黒死牟が地獄で他の鬼を救う話です。悪人も何時か救われればという個人的な感情です。それを行うのは黒死牟が適任というか、彼しかいませんでした。話の都合上、黒死牟の台詞が長く説教臭いです。ご了承ください。
猗窩座以外の全ての上弦に挑みました。猗窩座は既に救われているので。無惨も入ってます。奴は救われる兆しになる程度にしました。鬼達の心の弱さは、私が設定から考えた完全な個人的解釈です。これで救われるのかも分かりません。ご了承ください。

1 / 1
救われぬ魂などございませんので

地獄は存在すると思っていた。私が鬼になったのがその証だ。

何時かは地獄へ逝くだろう。そう思ってもいた。

私は斬り過ぎていた。強者も弱者も。

地獄で刀を振るえるとは思ってもいなかった。

地獄とは力を奪われ永遠の責め苦を与えられる場所。そう思っていたから。

 

だが、私は今も刀を振るっている。巨大な異形が人々を襲っていた。

私は異形の前に立ち塞がった。私の背にいる者達を守るためではない。

そんなつもりはない。こやつらは罪人だ。だからこそ地獄にいる。

まぁ背にいる者達はどうでもいい。

 

私は異形に対して訊ねた。

「何故人を襲う?

・・・腹が減っているとは思えぬ。

・・・言葉が通じぬとは言わさぬ。ここでは何物も言葉が通じるのだから。」

異形の返答は巨大な腕だった。私はそれを受け止め異形を斬って捨てた。

 

異形は消えていった。地獄で死んだ者は別の地獄へ逝く。そういう仕組みらしい。

それをその者の魂が救われるまで繰り返すらしい。

あのような異形が救われる時が来るのか?と思ったが、どうでもいいので考えるのをやめた。

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

背にいる者達が感謝を述べた。私は無視した。感謝するなら罪を贖って、さっさと人の世か天国へ逝くがいい。

 

正直、私は現状に満足している。ここでは多くの強者を斬れる。罪人でも異形でも。

地獄がこんな場所ならば、さっさと地獄へ逝くべきだったと思っている。

そうすれば弱き者達を殺めずとも良かったのに。

 

 

私が地獄に堕ちて最初に出会ったのは閻魔の使者を名乗る男だった。

会った事もない顔なのに、私は初めからこの男のことが気に入らなかった。苛つかせた。

使者から生前私が使用していた刀を渡された。

「これで弱者を守って下さい。」そう言われた。

「・・・何故だ。地獄とは責め苦を受けて罪を贖う場所ではないのか?

ここにいる者は全員罪人の筈だ。・・・何故守る必要がある。」

「ここには罪の大小問わず多くの罪人が来ます。強き者も弱き者も。

弱き者が強き者に蹂躙される。それでは人の世と違いがありません。

ここでの罪の贖い方は己の心と向き合うことです。それを乗り越えることです。

己の心を乗り越えた者が天国へ逝くか人の世で生まれ変わるかを選べます。」

 

「・・・下らん。それでは反省せぬ者はすぐに天国へ逝けるではないか。」

「そうはいきません。良心なき生物は存在しません。必ず良心の呵責に苛まれます。

極悪人であればあるほど、それは重く、激しく。」

「私が生前仕えていた者は良心の欠片もない存在だった。

・・・それも呵責に苛まれるというのか?」

「必ず。そして途方もない時をかけても、いつかそのものは救われます。

死んだ後救われぬ魂などございませんので。」

 

私は刀を手に取った。この男の詭弁などどうでも良かった。

強き者が斬れる。それだけで十分だった。

生前見たこともない異形が次から次へと沸いて出た。

私が生前いた人の世と異なる世界がいくつもあり、そこから死後やってくるのだと使者は説明した。

構わぬ。斬れる口実があれば良い。それが強者なら更に良い。

私は斬った。斬り続けた。その数は人の世で殺めた人の数を遙かに超えた。

 

 

