花人間が麦わらの一味に加入したようです   作:絹毛鼠

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ボーイ・ミーツ・リリィ(W7編2)

 船の修理について査定が終わった後しばらくして、メリー号のもとにチョッパーとサンジが戻ってきた。チョッパーと一緒にいたはずのロビンははぐれてしまったらしい。

 メリー号は直せないということを二人に伝えると、二人は驚愕して声を上げた。

 

「本当かよ……!!」

「そう言ってた……その船大工はな…」

「この船が……!?」

「もう直せない……!?金があってもか!?じゃあ……ど、どうなるんだ?」

「最終的な判断は船長たちがするでしょう。造船所にいる大工たちから、もっと詳細な説明を聞くはずです」

「そんなこと言われても、話が極端すぎるぜマリーちゃん!だって船はいつもと変わらねェし……イーストブルーからこんなトコまで一緒に海を渡ってきたんだぞ……!?」

 

 信じられないとサンジが俯きながらボヤくように呟いた。そんなサンジにゾロが冷徹な答えを言った。

 

渡ってきたからこそ(・・・・・・・・・)だろ。人間なら波を超えるたび強くもなるが、船は違う。………痛みをただ、蓄積するだけだ」

「腑に落ちねェ……!ウソップの奴、これ聞いたらなんていうか……」

「おれメリー号が好きだぞ!」

「―――全員そうさ、だが現状打つ手はねェそうだ」

 

 感情を見せない声色で、ゾロはサンジとチョッパーに告げる。メリー号の損壊とロビンの不在によって落ち着かない午後となってしまった中で波音だけが響いていた中、「みんな―!」とナミが叫ぶ声が微かに届いた。

 

「あれ!? ナミが返ってきたぞ!」

「?? ん? 1人みたいだな……ルフィとウソップはどうしたんだ? ナミさ~ん! 何かあったのか~~~!?」

 

 一人だけで帰ってきたナミに事情を聴く。

 空島で手に入れた黄金は3億もの大金になったが、そのうち2億をフランキー一家に奪われてしまったらしい。その時にウソップは重傷を負い、今は街角で休ませているとのことだった。ルフィはフランキー一家を探しに飛び出してしまったらしく、行方が知れないという。

 

 そこで、ゾロたちは3つに分かれて行動することとなった。残った1億を守るため船に残るナミ。ロビンを探しに街へ向かうマリー。残った3人はウソップを回収しフランキー一家へお金を取り戻しに向かうこととなった。

 

「どうして!? マリーは戦えるんだから、私と一緒にお金を守るべきでしょ!?」

「こいつは今、戦いの役に立たねェ。青キジと戦った時に消耗した体力が戻ってないらしい。それだったらテレパシーとやらを使ってロビンを探したほうがマシだ」

「え……大丈夫なの、マリー?」

「正直、戦闘はかなり厳しいです。普通に生活する分には問題ありませんが、しばらくは戦闘行動に協力することは難しいでしょう」

「……分かった、無理しないでね!」

「ええ、ナミもお気をつけて」

 

 ナミたちと岬で別れ、マリーはウォーターセブンを走る。

 テレパシーで周囲の思考が聞こえるマリーにとっては、実際はどれほど静かな街であっても雑踏に満ちた街と変わらない。その聞こえた声を取捨選択し、ロビンの声だけを聴き分ける。黒のハイヒールが石畳を蹴り、ドレスの裾をバサバサと揺らしながら走っていると、どこかの廃屋の2階からロビンの声を聞き取った。どうやら、傍にいる誰かと会話しているらしい。

 

(会話の内容までは分かりませんが……楽しいという感情は感じられませんね)

 

 角を曲がって廃屋の中へと駆け込む。そこにロビンがいるはずだと確信しながら扉を開けた。しかし―――――

 

「……カク、ロビンはどこに行きましたか?」

 

 そこにロビンはいなかった。いたのは、ウォーターセブンで催されている祭りの仮面をかぶったカク一人だけだった。

 

「ニコ・ロビンか。あやつにはちっと席を外してもらったわ」

「なぜロビンがあなた達と一緒にいるのです、CP(サイファーポール)

「ほう、再会した時に何も言わんかったから忘れているのかと思うたが、ワシがCPなのは覚えとったか」

「あの孤児院がCPの育成所となっているのは覚えていましたとも。それより質問に答えてください。ロビンはどこに?」

 

 警戒心とともに、いつでも逃げ出せるよう扉を背にする。カクから敵意は感じられないが、油断はできない。敵意、悪意がなくとも、人は人を貶められる。マリーはそれを過去の経験で思い知っていた。

