原作:クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-
タグ:クロスオーバー クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者- アリシア・グレンフォール 姫様“拷問”の時間です 姫様(姫様“拷問”の時間です) アイシェル・姫華・ラトルヴィア 魔王(姫様“拷問”の時間です)
アリシアが目覚めた所は牢獄だった。
牢獄にしては異様に明るすぎる気がするが、多分牢獄だろう。
アリシアは、何故こんな場所にいるのか記憶を辿ろうとしたが思い出せない。
しかし・・・思い返すと散々な人生だ。
勇者の1人としてクレバトスに挑み、殺され、ほとんど気まぐれで生き返らせられた。
王国内の紛争に巻き込まれた。
クレバトスに身体を幼くされ、陰謀だらけの学園に入れさせられた。
父の幻影と殺し合いをさせられた。
何度殺されかけただろう。何度死んだのだろう。
死にたくても死ねない。どんなに痛く苦しくても死ねない。私は不死の呪いをかけられているから。
そして、今、私は丸腰で牢獄の中にいる。錠も何も付けられていないのが不思議だったが。しかし、誰が何の目的で捕らえたのか知らないが、牢獄に捕らわれた後は拷問と相場が決まっている。いいだろう、どんな拷問にだって耐えてやる!
そう決意したアリシアの前で、牢獄の扉が開いた。中に入ってきたのは1人の女。人間に見えない大男。そして明らかに拷問器具が入っているような大道具。女をよく見ると、一見人間に見えるが頭の左右に角が生えている。
「貴様、人間ではないのか・・・。」
「はい、私の名はトーチャー。悪魔です。おはようございます。異世界の転移者さん。」
「異世界?」
「そう、ここはあなたがいた世界とは別の世界です。あなたは魔王城近くで倒れていた所を発見され、魔王軍研究室の検査の結果、あなたは異世界から来た人間と確定されました。」
「研究・・・。私の身体を弄んだのか!」
女は怪しく微笑み、
「調べただけですよ。それに秘密を聞くのはこれからです。転移者さん。あなたの世界について話して貰います。」
女は大道具の扉を開け、中から蓋の付いた器を取り出す。
「転移者さん。拷問の時間です。」
(・・・来たか!)
アリシアは覚悟した。今まで散々嬲り物にされてきた。しかしアリシアの心が完全に折れたことは一度も無い。さぁ来い!私が苦しむ姿を嗤ったとき、お前の顔面に拳をたたき込んでやる!
「今日の拷問はこちら。クリームパンケーキ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
呆然と佇むアリシアの目の前で大男が手際よくテーブルと椅子、テーブルかけ、ナイフとフォークを用意していく。目の前の光景が理解できないアリシアはいつの間にか大男に椅子に座らせられた。首元にナプキンも付けられた。そして女はアリシアの目の前にパンケーキを置く。パンケーキから湯気が立ち上っている。甘い匂いがする。
アリシアは、「そうか、この中に毒が仕込んであるのか。」と思った。犬のように喰わせれば良いものを、わざわざこんな高級料理店のような真似をして・・・、悪魔め!
いいだろう、罠に乗ってやろうじゃないか。どうせ私は死ねない。毒で苦しむ私を見て嗤うがいい。毒が引いてきた時がお前達の最後だ。顔面が変形するまで殴ってやる!
