「なんや、あっちの戦いにも動きがあったみたいやな。」
別の戦場の空気の変化を感じたニケが呟く。
「まあ、それは置いておいて、」
発動していた砂塵を止めると同時に、
「純粋に褒めたる。アンタ、大したもんや。」
ニケは、エンデヴァーに向けて賞賛の言葉を口にした。
大地と風の特A級ライダーが二人揃わなければ扱うことのできない大技――クリスタル・サンド・ウィンドを繰り出したニケ。その視線の先には、
満身創痍ながらも、両腕を広げて立ち続けるエンデヴァーがいた。
その後ろには多少の負傷はあるものの、エンデヴァーほどのダメージは負っていない荼毘とスピナー。
特に荼毘は、唖然とした表情でエンデヴァーの背中を見つめていた。
ーーーーー
スピナーが殴り飛ばされ、砂塵の竜巻に襲われる瞬間、エンデヴァーは考えるよりも先に身体が動いていた。
最速で炎を噴かし、荼毘のもとまで飛び、その襟首を掴む。
減速することなく殴り飛ばされたスピナーの前まで移動し、荼毘をスピナーの近くへ投げ捨てる。
砂塵へ向き直ると、プロミネンスバーンを放つのではなく、出久のイフリート・ソールのように炎を身に纏うことで、自らを炎の柱とし、砂の竜巻から二人を守ったのである。
ーーーーー
だが、その代償は大きかった。
超高温の炎を纏い続けたことによる体温の異常上昇。
超高温でも燃え尽きず、炎を突き抜けてきた瓦礫による裂傷や骨折。
完全に満身創痍である。
「なんや時代やな。アンタの炎でも燃え尽きひん素材で出来た瓦礫が普通に転がっとる。」
技術が発達したためか、エンデヴァーの火力に耐えてしまった瓦礫が転がっていたことは、不運でしかなかった。
「せやけど。風に打たれ、瓦礫に削られ、自分の炎に焼かれた。もう楽になりぃや。」
ニケはA.Tを身に付けた脚で改めて大地を踏み締める。
すると、瓦礫が浮かび上がり、弾丸と化す。
手のひらで空気の面に触れ、ニケが弾丸を撃ち出す。
「ファング!!!」
――よりも早く、意識を取り戻したスピナーがエンデヴァーの前へ走り込み、停止。
十分な制動エネルギーが込められた牙をニケへ撃ち放った。
「荼毘! 後悔したくねぇなら、エンデヴァー抱えて退が――」
「効かへんのや、お前の牙なんぞ。」
牙を回避する素振りを見せることなく、ニケは真っ直ぐA.Tで走り、スピナーの眼前へ迫る。
当然、その過程で牙はニケに直撃するが、
「(ざっけんな! 鉄だって切り裂く真空の牙が直撃してんだぞ!? チートじゃねぇか!?)」
牙はニケに直撃するも、傷を付けることすらできず霧散した。
ネタばらしをするならば、チートなどではなく、れっきとした技術である。
荼毘とエンデヴァーの炎が直撃する直前、ニケは風と振動を使い、自身の身体に細かな瓦礫と砂の鎧を纏った。
そして、その鎧は二人の炎に焼かれると同時に鍛えられ、より強固となった。
元々、皮膚の硬質化が施されていたニケの肉体は、もはや生半可な攻撃ではびくともしない、最強の防御力を獲得していたのである。
「燃えろぉ!!」
荼毘の蒼炎も放たれるが、
「実は、お前が一番怖ないねん。」
これまでニケが宙空へ向けて蹴りを繰り出すたび、突風や暴風が巻き起こっていた。
しかし今回は、ニケは蹴りを放つのではなく、
宙空を踏み締めた。
傍から見れば、パントマイムでもしているようにしか見えない。
だが、その後の光景は荼毘とスピナーを唖然とさせた。
ニケの目の前まで迫っていた蒼炎は徐々に勢いを失い、ニケへたどり着く前に消失したからである。
「ワイが固められるのが地面や自分の身体だけやと思っとったんか? 風と大地の複合型やぞ? A.T履いたガキどもが空を飛べてたんやから、空を踏み締めることぐらいわけないわ。そんで、」
大地どころか空間が軋むような音が響く。ニケの脚が、A.Tが、超振動を放ち周囲を凝固させていく。
「そこはワイの間合いや。」
「(やられた!)」
「(ヤベェ!)」
固められた空気に囚われた二人に向け、ニケは周囲の瓦礫を浮かび上がらせる。
「終いやな。」
ーーーーー
『ーー神野市西部上空です! 第二中継ヘリよりお伝えします!』
別方向から飛来したもう一機の報道ヘリ。こちらが映しているのは、オールマイトとは別の戦場。
『こちらではNo.2ヒーロー・エンデヴァーが、正体不明のヴィランと交戦中です!』
高倍率カメラが地上を映すのは普段の威圧感が見る影もないほどボロボロになりながらも立ち続けるエンデヴァー。
その背後には、若い二人の男。