 

「あの女ならワシらと仕事じゃ。お互いに利があって約束を交わした」

「どんな契約を?」

「ニコ・ロビンが政府に身を預ける代わりに、麦わらの一味がこの島を無事に出航すること。そんな契約じゃ。あの女の知識は、世界政府にとって脅威だからのう」

「なっ……!?」

 

 マリーは驚愕して目を見開く。

 ロビンが契約したことでも、カクの言葉に嘘がないことでもない。

 

(彼女はかなり慎重な性格のはず。普段であれば、そんな契約に乗るようには見えませんが……?)

 

 政府との契約なんてものを、ロビンが信じたということの方に驚愕していた。

 

「政府は、お前さんの身柄も欲しいと仰せじゃ。協力してくれるのなら、一度故郷に送って旦那さんと会わせることも許容すると言っている」

「―――――――」

 

 その言葉に、思考が止まる。

 悪魔のささやきのような誘惑。自分が欲してやまないもの。

 もしそれが本当に叶うのなら、これ以上の報酬は無い。カクの思考を読み取っても、嘘は感じられない。

 自分にとって何よりも優先する物。その言葉に、そのほか全てが崩れ落ちた。

 

「………いいでしょう。ただし、一つ確認と、条件を追加させてもらいます。」

「ほう?」

「まず確認から。わたくしを故郷に一度返してから政府に身柄を渡すという事ですが、お父様はそれに納得されましたか?」

「うむ、上で話はついておると聞いている」

「では追加の条件を。政府に身を預けた後の、ロビンの衣食住と身の安全の確保を要求します。ロビンから得た知識をどう扱おうと政府の勝手ですが、知識を引き出すために拷問にかけるなどの行為を禁じます」

「ふむ……なるべく遵守しよう。ニコ・ロビンが脱走を企てない限りは暴力的な行為を行わない。その代わり、こちらからも条件がある。

生命力の限界まで空想具現化を使い切ってもらうおう。あんな無法な能力を残されては、いつ逃げるかひやひやするからのう」

「……わかりました」

 

 マリーの言葉をカクは紙に書き、何回か確認してからポケットにしまった。余程マリーの身柄が重要なのか、カクがそういう判断を許されるほどの上官なのかは分からないが、すんなりと要求が通ったことに安堵する。

 そういえば、これでメリー号を降りることになるのかと思って、最後にすべきことを思い出した。

 

「それでは空想具現化を使い切るため、わたくしの荷物持ちをしてください、カク」

「おう……おう?」

「政府に身を預けるのならば、麦わらの一味からは抜けることになります。であれば、手切れ金の一つも必要でしょう。空想具現化で作った貴金属を換金しますので、お金を船に運ぶのを手伝ってください」

「え、その能力って自然物だけじゃ、おい! ちょっと待て!」

「わたくしのイメージ力が及ぶような単純な構造のものなら純粋な自然物じゃなくても作れますよ。分かったらほら、早く来てください」

 

 カツカツと石畳にヒールが響く。

 カクがこちらに近づくのを待たず、マリーは街へと歩き出した。

 

 

 

 街の中を移動して換金所の中に入り、受付に向かう。

 金属と帳簿から香る紙の匂い。

 受付の男に個室に通され、「換金する物を見せてくれ」と言われ値踏みするような視線を向けられた。

 

「その前に確認を。現在の白金の買取価格はグラムいくらですか?」

「おや、売却する物品は白金ですか。歴史的、装飾品としてのデザインの価値は別と考えれば、現在のグラム単価は約1万1千ベリーですね」

 

 その言葉に嘘がないことを確認する。そして、マリーは相手の死角で発生させた空想具現化で作り上げた白金のインゴットを差し出した。

 

「なるほど。では、1億1千万ベリーで買い取っていただきます」

「えっ……!? か、確認いたします!」

 

 差し出したのは、白金の1キロインゴットを10個。

 これが今のマリーの生命力が許す最後の空想具現化。これ以上は寿命を削ってしまう上、身体能力も普通の少女並になってしまう。政府を信用させるために切った、彼女の手札だった。

 

「……カク、これでわたくしは空想具現化を使い切りました。」

「わかった。メリアの生命力を測定する器具がある、後で確認させてもらうわい」

 

 鑑定士に聞こえないよう、小声で話し合う。どうやって空想具現化を使い切ったか確認できるのか疑問だったが、測定できる器具があるらしい。誤魔化しが効かないが、信用が得られるのなら悪くないと判断した。

