日本と世界は大騒ぎ。
とはいえ、バグロムは関わってしまったとはいえ部外者。
やんごとなきお方と無難な会談を終えたファラーシャ姫は、迎えにいったボクと共に日本政府預かりとなって、皇居近くのホテルへ案内された。
帝国の方じゃなくて、ニューな野球星人とか言われちゃうの方のホテル。
帝国ホテルは直接被害はなくても、騒動の現場から近すぎて避けられたんだろうなぁ。
ファラーシャを強引に連れて帰っても良かったんだけど、親書を届けに来たと表明してしまったからには身を預けるしかない。
「……ふむ。まあいいな」
ファラーシャはホテルの寝具を確認して、まあまあと合格点を出した。
実はこの手の寝具はエルハザード側……いや、バグロム製品が勝っている。
一般的な兵ですら、さまざまな建材を作り出せるバグロムだ。後方にいる生産専門のバグロムの生体材料合成能力は、地球の化学工場など比にならない。
最初は陣内が自分のマントを作らせるため、生産系バグロムに無理を言って凝りに凝っただけだった。
そのうち服や寝具も凝り始めたことから、素材の品質だけなら地球の素材をはるかに越えている。
たぶん、地球側は試行回数とフィードバックを元にした人体工学からくるマットレスくらいしか、アドバンテージはないんじゃないかな?
ファラーシャは寝室から戻り、客室のソファに腰かけて控えていたボクに尋ねる。
「イフリーア。父上はどうされた?」
「はい。こちらの軍が展開する前に撤退いたしました」
「ふむ。……すこし残念だが、軍団も父上もこちらに身柄を預けるわけにはいかないからな」
「ボクたちだけで充分ですからね」
現在、ボクたちは丁重にもてなされてるけど、これは最大限の警戒も含まれた身柄の預かりでもある。
未だネットでは、ファラーシャを侵略側の姫だとか、テロの作戦の一環だと言い張っている人はいる。
きっと政府や官僚たちもそのように思っていたり、前提として動いてる人はいるだろう。これは心構えとして間違いじゃない。
だからこそボクたちを丁重に扱わないといけないし、同時に自由な行動をさせるわけにはいかない。
仮に侵略の兵たちと無関係だとしても、それはそれで問題だ。
異世界から来たというだけでも問題なのに、東京のど真ん中に出入口があるわけだもん。
日本の歴史の中で、初めて地続きの他国の存在ってだけで、友好的だろうと最大級の警戒をするに決まってる。
ボクとファラーシャが現状確認をしていると……
「あのー……」
部屋の隅っこにいた葵ナオトくんが手をあげていた。
ボクとファラーシャとタマの視線が向けられ、ナオトはちょっと萎縮した様子だ。ニャーラは丸まってソファの上で寝ているので、視線は向けていない。
「なんで僕もここにいるんですか?」
それでもこの場面でちゃんと発言できるなんて好感持てるなぁ。
でもその疑問への答えを持ち合わせていないので、ボクも首をかしげる。
「うーん。なんでだろうね?」
「そ、そんな無責任な」
ナオトくんがもっともなことを言うけど、ボクからの答えは変わらない。
「いやだって。キミがここにいるのは、ボクも疑問だし」
「私も彼は帰してあげてと、しっかり言ったぞ」
「ギガギガ」
ボクはわからないと答え、ファラーシャはちゃんと配慮したと言い、タマもそうだったと擁護した。
「こんな状況だから、塾とか模試とかしょうがないと思うんですが、さすがに家族には連絡を取りたいんです!」
「政府の人がしてくれてると思うんだけど。あれ、キミ、スマホ持ってるよね?」
「はい。でも連絡取ろうとしてなんども呼び出してたら、バッテリーが……」
「回線が不調だと、バッテリーの減りが激しいもんねぇ。すみませーん。都築さーん」
ボクは充電器を借りるため、続き部屋に待機している外務官僚を呼んだ。
続きの間から女性外務官僚の都築さんが姿を現す。
