天窓から差し込む朝の光は、金属と埃の匂いを優しく包み込む。
類は作業台の上に転がる小さな機械を見つめ、微笑んだ。
黄色の星の形をした、キーホルダー型の機械。
ボタンを押せば、司の声が流れる仕組みだ。
「天馬司だ!!今日も皆を笑顔にするショーの始まりだ!!」
「天翔けるペガサスと書き、天馬!! 世界を司ると書き司!! 天馬司だ!!!」
「ふふ、完璧だね。」
自信満々なあの声を聞いてると、自然と頬が緩む。
だけれど今日、その声で笑うのは自分じゃない。
類はその小さな装置を透明な袋にラッピングし、学校へと向かった。
休み時間、教室で冬弥は読書をしていた。
類がドアから顔を出し、冬弥を呼び出す。
「神代先輩。どうしたんですか?」
「うん、今日は青柳くんに渡したいものがあってね……。」
類はポケットからラッピングした例のキーホルダーを取り出し、手のひらに載せて差し出す。
それを不思議そうに受け取った冬弥は、言われるがままにボタンを押した。
「この俺、天馬司が来たからには、もう大丈夫だぞ!!!」
司の声が、明るく響いた。
一瞬の沈黙のあと、冬弥は目をキラキラと輝かせ、笑う。
その笑みは、柔らかく、眩しかった。
「……すごいですね。音声も司先輩の声、そのままだ。」
「だろう? 司くんの声を録音して、持ち歩けるようにしてみたんだ。」
「ありがとうございます。とても嬉しいです。」
その笑顔を見た瞬間、類の心臓が静かに跳ねた。
まるで、胸の奥の何かを掴まれたようだった。
どうして、いつも、冬弥の笑顔ひとつで、こんなに息が詰まるんだろう。
「……冬弥。」
呼びかけても、言葉は喉で溶けた。
代わりに、笑ってごまかす。
「もし気に入ったなら、他のバージョンも作ろうか。
東雲くんとかどうだい?」
「ありがとうございます。でも、これで十分です。お気遣い、感謝します。」
冬弥はキーホルダーをそっと握り、ポケットにしまう。
「大切にします。」
その仕草さえも、どうしようもなく愛おしくて。
類は、自分の胸に芽生えた想いを押し込めるように目を伏せた。
数日語の類の部屋。
卓上のライトに照らされ、類はまた新しい装置の設計をしていた。
けれど、どうしても手が止まる。
ふと視界の端に、例のキーホルダーの設計図が映った。
「……言わないと、だめかな。」
機械のように理屈で整理できる感情じゃない。
彼を見ていると、理性もその設計図も全部崩れてしまう。
それでも、怖いと思うほどに惹かれていた。
次の日の夕方。
類は屋上に冬弥を呼び出した。
夕日が2人の輪郭を柔らかく包む。
「青柳くん。いきなりだけど、少し話があってね。」
「はい。なんでしょうか、神代先輩。」
しばらくの沈黙。
心臓の音だけが、やけに大きく響いた。
「青柳くんが、あのキーホルダーを笑ってキラキラした目で見ていた時、すごく、嬉しかったんだ。」
「あの時?」
「そのときに、確信したんだ。」
珍しく動揺している類。
深呼吸して、冬弥の瞳をまっすぐ見つめた。
「青柳くん。たぶん、僕は君が好きなんだ。」
静かな夕方の空気が、増えた。
冬弥は少し目を見開いて、そしてゆっくりと息を吐いた。
「……言葉にするのが難しいのですが……。」
その返事を聞いて、類がビクリと身体を震わせる。
「……俺も、です。ずっと、前から。」
その言葉を聞いた瞬間、類の胸の奥で何かが解けた。
理屈も、分析も、いらなかった。
ただ、そこにある感情だけが確かだった。
「……よかった。
……やっと、同じ場所に立てるね。」
冬弥が笑い、類も微笑んだ。
夕日越しに、そっと手が重なり、互いを抱きしめ合う。
ほんの少し触れるだけで、世界があたたかくなるようだった。
それから類は、新しくキーホルダーを2つ作った。
声はないけど、互いにお揃いのキーホルダー。
それを見るたびに、思い出すようになった。
あの笑顔を。
そして、あの日の夕方の言葉を。
「……青柳くん。」
「はい。」
「君の笑顔が、僕の一番好きな音だよ。」
淡い恋の音が、静かに、2人の奥深くに響いていた。