やはり俺の結婚生活は間違っている   作:ヒューイK

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新しい一年の最初の章は、やっぱりこの人たちと。
雪が残る境内で、笑いながら、ちょっぴり胸の奥が温かくなる。
そんな“いつもの奉仕部”を、初詣の光の中に閉じ込めました。
今年も、優しい時間をあなたに。



第12話 やはり初詣は小町で成り立つ

 

境内の石畳には、うっすらと雪が残っていた。

吐く息が白く、どこか懐かしい冷たさが頬を刺す。

木々の枝には霜がきらめき、鈴の音と人々のざわめきが新年の空気を満たしていた。

 

「うわぁ〜、やっぱり混んでるね〜!」

結衣が両手をこすりながら声を弾ませる。

マフラーの隙間から覗く頬はすでに赤い。

 

「毎年のことだ。学習しろ、由比ヶ浜」

八幡はポケットに手を突っ込み、寒さを紛らわせながらぼそりと返した。

隣の雪乃が小さく笑う。

「あなたも学習しないわね。文句を言いながらも、結局ちゃんと来るのだから」

 

「奉仕部の伝統行事ですから〜」と結衣が胸を張ると、八幡はため息をついた。

「……伝統って便利な言葉だな」

 

そんなやりとりの最中、境内の入口でひときわ明るい声が響いた。

 

「結衣さん、やっはろ〜! 雪乃さん、お兄ちゃんもやっはろ〜! 瑠美ちゃんたちもやっはろ〜!」

 

満面の笑みで手を振るのは、小町だった。

白いコートの襟を立てて、元気いっぱいに駆けてくる姿に周囲の参拝客が思わず目を向ける。

 

「やっはろ〜!」

結衣が勢いよく返す。

 

「や……明けましておめでとう、小町さん」

雪乃はわずかに頬を染め、少し照れたように言葉を選んだ。

 

八幡は眉をひそめる。

「小町、その挨拶、バカっぽいからやめろ」

 

「バカっぽいってなんだし!」と結衣が膨れっ面で抗議する。

 

「悪い悪い。じゃあ……」

八幡が腕を組みながら小町たちの方を向く。

「奉仕部では今後、挨拶は“やっはろ〜”しか認めません。異論反論も認めません」

 

「「「「やっはろ〜!」」」」

 

「やめて!」

結衣が真っ赤になって叫び、周囲の参拝客がくすくす笑う。

雪乃が呆れたようにため息をついた。

「本当に……新年早々、騒がしい部活ね」

「伝統行事ですから」八幡が真顔で返し、再び笑いが起きた。

 

 

鈴の音が絶え間なく響き、参拝客の列がゆっくりと進んでいく。

雪乃が巫女姿の職員に軽く会釈をしながら、手を清めた。

その一連の所作があまりに丁寧で、結衣が思わず見惚れてしまう。

 

「ゆきのん、ほんと動作まで完璧だね〜。なんか神社の空気に馴染んでる感じ!」

「由比ヶ浜さん、それは褒め言葉と受け取っていいのかしら?」

「もちろん! ていうか、おみくじ引こうよ! 大吉出るまで引いちゃおっかな〜!」

 

「やめとけ。物欲センサーってやつは神にも通じるんだぞ」

八幡がぼそりと呟くと、美羽がくすりと笑った。

「八幡先生、そういうの妙に説得力ありますね」

「おいおい、俺を何の見本にしてんだよ」

 

そんな中、小町が手を叩いて声を上げた。

「よーし、せっかくだしみんなでおみくじ勝負しよっ! 一番悪かった人が、甘酒奢り!」

「……また変な勝負を提案して」雪乃がため息をつく。

「ゆきのん、それが楽しいんだよ〜!」結衣が笑う。

「ちょっと、小町ちゃん! 新年早々そういうの良くないって!」

一応、結衣が小町に指導するも、すでに全員の目が光っていた。

 

「……いいわ。公平に勝負しましょう」

雪乃が淡々と呟き、巫女からおみくじを受け取る。

その横で、瑠美は少し緊張したように息を呑んだ。

「……こういうの、久しぶりです」

 

「大丈夫だよ。おみくじって、要は引いた瞬間の運試しだから」

と大磯が笑って言うと、瑠美の表情が少し和らぐ。

 

結衣が真っ先に紙を広げて叫んだ。

「き、きたっ! 大吉っ!!」

「ふふ、やっぱり結衣さんはそういう運持ってるのね」雪乃が微笑む。

 

「で、俺は……あー、末吉。人生ってそんなもんだ」

「現実的すぎて嫌になるわね」

「まあ俺には大吉は似合わねえしな」

「「確かに〜」」

「人に言われると来るものがある。由比ヶ浜は後で説教な。小町ちゃん、お兄ちゃんにもっと優しくして」

「ヒッキーごめんって」

「やだよ〜。お兄ちゃん優しくすると面倒臭いじゃん。」

 

