鬼舞辻無惨になった男が生き抜く話 作:野生の生蛇
炭治郎はのちカナエとも前世の記憶について話した。
そして柱たちとも話そう、という事になりカナエの屋敷に柱たちが集合する事になった。
「皆さん、お久しぶりです!」
集まったのは八人の柱たち。だが顔ぶれは前とは違う。
水柱冨岡義勇。
炎柱煉獄杏寿郎。
音柱宇髄天元。
恋柱甘露寺蜜璃。
花柱胡蝶カナエ。
岩柱悲鳴嶼行冥。
風柱不死川実弥。
蛇柱伊黒小芭内。
残る時透無一郎は鬼殺隊にそもそも入ってない。
鬼殺隊には入らず別のところに行っている。
「久しいな竈門少年!」
傷一つ負ってない杏寿郎が元気に挨拶をする。
「はい! 皆さんもお変わりないようで!」
「うむ! それで早速だが本題といこうじゃないか!」
「はい、実は──」
炭治郎はこれまでの事を話す。
「鬼舞辻無惨と協力か……」
小芭内が苦い顔をする。
小芭内は顔に怪我を負ってない。
彼の一族は鬼とかかわりがなく単に男が生まれにくいだけの一族と化しているからだ。
「鬼は依然存在するが、人間に害をなすわけではない、か……」
宇随天元がうーむと頭を悩ませる。
前世の記憶がある以上鬼イコール敵だが炭治郎から話を聞いてこの世界では違うのかもと思い始めている。
「私としては鬼の医者を呼ぶのは賛成です。といっても最大限警戒する必要はありますが」
そう発言するのはカナエだ。
前世から鬼と共存出来たらいいかもしれないと思っていた彼女はそれが叶いそうなこの事態にもろ手を挙げて喜んでいた。
「問題はお館様が受け入れてくれるかどうか、だな。鬼を……鬼舞辻無惨を追い続けているお館様が受け入れてくれるかは……どうだろうな」
義勇がそう言いながら内心は受け入れないだろうと思う。
鬼は産屋敷家が千年追い続けた宿敵だ。打倒すべき邪悪である。
「そこは俺から話してみよう! お館様は体調も良いし、案外受け入れてくれるかもしれない!」
杏寿郎はそう堂々と宣言する。
「私も進言してみよう。お館様を治すためならば一肌脱ごう」
そう返すのは岩柱の行冥だ。
「お館様に前の記憶はないが、その分わだかまりもなく受け入れてくれるはずだ! お館様が治ってくれれば、それ以上の喜びはない!」
そう軽快に杏寿郎は笑った。
かくして、無惨の知らぬところで産屋敷とのつながりが生じようとしていた。
■
「本当によかったのですか? 鬼の医者を受け入れて」
数日後。ある屋敷にて。
今代の産屋敷家の当主耀哉は妻のあまねに問われていた。
人里からは離れている屋敷だが、ある程度インフラは整っている屋敷だ。
「あぁ……鬼舞辻無惨は鬼だ。だが、私の勘だが……悪鬼羅刹の類ではないように思える。人と鬼の共存は、既に成り立っている」
「成り立っている、ですか?」
「ああ。この千年、いくら追っても鬼が人を襲ったという事実はなかった。鬼のように神隠しにあった者はいるが鬼というあやかしが人を襲った証拠はついぞない……ならば、鬼は人を襲わないのだろう。ならば、鬼は人と分かり合えているのだと、私は思う」
「こうして鬼と……鬼舞辻無惨と話す機会を得られて、私は幸運だ」
そう、耀哉は微笑んだ。
待つこと三十分。屋敷に二人の鬼が訪ねてきた。
妻のあまねが玄関に行き、客人の医者二人を耀哉の前まで連れて行った。
「醜い」
そうして鬼──鬼舞辻無惨は耀哉の顔を見てそう発言した。
「無惨様」
諌めるように医者、珠世が窘めた。
「ああ、すまない。だが千年私を追い続けた者がこうとはな」
ふん、と無惨は鼻を鳴らした。
「……落胆したかい?」
「いいや、元から期待も何も抱いてないからな……珠世。診てやれ」
「はい、無惨様」
そうして珠世は耀哉の診察を始める。
舌や肺の呼吸、目を色々と診る。
無惨に医者の心得なんてものはないので、なんかしてるな程度で見る。
「……ある程度分かりました。病の傾向も、分かりました」
その言葉に耀哉とあまねは目を見開いた。
どんな名医が見ても原因不明としかわからなかった病に光明が見えたのだ。
「結論から言いますと遺伝病の一種でしょう」
「遺伝病?」
「遺伝子という人の設計図のような物そのものに欠陥や疾病がある病気、という訳です。申し訳ないですが……治す方法は今のところ一つしかありません」
「……あるというのなら、なぜ申し訳ないと? もしや弱った身体ではできない治療法と?」
「いえ、そういう訳ではないのですが……鬼殺隊の長の貴方には酷な治療方法です」
数秒の沈黙ののち、意を決したように珠世が口を開いた。
「それは、貴方を一度鬼にし、健常な体にしてから人に戻すことで治すというものです」
「……人が、鬼になれると……いや。貴女が鬼だというのならば、なれるのだろう。しかし鬼が人に戻れるのか……」
「割と最初の方に出来ていたな。私という研究材料があれば研究は容易かったぞ」
「なるほど……なるほど」
耀哉は顔を伏せた。
治す方法が鬼という異形の存在になる必要があるというのは、何気にショックなことではある。
だが、そうでもしなければこの呪いは解かれぬのだろうとも思う。
数分の沈黙ののち、耀哉は口を開いた。
「ならばその治療法を受けよう」
それに驚いたのは妻のあまねだ。
「よろしいのですか? 人に戻れるとは言え、鬼に身をやつすなど……」
「鬼といっても人を襲ったり食べたりするわけじゃない。ならば、一時身を落とすぐらい、神仏も許してくれるだろう……それに、私の体が治らないと、子供たちに要らぬ心配をかけてしまうからね」
耀哉が言う子供たちとは実子だけでなく鬼殺隊の隊員たちの事でもある。
「ならば鬼にしよう」
「あぁ……してくれ」
無惨が耀哉の首に触れた。
そのままぽきりと折れてしまいそうなほどに弱い身体だと、無惨は思った。
「……ふん」
無惨は己の人差し指を耀哉の首に差した。
そして血を少量入れる。
すぐさま指を離す。
「ぐっ……がっ……」
瞬間、耀哉の身体に異変が起こる。
体が見る見るうちに治っていく。
歪んでいた目は治り、元の美しい顔へと変わる。
そして頭部から一本の角が生えてきた。
「お館様!」
あまねが駆け寄ろうとするのを無惨が止めた。
この状態の人間に下手に近親者を近づけると、喰われかねないのである。
鬼になりたての者の人喰いの衝動は、据え置きなのである。
二分ほど待つと変異が終わる。
すぐさま珠世が注射を取り出し耀哉の腕にぶっ刺した。
注射器の中身は鬼を人に戻す薬だ。
耀哉はがくっと落ちた。
それから角が徐々に消えていく。
鬼から人に戻ったのだ。
「これで治療完了です」
珠世が自信を持ってそう断言した。
「……ふ、ふ。これが、健康な体か」
耀哉はすぅっと立ち上がった。
「……ありがとう、鬼舞辻無惨。私はこれで、子が大人になるまで見守ることが出来るし、子供たちを悲しませなくなる」
「……そうか、好きにしろ」
こうして、産屋敷家は長年の呪いから解放された。