アリシアはパンケーキを切り取り、口に運んだ。
「・・・・・・・・・・・・おい・・・・しい・・・・?」
思わず口から出た言葉だった。
アリシアはかぶりを振る。相手は悪魔だぞ。一口目にたまたま毒が入っていなかっただけ。どうせ二口目から痺れと痛みが来るはず。あぁ美味しい。こんなに美味しい料理を食べたのはいつ以来だろうか。ケーキの温かさが五臓六腑に染み渡る。クリームの甘さが身体を癒やしてくれる。
「転移者さん、紅茶もありますよ。」
女がカップに紅茶を注いできた。そうか、こっちに毒が仕込んであるのか。流石悪魔だ。やることが汚い。アリシアは紅茶を飲んだ。ああ・・・温かい・・・。わずかな渋みがクリームの甘さに飽きてきた舌の感覚を洗い流してくれる。アリシアは再びケーキを口に運ぶ。美味しい。いくらでも入りそうだ。アリシアは夢中でケーキを食べ、
「ゴホゴホゴホゲホッ!」
むせた。
「転移者さん、がっついて食べるからですよ。ケーキはいくらでもありますから、ゆっくり食べましょうね。」
女はアリシアの背中を優しく撫でた。温かい手。心が落ち着く暖かさ。こんなに人に優しくされたのはいつ以来・・・。
「うっううう・・・。ひっく。うう・・・。」
「転移者さん?」
アリシアは泣いていた。
「・・・母さんの事を思い出したんだ・・・。母さんはいつも温かい料理を作ってくれた。母さんは私が不安で眠れないとき、私の手を温かい手で握ってくれた・・・。子供の頃の話さ。今の私は勇者だ。しかも無様に負けて敵に下僕として生き返らされた負け犬さ。こんな私が幸せなど感じてはいけないのに・・・。幸せになってはいけないのに・・・。」
「・・・転移者さん・・・。」
「トーチャーといったな。・・・私の負けだ。私の世界のことを話すよ。」
アリシアは話した。
その内容は壮絶だった。聞いていたトーチャーが思わず手で口を塞ぎ涙ぐむほど。
アリシアから全てを聞いたトーチャーは
「・・・わかりました。アリシアさん。・・・このことは全て魔王様に報告させていただきます。」
そう言って牢獄を出た。
数時間後、
アリシアはトーチャーに連れられ、魔王の部屋の中に立っていた。
(・・・これが・・・魔王・・・!)
アリシアは一目でわかった。力が違いすぎる。とても敵わない。たとえ武器が、至宝があった状態でも歯が立つ相手じゃない・・・。
そして魔王は明らかに不愉快そうだった。私の話が逆鱗に触れたのだろうか?ならば私は殺されるのだろう。いや、私は死ねない。魔王の気の済むまで嬲られるのか・・・。
「アリシアとやら。貴様の話を聞いて、ワシは腸が煮えくり返っている。」
やはり・・・!
アリシアはトーチャーの方を見た。哀れんだ目でこちらを見つめている。恐らくこの女悪魔は優しい。私がこの先、魔王に嬲り物になるのを哀れんでいるのだろうな・・・。
魔王は言った。
「ワシはハッピーエンド主義者だ。鬱展開が嫌いだ。キャラクターの成長の為試練があるのはいい。試練は人を大きくさせるからな。しかし貴様の世界には試練に値しない、人を虫けらのように扱い玩具のように使い捨てる輩が数多くいる!魔獣王や本物の勇者やトアと名乗る奴とかな。ワシはこんなに憤慨したのは久しぶりだ!ワシは魔王!たとえ異世界であろうと邪な意図により罪なき者が蹂躙されているのは看過できん!この手で、その世界を支配し根本から作り替えてくれる!」
「あ・・・あああ。ああああああ・・・・・・。」
アリシアは恐怖した。魔王の言っていることの一部は理解できなかったが、この魔王は私の世界を侵略するつもりだ。私は勇者なのに世界を危険に晒してしまった。ルナが、ネルルが、トアラ陛下が犠牲になる。私の大切な人々が犠牲になる。私のせいで。・・・私はどうすれば・・・どうすればいいんだ・・・。駄目だ思いつかない。私は世界を滅ぼした大罪人になってしまった・・・。
アリシアは絶望感でへたり込んでしまった。常に強さを持っていた目は涙で溢れ焦点は虚ろになり、頭は何も考えられなくなっていた。
魔王が話を変えた。
「アリシアよ。貴様、呪われているな。」
「・・・・・えっ?」
「不死の呪いか。ワシが不機嫌な理由の一つもそれだ。邪悪な呪いだ。ワシが取り除いてやろう。」
魔王は片手から強い光をアリシアに浴びせた。
「ッ!」
思わず目を瞑り、身を屈めるアリシア。数秒後何かが違うと感じた。身体が何か温かく感じる。・・・あれ?左の瞼が開いている。もう二度と開かないはずなのに。左目が・・・見える!
