アイシールド2/1   作:寛喜堂秀介

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35 東京大会王城戦後

 

 

 全国高等学校アメリカンフットボール選手権、東京大会優勝。

 それはアイルがかつて目標としながらも、手の届かなかった偉業だ。

 

 準決勝、西部相手の敗戦。3位決定戦、盤戸との死闘。

 いずれもアイルを形作る大事な経験だったが、それ以上に西部戦、王城戦での勝利で得たものは計り知れない。

 

 決勝の興奮冷めやらぬまま。王城をはじめ会場中から祝福を受け、そのまま祝勝会へとなだれ込んだ。

 ビールかけ的なアレもやって、スタッフチームやチアリーダーたちも巻き込んでのお祭り騒ぎ。さんざんはしゃいだものの、疲労がピークの状態では長続きもせず、その日は部室に戻ってから解散となった。

 

 そして翌日。

 全身の筋肉痛と戦いながら登校すると、セナや三兄弟とともに、クラスメイトから祝福を受けた。

 特にセナは、アイシールド21の正体だってことがバレているので、クラスの女子たちに囲まれ、キャイキャイ言われている。

 

 

「ねえ天王洲さん、あれいいの?」

 

 

 クラスの親しい女の子が尋ねてくるけど、特に思うところはない。

 セナであれば、なにがあろうとアメフトを疎かにしないと、アイルは知っている。

 

 

 

「まあ、本当に大事なものがなにか、忘れてなければいいんじゃないかな?」

 

「ほ、本妻の余裕……」

 

 

 女の子がなんか変なことを言ってるが、大事な物とはもちろんアメフトである。

 

 ともあれ。

 セナがクラスの男子たちの「今日だけはめでたいから許しといたるわ」という血涙混じりの怨念を受けながら、放課後。

 

 

「ひいいいい、やっと部活勧誘合戦が終わった……」

 

 

 運動部の連中に押しかけられたセナは、這々の体で部室にたどり着いた。

 

 

「バスケ部とかサッカー部とか野球部とか剣道部とか柔道部とか……あと石丸さんとか、すごい人の数だったよね」

 

「いやほんと、鈴音がいなかったら収拾つかなかったよ……ありがとう」

 

 

 いつか来た道ではあるが、アイルも引くほどの勢いだった。

 そんな運動部の勧誘を見事捌いてくれたことをセナが感謝すると、鈴音はなだらかな胸を得意げに反らした。

 

 

「ま、敏腕代理人(エージェント)だからね! 地味に兄さんなんかも人気だったけど、やっぱセナがダントツ!」

 

「俺に勧誘がなかったのは、ちょっと納得いかなかったけどな!」

 

「モン太はノーコンがバレてるから……」

 

 

 モン太が不貞腐れているが、まあどう考えても球技系の部活には向かない。

 

 

「そういえばアー姉、表彰式なに着ていく? 私このあとセナたちを、表彰式のためのかっこいい服買いに連れてってあげるつもりだけど、アー姉もいっしょに行かない?」

 

 

 鈴音が尋ねるが、表彰式の衣装を気にする必要がないことを、アイルは知っている。

 

 

「いや表彰式はユニフォームだから……」

 

「!?」

 

「いやそんな悲しそうな顔しないでよ。来週の関東大会の抽選会に着てく服も要るだろうし、服選びはいいと思うよ。わたしは……なんか母親(マミー)からいろいろ送られてきたみたいだから……」

 

「ママコーデ!?」

 

 

 さきほど、家政婦の水戸さんから、そのような電話があった。

 たぶん昨日の試合の放送を見てて、イメチェンの一件で、娘を着飾らせたい欲が暴走したんだろう。

 

 

「……あ、じゃあこうしよう! 私はセナたちにかっこいい服買ってくるから、アー姉は送られた服合宿所に持ってきて! で、みんなでファッションショーしよ!」

 

「それ鈴音がアイルのファッション見たいだけじゃ……」

 

「いいの! セナも見たいでしょ! じゃあファッションショーは明日開催ってことで、よろしく!」

 

 

 セナのツッコミにものともせず、鈴音は強引に決めてしまう。

 