 

 そのあとは鑑定士にしばらく確認してもらい、間違いなく白金であると確認が取れ、事前に金額を確認していたこともあって恙なく換金してもらうことが出来た。

帰り道の途中、カクが持っていた首輪状の機械によって残った生命力を測定され、確かに最後の空想具現化だったと確認が取れた後、一度船に戻ることになった。

 

「しかし、このような機械まで開発するとは。政府は余程メリアを利用したいようですね」

「あまり大きな声で話すな。ワシは1番ドックの大工職のカク。ここじゃあ、政府の人間というのは伏せられている」

「そうですか。では何について話しましょう? 貴方のプロポーズについてですか?」

「やめんかい!! ん? あそこにいるのは……」

 

 帰りの道すがらカクを揶揄っていると、見覚えのある鼻が目についた。

 

「あれは……ウソップ!? ちょっと、どうしたんです!?」

「マリー!?お前今までどこに……」

 

 傷だらけの姿が目に入り、思わず駆け寄った。

 近づくだけで、鉄の匂いに思わず喉が渇く。

 鼻を抑えながらウソップに肩を貸すが、ウソップは「触んな!」とマリーを振り払ってしまった。

 

「どうしました?痛かったですか?」

「ちげェ……」

「ではどうしたのです。それほどの怪我ならチョッパーに安静にしなさいと言われなかったのですか?」

「っつ………! おれはせっかくの金も奪われた、役立たずだ。もうあいつらの強さには着いていけねェ。だから、あいつらとは別れてきた……」

 

 ウソップはそう吐き捨てた。これ以上話すことは無いというように、どこかに歩き出そうとするのをマリーは止めるために声をかける。

 

「待ってくださいウソップ。そういうことなら、わたくしも一緒に行きます」

「なんでだよ……お前はバリアも出来るし、火を噴いたりできる能力もあるんだろ!? 俺とは全然違うくせに、同情なんかしてんじゃねぇよ!!」

「戦えないという意味じゃお前らは今、同じじゃ。そこはワシが保証するわい」

 

 激昂するウソップに冷静に返答しながら、後ろからついてきていたカクが金の入ったアタッシュケースをウソップの前に置く。「ワシは邪魔になりそうじゃな。あとはそいつに運んでもらえ。明日また迎えに来るでの」と言って、カクは早足に去って行ってしまった。

 人通りは少なくなりつつあるが、往来の中にこの金額を置いておくのは少々怖い。感覚の無い今のマリーの手で運ぶことは出来ないため、ウソップに運んでもらうしかないだろう。

 

「すみませんがウソップ、事情はちゃんと話すので今はそのケースを運ぶのを手伝っていただけませんか?」

「お、おう……? いや、なんでおれなんかに頼むんだよ! また取られるとか考えねェのか!?」

「はぁ……。ウソップ、ちょっと手を出してください」

 

ウソップが困惑しながら手を差し出した。その手を出来る限り強く引っ叩く。手はぺちん、という軽い音をたてて少しだけ揺れた。

 

「何すんだよ! 痛くはねェけどよ!」

「今、わたくしは現在の全力で叩きました。今のわたくしの力はこの程度です。この程度の荷物を運べないくらいに」

「……何?」

「青キジとの戦闘と、今回資金を調達するために行った空想具現化。その二つでわたくしのエネルギーは底をつきました。膂力は普通の少女と変わりませんし、手の感覚を失ったので何かをつかむことも難しい。ウソップがこれを運んで下さらないと、このお金はここに置いていくしかないですね」

 

 ちなみに1億ほど用意しました、という言葉にウソップが青ざめる。そして「分かったよ! 運べばいいんだろ!?」と悲鳴のように叫んで、鞄を抱えて歩き出した。

 

 

「なるほど……実力への不安とメリー号の買い替えに関して、船長たちと仲違いしたのですね。状況は理解しました」

 

 ウソップが取っていたらしい宿に一緒に入れてもらい、ウソップから詳しい状況を聞いた。

 メリー号が修復不可能とこの島の船大工に言われたことにより船を乗り換えると決めたルフィと、メリー号を見捨てられないウソップが、メリー号をかけて決闘をすることにしたらしい。それに加え、前々から一味のお荷物になっていると感じたウソップの不安が、預けられていたお金を奪われたことによって爆発したこともあったようだ。

 

