降りしきる雨の中で悲嘆に暮れる『彼』は、人の身でありながらも未知の世界に到達する。そこで『彼』は、進むべき道を選ぶことになる。
巨人の手が伸びてきて、私が目を閉じて、一体どのくらいの時間が経ったのだろう。もう、私は死んだのだろうか。
だが、何か妙だ。死んだとすれば、なぜ考えることができる。それに、この耳は未だに何かを拾い続けている。
ボーっと、だが確実にその音は聞こえてくる。
蹄鉄の踏み鳴らす音が聞こえる。音は不規則に乱れ、ドタバタと不格好だ。
(なんだ?何が起きている?)
死んだはずの私が音を聞いている。それも、安らぎとは程遠い、生きるための音が聞こえた。
私は恐る恐る目を開ける。その視界には、茶色の毛並みに身を包んだ、一頭の馬の鬣が見えた。私は、この姿に見覚えがあった。
「お前は…」
私の手は馬の首に回されしっかりとしがみついていた。回した手の感触で分かる。慣らすために何度も撫でたあの馬だ。
その馬は、私が第57回壁外調査で失ったはずの馬だった。女型の巨人との戦いで逃げ出し、どこか遠くへ、北西へと走って行ってそれっきりだったはずの馬が、今私を乗せて走っている。馬具も手綱もない裸の馬が、私を乗せて走っている。品種改良が施されたとはいえ、微弱な帰巣本能を馬は持っていると聞く。まさか、順繰りに私の居場所を探し回ってたとでもいうのか。
「うぐっ!」
馬が四つ足を地面に叩きつけるたびに、四連撃の衝撃が絶え間なく尻に走る。すごく痛い。
その痛みで、すぐに虚ろな酩酊から覚める。
(生きている。私はまだ生きている)
振り落とされないように、必死に馬の首にしがみつく。馬はひどく汗をかき、それでも、乗せる主を守るために走り続けている。
私の背後から、無秩序な地鳴りが追ってきている。巨人の群れははまだ私を追いかけて来ている。あの瞬間から、まだほんの少しも経っていなかった。いまだ死は迫っている。なんでこいつがこんなところにいるのか。そんな疑問は置き去りになる。私は馬の首にしがみつき、叫ぶ。
「頼むぞ。今度こそ」
馬はいななきながらも、足を止めない。
初めて壁外調査に出たあのときと同じように、馬は力強く駆け出した。
走り続けて、およそ一時間は経っただろうか、私が巨人に襲われた場所からもずいぶんと離れた。もう追ってくる巨人はいない。気づけば夕日もほぼ地平から消えかけ、月が顔を出していた。馬も少し落ち着いたのか、走るのをやめ、その場で立ち止まり、ブルルルと息を整えている。
「逃げ切れたか?」
平地の広がるウォール・シーナとローゼの間のどこか。なだらかな平野なりに背伸びをするこの丘は、それなりの距離まで見通せる高さを持っていた。
私がいたであろう方向を振り返ってみる。
地平のかなたに、何かが見える。芥子粒ほどの大きさのいくつかの何かが、月夜の光でも確認できるほどにだが、かすかにうごめいている。
戦慄した。この距離で動きを確認できるほどの大きさの生物は、一種類しかいない。
やつらはまた、夜にも動いているのだ。ウトガルド城の時と同じだった。
獣の巨人が率いてきた巨人たちは、夜にも動くことができる。
「もう少し、頑張ってくれるか?」
馬は首を数度振り、また駆け出した。
どれほど走っただろうか。真っ暗だった空は白んでしとしとと小雨が降りしだいていた。フードを目深にかぶり、なんとか冷たい雨をしのぐ。
決してやみくもに走っていたわけではない。巨人が向かってこないであろう西寄りに馬を進めていた。ウォール・ローゼまでたどり着けば、誰かはいるだろう。
思えば、戦況はめちゃくちゃだ。ここで逃げ出し、生き延びたところで、待っているのは敵前逃亡の死罪だろう。だとすれば、こうして逃げていることも、意味がないんじゃないのか。
(…変なこと考えてばっかりだ)