「鬼達を救ってくれないか?」

猗窩座、否、狛治は私にこう頼んだ。

「・・・何故だ?」

「俺達は人の世でやり直すことを決めた。だが救われるのが俺達だけでは心苦しい。

そして人になってしまった俺には救う力もない。頼めるのはお前しかいない。」

奴の妻からも頼まれた。地獄に逝く罪もないのに地獄へ狛治と共に来た酔狂な女だ。

「・・・わかった。ただし、これはついでだ。酌量無き者は斬り捨てる。

そのために私は刀を振るっている。・・・ついでだ。」

「ありがとう。感謝する。」

 

狛治とその妻の魂は天に昇っていった。

「・・・奴らは来世で夫婦になれるのか?」

私は使者に聞いた。

「必ず。そして二人は天寿を全うします。運命でそう決まっています。」

「・・・そうか。」

 

狛治よ、私は生前お前の壁であった。いつか宿敵(とも)になりたいと願っていた。

だが我らの道は分かれた。もう、お前と会うことはない。

達者で生きよ。

「ちなみに黒死牟さん。あなたは鬼を一人も斬りません。全ての鬼を救います。」

「・・・それも運命とやらか?」

「いえ、私の勘です。」

本当にこの男は気に障る奴だ。

 

 

 

 

(俺は他人のことが嫌いなくせに、他人の評価ばかり気にしている男だった。

俺は強くなりたかった。何故か?強くなれば褒められるからだ。

そのための努力をした。誰よりも。だが、それでも他人は俺を酷評する。

俺は盗みを平気でやった。何故か?満足感が得られるからだ。

他人が困り果てている姿を見るのは心地がいい。「そんな気持ちは分からない。」とは言わせねぇ。

お前らもふんぞり返っている奴が人生転落していくのを見るのは心地いいだろ?

俺には、人間全員が人生ふんぞり返っている奴に見えたんだよ。

俺はいつも底辺だった。強い奴らに平身低頭してた。

生きたかった。死ねばそれで終わりだから。何の価値もないから。

鬼になった。上弦の陸だった。鬼でも底辺だった。何故だ。鬼すら俺を認めてくれない。

俺には何の価値もないのか。誰か俺を認めてくれ。)

 

 

獪岳は私に会うなり平身低頭した。私はこの男が頭を上げた姿を見た覚えがない。

「・・・何故頭を下げる?」

「死にたくないからです。」

「お前はもう死んでいる。・・・違う地獄へ逝くだけだ。」

「知らない顔しかいないところへ行くのは恐ろしいです。」

「・・・なら、何故鬼になった?知人などいないのに。」

「死にたくなかったからです。」

「お前は最低だ。」

「はい。」

 

「・・・お前を上弦に推挙したのは私だ、獪岳。」

獪岳は意外そうな顔で面を上げた。

「雷の呼吸の使い手という面もあった。・・・それよりお前の野心に私は興味を持った。

誰よりも強くなりたい。誰よりも優れていたい。誰からも認められたい。

当然人が持つべきもので、多くの人間が現状に満足して忘れているものをお前は持ち続けていた。

だから私はお前を誘った。

・・・鬼になってそれは満たされたか?」

獪岳は首を横に振った。

 

「だろうな。お前の欠点は何だと思う?先が見えていないことだ。

未来が見えていないことだ。目先しか見えていないから、短絡的な行動をする。

自分の成長する姿が見えないから、簡単に手に入る力を欲する。

目先の幸福では、その日の幸福感しか満たされんよ。

・・・まぁ私が鬼にしておいて言うのも何だが。」

「・・・では・・・、では、どう生きれば良かったんですか俺は!」

私は正直この小者が叫ぶことを意外に思った。

「俺だって立派な人間になりたかった・・・。強くありたかった。

でもなれない。俺は狡くて卑怯で小者で最低だから、なれない。

・・・強く生まれたかった。あんたみたいに強かったら俺は鬼になんかならなかったのに。」

 

