やはり俺の結婚生活は間違っている   作:ヒューイK

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誰かの背中を追いかけて、瑠美は一歩を踏み出す。
それはまだ小さな声だけど、確かに“委員長”としての始まりでした。
優しさが少しずつ受け継がれていく、そんな放課後の物語です。


第3話 されど会議は進まず霧の中

放課後の教室。

夕陽が差し込み、黒板のチョーク跡が赤く照らされていた。

実行委員に集められた生徒たちは、机を囲んで模擬店や出し物の案を出し合っている。

 

だが――すぐに空気はざわつき始めた。

 

「やっぱカフェが無難じゃね?」

「またそれ? 去年もやったし。マンネリすぎるでしょ」

「じゃあ演劇? でも練習時間がないじゃん」

 

議論は堂々巡り。誰も譲らず、誰もまとめようとしない。

前に立つ実行委員長――瑠美は、プリントを握りしめたまま言葉を失っていた。

 

(……どうしよう。話が全然まとまらない)

 

教室の後方、腕を組んでその様子を眺めていた八幡は、心の中でぼやく。

 

(あー、懐かしいな。この“全員自分が正しい病”。意見が出てるようで、誰も聞いてないパターン。文化祭あるあるだな)

 

横で見ていた結衣が、小声で瑠美に囁く。

「るみちゃん、今のままだと進まないよ? なんか言ってみよっか」

 

「え、えっと……その……みんなの意見をまとめて――」

 

しかし、声は雑談にかき消された。

瑠美の眉が沈みかけた瞬間――、

 

「静かにしなさい」

 

澄んだ、よく通る声が響く。

雪乃が立ち上がっていた。

その冷静な視線に、生徒たちの口が一斉に閉じる。

 

「――委員長、あなたの考えを聞かせてくれる?」

 

「え……」

 

一瞬、教室の空気が止まる。

すべての視線が瑠美に集中した。

瑠美は息をのむ。手のひらが汗ばむ。

 

「わ、私は……まだ考えがまとまってなくて……」

 

途端にざわめきが戻る。

「やっぱ頼りないよな」「委員長が決めないと進まねーじゃん」

言葉が矢のように飛んでくる。

 

居心地の悪さに押し潰されそうになり、瑠美はうつむいた。

 

その時――。

八幡が椅子の背にもたれ、ぼそりと呟いた。

 

「……お前ら、勝手に喋ってるだけだろ」

 

「え?」

 

その声には、妙な重みがあった。

八幡はゆっくりと視線を上げる。

 

「誰もまとめる気がないなら、永遠に決まらねぇ。やりたいなら、最後まで責任持ってやれ。口だけなら誰でも言える」

 

静寂が落ちた。

それは説教ではなく、淡々とした現実。

だが、その言葉に最も強く反応したのは――瑠美だった。

 

八幡の鋭い目が、まっすぐ彼女を射抜く。

 

「どうする、鶴見。お前が委員長なんだろ。――決めるのはお前だ」

 

(何を言えばいいの……? 頭が真っ白で、みんなの声しか聞こえない)

瑠美は喉が震え、言葉を探す。

けれど、その瞳の奥には確かな光が宿り始めていた。

 

「……私、考えます。ちゃんと、みんなが納得できる形を」

 

その一言に、八幡はわずかに口角を上げた。

結衣が安堵の笑みを浮かべ、雪乃は静かに頷く。

 

(――ようやく、始まったわね)

 

夕陽の中、瑠美の背中は少しだけ強く見えた。

 

文化祭実行委員会の会議が終わった放課後。

瑠美はすっかり肩を落としたまま、奉仕部の部室に戻ってきていた。

 

「……やっぱり全然駄目でした。声も震えてたし、途中で頭が真っ白になって……」

 

椅子に座ると、机に突っ伏すようにして項垂れる。

 

「でも最後までやり切ったじゃん!」

結衣がすぐさま明るい声で言った。「ちゃんと委員長っぽかったし!」

 

「そうね」雪乃も静かに頷く。「不十分なところはあったけれど……それでも、責任を果たそうとしていたわ。委員長としての姿勢は立派だったと思うわ」

 

瑠美は顔を上げる。「……雪乃先生……」

 

八幡は隅の席で腕を組んだまま、気怠げに口を開く。

「まぁ、あれだな。昔の委員長たちに比べりゃ、よくやってた方だ」

 

「え?」

 

「会議で泣き出すやつも、逃げ出すやつも見てきたけどな。お前は最後まで立ってた。……それだけで十分だろ」

 

「……ふふっ」

瑠美の口元が、少しだけ緩んだ。

 

「でしょでしょ!」結衣が嬉しそうに身を乗り出す。「ね? 委員長、すっごい頑張ってたんだから!」

 

「……ありがとうございます」瑠美は小さく微笑んで、けれどすぐに引き締めた顔になる。「でも、次はもっと……ちゃんとやれるようにならないと」

 

雪乃はそれを見て、目を細めた。「その意気よ。あなたは一人で背負う必要はないわ。私たちもいるのだから」

 

八幡は心の中で小さくため息をついた。

(……ほんと、どっかで見た光景だな。こいつは結局、俺らの後を歩いてるってわけか)

(ま、悪くないけどな)

 

部室には小さな笑い声がこぼれる。

かつての奉仕部の空気が、少しだけ蘇ったような気がした。




奉仕部の空気が、またひとつ形を取り戻していきます。
次回も、彼らの“少し先の青春”をお届けできたら嬉しいです。
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