「はい、なんでしょうか?」
「スマホの充電器、貸してもらえますか?」
「かしこまりました。すぐに購入してまいります」
「あ、待ってください。そこにあるのでいいですよ!」
ナオトくんは続きの部屋にあった充電器に気が付いたようだ。
それを指差すけど、ボクは都築さんの顔を見てにこやかに伝える。
「ああ、ナオトくんはそういうけど。それじゃなくてもっと軽いやつない? 新品……そう、保証書付きがいいかな」
「わかりました。下で購入してまいります」
「悪いね」
都築さんは無表情で買い物へ出かけて行った。
「わざわざ新品を買わなくても……」
「わざわざ新品を用意してくれるくらいなんだよ」
ボクは説明すべきか悩んだ。
日本政府は「仕掛けがない」ことを証明するためにも、新品の電子機器を手渡す必要がある。
その気遣いに気が付いている示すため、ボクは「保証書付きがいい」とも伝えておいた。
こういう話を高校生の彼にしていいものか……。
「ああ、賓客のファラーシャが使うかもしれないから、そのほうがいいんですね」
「うん、そうそう。やっぱ新品だよねぇ」
ちがう解釈をして納得してくれたようなので、ボクは改めて訂正はしなかった。
良かった良かった……と微笑むボクを、ナオトがじっと見てくる。
「……ん? なに? ボクの顔、可愛い?」
「そ、そうじゃなくて! イフリーアさん。異世界の人なんですよね」
……あ、気が付いたか。
スマートフォンと回線混雑、バッテリーの減りの速さ。するっと充電器を借りる行動。
合わせて考えれば、気が付くよねぇ。
「あー。うん。今のやりとりで気が付いたんだね、ふ~ん……え、えらいえらい」
ボクは充電器を手渡しながら、ナオトの肩に手を回そう……としたら、ファラーシャからスゴイ視線が飛んできたんで背中を叩くだけにした。
な、生身の身体だったらチビってたかもしれない……。
「は、話してよろしいですか? ファラーシャ様」
「……許可する」
普段より4℃くらい下がった音質で許可された。
「ナオトくん。ボクは確かに異世界から来たけど、同時に元はこちらの世界の人間でもあるんだ。ずいぶん前に異世界へ行って、帰ってきたばかりになるね」
「あー、やっぱり?」
「理解早いね、キミ」
「ファラーシャのお父さんもそんな感じらしいですからね。イフリーアさんもそうかなと」
「うんうん。確かに確かにカニ」
そういうお話が世間にあふれてるってことに起因しているんだろう。
安心したようで、ナオトは近くの椅子に腰を下ろした。
どうせならファラーシャの近くへ座って欲しいんだけど、部屋が広すぎるしくつろぐ場所も多いから近くに行ってくれない。
「なんかいろんなことがあって、すごい疲れてたけど……なんか楽になったな」
ボクが純粋な異世界人ではないと知り、少しは気が許せると思ったかな?
……ナオトは前髪をいじる。
楽になったといいながらも、まだちょっと緊張しているのだろう。
ボクはスススッ、とファラーシャの近くに移動する。
「殿下。彼はああいわれているようですが、まだ緊張されているようです」
「そうか」
ファラーシャは短くうなずき立ち上がる。
そしてナオトの前まで堂々と歩いていく。姫様然とした歩みだと、それはそれで威圧感を与えると思うんだけど……。多少のテレを公的な顔で隠してるのかもしれない。
「ナオトよ。まだ礼を言ってなかったな」
「れ、礼?」
「私を空飛ぶ賊徒からかばってくれたこと……いや、それよりも親書を奉読したあとだ。とても心強かったぞ、ナオト!」
「あ、あれかぁ……」
不本意そうでナオトは気まずそうにしている。
遠くから見てたけど、伊丹ってやつに背中を押されたからだけど逃げ出したりあれこれ言い訳しなかったのも事実だ。
ファラーシャも分かっているんだろうけど、それも踏まえて……言ってるよね?