私は獪岳の目線に合わせて言った。

「・・・では、その強い私が言ってやろう。魂に刻み込め。

お前は強い。誰よりも強くなる。胸を張って生きよ。未来を見つめよ。

時には挫けることもあろう。だが敗れても笑われても胸を張れ。そして何より自分を信じよ。

他人の言葉より自分を信じよ。お前が自分を信じ続ければ、他人もお前を信じる。

他人とはその程度のものだ。・・・自分を信じ続けて生きよ。」

獪岳は泣いていた。私は泣くに任せた。ここで抱きしめてやるとか女のような衝動を私は持ち合わせていない。

 

獪岳の魂は天に昇っていった。人の生をやり直す事を決めた。

「よく、彼の心が分かりましたね。」

「・・・奴は昔の私に似ていたからな。」

「では、次に行きましょうか。」

これを何度も繰り返すのか。うんざりだ。

 

 

 

 

(私は人に生まれ変わりたくない。

 

何故だ。お前は美人なのに。

 

人は怖いよ。虐めてくる。馬鹿にしてくる。

お兄ちゃんだって散々酷いことをされてきたでしょう?

 

・・・・・・・・・・・。

 

私、人以外の何かになりたいよ。蝶でも良い。燕でも良い。綺麗なものなら何でも良い。

人間は嫌だ。醜い。人間なんて滅びてしまえば良いのに。

 

俺、頭悪いからよく分からなかったけど、人間が消えても代わりの動物が人間みたいになるって聞いた。

人間と同じになるって聞いたぞ。

 

じゃあ、生まれ変わるなんて嫌だ!生きるのなんて嫌だ!)

 

 

「・・・では、何故お前達は人の姿をしているのだ?」

妓夫太郎も堕姫も私の問いに沈黙した。

「・・・自然にこうなってた。なりたくてなったわけじゃない。」

 

堕姫が答えた。こいつはこんなに幼い娘だったのか。

 

私は残酷な発言をする。

「・・・蝶は縄張り争いで他の蝶を追い出す。燕も縄張り争いで他の燕を殺す。

蝶は花の蜜を吸うが、花がそれを苦痛に感じないと思うか?

自分の体液を吸われているのに。

燕が虫を食っているのは知っているだろう?

・・・生きることは醜い行為を繰り返すことだ。」

「だから生きたくないって言っているじゃない!」

堕姫が癇癪を起こした。正直「勝手にしろ」と言いたかった。

それか天国を勧めるべきか。その方が簡単だから。だが、もう1人の意見を聞いていない。

 

「妓夫太郎。・・・お前も地獄に留まりたいか。」

「・・・嫌だ。」

「何故だ。」

「・・・梅に地獄は似合わない。天国も良いけれど、梅には恋愛をして欲しい。

花嫁衣装を着て欲しい。

幸せな一生を一度くらいは送って欲しい。」

「お兄ちゃん・・・。」

「兄の意見はこれだ。堕姫、否、梅よ。・・・お前はどうする?」

梅は若干沈黙し、答えを出した。

「お兄ちゃんとずっと一緒にいられるなら、もう一度だけなら、人間になってもいい・・・。」

 

妓夫太郎と梅の魂が天に昇っていった。

「・・・奴らはまた兄妹に生まれ変わるのか?・・・幸せな一生を送れるのか?」

「必ず。そうでなければ、竈門炭治郎氏に怒られますので。」

竈門炭治郎の名は何度も聞いた。無惨が、鬼達が奴を憎んだ。

救われたという鬼もいた。狛治もその1人だ。

私は、一度も竈門炭治郎と会っていない。

出来れば立ち合いたかったと思うことがある。

そうすれば、私も何かが変われただろうか?

 

 

 

(文字を見て気持ちが悪いと感じたことはありませんか?

絵を見て気持ちが悪いと感じたことはありませんか?

人の顔を見て気持ちが悪いと感じたことはありませんか?