アリシアの顔を見たトーチャーが急いで部屋の外へ出て、鏡を持って入ってきた。
「アリシアさん!鏡を見て下さい!傷が、顔の傷がなくなっています!」
アリシアは鏡を見た。忌まわしい傷跡は元からなかったように消えており左目が開いている。
(そうだ、左足の傷は・・・、ない。足の傷もない!)
思わずアリシアは捕虜服を脱ぎ捨て裸になった。恥ずかしさはなかった。体中にあった傷跡もなくなっている。
「ああ・・・うあ・・・、うわああああああ・・・・・・・・!」
アリシアは泣いていた。泣き叫んでいた。
「良かった・・・。良かったですね!アリシアさん!」
トーチャーがアリシアを抱きしめ、やはり泣いていた。
「くっくっく・・・。良かったね。」
魔王は邪悪な笑みを浮かべていた。
「魔王ゴッドサンダー様。私、アリシア・グレンフォールは、あなた様に生涯の忠誠を捧げます。」
魔王に対し片膝をつき、頭を垂れるアリシア。魔王は無表情で見つめる。
「その上で、お願いがございます。私はあなた様の僕であると同時に、我が世界エドセアの勇者。私は、私の世界を守らねばなりません。どうか、どうか私の世界の侵略はお止めいただけるよう」
「形式張った挨拶は止めよ、アリシア。」
魔王がアリシアの懇願を遮った。
「貴様は自分が悪意で仕組まれた運命に翻弄されている事にまだ気づかないのか。安心せよ、ワシは貴様の世界の民を傷つけはせぬ。罪人以外誰1人もな。貴様の大切なルナやネルル等も傷一つ付けないと保証しよう。」
「え・・・。何故、その名前を?」
「ワシは魔王!一を聞けば千を知ることが出来る!貴様の世界はエドセアだけではなく遙かに広い世界であろう?その中にある悪意全てをワシが平らげてくれよう!」
そして魔王は口調を元に戻して言った。
「そしてアリシアよ。貴様に命ずる。貴様は生涯二度と戦うな。」
アリシアは驚愕する。戦いは、剣は私の全てだった。それを奪われたら、私に何が残るのだろうか。
「私は・・・。私は・・・。」
トーチャーが諭すように話す。
「アリシアさん。人生は色々な道があるんですよ。私も看護師をやっていた頃は拷問官になるなんて考えてもいませんでした。でも私はとても幸せな毎日を送っています。アリシアさんがどんな道を進んだとしても絶対に幸せになれますよ。私が保証します。」
アリシアは考え込んだ。そしてふと思い出してしまった。クレバデス。魔獣王。その存在を。
「魔王様!遠征にはやはり私も参戦させて下さい!魔獣王は危険な存在です!私はなすすべも無く殺されました・・・。しかし助言くらいは出来るはずです!どうか!」
「案ずるな。ワシは戦いには万全を期する男。今回のために強力な援軍を依頼してある。」
トーチャーが話す。
「それに私の大切な友人も参戦してくれると言ってくれました。安心して下さいアリシアさん。とっても頼りになる方なんですよ!」
エドセアのとある地点。
魔獣王ヴォーディンと魔獣王ラスウェルは、魔王軍を名乗る異世界からの侵略者と対峙していた。
「まさかお前と共闘することになるとはな。ラスウェル。」
「異世界からの侵略者。こんなイレギュラーが発生するとは予想できなかった。その中のあの3人は相当強い。しかもあの女はただの人間だ。あり得ない。何者だ。アレは。」
魔獣王と対峙する魔王軍。正確に言えば、その中で先頭にいる3人しか戦っていない。
「ついに中ボスとの対戦だな。弟よ。」
「協力感謝します、兄上。」
「なに司書の事務仕事ばかりやって身体がなまっていたところだ。久々に暴れられて嬉しいぞ。」
「というか、代理の人、お兄ちゃんいたんだね。そっくりだし。」