「あの時は、その流れで。そ、それにしてもよく会ってくれたよね……」
照れくさいのだろう。ナオトは話題を変えようとしてきたけど……ああ、そのことか。
「……イフリーア」
「え? あ、うん。たぶんこれは覚悟を見せたんだよ」
ファラーシャからなんか、ボクにキラーパスがきた。
これ、ファラーシャも緊張して、会話が上手くできないのかもしれない。
……ふざけないで真面目に答えよう。
「覚悟……ですか?」
ナオトくんはびっくりした様子だ。意外な回答だったんだろう。
「そう。覚悟。銀座で殺されてる人がいる。銀座で戦っている警官がいる。そんな時、政治的な接触をしてきた相手が、いかなるものかを見定めるため
大使を名乗る他国の姫。
そこらの外国人の嘘ならば、乗せられて騙された王室と格を落とすことになるだろう。
もし侵略者の作戦で、斬首作戦だったならば命が危ない。そのまま本丸も取られるだろう。
そんなことはない、と視点の違うボクたちは言えるけど、日本側の視点かつあの混乱状態で決断を下すのは、勇気以上に周囲へ決断を受け入れさせる能力が必要だったはずだ。
それらを含め、覚悟を持ってファラーシャと会ってくれた陛下には頭が下がる。
「覚悟か……」
「上に立つものは、そういう覚悟が必要になるときがくるのか……。すごいな! 日本国の指導者は」
「あー……指導者ではないんだけどね」
いまいちピンと来ていない様子のナオトくんと違い、ファラーシャは理解してくれた……けど一部受け取り方が違うようだ。
会う前に、権威あるけど権力がないことも伝えておいたんだけどなあ~。
ボクと陣内からの教育で、立憲君主制と議会制について知ってるはずだけどさすがに日本の微妙な立ち位置からくる絶妙な政治体制をファラーシャはまだ飲み込んでいないみたい。
教える方のボクと陣内も解釈が違ってて、たまーにケンカになるからねこの話題。
「父上のような戦い方以外にも、上に立つ者の戦い方があるのだな」
「そうそう。まあ、戦い方の幅広さはファラーシャの御父上の方が、左右ワイドかつ上下オーバーだけどね」
「父上も素晴らしいな! ナオトもそう思うだろ?」
「う、うん。すごい人なんですね」
あ、ナオトくん話しを合わせてきた。
ボクはやや皮肉入れ、それをナオトくんはわかってたみたいだけど、ファラーシャの気持ちを優先させたみたいだ。
なんだ、この女の子相手だと選択肢を正解させまくる主人公みたいな恐ろしい子っ!
──なんて雑談をしているうちに、充電器が届いた。
「遅くなりました」
「無理言ってごめんね。あ、都築さん。ナオトくんがここにいるのは?」
表向きの理由でもいいから、ナオトくんが納得してくれる説明をついでで悪いが尋ねる。
「葵ナオトさんの安全の確保のためです」
短く簡潔に答えられた。
ナオトくんの顔色をうかがうが、納得していないようである。
「あのー、せめて家族に連絡を取りたいのですが……」
「すでに無事は政府から警察を通じてお知らせしております」
都築さん、有無を言わせない。
なんだかんだ官僚なんだぁ。
高校生相手にややキツイ当り方をしてる……ように見えるけど、これでも細心の注意を払っているんだろう。
「そ、それはそれで何事かーってなるんじゃないかな。充電してスマホで説明しないと……」
いそいそと充電器のパッケージを開けながら、ケーブルをセットするナオトくん。
その背を見て、思わずボクはからかいたくなる。
「大丈夫だよ。ボクたちの関係聞いたらもっと驚くから」
「そんなぁ~。どう説明したらいいんだ~」
充電器を取り落とし、ちょっと泣きそうになるナオトくん。
かわいいね。
「ふむ。ナオトのご両親か。私も挨拶せねばならないな!」
拳を握って決意を表明するみたいに、堂々と言い放つファラーシャ。
きっと本心からなんで、ボクみたいにナオトくんをからかって困らせるつもりはなかったんだろうけど……。
ナオトくん、震え気味でもう涙目だよ。
思わずもっとからかいたくなる。
「ナオトくん、かわいいね! ──ッ! あ、ちがうんです、ファラーシャさま──。タマにやっておしまいサインやめ」
続き間にいるから都築さん。オリキャラだけど面倒なんでテキトー。