ワールドトリガー 〜ウルクの王〜   作:パクチーダンス

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第十二話 ウルクの王、大学に行く

 

 迅の土下座騒動があった数日が経った頃、三門市立第一高等学校に通っている出水は三馬鹿の一人、三輪隊攻撃手の米屋陽介と休み時間に屋上で雑談していた。

 

「なぁ米屋」

 

 出水は椅子にもたれながらバナナジュースを飲んでいる米屋に話しかける。

 

「金髪イケメン外国人って知ってるか?」

 

「あ?何だよそれ?アニメのキャラクターか?」

 

 ストローから口を離した米屋がそう言う。

 

「ちげーよ。最近、学校でよく耳にするだろ?」

 

「ん?……あーあれか。そういや小佐野がなんか言ってたってな」

 

 一度は首を捻った米屋だったが、思い出して同じボーダーの仲間の名前を挙げる。

 

「小佐野がなんか言ってたのか?」

 

「えーと、小佐野のやつはその金髪イケメン外国人を公園で見かけたんだと」

 

 そんな所で近界民が何を?と思う出水がさらに質問を続けた。

 

「公園?何してたんだ?」

 

「そんな事知るかよ」

 

 米屋はバナナジュースを飲み干して、パックをコンパクトに潰した。

 

「何だよ出水?お前やけに食いつくな」

 

「……そんな事ねぇよ」

 

 少しがっつき過ぎてしまって、米屋に怪しまれてしまったと後悔してしまう。

 

「怪しいな?お前何隠してるんだ?」

 

「別に何も」

 

「ふーん…………」

 

「それよりも早く教室に戻ろうぜ」

 

 訝しむ友人の目から逃げるため、出水は颯爽と屋上の扉に向かって歩き始めた。

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

 米屋に呼び止められて出水は立ち止まり振り返る。

 

「それ、俺に言えないことか?」

 

「……………」

 

 米屋と出水の視線が合わさる。両者しばらく無言の末、先に口を開いたのは出水だった。

 

「誰にも言うなよ?」

 

 出水自身、友人に隠し事するのは気が引ける。出水の言葉に、米屋はニヤリと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼休みになると机の上でお弁当を広げたり、購買でパンを買いに行く生徒など様々だ。小佐野は那須隊攻撃手の熊谷友子と机をくっつけてお弁当を食べていた。

 

「でさ、面白い小説があるから今度貸してあげるよ」

 

「えー字ばっかりで疲れちゃうよ」

 

 なんてたわいもない話を繰り広げている女子二人の所に、出水と米屋が現れた。

 

「おーい小佐野、ちょっといいか?」

 

「んぉ?出水と米屋じゃん。どうしたの?」

 

「いやー、ちょっとさお前に聞きたいことがあるんだよ」

 

「聞ひたいほほ?」

 

 箸でお弁当の中に入っている卵焼きを頬張りながら聞き返す小佐野。

 

「お前さ、前に金髪イケメン外国人に会ったって言ってたよな?」

 

「うん。色んな意味ですっごい人だった」

 

「色んな意味?」

 

 小佐野の対面に座る熊谷がそう言って首を捻った。

 

「あの時、丁度チャイムが鳴ったから聞けなかったんだけどよ。どんな奴だったんだ?」

 

 米屋がそう言うと、小佐野は箸を置いて話し出した。

 

「何かね、すんごいオーラを発してた。何処かの国の王様って感じの」

 

「王様?」

 

 実際、小佐野の言っていることは的を得ていた。だがそれを、小佐野達が本当の意味で知ることはまだ先の話。

 

「写真撮らせてもらったんだよ。見る?」

 

「えっ?写真あるのか!見せてくれ!」

 

「出水がっつき過ぎだよ」

 

 今まで米屋の後ろにいた出水が身を乗り出して小佐野のスマホを覗き込んだ。小佐野は皆が見えるように机の上に置いた。

 

「この人だよ」

 

「うわー、すっごいイケメンじゃん」

 

「本当に金髪でイケメンで外国人だな」

 