私には全て当てはまります。

私は人の頃から周りが醜くて醜くて仕方が無かった。だから壊した。

出来るだけバラバラに。元の形から外れたように。

神か仏か知りませんけど、造形美学がおかしいんですよ。

・・・でもね。私の作る壺は綺麗でしょう?これも神か仏かが定めた美しさなのに。

ははは。そうです。おかしいのは私だったんですよ。

わからない。わからない。何が綺麗で何が醜いのか分からない。

吐きそうだ。耐えられない。助けてくれ。)

 

 

「・・・でも、何かを作るのは止められぬのだな、玉壺よ。」

玉壺は地獄でも土から歪なものを作り続けていた。綺麗な壺を作り続けていた。

ただ、生物を改造することはしなかった。地獄では死ねばすぐに消えてしまうから。

「私はね、地獄に居続けた方が良いと思うんですよ。誰にも迷惑かけませんし。」

私は「そうだな。」と言って立ち去りたかった。こいつは救えない。そう思った。

 

しかし、確かにこいつの作る壺は美しい。素人目の私にも分かる。

「玉壺よ。・・・まだ生物を壊したいと思うか?」

「・・・わかりません。自信がありません。」

「人を避けて生きる生活は醜いと思うか?」

「いいえ。私は、そうやって作品を作り続けてきたので。」

「・・・他の芸術を醜いと思うか?」

「いいえ。良いものは、良いと思います。私、芸術家の端くれなので。」

「・・・自分の芸術を褒める者を殺めたことは?」

「あまりありません。でないと、私の芸術を認めてくれる者がいなくなってしまうので。」

 

「・・・では、人目を避けて芸術を作るところからやり直せ。

そして他人の作品を見よ。他人の作品を見て慣れよ。

・・・私には芸術などは分からぬ。どれが醜くてどれが綺麗なのかは分からぬ。

そんなものは個人の主観だと思っている。

ただ、見聞を広めることは良いと思っている。

・・・お前の世界は狭すぎた。少しずつ広げていけ。

そうすれば、お前が他人の芸術を認められるように、お前が他人を見ても不快に感じなくなるのではないか?

知らんが。」

玉壺は黙っていた。

 

「・・・ちなみに、お前の壺は美しいと思うぞ。その誇りだけは忘れるな。」

そして、玉壺の出した答えは「もう一度人に生まれ変わって壺を作り続けたい。」だった。

 

玉壺を見送った後、使者が言った。

「醜形恐怖症という病があります。人の顔を見ると気持ち悪いという心の病です。彼はその最たるものだったと思います。」

「・・・心というものは治るのか?」

「わかりません。誰も正解を出したものはおりません。」

玉壺は天国送りにした方が良いかと思った。

でも、もう一度やり直せるなら、その機会があっても良いとも思った。

また人を殺めて地獄に来たら何度でも斬って捨てるが。

 

 

 

 

(あぁ、恐ろしい。生きることはなんと恐ろしいことか。

あぁ、恐ろしい。死に向かっていくのはなんと恐ろしいことか。

儂は逃げた。逃げ続けた。それの何処が悪い?

逃げられなかった。ならば傷つけるしかないではないか。殺すしかないではないか。

何故儂を裁こうとする?

お前達には何の危害も与えてないのに、何故お前達に儂を裁く権利がある?

何故、お前達に特権がある?堂々と生きられる特権がある?

儂は鼠のように縮こまって生きているというのに、何故お前達は堂々と生きている?

あぁ妬ましい。妬ましい。殺してやる。殺してやる。)

 

 

玉壺以上に救いのない存在だと思った。この場で斬って捨てた方が良いと思った。

半天狗は縮こまって泣いていた。わかっている。こいつにはどんな言葉も届かぬ。

聞いていないから。自分のことしか考えていないから。

私は使者に頼んで刀を出させた。それを半天狗の方に放り投げた。

「・・・それを取って私と戦え。私に一太刀入れられたら、お前の望みを聞こう。

・・・逃げることも拒否も許さん。即座に四肢を斬り、永遠に溶岩に浸ける。

時間は一刻。それを過ぎた場合も、即座に四肢を斬り、永遠に溶岩に浸ける。

・・・貴様などは何処の地獄に逝っても同じだろうからな。」

半天狗は泣き叫んだ。しかし私が刀を抜くと、刀を手にした。

 