わからない。逃亡を続けておかしくなったのだろうか。過る思考を振りほどくために身体を大きく震わせると、私を乗せていた馬も大きく震える。一度震わせるだけで思考を振り切れたが、この馬の震えは雨を凌ぐためなのだろう。その証拠に、馬は、小刻みに震え始めた。
きっと長い間雨にさらされて、体が冷えてきたのだろう。残念ながら馬用の雨具は持っていない。思えば、私を助けに来るまで、こいつはどれほどの距離を走ってきたのだろう。そして、私を乗せてずっと走り続けている。巨人がいないか気にはなるが、そろそろ休ませなければ。
「ごめんよ。君の分はなくって。早く木陰に───」
馬の震えは途端に大きくなる。すぐさま馬は息も荒げて、脚をわなわなと震わせる。
「どうしたんだ?おい。オイ───」
馬は前足の膝から倒れ込み、私は前へと投げ出された。私はすぐに受け身を取るも、疲弊からひどく体を打った。どこも痛めていないが、それでも、痛いものは痛い。痛みを我慢しながら、馬に声をかける。
「おい!大丈夫か!」
馬は、横に倒れていた。目はかすかに上を向いて、再び立ち上がろうと一度激しくいななく。四つ足をばたつかせるが、ぬかるみの泥が跳ねるだけだ。
馬の横っ腹からは、ドクドクと血が流れ出ていた。
「待て。こんな傷、いつできたんだ?」
こんな傷は知らない。負傷した馬はそもそも調査兵団の馬として起用もされない。そして、ほんのさっきまでなんともなかった。馬も、何も不平を言わなかった。
はっと自分の手を見る。刃先が少し短く見える。折れたときと比べて、さらに少し短くなっていた。その刃先には、雨で流れきれていない血が付いていた。
まさか、走っている最中にも痛む素振りすら見せなかったこの馬が、必死にこの傷を隠していたとでもいうのか。私が突撃するべく突き刺したあの刃は、巨人を傷つけてなどいなかった。
「なんで…なんでここまで来たんだ!どこかの壁外で穏やかに草を食んでいれば良かったじゃないか!なんで、どうして…」
再度訊くも、馬は何も言わない。ただ、ぜえぜえと息を荒く吸っては吐くだけだった。だが、やがて呼吸は勢いを失ってゆき、やがて、とても静かになった。事切れたその馬の瞳は、いつぞやの訓練兵の時代に、事故で死んだ、あの兵士の瞳によく似ていた。静かで、どこまでも吸い込まれそうな、あの瞳に。
呼吸が浅くなる。急いで胸ポケットを漁り、スキットルを取り出す。が、中身は空だった。
あの戦いで、全部飲み干してしまったのか。それとももっと前からなのか。
水を注ぎ直すのも忘れて、ずっと…ずっと前に…。
ーーーーーー
空の隙間から辛うじて見える空の光に、少し変化なあった。
また少し、時間が飛んだようだ。ずっと空を見上げていた筈なのに。
痛みに気付いて見下ろした私の手指からは、血が滲みだしていた。爪はところどころ欠けて、土も入り込んでいる。
馬がいたはずの場所には、土と数多くの石が積み上げられていた。
(装置も外さず、必死に馬の亡骸を埋めようとしていたのか、私は)
私が長時間前のめりで作業をしていたためか、納めていたはずのブレードが、鞘から飛び出して雨粒を弾いていた。
右手のブレード、その柄から伸びるワイヤーはちぎれていた。
「もう、こいつもダメらしい」
私はそのブレードを、馬の墓に突き立てた。
「…短い付き合いだったな」
土の下は寒かろうと思い、自由の翼のマントも脱いで、ブレードに掛けてやる。
「……ごめんな」
また一人、死んだ。私のために。人でなかろうと、悲しみは同じだ。だが、涙は出ない。この両目は降りしきる雨に対して、あまりに乾いていた。空を見上げる。一向に止む気配はない。
私は、一体なんのために戦ってきたのだ。
幾度も目の前で仲間を失って、そのたびに悔やんで、でも、また何もできなくて、その繰り返し。
胸元のポケットに入った、からっぽの鉄瓶をまた取り出す。
……そもそも、こいつを持っていた理由も、やがて大人になる自分と酒が飲みたいって、父が言っていたからだ。