「こいつが…………」

 

 確かにイケメンだ。ボーダー内でファンクラブがある程人気なあのもっさりイケメンよりも遥かに凌駕するイケメンっぷり。

 

(京介には悪いが、これは完敗だな………)

 

「なぁ小佐野、その写真送ってくれないか?」  

 

 近界民の情報がこんな近くに入手出来るとは思ってもいなかった出水は、早速小佐野に頼んでみるが、

 

「えー、もしかしてタダで?」

 

 小佐野はやや不満そうな顔をして出水を見る。

 

「写真送ってくれるだけじゃんかよ」

 

「でもなー、この写真は勇気を振り絞ってお願いしたやつだし、簡単に人にあげたくないんだよねー」

 

「じゃ、じゃあ今度購買で小佐野の分の昼飯買うから」

 

 手のひらを合わせて小佐野にお願いする出水。

 

「いや一週間」

 

「は?」

 

 聞き間違えか?という感じで出水の声が裏返った。

 

「一週間、購買で私の分のパンを買って来て」

 

「い、一週間てお前、それはやり過ぎだろ!」

 

「A級なんだからお金持ってるでしょ?いらないんだったら別に良いよ」

 

 そう言うと小佐野は出箸を持ってお弁当を食べ始めた。ぐぬぬとなっている出水を横目に。

 

(こいつ、俺が下手に出たのを良いことに……!)

 

 出水は横にいる米屋を見る。

 

「米屋、お前も手伝えよな」

 

「写真が欲しいのはお前だろ?」

 

 俺は関係ありません、と言うような顔をしていた。

 

「くそっ!……あーもう分かったよ!」

 

「やりぃー」

 

 そんな様子を眺めていた熊谷が出水に質問する。

 

「というか、何で出水君はその人の写真が欲しいの?」

 

「えっ?……あーまぁ色々あるんだよ」 

 

 至極真っ当な疑問に、出水は歯切れ悪く答えた。

 

「何それ?」

 

 こうして出水はギルガメッシュが写った写真を手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同刻、六頴館高等学校の屋上では、二宮を除く二宮隊の面々と綾辻、宇佐美の5人は昼食をとっていた。

 

「それで、試練ってやつはいつ来るの?」

 

「それは私にも分からないわよ。迅さんの予知だと、今日から数えて一週間の何処かに来るって」

 

「今も町を歩いてるのかな?」

 

「きっと何処かで食べ歩きでもしてるんじゃない?」

 

「あり得るね。ギルガメッシュさん、食に感動していたし」

 

「緊張感ないなー」

 

 氷見と綾辻、宇佐美の緊張感の無さに少し呆れ顔の犬飼である。

 

「まぁ今の俺達に出来ることは限られてるしね。ねぇ辻ちゃん」

 

「え、あ、は、はい。そ、そうです、ね」

 

「こりゃダメだ」

 

 氷見は別として、綾辻と宇佐美の女子二人がいる空間に、辻は緊張してうまく会話の輪に入れていない。

 

「やっぱり戦わないといけないの?」

 

「というかさ、最初から戦う以外の選択肢が無いらしいんだよね」

 

「あの人って見かけによらず戦闘狂なの?」

 

 そんな時、辻のスマホにメッセージが届いた。

 

「ん?どうしたの辻ちゃん?」

 

「出水君からです。ギルガメッシュさんの写真を手に入れたと」

 

「写真?」

 

「どうやら小佐野さんが持っていたみたいです」

 

 スマホを操作して、出水に感謝を伝えるメッセージを打ち込む辻。

 

「見せて見せて!」

 

「ひぇ!?」

 

 宇佐美が辻に勢いよく近づいたため、辻は素っ頓狂な声を出す。

 

「こら栞、辻くんを困らせないで」

 

「辻ちゃんスマホ貸して」

 

 赤面してプルプル震えている辻からスマホを手にした犬飼は、ギルガメッシュが写った画像を拡大した。

 

「これなんのポーズ?」

 

「あの人、顔は良いのにやっぱり残念な人なのね」

 