「条件を追加する。命乞いをしたら・・・、いやもういい。喋ったら即座に四肢を斬り、永遠に溶岩に浸ける。」

半天狗は斬りかかってきた。打ち合って、やはりと思った。

こいつは剣の腕に覚えがある。それも相当な。

こいつが泣き叫んでいるのは甘えているだけだ。何処までも自分を甘やかしているだけだ。

だから斬らずに叩きのめした。殴った。蹴った。踏みつけた。

 

「条件を追加する。涙を流したら即座に四肢を斬り、永遠に溶岩に浸ける。」

半天狗は泣かずに斬りかかった。鬼そのものだった。

半刻が経過した。半天狗の表情がなくなった。

構えも老人のものではなく、若者のそれになった。覚悟をした顔になった。

 

その後の半刻は私自身も打ち合って愉しかった。やはり相当な手練れだ。

ちゃんと修練を積めば私を凌ぐ実力者になれたかもしれないのに。

性根を正してやる者がいなかったからこうなった。

導いてやる者がいなかったからこうなった。

 

半刻が経過した。半天狗は結局私に一太刀も入れられなかった。

わざと入れさせる?そんな情けは私にはない。

 

「・・・四肢を斬られ、永遠に溶岩に浸かる覚悟は出来たか、半天狗。」

半天狗は頷いた。

「今、思っていることは何だ。」

 

「・・・悔しく思っております。」

 

「では、機会を与える。・・・生まれ変わってやり直せ。

悔しさを糧に這い上がれ。ただし、その悔しさは卑怯な手段では晴れぬ。

正々堂々とした生き様でなければ晴れぬ。

・・・私がそうだったからな。」

半天狗は意外そうな目で私を見つめた。そして言った。

「・・・やり直しまする。悔しくて仕方が無い。

あの堂々として生きていた者達に「自分の方がこんなに優れているんだぞ」と見せつけてやりまする。

・・・そして、もう一度死んだら、竈門炭治郎、あの正義面した糞餓鬼に勝負を挑みます。

奴にも悔しさを与えなければ気が済まない。」

 

そして、私は半天狗を見送った。

そういえば、更に救えぬ外道がいたのを思い出した。

奴とも会わねばならんのか・・・。

 

 

 

 

(人を殺すというのは、そんなにいけないことなのでしょうか?

私の夫は糞でした。だから殺しました。

それから病みつきになりました。だって殺す度に私の琵琶の音は美しくなっていくから。私が求められていくから。

私は鬼になり、迷宮を作りました。それは城になっていきました。

鬼達は逃げ場が存在することを喜びました。私は、自分の存在が求められていることを喜びました。

何より無惨様が私の存在を喜びました。

はい、私は今でも「無惨様」と呼んでおります。お慕いしております。

えっ?私を殺したのは無惨様?何で?私はあなた様にこんなに尽くしたのに。

私が使えないから殺した?私は捨てられたのですか?

夫のように私を扱ったのですか?

嘘だ。信じない。嫌だ。いやだ。

いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)

 

 

「・・・お前と話したことは、あまりないな、鳴女。」

「はい。」

「・・・生きたいか。」

「死にたいです。無に還りたいです。」

「・・・何故だ。」

「私を求めている人がもういないからです。」

「・・・生まれ変わってやり直すことは?」

「嫌です。生まれ変わったら、私はまた人を何人も殺すでしょう。」

「・・・天国に行くことは?」

「嫌です。上辺だけの善人が数多くいる世界など吐き気がします。」

「・・・どうすれば自分は救われると思う?」

「無に還ることです。」

堂々巡りだ。強情な女だ。

 

「・・・琵琶の曲を聴かせてくれないか?」

「え?」

「・・・意外か?」

「はい。あなたにそのような興味があるとは思いませんでしたので。」

「・・・では、私の気が済むまで、曲を弾いてくれ。」

鳴女は曲を弾き続けた。私は座って聴いていた。

 