思いにすがり、記憶にすがり、己の足で立つことも忘れてしまった。
絵を描こうとしてることも、必死に本を食い入るように見つめていたのも、自分の源じゃ無かった。シガンシナにいた頃の友たち一人一人が、そうだったんだ。避難区画に来てから、彼らの姿を見なくなってから、私はその記憶に蓋をしていた。
かつての友達のことも忘れて、ただソイツらの真似事をして、それでも彼らにはなりきれなくて、もはやそれに劣等感すら抱かないほどに、私は忘却を重ねて。
私は、ただの贋作だ。
誰かを真似て、誰かから学んで、ただそれだけの人間じゃないか。
一切が、自分足り得ていなかったじゃないか。
兵士としての心ばえも、穏やかな精神も、標的に抱く恨みも、戦うための力も、すべて借り物だったのだ。
巨人を駆逐するという信念も、ただの借り物だったのか。
もう、全部諦めてしまいたい。私を運ぶ足も、立ち向かう刃も失った。
そして、もはや、誰かを憎み戦う心さえも、誰かの模倣でしか無かったのか────
(─!)
降りしきる雨の切れ間からふと、誰かの声がした。そんな気がする。
もしかして誰かが助けに来てくれたのだろうか、と一瞬疑ったが、その声の持ち主からして、それはあり得なかった。
今は亡き誰かの声が聞こえた。聞こえた気がした。どこだ?一体、どこから──
(───!)
頭の中を、言葉にならない言葉が打ち付ける。もういいんだ。もう、戦いたくない。
(─────!)
なんで…なんでここまでして生きなくちゃならないんだ。仇も討てない。誰も守れない。死んでいった兵士の言葉を伝えるべき相手も、きっともういない。もう、これ以上何を背負えようか。
頭を両手で抑え、体は前かがみになる。眉間は痛み、目元に力がこもる。だがそこから何かが滴ることなんて無い。
「もう嫌なんだ。なあ、頼むよ。やめてくれ。頼むからもう、出ていけ!もう、出て行ってくれ!」
ならば、と生者たちの声が頭に響いてくる。
(俺にはわからない。ずっとそうだ。自分の選択を信じても、信頼に足る仲間の選択を信じても、結果は誰にもわからなかった)
死んでいった彼らはずっと、こんな気持ちだったのだろうか。いいや、きっと見送ってきた仲間たちの数は、私なんか比較にならない。先輩たちもそうだったのだろうか?
自分の信じた道を選んでも、死んだら意味など無いのか。そんなハズはない。繋ぎ続けてきた。死んだ後も次の生者達が意味を継いでくれる。それなら、なぜここまで足掻いた?
死してなお終わらないと知りながらなぜ私は逆らったのだ。
鋭敏な『私』の聴覚から、雨音が消えている。
自分の腕で縛り付けたずぶ濡れのはずの私の身体も、新品の服に着替えたかのように乾いて、軽かった。私は固く瞑っていた両目を開く。
さっきまで泥と血でまみれていた私の手には、砂が握られていた。
見上げれば空は暗く、そこには瞬く白い斑点が散りばめられていた。
この青さを、私は知っている。
同じだ。丸薬を噛み潰したときの、あの視界の端に浮かぶあの青い輪郭に。今度は視界どころか身体全体が、その深青に包まれているのを感じる。
【omake-pfadlib】
─2─
丸薬を口にした時から何度も夢に現れてきた、月の無い深い青色の空。日を経るごとに濃くなっていき、次第にくっきりとしていく身に覚えの無い夢に、私は辟易としていたっけか。
「ここは一体……」
私は立ち上がって、自分の足下がくるぶしの辺りまで沈みそうになり、それまでの固い足場と一変した不思議な感覚に、思わずたじろいだ。また人知れず時が経ったのかとも思ったが、その感触だけでここは夢ではないことを知らされた。そのとき、耳鳴りのような甲高い音が内耳を震わせた。
「────」
声ではなかった。しかし何かが、私を呼んだ気配がした。
気配がする方へ振り向いた。
