謎の世界観。
目を開けた瞬間、視界が真っ白だった。
上も下も、右も左もわからない。
けれど、そこに確かに息づかいがある。
「……冬弥?」
少し不安そうな声で、彰人がすぐそばから冬弥を呼ぶ。
「……その声は、彰人か。」
冬弥の声も近い。
近すぎて、頬に息が当たるほどだ。
どうやら、2人は箱のような空間に閉じ込められているらしい。
壁は固く、互いの身体は複雑に絡み合っている。
動こうとすれば、すぐに互いの身体がぶつかる。
「……っ、すまない、彰人。」
「……無理に動くな。ぶつかる。」
「そんなことを言われても、……腕も足も動かせないぞ。」
彰人が身じろぎした拍子に、冬弥の胸に額が当たる。
そのまま固まる。どちらも動けない。
静寂の中に、2人の鼓動だけがはっきり響く。
冬弥が息を呑む。
「……近いな。」
「しょうがねえだろ、動けねえんだから……。」
「彰人。顔を上げられるか。」
「ん……。」
ほんのわずかな息の揺れすら伝わる距離。
白い光が柔らかく2人を包んで、まるで世界が2人しか存在しないみたいに錯覚する。
「……なあ、冬弥。」
「ん?」
「こういう時、……どうすりゃいいんだよ。」
冬弥は少しだけ考えて、静かに言った。
「落ち着け、彰人。
……とりあえず、呼吸を整えよう。」
彰人が眉をしかめながらも、頷く。
互いの胸の上下が重なるように、ゆっくりと息を吸い、吐く。
白い空気が2人の間でゆっくりと混ざり合う。
そして、気付いた。
距離を詰めなくても、息が触れるほど近いことに。
顔を動かせば、もう唇が触れ合ってしまう距離にいることに。
彰人が小さく目を伏せた。
「……なあ、冬弥。」
「? なんだ。」
「顔が、赤い。」
「……彰人もだ。」
軽く笑った瞬間、息が触れる。
そのまま何かに導かれるように、ほんの少しだけ唇が触れ合った。
一瞬だった。
でも、世界が静止したような感覚があった。
「……今の、事故だろ。」
彰人の声が震えている。
不安からだろうか。
「……ああ。事故……だな……。」
けれど、冬弥の目は逸らせなかった。
互いの呼吸が絡み合って、空気が熱を帯びる。
今度はゆっくり。
互いの意思で、もう一度、唇を重ねる。
最初よりも長く、優しく、確かに。
2度目のキスのあと、2人は言葉を言わなかった。
ただ。どちらかの息が触れるたびに、胸の奥がざわめいた。
「……冬弥、なんでそんな顔してんだよ。」
彰人が低く呟いた。
冬弥の目は少し潤んでいて、薄い光に照らされるその横顔が、どこか儚く見えた。
「……わからない。ただ、落ち着かない。」
「落ち着かない?」
「ああ。彰人とこうしていると、……胸の奥が変に痛くなる。」
冬弥の言葉に、彰人の喉が小さく鳴る。
それは、いつも誰よりも冷静で、でも近くにいるような冬弥が、今ならいつもより近くなる。
そんな感覚だった。
「……そんな顔で言うなよ。」
「顔?」
白い光がふっと揺れる。
息が近づいて、また唇が触れそうになる。
「好きだ、冬弥。」
「……付き合って、もう何ヶ月も経つが。」
「〜〜!! ……今更言うのが恥ずかしいんだよ……。」
「……俺もだ、彰人。」
冬弥が彰人を見下ろす。
まるで心の奥を見透かされたようで、彰人は視線を逸らす。
けれど、冬弥の手がゆっくりと動き、彰人の頬を包みこんだ。
「隠さなくていい。
ここには、俺と彰人しかいない。」
その言葉に、彰人の身体から力が抜ける。
「……ずるい。
そんな、言い方されたら……。」
言葉が途切れて、再び唇が重なる。
今度は迷いない。
静かに、ゆっくり、長く、何度も互いの温度と愛を確かめるように。
空間の境界が淡く光り、2人の影が1つに溶けていく。
やがて、冬弥の肩にもたれた彰人が、少しだけ安心したように笑った。
「なぁ、これ、夢じゃないよな。」
「もし夢でもいい。……彰人となら、何度でも。」
白い光がふわりと溶け、現実の世界に戻る前の一瞬、2人はただ、互いの手を強く握りあった。