「マリーもどうせ、おれがメリー号にこだわるのがバカバカしいって思ってんだろ……!」

「バカバカしいとは思いません。何を大切に思うかはウソップが決めるべきことです。他人が関与できることではありません。」

「……でも、マリーも買い替えには賛同していたって聞いたぞ」

「組織と航海は個人の情だけではやっていけません。効率と誇りを天秤に乗せ、冷徹な判断を下さねばならない。だからこそ、わたくしも船を降りると決めたのです。足手まといにならないために」

「じゃあ、マリーのさっきの話は本気なのか? 一味をやめるって」

「わたくしの目的は故郷への帰還ですから、麦わらの一味に固執する理由はありません。それに、最初に約束した『金銭を稼ぐこと』『足手まといにはならないこと』という条件を満たすのは今後難しい。空想具現化を乱用して生命力が尽きた今の状況では、高値で売れる蜜の生成も戦闘もできませんので。

 お互いのために、ここで別れておくのが良いでしょう」

「………でもいいのか? というか、政府の船で行くなんて信用できるのか?」

 

 心配そうな声でウソップはマリーに確認する。それに関しては、マリーは口を噤むしかない。政府が信用できないなんてこと、マリーが一番わかっているのだ。

 

「信用はありませんが、ほかに選択肢がありません。麦わらの一味との契約を履行できなくなった以上、別の人間に頼る必要があります。そもそもの原因となった政府に責任を取らせるのであれば、わたくしとしても納得できます」

 

 故郷に帰った後、身柄を政府に預けるという契約までは話さなかった。話せば、彼らが自身を責めるだろうと思ったから。

 

「まあ、マリーが納得してるならおれがどうこう言う資格はもう無ェけどよ……。おっと、もう時間だ。ルフィの所に行くぞ」

 

 釈然としない顔をしながら、言葉少なにウソップが宿を出る。金の入ったケースを運んでもらいながら、マリーもそのあとを追った。

 

 すぐ隣にはしる水路から響く水音とともに、メリー号の待つ岬へと向かう。夜10時、行き交う人もほとんどいない街で、昼間とは違う町の顔を眺めていた。

 傷だらけのウソップに持たせるのを、申し訳ないと思いながら眺め、言い忘れていたことに気が付いた。

 

「言い忘れたことがあります、ウソップ」

「あァ? なんだよ」

「そのケースの中のお金は貴方にも受け取る権利があります。ざっくりですが、1500万ほどはウソップの分ですのであとで抜いておいてください」

「ぶふォ!? な、なんだよいきなり!? おれはもう麦わらの一味じゃねェぞ!」

「わたくしがいた時期は間違いなく、ウソップにもお世話になりました。ですので、受け取る権利はあるでしょう」

「そ、そうかよ……その……ありがとう」

「こちらこそ、今までありがとうございました。そのお金をどのように使うかはウソップ次第ですが、貴方が幸福になれる使い方をしていただければ幸いです」

 

 そう言うと、ウソップは黙り込んだ。ウソップはそのお金をメリー号の補修へと充てるだろう。わたくしにはそれは無駄であるとしか思えないが、そこに彼が幸福を見出せることを祈るばかりだ。

 

 

 

 そうこう話していると、目的地だった岬に到着した。船では一同が甲板に集合しており、物々しい雰囲気が感じられる。ルフィだけは船から降りて、仁王立ちでウソップを出迎えた。

 

「あっ、マリー! 遅ェぞ!」

「すみません、ロビン探しのついでにお金を稼いで遅れました。途中でウソップと合流したので、荷物持ちを頼んだのです」

「心配してたのよも~! ロビンは見つかったの?」

「その話は決闘のあとにしましょう。緊急性はありませんから」

「う~ん、ならそうするけど……」

 

 ウソップにケースを船へ運んでもらってから、マリーは船に背中を預け、船長とウソップの決闘をナミ達と共に眺める。正直この戦いの意味を見出せないが、男の決闘というものが軽いものではないことは知っているので、マリーは何も言う事はしなかった。

 

 ウソップとルフィの決闘は、まさしく激闘と言ってよかった。

 ルフィの能力と手札を知り尽くしたウソップによる、詰将棋のような頭脳戦。

 「どんな手を使っても勝ちに行く!」と宣言した通り、ウソップは終始自分のペースでルフィを翻弄した。

 

 刃物に弱いゴムの体へ放たれる手裏剣の雨。

 異臭のする腐った卵をぶつけることで隠した、ガスと火薬星の組み合わせによる大爆発。

 ルフィの強力なパンチを逆に利用した、“衝撃貝(インパクトダイヤル)”による反撃。

 