そこには、私が最初に見殺しにした男が立っていた。
「君は……」
幻覚か何かだと信じようとした私の装いは簡単に打ち砕かれ、私はすんなりとこの状況を理解した。死人がこちらを見ていると、私は思った。今に呵責が飛んでくると身構え、ギュッと目を瞑る。どんな詰りも謗りも攻撃も受け入れられる。だがあの眼だけは、死人が浮かべる命なき瞳だけは、私には恐ろしくてたまらないものであった。
不思議なことに、恐れる私に対して、幾ら待っても言葉は飛んで来なかった。
恐る恐る目を開くと、マルコの両目には、訓練地で散々見たあの、死者の浮かべる薄暗い瞳が入っていなかった。生きているのか、死んでいるのか。そのどちらとも付かない不明瞭な瞳孔が、私を静かに見つめている。
マルコは黙って、地平の彼方を指差していた。指差す彼方には、光る大樹がどこまでもその光を空へと伸ばし続けていて、その逆光を受けて、まだ多くの人々が佇んでいた。
ゲルガー。ナナバ。ペトラ。グンタ。エルド。ミーナ。トーマス。彼らを筆頭とした、兵士の群れ。面識はあったが、名も知らぬ兵士達。そして、その無数に立ち並ぶ兵士達の参列の終わりに、私は望んでやまない二つの面影を見つけた。物言わない参列は私の動揺に呼応するように、静かに道を明け渡す。
私はゆったりと、だが怯えを搔き消せないままそこへ歩いていく。歩き終えてようやく、踏みしめた砂と同じくらい乾ききった唇を開いて、二人の名前を呼んだ。
『父さん。母さん』
呼び掛けた声に応じたのかは分からないが、二人は私を見つめる。分からない。二人が何を考えているのか。
なぜ二人がここにいるのか。ここは一体どこなのか。普段ならそんな問いが出てくるのだろう。しかし私は、
「私は、間違っていたのかな?」
と、自分でもしない問いをかけた。
二人は何も答えない。瞬くこともなく、ただ静かに私を見つめている。目元は砂を撒かれたかのようにはっきりとしないが、そう見られているような気がする。
「……何も答えてくれないんだね」
いつだって私は、何か答えを得ようと踠いていたのかもしれない。エレンが巨人になれると分かったときも。ライナーが正体を明かしたときも。ユミルが私をその両腕に捕えたときも。
答えを与えないこと、それが。
「私への罰なんだろう。きっと、そうなんだろうな。踏み込んではならない場所まで、私は進み続けてしまったんだ。多分」
私は愚かだった。青の丸薬を手にしたときも、これこそが答えであると、巨人という超常的な存在に抗する牙になると信じて疑わなかった。
そこにきっと、真実があると信じて。
もしも人を裁く何者かがいるのだとしたら、これが私に課された断罪なのだろう。無垢にも信じたものが真実か嘘か、その答えすら分からない砂の丘に、私を放り捨てることが罰なのだろう。
甘んじて受け入れようとうなだれた。ここに立ち並ぶ無数の死人達の一員に参列しようとした。その時、私の視界の端に、何かが見えた。震えている、何かが。
私の母の右手。その指先が、ほんの僅かに震えていた。目を凝らして、ようやく見えるか見えないか、そのくらいに弱々しい、小さな先触れの震えが、私には見えた。
この世界が現実だと、誰も知りはしない。私の願望が見せている、物言わぬ幻かもしれない。所詮は虚構だとフイにすることも出来ただろうに。でも、たとえそうだろうと、きっと二人はこう思っていたに違いない。
『もし叶うなら、もっと貴方を抱き締めていたかった』、と。
その想いを、私が忘れていたわけが無かった。
私は二人にしがみついた。歯を食い縛って。眉を大きく歪めて。目蓋をギュッと閉じて、身体をわなわなと震わせて。
私は長らく忘れていた一つの事柄を思い出した。私には、泣くことが出来ると。いつだって子どものときのように、思いっきり泣くことが。兵士として生きるなかで、それさえも忘れていた。