魔王兄弟に対して遠慮なく発言する女騎士。小柄で顔立ちも幼いが凜々しさを感じさせる風貌。小さな王冠を被りマントが付いた西洋甲冑を着てその胸部分には下手くそな字で「HORYO」と書いてある。
彼女の持つ聖剣エクスが話しかける。
「姫様、安心しましたよ。1年以上剣の修行サボっていましたから鈍っていたと思っていました。」
「私を舐めるなエクス。私は王女にして国王軍第三騎士団騎士団長!1年以上食っちゃ寝していたからといって腕が落ちるような存在ではない!そしてトーチャーからこの世界では多くの人が苦しめられていると聞いた。異世界だからといって、そんな境遇を見過ごしていては国王軍第三騎士団騎士団長を名乗れぬのだ!」
(・・・もう多分別の人が騎士団長やっていると思いますけどね・・・)
「・・・悪口が聞こえたぞ、エクス。」
「えっ?いえ、いーえ。何でも。とにかく姫様、あの前方の2体は強敵です。そして代理の人情報によると、別に更に強敵が潜んでいます。気をつけて下さい。」
「フッ!私とエクスなら、どんな相手だろうと恐るるに足らず!いくぞエクス!この戦い、必ず勝つ!!」
この戦いは、静観していたクレバテス、否クレンが魔王軍側に加担したことにより、最終的に魔王軍が勝利し、エドセアを中心としたこの星は魔王国が管理することとなった。
その後、アリシアが聞き、体験した話。
魔獣王達は「人類に危害を加えない」事を確約し、世界のどこかへ消えていった。
本物の勇者やトアについては、魔王はアリシアに「知る必要はない」と一切教えなかった。
魔獣王の眷属となった人間や山賊等の悪事を行っていた者は捕らえられ、「反省と教育」と称してアニメという美少女達が戦う映像を数百時間連続で見させられた。アリシアは「これって拷問っていうんじゃ・・・」と思ったが、正直「ざまぁみろ」とも思ったので放っておいた。
エドセアに燻っていた種族間の諍いの解消にも、アニメや漫画とやらが使われた。「オタク」という新たな種族が増えたらしい。
エドセアの外には未知の部分が多い。もしかしたらアリシアの生きている内には解明されないかもしれない。
エドセアと魔王国とは何らかの力で自由に行き来出来るようになり、国交が出来た。
トアラ陛下はハイデン国に残って政務をしている。定期的に手紙が来る。
ネルルは、クレンの雑な治療ではないちゃんとした治療を受けて耳も歯も完全に治り、魔王国で声優という仕事をしている。
ルナは、魔王の娘マオマオちゃんと友達になり頻繁に世界を行き来し仲良く遊んでいる。その光景はアリシアにとって微笑ましかった。
そして、クレンは、クレバテスは、魔王と一騎打ちをし、敗れた。その結果二つの約束を交わされた。一つは、「人を知りたい」という彼が、人を学ぶ者として魔王の監視下に置かれること。もう一つは、アリシアに「ごめんなさい」と言うこと。もう一つの約束は魔王やトーチャー、姫様の前で実行された。あの傲慢なクレンが仏頂面で「ごめんなさい」と頭を下げる光景はアリシアにとって滑稽で、正直何度殴っても気が収まらない相手なのだが、何故かどうでもよくなった。クレンは、魔王と共に飲みに行ったり、テレビゲームとやらをしていたりしている。アリシアは「クレンは友が欲しかったのではないか」と思い始めていたが、奴とは口も聞きたくないので聞いていない。
アリシアは、魔王軍拷問官見習いとして働きながら、今後どう生きるかを模索する機会が与えられたが、答えは出ていない。
時々心に大きな穴が開いた気持ちになる。
・・・・・・私は、どう生きれば良いのだろうか?