 それらは見事にルフィに傷を与えた。

 しかし、ルフィの耐久力がそれに勝った。終わりはあっけなく、ルフィはウソップの鳩尾に強力な一撃を繰り出し、もともと限界だったウソップの体力はそこで尽きた。

 

「バカ野郎…!! お前がおれに! 勝てるわけねェだろうが!!」

 

 倒れ伏すウソップと叫ぶルフィの姿を見ていられなくて目を伏せる。なぜ、このようなことで争うのか、マリーには理解できない。譲れないものがあるということが、メリアにとっては実感が薄いからだ。

 精神面にしろ肉体面にしろ、生存に必要なものがほとんどないメリアにとって、何かを求めるという思考自体が希薄だ。あらゆることが趣味であり、他人以上であることを求めない価値観は、ほとんどの事柄に執着しない。だからこそメリアという生き物は、他人に何かを求められれば拒むことはほとんどない。大抵のものは、失っても構わないものだから。

 

 ウソップの思考は、理解はできる。物であれ人であれ、世話になったものへの感謝はメリアも同じだ。しかし、壊れた物、死んだ人への哀悼はメリアには薄い。死者に思いを馳せることを無駄とは言わないが、そのために悲しむことは無い。

死を感謝とともに送り出し、過去に執着しないのが正しいメリアのあり方だ。

 

 だから彼らの感情を理解はしても、共感は出来ない。それが、マリーはどうしようもなく悲しく感じられた。

 

「……メリー号は、お前の好きにしろよ」

 

 ルフィがウソップにメリー号を渡す宣言をしたのち、別れの言葉を告げる。ふと立ち止まり、「重い…!!」とルフィが呟いた。それが船長という立場の重さを物語っていた。

 

「船を明け渡そう。おれ達はもう……この船には戻れねェから」

 

 ゾロがそういうと、ナミたちが引っ越しの支度を始める。甲板に植えていた蜜柑の木も、クローゼットに入っていた服も、書きかけの海図も、すべて。

 ウソップが使っていたものを除いて全て船から引き揚げたのを見て、マリーは閉ざしていたかった口を開いた。

 

「皆さん、わたくしから言うべきことが2点あります。片付けの途中なのは分かっていますが、少々お時間いただけますか?」

「ああ、そういえばロビンの事を聞かなきゃね。どうだったの?」

「はい、ロビンを見つけることは出来ましたが、会うことは叶いませんでした。どうやら避けられているようで、本人の意思で逃げられたようです」

「逃げられた……? ロビンが私たちを避けてるの?」

「ええ。怪我をしている様子は無かったので、緊急性は薄いと判断させていただきました。何やら事情がありそうですが、会えなかったのでそのあたりの情報はありません」

「そう……もう一つは?」

「わたくしも……この一味をやめさせていただきます」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 思ってもみなかった発言に、愕然とした声を上げる一同。一瞬の間の後、驚愕を困惑に変えたルフィとナミが詰め寄ってきた。

 

「な……なんでだよ!? なんでお前まで……!」

「以前お約束した内容を、守れなくなったから。そして、代わりに故郷へと連れて行ってくれるという取引を受けましたので、あなた方に迷惑をかける必要がなくなりました」

「迷惑って……青キジと戦った体力が戻ってなくて戦えないって話? でも、休めば元に戻るんじゃないの?」

「今から以前ほどの能力に戻すには、ほとんど寝て過ごしても3か月はかかります。またその間、金を稼げると提案した蜜の生成も不可能です。それでは、『足手まといにはならない』『金を稼げる』という契約に反します。それに……ナミ、手を出していただけませんか」

 

 握手をするポーズで手を差し出す。差し出された手を思いっきり握りしめるが、ナミは全く痛みを感じていない様子だった。

 

「マリー?」

「……いま、わたくしは全力であなたの手を握っているつもりです。ですが、痛くないでしょう?」

「思いっきり……これで? 全然痛くない……?」

「空想具現化の使いすぎですね。今日お金を稼ぐときにも使いましたが、そのせいで完全に手の感覚が無くなりました。」

「それならなおさらだ! おれ達のためにしてくれたのに、今は足手まといだから船から降ろすなんてことはしねぇ!」

 

 納得できないと、声を張り上げるルフィ。それに対して、マリーは冷静に言葉を返した。

 