「あはは……こんな事聞かれたら不敬だ、とか言って怒られそう」

 

 画面に写るギルガメッシュは、ナルシストっぽいポージングをしている。まぁそれでも様になってるのだから、ギルガメッシュの外観の良さが伺える。

 

「というか、何で小佐野ちゃんはギルガメッシュさんの写真を持ってたの?」

 

「ちょっと待ってね…………お願いしたら写真を撮らせてもらった、らしいよ」

 

 犬飼は出水から送られて来た文章を読み上げた。

 

「まぁ、お願いすれば撮らせてもらえるか」

 

 怖いと思う時もあるが、寛容な一面も持っているギルガメッシュを知る氷見はポツリと呟いた。

 

「自分の顔にもの凄い自身があるからね」

 

「実際そうだからね」

 

 始めてギルガメッシュと出会った時も、私の前でポージングしていたなと思い出す氷見。

 

「犬飼先輩、この写真私達にも送って下さい」

 

「はいよ」

 

「ちょっと犬飼先輩、勝手に俺のスマホ操作しないでくださいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 三門市立大学。2限目と3限目の休み時間、テーブルを囲んで太刀川、二宮、来馬、加古が集まっておしゃべりしていた。

 

「そういえば太刀川君。貴方、次の講義のレポートやったの?」

 

 加古隊隊長、加古望。彼女は携帯をいじりながら思い出したかのようにそう言った。

 

「あっ!………なぁ二宮、明日提出のレポート見せてくれよ」

 

 円形のテーブルに突っ伏して二宮に助けをこう太刀川。

 

「自分でやれ」

 

 即答で二宮に一蹴されてしまう。二宮は優雅にコーヒーを飲んでいた。

 

「なんだよもう、俺が落単してもいいってのかよ?」

 

「太刀川君、僕の見せてあげよっか?」

 

 太刀川の横に座っている来馬が太刀川に助け船を出すが、

 

「おい来馬、太刀川を構うな。お前の品位が落ちる」

 

「おいおい、ひでーな」

 

 今日も今日とて、太刀川は大学のレポートに追われていた。大きなため息を吐いた後、太刀川はカバンからレポート用紙と筆記用具を取り出して休み時間の間に書き上げようとペンを握った。

 

「なるほど、分からん」

 

 ものの数秒で諦める太刀川に、加古や二宮は「はぁー」とため息を吐いた。こんなのがA級1位の隊の隊長だなんて世も末だろう。

 

「ん?なんだ?」

 

 用紙から顔を上げ、ある方向を向く。そこには何やら人が集まっているではないか。

 

「なんだろうね?」

 

 来馬も気になって遠くから様子を伺う。そんな来馬に釣られて加古も2人が見ている方を向く。一方、二宮はどうでもいいと言わんばかりに太刀川に「早くやれ」と急かす。しかし、

 

「!?」

 

 突然、太刀川が椅子から思い切り立ち上がった。流石の二宮も一瞬驚いてビクッとなる。

 

「どうしたの太刀川君?」

 

「あれは………………」

 

 そう、太刀川は見たのだ。いや、見えたと言った方が正しいか。人と人の体の隙間から、金色の髪を靡かせる真っ赤な血の瞳を持ったあの男を。

 

(見間違いじゃねぇ……!)

 

 太刀川は人が集まる場所まで走り出した。後ろから自分の名を呼んでいる来馬の声を無視して。

 

「うわぁ!?」

 

「何だ?」

 

 ぶつかってもお構いなし。人の波をかき分けて、中心部へと辿り着いた太刀川が目にしたものは、

 

「騒ぎを起こすつもりはなかったが……まぁこの我の溢れ出る存在感は、隠そうとしても隠せるものではないがな」

 

「なぁ、アンタ!」

 

 声を掛けられた男は真っ赤な瞳を太刀川の方へ向ける。まるで値踏みするかのように。

 

「何だ貴様」

 

「やっと見つけたぜ!俺はアンタを探してたんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉狛支部。ソファにぐったりともたれかかって休んでいた迅は、突如としてガバッと立ち上がった。