 そんなことがあって、翌日。

 

 

「第一回! アー姉ファッションショー!」

 

 

 合宿所にたむろしてた三兄弟や、嗅ぎつけて加わった山岡、佐竹。

 そして当然のように居るまもりを巻き込んで、アイルのファッションショーが始まった。

 第一回と冠がついていることには激しく物申したいが、まもりまで味方してて、もうなんか止まらなそうである。

 

 

「あれ……僕たちは……?」

 

「目的変わっちまってるから忘れとけ」

 

 

 地味ながらもお高めなファッションでキメたセナとモン太が、遠い目でつぶやく。

 カジノで一発当てたふたりは、イメージづくりの一環ということもあり、超激安ファッションモール「aiai」ではなく、鈴音に見立てて貰ったブランド服を着ているのだが、鈴音はもうアイルに夢中である。

 

 むしろ黒木や十文字が「お、いいなソレ」と食いつきがいい。

 

 ともあれ、アイルは何度も2階で着替えてはみんなにママコーデを披露する。

 なぜか混入しているアイドル風ドレスから、上品な女子大生スタイル、ふわっとした清楚なお嬢様風から、これアメリカの町中で見たって感じのストリートファッションまで。

 

 ドギマギしてるセナ、素直に褒めてくるモン太、テンションぶち上がりな鈴音。

 そしてどっちかっていうとセナの反応に母性をあふれさせてるまもりに、ノリノリな山岡と佐竹。「やべーとこに巻き込まれた」と脂汗流す三兄弟。カオスである。

 

 

「でもよ、なに着てもドリルの自己主張が強えな」

 

「なに言ってんのモンモン! それがいいんじゃん!」

 

 

 モン太の感想に鈴音が食ってかかり、山岡や佐竹が激しくうなずく。

 

 

「でも、みんな似合ってると思う……でも、アメリカ旅行で着てた服とかいいかも」

 

「アメリカ旅行……? ああ、ジャージ。あれは似合ってる自信があるよ。着てて一番気分が落ち着くし」

 

「いや違うくて! 飛行機の時とかに着てたゆったりしたブラウスとか、ああいうの……!」

 

「あー、セナずっるー! 私もそれ見たかったー!」

 

 

 なんて話をしながら、ファッションショーは続き。

 とりあえず観客の反応が一番よかったものが大賞に選ばれた。

 

 裾にフリルの付いた白いハイネックブラウス。

 真紅のブレザーに、同色のミニ丈のプリーツスカート。黒タイツに赤いブーツ。

 学生服調ながら、デビルバッツのユニフォームを彷彿とさせるカラーリングで、アイルの金髪縦ロールとも、誂えたかのように似合っている。

 

 

「ちょっと派手めだけど、これならまあ……」

 

「うん、いいと思う。かっこいい!」

 

「やっぱ派手な方が似合うよなお前」

 

「やー! 妹にされたい欲が高まってきたぞー!」

 

「なんでもいいからクラスの連中が気づく前に早く終わってくれ……」

 

「ごめんこれ会報用に写真撮っていい?」

 

 

 そんな感じでワイワイやりながら、ファッションショーは無事幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 そして、日曜日。

 アメフト秋季東京大会、表彰式。

 

 

『──優勝、泥門デビルバッツ』

 

 

 優勝旗を受け取るのは、ヒル魔に蹴り出されて栗田良寛。

 気弱な巨体はガッチガチに緊張しながら旗を受け取って……実感が出てきたのだろう。感動のあまり、目から滝のような涙を噴き出す。

 

 そんな栗田を、泥門一同が口々に労う。

 栗田が泣きすぎて式が一時中断するハプニングもあったが、他チームの面々も、苦笑交じりに暖かく見守ってくれた。

 

 続いて発表されたのは、ベストイレブン。

 優勝チームである泥門からは、アイルの時より多くの選手が選ばれている。

 

 攻撃部門の(ライン)に、栗田良寛。

 同じく(ライン)から、十文字一輝。

 続いてランニングバックに小早川瀬那。

 そして守備部門のラインバッカーに天王洲アイル。

 

