ダンジョンに家族を求めるのは間違っているだろうか 作:アロンソ卿
「「乾杯!」」
豊穣の女主人では、リリとベルが戦勝祝い兼リリのファミリア移籍に伴う宴会が開かれていた。
リリはベルが戦争遊戯に巻き込まれる傍ら、自らの主神であるソーマに掛け合って、ファミリアの改宗を行った。何でもその際に神酒を躊躇いもなく一気に飲み干して、床にグラスを叩きつけて改宗させろと迫ったらしく、何が気に入られたのか何の遺恨もなく金も払わずに改宗できたらしい。
「ベル様もいかがですか。ソーマ様がベル様に興味を持たれて、少しくらいなら譲るとおっしゃっていましたよ」
「ああうん……またそのとき、な」
リリから話を聞く限り薬物かと疑うほどの酒だとか。それほど美味いのかと興味をそそられるが、あまり醜態を晒したくはないなあと、やんわり断る。というか、どんな話をしたら俺に興味を持ったのか、目の前でにこやかに笑うリリには聞けそうもなかった。
「それにしてもヘスティア様はアポロン様から色々奪っていかれましたね」
「そうだな。あんなのを見せられると、もう戦争遊戯なんてやりたくなくなるな」
神様は神アポロンのほとんど全てを奪った。まず全財産、これがもうすごい。さらには賠償金として、アポロン・ファミリアの団員に借金という形で振り分けられた。1人頭だとそれほどだろうが、逆にうちのホームが襲撃されかねない。
ホームといえば、俺が破壊してもう修復の発注も済ませてあったらしいアポロン・ファミリアのホームも接収した。今はゴブニュ・ファミリアが工事を続けているらしい。完成まではこれまで通りのホームで生活することになっている。
「それで、明日以降はまたダンジョンに潜りますか?」
「ああいや、明日はちょっと……」
しないといけないことがあった。まだ予定は決まっていないが、その準備は今のうちに済ませておきたい。だからこそ、彼女とも話しておかなければならないのだが。
「お待たせしました。ご注文いただいた料理です」
そんなことを言いながら、シルさんが料理を運んでくる。しかしその様子はいつもとは違い、快活さというものがあまりなかった。
どうしようかと逡巡する。戦争遊戯前、彼女とデートの約束をしたのだが、そのことについてまだ何も話せていなかった。
調子が悪いのならまたの機会に話すほうがいいのかもしれない。けれど、先に伸ばすのも悪い気がした。
「シルさん、先日お話ししたデートの件ですが、都合の良い日はありますか?」
なかなかの発言である。しかしその発言は酒場の喧騒に紛れて、目の前のとんでもない顔をしているリリを除いて他には聞こえなかった。
「……ええと、明後日なら空いていますけど……そうですね、また明日の朝にでもお伝えしますね」
悩んでいるような、そんなそぶりを一瞬だけ見せた彼女は、それをすぐに内側へ包み込んでまた仕事に戻っていった。
「……というわけで、明後日もダンジョンにはいかないことになった。リリはそうだな、神様と一緒に、新しいホームの改築について金銭等の管理をしてほしい……。リリ、大丈夫か」
「……デート、デート……?????」
突然のことに、それからしばらくリリの思考は停止したままだった。しかし指示を出した俺としても、思考はシルさんの様子に引っ張られたままで、僅か酔いつつあった脳は一気に醒めていった。
翌日、シルさんの遣いがやってきて、デートはキャンセルとなった。
〇〇〇〇〇〇
神フレイヤは無表情のまま寝台に倒れ伏していた。原因不明の心の揺れと、それに端を発する心身の疲れから、彼女にしては珍しく何もできないでいた。
自分は美の女神である。しかし今の心中は決して美しくないものであった。
かつてベルに抱いた想い──強くあろうとするその殻が砕かれ、その芯にある弱い本当の姿を見せてほしい、という身勝手な想い──はいよいよ危険な領域に到達しようとしていた。
それは元来、今のままでも美しいが、本身を晒した姿もまた別の美しさがあるとの考えから至ったものだった。
しかし今やベルの在り方を◽️◽️、否定し、必ずや打ち砕かなければならないというような考えが混ざり込んでいた。
それは美の神ではありえない。だからその想いをこそ否定しても、彼を見れば湧き上がる。そもそも何故そう思うのかすら分からなかった。
だってベルを初めて見たとき、その在り方を美しいと思ったのだから。
だから女神は一度距離を置くようにした。けれど、その在り方がどのように転ぶのか、そこから目を離すことだけは決してできなかった。
そして、その理由すらも、何もかもが分からないままだった。
冒険に行くときは『なりたい自分になることができている』し、誰かと敵対しているときは『あるべき自分にあろうとしている』という、無意識ながらもどちらもプラスマイナスどちらにもクリティカルヒットというね。