何年も聴いた。何十年も聴いた。何百年も聴いた。

折れたのは鳴女だった。

「・・・もういいでしょう・・・。」

「私は気が済んでいない。」

「・・・何故ですか・・・。こんな私なんて斬り捨てればいいでしょう。

私は地獄が似合いなんですよ・・・。地獄か無でしか救われないんですよ・・・。」

「そうはいかない。お前は今苦しんでいる。・・・放って置くわけにはいかない。」

「何故ですか・・・。」

 

「・・・仲間だからだ。」

鳴女は唖然とした顔をした。その後で、

「うっふふふふふ。あっはははははははははは!!!!!!!!仲間?我々は鬼ですよ?

仲間?鬼狩りみたいなこと言って。おかしくなりましたか?」

「・・・おかしくなどは無い。」

「ふざけるな!」

「・・・ふざけてなどいない。逆に聞くが、何故仲間がおかしい?」

「我々は無惨様の駒でしかないからです。無惨様の意思によってのみ生きられます。

存在価値はそれだけです。仲間意識などという自由意志は認められていません。」

 

「・・・では、とうの昔に我々は鬼狩りに敗れていたな。」

「は?」

「そうだろう?我々は情報を共有していた。仲間が鬼狩りに敗れたとき怒りもした。結託した。

・・・そうでなければ、夜の中でしか生きられぬ我々に勝ち目はなかった。

無惨は記憶を封じたが、感情は封じなかった。

何故か?感情のない、心のない人形では鬼狩りに勝てぬ事を無惨は気づいていたからだ。

・・・奴は人の心を軽視していたが、その心を一番恐れていたのが奴だ。」

「そんなことは・・・。」

「感情が、心が少しでもあれば、仲間意識も出来る。我々の関係はほとんど憎み合いだったがな。

だから敗れた。

・・・ここからは私の個人的な感情だが、私は鬼狩りに負けたままなのは嫌だ。奴らと対等になりたい。

そのためには心が必要だ。そのために私は地獄を彷徨っている。

・・・そして、そのほんの少しの心が、仲間意識が、お前を救いたいと言っている。」

 

「では、私を」

「・・・殺さない。無にも還させない。お前は機械のような女だったが、今でもそうか?

・・・なら何故お前は苦しんでいる?」

「私は、もう誰にも必要とされていないのが悲しくて・・・」

「・・・その前は?人であった頃には誰に必要とされていた?」

「人の時に、既に私は人を殺して、高揚した感覚で琵琶を弾いて、それでのみ必要とされた狂った女でした・・・。」

「・・・その前は?お前に琵琶を教えたのは誰だ?親は?

・・・すまない、お前とは何百年も共にいたのに、私はお前の過去を知ろうともしなかった。許してくれ。」

 

鳴女は自分の生まれた頃、人であった頃を話してくれた。私も、人であった頃のことを話した。

「話してくれて感謝する。

・・・そして、過去を語り合った者同士で、もう一度聞きたい。

どうすれば、お前を救える?」

「・・・私は、ちゃんとした曲を奏でていた頃の気持ちに戻りたいです・・・。」

 

鳴女は人としてやり直すことを決めた。

「・・・最後に聴かせてくれないか?お前が最初に学んだ曲を。」

「はい・・・。」

鳴女は純粋な心を持っていた頃の曲を聴かせてくれた。

それは稚拙で単純な曲だったが、私の心に一番響いた曲だった。

鳴女が天に昇っていったのを、私は見送った。

使者は待っていた。

「・・・何百年もかかった。待たせたな。」

「良いのです、ここでは時間の流れが人の世とは異なりますので。

ところで、寄り道して欲しいところがあるのです。

無惨の鬼とは違う所に住む鬼です。」

 

 

 

当然のことながら、私が救った鬼は上弦だけではない。

名も知らぬ鬼達も救った。ほとんどが天国行きを願った。叶えてやった。

改心してなければ再び地獄に堕ちるらしい。その時に会えば斬るだけだ。

逃れ者も当然救った。奴らは二度と地獄に堕ちないだろう。

 