でも、兵士として生きてきた年月を、それを忘れさせていた日々を悪だとは思わない。きっと、どちらも大切なものだったんだ。生きるために、この残酷な世界を生き抜くためには、どちらも必要なものだったと、私は思う。
私は好きなだけ泣いた。泣いて叫んだ。ずっと寂しかった、と。また会いたかった、と。
845年になるまで、私があれだけ見上げていた二人の背中は、いざ抱き締めてみればとても小さかった。温もりも無い二人はこれ以上無いほどに現実をその身に湛えていた。
ーーーーー
5年分の抱擁をようやく手から離して、私は二人に語りかける。
「もう、ここで終わりなんだろう、きっと。いつなのかは分からないけど、私は君達と一緒に、どこかへ行かないといけないんだろう?」
背後から砂を摺って掻き分ける足音が幾つも聞こえる。私を迎えに来たに違いない。
振り向くと兵士達の顔ぶれの中に、一つ不明瞭な顔を持つ兵が立っている。誰なのか確かめるために、胸元の紋章を確かめる。せめてと被服の歪みから個人を特定しようとする。
その兵士の胸元に付いていたのは、白と黒の翼の紋章では無かった。赤い多重の花弁に包まれた球に纏わり付く茨。薔薇の紋章、それ則ち私の前に立つのは駐屯兵なのだ。
「ハンネスさん?」
風貌はそうは見えなかった。身の丈は平均的で、誰に似ているのか判別は付かない。現にハンネスは兵士達の群れの中から素面の穏やかな顔を見せている。
思い当たる顔が無いということなら。残る候補は一つだけだ。
五年前、壁が破られた時に私を救ってくれたあの駐屯兵が、今私の目の前にいる。
その顔から伝播するように、私は明瞭に映る顔ぶれの中から、ある兵士を探し当てようとする。
「ユミルは?彼女は、どこにいるんだ?」
面識もない兵達の顔までも見えているのなら、今この場で私が見ているものは、単なる幻想には留まらない筈だ。それなのに彼女の顔だけは、群衆の中から見つけることは出来なかった。
(いないのか?これ以上無いくらい本物なここに、彼女はいない。それなら……)
彼女は死んでいない。確証は無いが断言する。
(まだ希望を、持ってもいいのか?)
「……行かないと。少しでも可能性があるのなら、私は───」
先頭に立つ駐屯兵に懇願すると、駐屯兵の掌は静かに差し出されている。
どこかへ連れていってくれるのかと手を乗せるも、それだけでは何かが起こる気配は無かった。重ね合わせた手の感触の間に、別の何かが微かに合掌を押し開こうとしている。生き物か何かか、と私は思ったが、その物体は手の中で規則的に膨張していっている。
その体積を歪に変形させることもなく、ただ大きさだけを広げていき、私の手は駐屯兵の指先にすら触れられない程に物体に阻まれてしまった。それと同時に物体は膨張をやめて、その姿を明らかにした。
青い球体。手に収まる大きさの深い青色を持つ塊が一つ、駐屯兵の手に乗せられて微かに自転している。ある人が立てた仮説のような、海嘯のような紋様を面の上で音も立てずに寄せては返す。
「まさか……青の丸薬……なのか」
小さな一粒だったあれをわざわざ大きくする道理は無い。私の体内に取り込んだ丸薬の集合体とでも言おうか。総じればこの大きさになりそうな気もする。
【巨人の力】と獣の巨人は言っていた。今でも到底そうは思えないが、巨人の力とはつまり、この場所から何かを引き出している、ということなのだろうか。
駐屯兵はその引き金を私から取り出して、手に持っている。
「それをどうするつもりだ?」
駐屯兵は無い眼を霧の向こうからこちらに向けている。私が何をするか確かめるかのように。選ぶ権利は、どうやら私にあるようだ。
もう一度手を乗せ、『彼』は……
力を……
1.手放す
2.手放さず、駐屯兵の顔を思い出す
3.手放さず、駐屯兵の顔を思い出さない
1=エンディングBへ
2=エンディングCへ
3=エンディングDへ