ある日、姫様の拷問の時間。
陽鬼先輩は缶蹴りをやると発言した。運動らしい。毎回体力勝負で姫様に完敗しているのにまるで懲りていない。私は「フフッ」と笑い、寂しい気持ちになった。また心に穴が開いた気持ち。こんなに平和なのに。こんなに楽しいのに。
「アリシアちゃん、どうしたの?」
姫様が私の顔をのぞき込んだ。姫様と共に過ごして感じたことだが、この方は弱い者に本当に優しい。まるで心を読んでいるかのように手を差し伸べてくる。・・・私も弱い者なんだろうな。
「・・・私は、自分がどう生きるべきか考えていました・・・。」
私は自分の心を正直に話した。
「私は幼い頃からずっと戦うことだけに明け暮れていました。そのための修行をし、勇者の称号を与えられるまでになり、結果、何の成果も残せませんでした。その後どんなに戦っても勇者のまがい物と言われ続け、負けるものかと抗ってもその汚名を払拭できず、勇者として人々の希望になれないまま、世界は平和になりました。もう勇者なんて必要ない。私は」
「もうやめようよ勇者なんか!」
姫様が叫んでいた。私は唖然とした。
「人に尊敬されなきゃ生きることは許されないの?くだらないよ、そんなこと!私だって王国の秘密を散々話してきた。多分影で売国奴とか呼ばれてる。だから?私はそんなこと気にしない。だって私はその人達のために生きているわけじゃないから。」
私は言葉が出なかった。姫様の発言に何も言えなかった。
「私もね。王国で戦っているとき辛かった。いかなる困難も乗り越えてきたとか言われたこともあったけど、いつも逃げ出したかった。大切な友達を傷つけて辛かった。その友達は生きていてくれて本当に嬉しかったけど・・・。」
「・・・姫様・・・。」
サクラ先輩の声が聞こえた。泣いていた。あぁそうか、話に聞いていたけどこの人が。
「でも、心残りだったのはそれだけ。囚われてから私は自分の好き勝手に生きることに決めた。牢獄でゴロゴロしてるのも私がしたいから。拷問だって楽しいからやってる。国王軍第三騎士団騎士団長なんて何となく格好いいから使っているだけ。牢獄だって好きなときに出るよ。だって私がそうしたいから。」
「なぁ、姫ちゃん、かなりマズいこと言ってないか?」
「シィッ!」
陽鬼先輩の発言を陰鬼先輩が口止めする。そうだ、流石にこんなことを話すのは・・・。
姫様が私の両肩を掴んだ。力強く。
「だからね、アリシアちゃんも好きなことして生きようよ。勇者なんて称号捨ててもいいし、好きなときに名乗ればいい。拷問だってしたくなければやめようよ。だって拷問だよ拷問。名称が酷い。」
この人は、自分の立場が危うくなるのを承知で、こんな発言をしている。私を励ますため。ただそれだけのために。でも・・・、でも私は・・・。
「私は・・・、自分のしたいことが・・・もうわかりません・・・。」
「それって、いつまでに決めないといけないことなの?」
「えっ?」
「何かしてから「あぁこれが自分のしたいことだったんだ」って思っちゃダメなの?好きな事って結構そういうもんだよ。アリシアちゃんが生きてきて「これが自分のしたいことだった」って思ったことは?思い出してみて?」
「私は・・・、戦いの修行ばかりで・・・。」
「戦うことでもいいから。」
「・・・私は父さんとの修行で褒められることが嬉しかったです。楽しかったです。その後父さんは私と遊んでくれて・・・。やっぱり私は戦うことだけが好きな女なんです。」
「じゃあ続けようよ、戦う修行。」
「でも・・・魔王様から戦うことは禁じられていて・・・。」
「・・・私、魔王殴るよ。」
姫様は真顔になって発言した。一切躊躇なく。
陽鬼先輩と陰鬼先輩が抱き合って震えている。サクラ先輩も腰を抜かしている。
今の発言は明らかにあの恐ろしい力を持った魔王様への反逆だ。そんなことを仮にも捕虜の立場で、敵国の姫が平気で言うなんて。
姫様は私の肩から手を離して、後ろを振り向いて言った。
「アリシアちゃんから魔王に直接話してみて。私の勘だけど多分魔王は許してくれると思う。許さなかったら、私に相談して。私が魔王と戦うから。アリシアちゃんの気持ちを踏みにじる奴は誰であろうと許さないから。」
姫様は陽鬼先輩に顔を向けて
