作業机の上には、まだ乾ききらない塗装された機械と図面と工具。
類は一段落ついたらしく、椅子の背にもたれながら大きく伸びをした。
「ふぁ……あ……。ああ、司くん、もうこんな時間だよ。」
「む? ……日付が変わっているではないか!うっかりしていたな。」
司は慌てて机の上を片付け始めたが、その手を類が軽く掴んだ。
「焦らなくていいよ、司くん。
少しだけ休憩しようじゃないか。」
類が立ち上がって、奥の棚から取り出したのは、インスタントのカップラーメンだった。
「じゃじゃーん、カップ麺だよ。
こういうの、たまに食べたくならないかい?」
「……夜食、か。確かに少し小腹が空いたな。」
「だろう?」
類は周囲を漁り、出てきた電気ポットをプラグに指し、水を汲んできてお湯を沸かす。
数分後、白い湯気がポットから上がりカチッとお湯が湧いた合図がする。
お湯を注ぎながら、類は湯気の中で笑う。
類の部屋の蛍光灯が、その笑みを淡く照らしていた。
3分後、湯気といっしょに広がるのは、スープのおいしそうな香り。
「はい、司くんの分。」
類が割り箸を渡すと、司は少し照れたように受け取った。
「ああ、ありがとう。類。……いただきます。」
「どうぞ、召し上がれ。」
ふたりはソファに座り、ずるずると麺をすすった。
夜更けの静けさに、湯気と音だけが心地よく響く。
「……ん、美味しいな。」
「だろう? ……夜食って、なぜこんなに幸せなんだろうね。」
類がほほえみながら司のカップを覗き込む。
「司くん、ちょっと待って。そこ、具が沈んでる。」
「む?どこだ……。」
箸を伸ばす類の手が、司の箸と重なった。
一瞬、2人とも止まる。
「……っ、あ。」
「……でも、せっかくだし……。」
類は軽く笑って、麺の一口を持ち上げると、司の口元に寄せた。
「はい、あーん。」
「ん、あー……ん。……熱いが、おいしいな。」
そう言いながら、司の頬がほんのり赤く染まる。
今度は司が、同じように類へ箸を伸ばす。
「類もだ。口を開けろ。」
「司くんからとは嬉しいな。」
類は軽く目を閉じて、差し出された一口を食べた。
「ん……ふふ、あったかい。」
「……それは、ラーメンだからだろ。」
「……それだけじゃないよ。」
類の声が少し柔らかくなって、司の視線を絡め取る。
そのまま沈黙が落ちた。
窓の外には夜の街の灯り。
お互いの距離が、少しづつ近づいていく。
2人は目を合わせたまま、かすかに笑った。
夜の静けさと湯気の中に、やわらかなぬくもりが溶けていく。