加護(小)・火の女神アグニの加護(小)・水の女神ルサールカの加護
「な、なんだかとんでもないことになってる…」
「そりゃ、あんだけドラゴン倒したりフェルと鍛えてるからねー。防御力に関してはそろそろ結界使えるようになりそうだし、俊敏性も飛行魔法と身体強化使えば補えるからね」
『おにいちゃんすご〜い』
「でしょ?更に今は使ってないけど常時身体強化使ってるから更に強いんだよ?」
フフーンと得意気になるカエデの頭に、ドラちゃんがとまる。
『オメー意外と強いんだな!見直したぜ!』
「意外とってなにさ。そういうキミも砲撃ってスキルが気になるね、どんなの?」
『ソイツはなー…』
ワイワイと魔法について談議する二人を見て、ムコーダは安心してため息をつく。先程まで気絶していたとは思えない上に、新メンバーとも上手くやっていけそうなカエデを見たからだ。
「さて、問題は今回の騒ぎをどう報告したものか、だけど…」
それを考えるのはあとでいいか、と。ムコーダはスイと一緒に洗い物を済ますのであった。