「陽ちゃん。今日の拷問は私の負けで。秘密は後でメールするから。」
姫様の発言に陽鬼先輩は怯えきった表情で首を何度も振り頷いた。
そして姫様は私に顔を向けることなく牢獄へと帰っていった。
長い沈黙が続いた。
陽鬼先輩と陰鬼先輩は、やっと落ち着いたのか、抱き合いながら帰っていった。
サクラ先輩は私のことを心配そうに見つめて帰っていった。
私だけが広場に残された。
長い時間がたち、私も魔王城に戻った。
そして、そのまま魔王様の部屋へと向かった。
「修行をしても構わんぞ。」
魔王様はあっさり承諾した。
「で、でも・・・。」
私の方が躊躇してしまった。
「アリシアよ。貴様に戦いを禁じたのは、貴様をこれ以上苦しませたくなかったからだ。長き戦いで貴様がどれだけ苦しんだのかは貴様の身体が、貴様の傷が物語っていた。部下を守るのは上司として当然の責務だ。だが、ワシは貴様を悩ませ苦しませてしまった。ワシのミスだ。」
魔王様は椅子から降り、私の方に近づき、
「すまない。許してくれ。」
深々と頭を下げた。
「あ、あ、や、やめて下さい!頭を上げて下さい!」
私は慌てて言った。
魔王様は頭を上げると、部屋の中の戸棚から何かを取り出し、再び私に近づいた。
それは薄紫の剣だった。
「至宝・・・。」
「それはクレンが作り出したものだ。貴様を操るような邪な力は入ってないから安心しろ。奴は「戦うだけが取り柄の下僕がいつか欲しがるだろうから」と言っていた。奴なりの貴様への詫びのつもりだろう。」
「クレンが・・・。」
「これを貴様に贈ろう。・・・そして、これは命令ではなくワシの願いだ。戦う以外の人生を見つけてくれ。いつかで構わないから。」
「・・・はい。」
私は深々と頭を下げ魔王様の部屋を退出した。
私は廊下を歩きながら至宝を見つめて思った。いつか奴と何か話そうと。
私は姫様の牢獄の前にいた。
中では、いつもはスマートフォンとやらをいじっているはずの姫様が、座って瞑想していた。
私は牢獄の扉を開けて中に入った。
姫様は目を開けると、黙って隣に刺さっていたエクスを抜いて立ち上がった。
(・・・本当に私のために戦うつもりだったんだ・・・。)
私は姫様に魔王様の部屋の中の出来事を全て話した。
姫様は顔をほころばせながら私の手を握り、
「良かったね!アリシアちゃん!本当に良かった!」
と言った。まるで自分のことのように喜んでいた。
私は姫様の手を見た。何て温かい手なんだろう。この人の人生も辛いことが沢山あったはずなのに。悲しいことが沢山あったはずなのに。
「ううう・・・、ひっく・・・うう・・・。」
私は泣いていた。ここに来てから本当に私は泣き虫になったな。
「アリシアちゃん!どうしたの?アリシアちゃん!」
姫様が心配そうに私を見つめる。
「・・・すみません、姫様。・・・嬉しくて泣いています。私、皆さんに出会えて本当に良かった・・・。嬉しくても涙って出るものなんですね。」
姫様は私を抱きしめてきた。
「沢山泣いていいよ、アリシアちゃん。沢山泣いた後はね、人は笑顔になれるんだよ。」
私は声をあげて泣いていた。姫様はまだ私を抱きしめてくれていた。
いつしか私は床にへたれこんで泣いていた。姫様は私の顔に柔らかい胸を当てて抱きしめてくれていた。
やがて私は床に眠るような体勢になって、まだ泣いていた。姫様は膝枕の体勢になって、私の頭を膝に乗せて、私の頭をゆっくりと優しく撫でてくれていた。
やがて私は泣き止んで、膝枕されたままの体勢で、姫様に聞いた。
「・・・姫様。今日やらなかった缶蹴りって運動。今度みんなでやりませんか?」
私は首を動かして姫様の顔を見た。姫様は慈しむような笑顔で、やはり私の頭を優しく撫でながら、
「・・・うん、いいよ・・・。」
と言った。
私は、
「・・・姫様、私缶蹴りだけじゃなくて色々なことをしてみたい・・・。色々な場所に行ってみたい・・・。楽しいことを沢山してみたい・・・。そしていっぱいいろんな出会いがしたい・・・。」
と、まるで子供のように甘えながら言った。
姫様は慈しむような笑顔で、私の頭を優しく撫でて、
「・・・うん、そうだね・・・。」
と母さんのように優しく言ってくれた。
私は姫様の顔を見つめて、本当に、心の底からの笑みを浮かべた。