そして、その三人を悠然と見据える一人の男。
「あれが……エンデヴァー?」
「嘘だろ……ボロボロじゃねぇか。」
テレビを見る市民に動揺が走る。
『現在確認できる限り、エンデヴァーは二人を庇っているようです! 全身に激しい損傷が見え、動く様子がありません!』
画面いっぱいに映るのは、焼け焦げたヒーロースーツ、流れる血、荒い呼吸。それでも倒れず立つ姿だった。
『一体、何が起きているのでしょうか……!』
リポーターの言葉を遮るように、ニケとスピナー、荼毘との戦闘が始まる。
『動きがありました!先ほどエンデヴァーに庇われていた二人が今度エンデヴァーを庇うように立ち回っています!しかし、効いていません!強力な攻撃が繰り出されていますが、ヴィランには効果があるように見えません!』
地面が唸る。
砕けたアスファルト。
崩壊したビルの残骸。
瓦礫がまるで意思を持ったかのように浮かび始めた。
「な、何だあれ……。」
「瓦礫が……浮いてる……?」
『周辺の瓦礫が空中へ! こ、これは個性なのでしょうか!?』
無数の瓦礫が牙を剥く。
「終いやな。」
次の瞬間――
轟音とともに、数百もの瓦礫が一斉に撃ち出された。
『危ない!!』
画面が激しく揺れ、土煙が視界を覆い尽くした。
「エンデヴァー!!」
「頼む……!」
全国の視聴者が固唾を呑む中、
「ぉ」
限界の一歩先に踏み込んだのは、
「ォォッ」
やはり、この男だった。
「オォーーーーー!!」
ーーーーー
燃え滾る炎。
俺の蒼炎の方が熱量に限れば上。だが、手札を隠している現状では天と地ほどの差があるエンデヴァーの業火が俺とスピナーの間を抜いて奴、ニケに迫る。
「頑丈すぎるやろ、オッサン!まだ動くんかい!?」
なるほど、圧縮された炎の周囲に対流を生み出すことで凝固された空気を打ち砕き燃焼を継続できているのか。
“赫灼熱拳を扱うことできる人間”だからこそできる芸当だな。
ニケは風の防御を張るが、そのまま吹き飛ばされる。
「ーーガッハァ。」
エンデヴァーが大量の血を吐き出すのを見て、思わず駆け出しそうになるのを耐える。
「………貴様らは、早く退がれ。」
「ハッ、そのザマでよく言うなエンデヴァー。勝手に庇っておいて次は退がれときたか。」
「オイ、荼毘。」
スピナーが止めに入って来るが関係ない。
「言っておくが、今回の戦いを始めたのはコッチで横槍を入れてきたのがソッチだかーー。」
「己の力を抑えるも、隠すも貴様らの勝手だ、事情もあるのだろう。例え一時の共闘関係にあってもヴィランに塩を贈りたくはないのだが………若者が無駄に命を散らす必要もあるまい。」
そう言ってエンデヴァーは歩き出す。
だが、流石に限界間際なのか途中脚が絡れ、膝を突く。
「グゥ、この程度で。」
その背中に、その在り方に、その炎に憧れ、執着した。
自分が目指すべき夢の先なのだと。
不屈の炎、それがエンデヴァーだ。
自慢の『 』だ。
「スピナー、悪い。好きにやらせてもらって、良いか?」
「元々俺たちは好きにやりたい事をやるための集まりだ。当たり前だろ。」
「………そうだったな。」
「それに俺もな。ニケはニケでも別人みてぇだったからよ、変に遠慮してた。アイツの、死柄木の道を邪魔する奴は全て俺が喰い千切るべき敵だったわ。」
そういや、いつもの鋭さが無かったな。まあ、スピナーは良い奴過ぎるから、そもそもヴィランには向いてねぇ………俺も人のことは言えねぇか。
膝をつくエンデヴァーの脇を通り抜け、戻ってきたニケの前にもう一度、二人で立つ。
「オイ、退がれと言っただろう!お前たちではーー」
「喧しいわ。オドレら、まとめて去ね。」
瓦礫と風が襲い来るさっきの技を再度発動してくる。
なんの工夫もなく同じ技を連発とか、
「どうするスピナー?舐められてるぜ。」
「砂塵は任せて良いか?俺はあのご自慢の鎧をどうにかする。」
「了解。」
蒼炎の出力を上げる。
大丈夫。火力の上げ方だけは昔から、何度も教えられた。
加えて、あの日あの山で会得した感覚。
感情の昂りを炎に乗せろ。
「“赫灼熱拳”」
「は?」
「な!?」
ハッ!驚け、アホども。もう予定も計画も無しだ。やりたいようにやる。
今は、目の前の気に入らない奴を、敵を、全力で燃やす!
「プロミネンス・バーン!!!!」
ーーー荼毘の全身から噴き出る蒼炎が砂塵を押し留め、徐々に押し返していく。しかし、その結果に荼毘は不服そうであったーーー
悪いけどな、格好つけさせろ!!