 

『ベストイレブンに選出された皆さんには、スポンサーのジャリプロより──軽さの常識を越えたスパイク、モデルSAKURABA(サクラバ)が贈られます!』

 

「ぐがあああああ恥ずいからやめて社長!」

 

「いやいや、いい靴だよコレ……」

 

 

 悶絶する桜庭を、キッドが慰めている。

 地味にアイルの前髪がぴょんって立つ将来が約束されてしまったが、それはさておき。

 

 

『──秋季東京大会MVPは──蛭魔妖一』

 

 

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 

 アイルの時は、進清十郎がMVPだった。

 おそらくは泥門を優勝に導いた司令塔としての活躍を評価されてのことだろう。

 あるいは、進清十郎にはまだ上を見ていてほしい。そう願って進が外された結果なのかもしれない。

 

 でも──

 

 

「どうしたの、アイル?」

 

「いや、なんだろう……ヒル魔さんが評価されたことが、思ったよりうれしい?」

 

 

 ヒル魔のアメフトへの情熱も、勝利への執着も、NFL(プロ)行きの夢も。

 そのために誰よりも努力していることも、知ってるから。世界大会の最中、知ってしまったから……自分が評価されたことよりよっぽど、ヒル魔の受賞がうれしい。

 

 ヒル魔が壇上に立ち、会長から表彰を受ける。

 次いでジャリプロ社長からノートパソコンを受け取ると、会場から万雷の拍手が贈られた。

 

 

「ヒル魔さん、おめでとうございます!」

 

 

 列に戻ってきたヒル魔を、仲間たちが口々に祝福する。

 その最中、ヒル魔は手に持つ賞品のノートパソコンを、ぽん、とアイルの頭に置いた。

 

 

「おっとっと……?」

 

 

 わけも分からず、アイルは頭上のパソコンを手で支える。

 ヒル魔はそのまま、立ち止まることなく通り過ぎて。

 

 

「ケケケ、半分はてめえの手柄だ。取っとけ」

 

「え? え……はいっ! ありがとうございます!」

 

 

 驚きながらも、アイルはあわててヒル魔の背に頭を下げる。

 ベストイレブン選出も感慨深かったが、ヒル魔に働きを認められたことは、より以上にうれしいかもしれない。

 

 

「ガラにもねえ真似しやがって……ま、受け取っとけ。奴なりの礼だ」

 

「僕も、僕もうれしいよ。ヒル魔が、ヒル魔がMVPだなんて~!!」

 

 

 苦笑を浮かべるムサシと、おいおい泣く栗田。

 モン太や三兄弟をはじめ、泥門一同、ひときわ大きな祝福を送る。

 

 

「セナ、どうしたの? ぼーっとしちゃって」

 

「いや、なんでもないよ。なんでもないから!」

 

「負けちゃダメよセナ!」

 

「いや、妖一(ヨー)兄ぃのはそういうんじゃないと思うなあ……」

 

 

 アイルとセナのやりとりに、まもりと鈴音が加わる。

 そもそもチームのほぼ全員が、ヒル魔にそういう情緒などないと思ってる。

 それどころか、アイル含む何人かは、ヒル魔を人類ではなく、ピッコロさんあたりのカテゴリに分類しているという事実は、さておき。

 

 わちゃわちゃしながらも、表彰式は終わった。

 短い休息の後、すぐに関東大会に向けた練習が始まる。

 校内で生徒たちの声援を受けながら、泥門デビルバッツ一同は走る。

 関東大会へ、そして夢の場所、全国大会決勝(クリスマスボウル)へ。

 

 勝利を重ね、駆け抜けていく。その覚悟を決めながら。

 

 

「──行けよアメフト部! 全国大会決勝(クリスマスボウル)!!」

 

 

 

 




アイシールド2/1にお付き合いいただき、ありがとうございます!

東京大会編完結ということで、一旦一区切り。
ひとまず、当初完結予定の神龍寺編完結まで、書き溜めさせていただきますので、再開をお待ちいただけましたら幸いです!
ここまでの応援と声援に感謝を。神龍寺編もよろしくおつき合いください!
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