救った鬼の数は数えていない。

とりあえず、無惨はよくこれだけの人間を鬼にしたものだと呆れかえる数であったことは分かる。

時間も相当費やした。

昔、人間が原人と呼ばれた頃から私が死ぬまでの歴史以上の時間を費やしたことを使者から聞かされた。

そして、私が会うのは最後の逃れ者だ。名を珠世という。

 

 

「初めまして、黒死牟さん。」

「・・・何故天国か人の世に行かない?」

私は不躾に聞いた。正直、鳴女以上に厄介な女だと直感で感じた。

「勇気がありません。」

「・・・お前の情報は使者から聞かされている。

お前が殺した人の数は、既に人の世か天国へ逝った鬼よりも少ない。

何故地獄に留まる?・・・家族を殺めたからか?」

珠世は首を横に振った。

「私には人の世に残しておいた鬼がいます。」

「・・・愈史郎という鬼か。」

「ご存じですね。」

「奴はまだ人の世で生き続けているらしい。・・・お前を待ちながらな。」

 

「私は決めかねています。天国で家族と再会するか。愈史郎の元へ行くか。

愈史郎の元へ行っても私は定命です。私が死ねば愈史郎は必ず後を追います。

私が天国へ逝けば愈史郎は永遠に生き続けます。

どちらにせよ私は愈史郎を苦しめた罪を背負います。

その罪を背負う勇気がありません。」

「・・・愈史郎はお前の絵を描き続けているらしい。なら会え。

・・・愈史郎が後を追う?好きにさせよ。

奴は人を殺めてないのであろう?遠からず天国へ逝く。

・・・そこでお前とお前の家族と愈史郎と共に暮らせ。」

「あなたに決める権利はありません。」

 

本当に面倒くさい女だ。斬って捨てる訳にもいかぬ。私は狡い手を使った。

「・・・私にも妻子がいる。おそらく天国にな。

・・・正直会いたい。だがお前が地獄に留まっている以上会えぬ。

・・・私のことを思って折れてくれぬか。」

「私だけ地獄に放っておいて下さい。」

「そうもいかぬ。・・・なぁ使者よ。」

使者が顔を出した。

「・・・あなたは・・・。」

「私からもお願いいたします。どうか地獄から抜け出して下さい。

どの道を選ぶかはあなたに任せますので。」

「・・・わかりました。」

珠世は人の世で愈史郎と再開する道を選んだ。

 

珠世は、最後に私に依頼した。

「無惨に会っていただけませんか?救えぬ地獄へ堕ちたのは知っています。

でも、それでも、私の夫のようなものだった存在です。救わなくて結構です。

ただ、救われるきっかけなら、あなたなら与えられると思います。」

 

厄介な仕事が増えた。最後だった奴にこれから会うだけでも気が滅入るのに。

 

 

 

 

(やぁ、父上、母上、信者の皆。元気だったかい?

俺の予想通り、皆地獄に堕ちたね。

寂しかったかい?大丈夫だよ。

俺が、地獄でも天国みたいなとこに変えていくからさ。

あれ、どうしたの皆。自害なんてして。

そんなことをしても違う地獄へ逝くだけだよ?

それとも、そんなに俺に会うのが嫌だったの?

おかしいなぁ、俺そんなに嫌われることした?

わからないよ。

・・・俺1人になっちゃった。

俺は皆を救いたかったのに。

俺は皆を幸せにしたかっただけなのに。

どうすればいいんだろ。どうすれば良かったんだろ。

わからないよ。わからないよ。)

 

 

童磨は、私が生前斬り殺したい相手だった。

狛治もそう思っていた。

無惨ですらそう感じていた節がある。

奴は人でも鬼でもない何かだ。

脳の構造がおかしいのか魂が腐っているのか知らんが、常に我々の予想を遙かに外れた行動をする。

無惨と同じ阿鼻地獄に堕ちなかったのが不思議なくらいだ。

いや、奴は苦痛を快楽にしか感じている。

阿鼻地獄でも快楽に感じるだろう。

 