そのやりとりを見ながら、美羽がそっと紙を開く。

「えっと……私も引いてみますね」

紙を広げると、小さな文字が目に入った。

「……小吉。悪くない、けど良くもない、って感じです」

「安定は美徳だぞ」八幡が淡々と返す。

「ありがとうございます。先生の言葉、末吉よりは励まされます」

八幡は少しだけ口の端を上げて、肩をすくめた。

「お前、言い方がうまいな」

美羽は「あはは」と笑い、その紙を丁寧に折りたたんだ。

 

最後に瑠美が震える手でおみくじを広げた。

「……あ、あの……凶です……」

その場が一瞬、静まり返る。

 

次の瞬間、小町がぱんっと手を叩いた。

「はいっ決定〜! 甘酒、よろしく瑠美ちゃん!」

「えっ!? そ、そんなぁ……!」

瑠美が慌てる横で、大磯が小さく笑った。

 

「俺、付き合うよ。奢り半分、ってことで」

「え、でも……」

「新年だし、縁起良く“半吉”くらいでちょうどいいでしょ」

 

八幡はそのやりとりを眺めながら、どこか安心したようにため息をついた。

「……なんだよ、若いってのは見てるだけで体力削られるな」

「あなたも十分若いわよ、比企谷くん」

雪乃が微笑を浮かべ、参道の方へと歩き出す。

 

「さ、次は願掛けね」

結衣が走り出し、奉仕部の新年は笑い声とともに続いていくのだった。

 

 

参拝を終えた七人は、境内の端に並ぶ絵馬掛けへと向かった。

鈴の音が風に揺れ、木々の影が白い地面に淡く落ちている。

 

「はいはい〜、奉仕部名物・願い事タイムです!」

結衣が張り切って筆を取り出すと、八幡が即座に反応した。

「名物っていつの間にできたんだよ」

「今できたの!」

「……新年早々、創作意欲がすごいな」

 

美羽がくすくす笑い、雪乃が淡々と補足する。

「由比ヶ浜さんの名物は勢いよ。質よりテンションでできているのよ」

「ゆ、ゆきのんひどい!」

「褒め言葉だと思うのだけれど」

 

結衣が口を尖らせる中、瑠美は筆を手に取り、しばらく悩んでいた。

「……“みんなが笑顔でいられますように”、かな」

「らしいな」大磯が小さく呟く。

「お前のそういうとこ、好きだよ」

「えっ……な、なに言ってるの、大磯くん……!」

「え、あっ、いや違っ――その、“そういう人間性が”って意味で!」

顔を真っ赤にして慌てる大磯を、八幡が冷めた目で見やる。

「ヒッキー、今はあえて見守るとこだし!」

「ごみいちゃん、フラグ折るの早すぎだから!」小町が笑う。

「小町ちゃん、お兄ちゃん、久しぶりにごみいちゃんって呼ばれて、ショックやら嬉しいやら心が迷子だよ」

「大丈夫、私が導いてあげるわ」

「いやいや、方向音痴のお前に導かれたら、どこ行くかわからねえから」

雪乃がキッとした目で睨む。

「いやなんかすみませんでした」

と土下座する八幡。

「こんなところで何やってるのよ。やめなさい」

「ちょっと負けず嫌いが復活しちゃっただけだから、気にしなくていいわ」

雪乃は優しい笑顔で八幡を立ち上がらせた。

 

そんな中、雪乃は静かに絵馬を吊るした。

「“誰かの願いを、支えられる一年になりますように”」

その文字を見た結衣が、ふと真顔になる。

「ゆきのん……やっぱ優しいなぁ」

「そんなことないわ。ただ、あの部室で過ごした時間が、まだ私の基準なのよ」

 

八幡は無言で自分の絵馬を掛けた。

「“平穏無事、波風立たず”」

結衣が笑う。「ヒッキーらしすぎる!」

「だろ。現実的でいいだろ」

「ま、そんなヒッキーが好きだし!」

「……おい、やめろ。さっき波風立ったばっかだろ」

「やきもちなんて妬かないわ、大丈夫よ」

 

参道を戻る途中、境内の空は茜色に染まり始めていた。

雪が夕陽を反射して、きらきらと光る。

その中で、瑠美がふと立ち止まり、空を見上げる。

「……こうしてみんなで来れて、よかったなって思うの」

大磯が隣でうなずく。「来年も、同じメンバーで来ような」

「うん」

瑠美の微笑みは、冬の光に溶けてやさしく広がっていった。

 

「……さて帰るか」

八幡が小さく呟き、歩き出す。

その背中を見て、雪乃がふっと微笑んだ。

「本当に変わらないわね、あなたは…」

「変わる必要ないからな。変わるのは……見てる景色の方だ」

「うん。でも、その景色にお兄ちゃんがいるのが、やっぱ一番だね」

 

一陣の風が吹き抜け、絵馬の揺れる音が優しく響く。

その音はまるで、誰かの願いが形になったようだった。




笑いながらも、どこか懐かしい。
そんな空気を大切にしたいと思って書いた一話でした。
一年のはじまりが、誰かにとって優しい時間でありますように。
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