自意識が覚醒したのは、思わぬ衝撃を受けたから。
(ロブ・ルッチ……面白鳩野郎になってる、だと……)
ロブ・ルッチは幼児ともいえる年齢でありながら、大人同然の明瞭な思考を持ち合わせていた。
頭を抱えた彼の内側には、本来の魂とは別の存在が入り込んでいる。
その魂は、別世界でロブ・ルッチという存在を知っていた。正しくは、ロブ・ルッチというキャラクターが存在する漫画を知っていた。
世界的な人気を誇る漫画“ONE PIECE”。
その作中においての、大ボスの一人。主人公のモンキー・D・ルフィに対して、肉弾戦で追い込んだ体術強者。
最終的に敗北はするが、それでも格闘戦メインの主人公を格闘戦で上回ったというのは衝撃的なものだった。
彼、ルッチは頭を抱えた。
主人公に負けるのは、まだ良い。ルッチとしては、その結果救われる考古学者が幸せそうだったからだ。
問題はその後。久方ぶりの再登場ではほぼほぼ咬ませ犬扱い。新能力も、大幅強化された主人公の前では紙くず同然だった。
(ルフィに負けるのは……この際、どうでも良い。ただ、弱い男に成り下がるのは嫌だ……!)
それは、単なる意地だった。
男に生まれた以上、一度は夢見る拳の最強。
強者ばかりのこの世界で、天辺を取れるなどと自惚れてはいない。しかし、それでも何もしないままにストーリーをなぞる事だけはしたくは無かった。
(鍛えるだけ、鍛える。やれる事をやる。やって来たことをやる。それだけだ。筋肉は、嘘をつかない!)
ロブ・ルッチ0歳にして、道を決める。
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天才が生まれた。
場所は、
天才の名は、ロブ・ルッチ。生まれながらに死んだ目をした子供だった。
彼には、才能があった。3歳で始められたトレーニングでは年上を含めた中でもぶっちぎりの1位。5歳の頃には、指導役だった教官を一方的に叩きのめす実力を有していた。
それで天狗になるのなら、彼は騒がれる事は無かっただろう。
だが、ルッチは違った。彼は、酷くそれこそ病的なまでにストイックだったのだ。
一日のトレーニングメニューが終われば、その後は自主鍛錬。それも、ただ只管に体を鍛えるだけではなく、技の切れや書籍を漁っての知識の吸収も含まれる。
8歳の頃には、政府の体術である“六式”をマスター。派生技も習得しながら、元となる六つの体技を限りなく鋭く練磨させていった。
そして、9歳になった頃、彼はとある技術を身に着けた。
“生命帰還”と呼称される、人体操作法。習得すれば、髪の毛の先まで自力で動かす事が出来、内臓器官の消化吸収などもお手の物。
ルッチが目を付けたのは、筋肉、そして骨。
意識的に、筋肉を細くしなやかで強靭なモノへと変化させ。更にその筋肉を編み込む事でそもそもの肉体的に人とは違う存在へと変化。骨は、強くなった筋肉に潰されない様により堅牢に。
細身でありながら、少年の体はその密度を爆発的に増量させた。特に、一筋一筋が強靭なバネの様なモノへと変貌した筋肉を編み合わせた代物は、さしずめ防弾繊維。
狂気的な鍛錬を積み続ける少年に、ある時一人が尋ねた。
何故そこまで体を鍛えているのか。
少年の答えは、至極単純。
『強くなるため』
力こそものを言う時代に、至極真っ当な理由だ。
10歳になった時には、政府諜報機関である
それから三年後、彼はCP9の一人としてある任務に赴く事となる。
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「――――長官、本気ですか」
「コレは決定事項だ。さっさと行け」
「しかし…………兵に何の罪もありません」
珍しく反論してくる少年に、CP9長官であるスパンダインはジロリと鋭い目を向ける。
13歳という若さで政府諜報機関のトップクラスに在籍する少年。その実力は高く、その期待値から既に
仕事は正確で速く、必要以上の殺しは無し。
正に、仕事人。欠点を上げれば、仕事以上の事は決してしない為に命令が無ければ例え目の前に賞金首が居たとしても自分から手を出すような事は無い。
裏稼業に生きる人間としては、甘い人種だ。だからこそ、今回の件は承服しかねるものがある。
「つべこべ言わずに行ってこい」
「ですが、この国の兵士は国民を人質に取られた結果投降しただけです。主犯である海賊を殲滅できれば、それで良いのでは?」
「どんな形であれ、暴力に屈した統治機構なんざ話にならねぇ。これを機に、世界政府はその国への影響力を強める算段だ」
「…………その為に、国が持てる戦力を削り、そこに海軍勢力を宛がうという事ですか」
「そうだ。分かったんなら、さっさと向かえ!」
不満はある。だが、ロブ・ルッチは社畜だった。
納得できない故に噛み付いたが、それでも覆らないのならば仕事として事を熟さなければならない。
部屋を出たルッチは、そこで彼を待っていた男に出会う。
「ラスキーさん」
「珍しいな、ルッチ。お前が、任務に口を出すのは」
どちらともなく横並びになって歩き出しながら、ラスキーは指摘する。
彼から見ても、ルッチという少年は強い。今は、グアンハオで鍛えられているであろう娘たちとは比べ物にならないほどに。
加えて、任務を的確に熟していく姿は彼からも好印象だった。
だからこそ、疑問を投げかける。
「…………俺達の仕事は、闇の正義。決して表に出る事は無く、全てを熟す。だからこそ、
「納得、か」
難しいだろう。この裏世界が長いラスキーはそんな感想を覚えた。
世界政府という組織の内部は、腐っている。それは、基本的に真面な感性を持つ者たちの共通事項だ。
彼らの行く先は、主に二通り。
一つは、共に堕落する事。甘い蜜を啜る事に注力し、腐敗を享受する。
もう一つは、見てみぬふり。先の回答と似ているがこちらはあくまでも仕事と割り切る場合だ。
ラスキーは後者のタイプ。仕事は仕事として、そこに意志を介在させずに事を成す。
だが、ルッチは違う。
仕事は仕事と割り切りながらも、そこに一種の正当性を求めている。
世界政府という組織が真面ではないと理解しながら、それでも自分の中での納得できる理由を欲していた。
「その生き方は地獄だぞ、ルッチ。政府の人間であるのなら、ただ職務を遂行する人形と成れ」
「…………」
ラスキーが諭すが、ルッチは沈黙を持って答えとする。
分かっているのだ。そんな事は。しかし、だからといって思考を捨てるために彼は強くなったわけではない。
転生を自覚して、13年。最早原作など知った事かといわんばかりに彼は己の体を虐めに苛め抜いてきた。それこそ、悪魔の実の能力を使わずとも大抵の相手は素手で叩き潰せる程度には。
だからこそ、
尤も、所詮は一組織の人間に過ぎない。それも、強烈なトップダウン制である世界政府だ。
(もっと力が要るな)
目指すは、腕力で英雄と称される海軍中将。
我を通すには、力が必要だった。