 

「うぉ!?どうした迅」

 

 雷神丸と遊んでいた林藤陽太郎は、いきなり飛び上がるものだから驚いて体がビクッとなる。

 

「今………未来が変わった………」

 

 目をこれでもかと大きく見開いて上を見上げていたが、それは天井ではない何処かを見ていた。

 

「た、太刀川さん何てことを…………」

 

 もし遭遇したら十分に気を付けてくれと頼んでいたのに自分から行ってどうする。頭を抱えた迅は直ぐにリビングを飛び出した。

 

「おい、何処に行くんだ迅!」

 

 後ろから陽太郎の声が聞こえるが、迅はそれどころではなかった。

 

(まさか、嘘だろ……………!)

 

 金色の男の未来は読みにくい。無数に枝分かれした未来が、この一瞬で『とある未来』へ集約し始めている。何とかしなくてはならない。

 

(早過ぎる…………!)

 

 迅は急いで三門市立大学へ走って行く。信号機になんて止まっている場合じゃない。

 

(もう始まってしまうのか……………!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュは声を掛けてきた太刀川を上から下まで観察していた。

 

(ミデンの戦士か……………)

 

 太刀川の佇まい、服の上から分かる鍛えられた肉体。見ただけで太刀川をボーダー隊員と看破したギルガメッシュ。

 

「ちょっと太刀川君、どうしたのさ?」

 

「太刀川君、そんなにレポートが嫌なのかしら?」

 

「おい戻るぞ太刀川」

 

 太刀川の後方から来馬、加古、二宮が後をついてきていた。二宮は太刀川の肩を掴んで元いた場所まで引っ張ろうとする。

 

「あっ、ちょっと二宮」

 

「待て」

 

 それは、大きくもなく小さくもないごく普通の声量で発せられた声だったが、この場にいる全員が一様に動作を止める。

 

「我を呼び止めておいて立ち去ろうとは、何とも無礼な奴よ」

 

 ギルガメッシュが一歩ずつ太刀川に近づいて行くと、誰もがギルガメッシュの為に道を開ける。

 

「事と次第によっては、即刻その首を切り飛ばす」

 

 太刀川とギルガメッシュの距離は目と鼻の先。ギルガメッシュの放つ圧倒的な覇気に、流石の太刀川も額に汗を浮かばせた。

 

 誰もがギルガメッシュの言葉を、冗談と受け取ってはいなかった。鼓動が早くなっているのを感じる太刀川。次の言葉で自分の命運が決まる。

 

 この場にいる皆が固唾を飲んで太刀川の次の言葉を待つ。

 

「俺と………」

 

 太刀川は真っ直ぐな目でギルガメッシュと向かい合う。

 

「俺と、戦ってくれ!」

 

 太刀川は自分の思いをギルガメッシュにぶつけた。さぁ、ギルガメッシュの返答はいかに。

 

「フハハハハハハハハハハハ!!」

 

 ギルガメッシュは高らかに笑った。太刀川も他の者も、その姿に呆気に取られてしまった。

 

「この我と戦うだと?吠えたな小僧!よもやこの我にそんな言葉を掛けてくるとは。ククク、愉快よの」

 

 よく分からないがツボに入ったようで、太刀川は内心少しホッとしていた。

 

「長く貴様の様な奴とは相対していなかった。道化以外の言葉で笑ったのは久方ぶりよ」

 

「じゃあ俺と………」

 

「だがな。この我が、お前達と戦うにはまだ早い。依然としてお前達を見定めている最中よ」

 

「俺達を、見定める………」

 

「足掻くがいい。そして我を楽しませよ」

 

 ギルガメッシュは満足したのか、太刀川に背を向けて立ち去ろうとする。

 

「どけ」

 

 ギルガメッシュの一言で人がはけていく。去っていくその背中を、太刀川はただずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、良かったーーー!!」

 

 迅は道のど真ん中でへたりと座り込んだ。

 

 

 

 

 

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