「メリー号もわたくしも変わりません。使えないものは切り捨ててこその組織でしょう、船長」

「ちげぇ!! 戦えなくったって、マリーはおれの仲間だ!」

「では、こう言い換えましょう。あなた達ではもう、わたくしの故郷に送り届けるだけの実力を期待できない、と」

「なっ……!?」

「この島に来ていた政府と、新しく契約を交わしました。政府に利がある取引をする代わりに、わたくしを故郷に送り届けると。ウソップに運んでいただいたこのお金は手切れ金です。1億ベリーほどありますので、新しい船を買うのにお使いください」

「そんな……うそでしょ、マリー……」

「ああ、もちろんあなた達に迷惑をかけるような取引はしていませんよ。あくまでわたくし個人が払える対価を差し出しましたので」

「そんなことは聞いてねェ! おれは……!」

「青キジが来た時、わたくししかまともに戦えなかった。そんな海賊団では、今後わたくしが故郷にたどり着けるか不安になったのです、船長」

 

 そしてマリーは、冷酷ですらある言葉を告げた。

 

「あなたがウソップとメリー号を切り捨てたように。わたくしも、あなたから離れます。

 今日までありがとうございました」

 

 有無を言わせない言葉に、ルフィの言葉が詰まる。迷惑をかけるから自分から抜けるという言葉の裏にあった、『お前たちはもう信頼できない』という拒絶に手を握りしめる。

 マリーはお礼の言葉とともに下げた頭を上げる。いつも冷静で、物事を引いた立場から眺めていた目が、まっすぐルフィを見つめていた。

 

「そうか……おれ達も、マリーには世話に、なった」

「今船に積んであるわたくしの物は、貯めておいた蜜を含めてすべて差し上げます。金策にしろ医療用にしろ、お好きに使ってください」

「ああ……」

「ちょっと、ルフィ……!」

 

 その言葉だけを残して、ルフィはまとめた荷物を抱えて街の方へと消えていった。その後ろをナミが追いかけていく。

 チョッパーは何か言いたげではあったが、ゾロが抱えて連れて行った。サンジは一言も告げず、たばこの匂いだけを残してルフィ達の後を追っていった。

 そして、岬にはウソップと、マリーだけが残された。

 

 

 灯の消えたメリー号の寝室で横になっている間、マリーは政府との契約について考えていた。

 

(お父様が政府に利がある契約をするはずがない。カクの言葉に嘘はありませんが、おそらくお父様が政府相手に嘘をついているか、カクが上司に騙されている可能性も否定できない)

 

 政府に対する不信もそうだが、マリーは己の父親についてもその性格はある程度知っている。

 父も散々政府に煮え湯を飲まされてきた身だ。マリーを、王族の体を政府に差し出すなんてことをするわけがない。

 

(王族ではない同胞の遺体を渡すのも嫌っていたお父様だ。わたくしを政府に差し出すなんて許容するはずがない)

 

 あの時、『王とは交渉していない』と返答される方がよほど信用できた。それでもどうやってお父様の本拠地である故郷からマリーを連れ去るのかという疑問は残るが。

 であれば、政府のこの甘言に乗って本当に故郷に帰れる可能性は低い。政府が嘘をついているか、父が嘘をついているか。そのどちらかと言われれば、政府の嘘の可能性に軍配が上がる。

 それをわかっていて、マリーはこの話に乗った。というのも、故郷に帰れる可能性に飛びついたわけではない。マリーがこの契約に乗った理由は2つほどある。

その一つは。

 

(彼らのもとに潜り込めば、ロビンを奪還する機会が得られるはず。なぜ彼女が冷静さを欠いているのか分かりませんが、彼女と話す機会があればその理由も分かるでしょう)

 

 ロビンの事を気にかけての事だった。

 というより、初めからロビンの事しかほぼ考えていなかった。だからこそロビンの身の安全を条件に入れたのだ。少なくとも自分の目の届く範囲ではロビンを傷つけないだろうとの考えで。

 故郷に帰れる可能性に浮ついたのは事実だが、正直ほとんど信用していなかったりする。

 

「う~ん……メリィ~……」

「……明日、治療道具を買わなければなりませんね」

 

 甲板で横になっているウソップの声が聞こえてきたので、明日の予定について考え始める。

 

 ともあれ、まずは政府に協力するふりをしなければならない。そのためにも、敵を騙すにはまず味方から。申し訳ないとは思いつつも、政府の信用を得るためには麦わらの一味から抜けるのが手っ取り早い。

 

(船長にはキツイことを言いました……帰ったら謝りましょう)

 




マリーさん、割と自己完結して動きがち
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