「ラァッ!!」
「なんや、この炎!?オッサンのよりもーー」
ーーー咆哮と共に、蒼炎は更なる猛りを見せ、砂塵を打ち砕いたーーー
「んじゃ、締めは頼むわスピナー。」
ーーーーー
『エンデヴァーに庇われていた青年たちが、今度は攻勢に出ました!』
焦凍が事件に巻き込まれて怪我したけれど、大きな怪我じゃなかったみたい、ってお母さんに報告して、家で遅めの夕食を食べてて、
『凄い炎です。エンデヴァーの炎にも劣らない蒼い炎が砂塵を押し返しています。』
ずっと落ち着かなかった焦凍がニュースが始まった途端一言も喋らずテレビに齧りついて、
オールマイトが苦戦してる、って驚いてたら、今度はボロボロのお父さんが映ってもっと驚いて、
それから、お父さんを庇ってる人が画面に映った。
「燈矢兄?」
ーーーーー
荼毘の身体から焦げた匂いが漂ってくる。
死柄木と本気でやり合った時もそうだったが、コイツの本気、諸刃の刃にも程があんだろ。
だが、
「ああ。きっちり締めてくるよ。」
ニケ目掛け、A.Tを駆る。変に入ってしまっていた力を抜き、笑顔を作る。
オールマイトや、死柄木もだけどよ、強い奴って笑ってる時が一番強ぇよな。
「いい加減にせぇやトカゲ!そんな牙じゃ、ワイは斬れへんことはもう分かったとるやろうが!!」
相手がなんか言ってくるが無視だ。
笑え、笑えよスピナー。
笑え、伊口秀一。
力むな、俺に他者を圧倒する力なんてねぇ。腕力勝負じゃ、多分渡我にだって負ける非力っぷりだ。
長所を活かせ。
間合いに入った一瞬が勝負だ。
ーーーーー
「(ゼロ距離の渾身の牙、ワイの防御抜ける可能性があるんはそれだけやろ。)」
ニケは冷静に敵戦力を分析していく。
「(オッサンの火事場の馬鹿力と荼毘とかいうガキが急にオッサンの技を使ったんは驚いたが、その荼毘は完全にオッサンを庇う構えや。動きながらやないなら、あないな大技はそうそう喰らわん。)」
ニケは距離を詰めてくるスピナーを見据える。
「(トカゲも距離がある状況でどれほど牙を撃ってもワイの鎧には効かへんことぐらい理解しとるやろ。ましてや、鎧の下の硬質化した皮膚は鎧よりも硬度が高いねん。)
だからこそのゼロ距離だろうと予想を立てるニケ。
もちろんタダでスピナーを近づかせるつもりは無いのか、連続して瓦礫を撃っているが、
「(牙を撃つのに必要な一瞬の制止、それを見逃すほどワイもトロない。それは相手も承知のはずや。)」
ニケもA.Tを全力で駆動させ、前に出る。
狙いは牙を放つ直前の制止。そこに超振動を叩き込むこと。
「(早撃ち勝負のつもりか?コッチは踏み込むだけ。ソッチは制止からの蹴り。)」
踏み抜くだけのニケに対して、止まって、放つ、の二つの動作が必要になるスピナー。
圧倒的に不利な勝負を前にスピナーは、
それでも不敵に笑っていた。
「(策ありって顔か、ヤケクソか、)今度は拳やのうて蹴りで風穴あけたるわ!!」
間合いは一気に詰まり、
互いの間合いに、
入る瞬間、
スピナーは牙を、
撃たず、
ニケの視界から、
消えた。
「ばっ、(馬鹿な!?本気のワイが見失っーー)って近っ!?」
スピナーが行ったの縮地と呼ばれる歩法をA.Tに応用した加速である。
一切の無駄を省き、本来踏み込みで力む瞬間、逆に完全な脱力を行うことで滑るように、飛び込むようにニケの懐に入り込むことに成功した。
もっとも、意表をついただけであり、実際に踏み込んだ加速と速さに大差はない。
つまりスピナーがいるのはニケの間合いの内側、危険地帯にいることは変わりないだけでなく、
牙を放つの必要な制止は行われていない。
「(チッ、化かし合いで負けたか。ええで、褒美に一撃喰らったる。そん変わり、コッチの一撃で死にーー)」
スピナーに残されたのは、
力が抜けた身体のみ。
完全なる力みゼロの状態のみ。
「(牙の道はそもそも走った、駆けた後に出来る跡、軌跡や傷こそが本領。0から100、100から0へとスピード、エネルギーを運用する走りは牙だけに求められる技術じゃねぇってことをーー)その身に刻みな。」
レンディング・バイトォ!!!!
A.Tに込められたエネルギーはそのままに、完全な脱力状態からしなる鞭のような蹴りを繰り出す。
身体操作の達人である出久にも出来ないであろう、キレと瞬発力の極致が生み出した最強の鋭さを持った蹴り。
その蹴りは、ニケの視界からスピナーの右脚を消し去り、
最強の防御力を誇るはずのニケの鎧も、肉体も、
「ガッハァッッ!?」
矛盾を起こさず噛みちぎり、道が刻みこんだ。
スピナーに向けて放つ筈だった脚は地面を叩くだけに止まり、
勝利を名に冠する男は、大地に沈んだ。
ーーーーー
血痕の道はスピナーぽく無いのでそのまま牙の道にしました。