「・・・あれを救わねばならんのか?」

「はい。」

「・・・良心の呵責に苛まれている様子が全然見えんが。」

「それでも良心は必ず存在します。彼と仕事をしてください。このような・・・。」

私は使者の助言を聞き、童磨に会った。

「黒死牟殿久しぶり!」

「・・・私はお前に会いたくなかった。」

「そんなこと言わないでよ、寂しいなぁ。

なんかさぁ、知り合いが地獄にいないんだよ。

皆何処に行っちゃったんだろう。違う地獄かな?」

「皆、天国か人の世に行った。・・・残るはお前だけだ。」

「そうなんだ。なんかさぁ地獄に来て俺、女の子食べてないんだよね。

食べようとしても直前に消えちゃうんだよね。

傷を付けようとしただけで直前に消えちゃうんだよね。

神様の仕業かなぁ。本当に意地悪だよね。死ねば良いのに。」

私はお前に死んで欲しい。無に還って欲しい。と言いたかったが言わなかった。

それはこいつの快楽にしかならないから。

「お前に私の仕事を手伝って欲しい。・・・地獄に来た強き者から弱き者を守る仕事だ。」

「なんだぁ。それ俺が生きてた頃からやってきた事じゃん。大得意だよ。」

「・・・ただし、悪意を持って攻撃してこぬ者を殺すことは許さぬ。

傷つけることも許さぬ。

それを行えば、即座に斬って捨てる。」

「はーい。」

正直私は使者の言葉を信じていなかった。こいつの心が掻き乱されるなんて。

 

 

 

 

私と童磨は、人々を襲う罪人や異形を斬って捨てた。

言っていなかったが、私は人々を守る役目を与えられてから再び血鬼術等が使えるようになった。

童磨も同じ役目に就いたため血鬼術の使用を許可された。

ただし、奴の攻撃の中で無差別な攻撃は封じられている。

 

ある時、童磨は幼い少女を助けた。

「大丈夫だったかい?」

「ありがとう、お兄ちゃん。お礼にこれあげる。」

童磨は注射器を刺された。

「え?」

「これね、LSDっていうんだよ。とっても気持ち良くなるんだよ。

ただね、私これに耐えられなくて死んだの。

でもね、ここではいくら打っても死なないの。

濃度を50倍くらい高めてある。そうしないと、もう気持ち良くならないから。」

童磨はフラフラと酩酊していた。

しかし、少女に対して攻撃しようとした。私が止めた。

「・・・悪意を持って攻撃してこぬ者を殺すことは許さぬ、と言った。」

「・・・え?・・・俺、なんか変な薬品打たれたんだよ?攻撃じゃないの?」

「あの少女にとっては善意だ。」

「・・・は?」

少女は訳のわからない笑い方をしながら何処かへ去って行った。

「・・・わからないよ・・・。わからないよ・・・。」

 

童磨は助けた者達に、感謝の贈り物をされた。

危機感と反省のない童磨はいちいち受け取ろうとした。

「後ろを向いて」という女に背後を見せた。女は童磨の後頭部を殴り続けた。

「死は救済!死は救済!」と言いながら。

私は童磨の反撃を止めた。女は自傷しながら去って行った。

 

男がいた。男は感謝と言い、自分の腹を切り取って肝臓を出して童磨の口に入れた。

男は、「助けてくれてありがとうございます。」と言って、次の地獄へ逝った。

 

ある男女がいた。男女は助けられた礼に自分達の性交を見せた。

それは、地面を掘って自らの陰部を入れてこすりつける行為だった。

「・・・何それ?」

と言う童磨に男女は

「我々は神聖な大地と1つになることを見せて、快感をお裾分けしています。」

と言った。

私は童磨が「・・・ひっ!」と怯える姿を初めて見た。

 

童磨が食事に招待された。

疑いなく食べる童磨。

食後に、出てきた料理の材料は助けた者達の人糞だった事を、助けた者達から満面の笑みで伝えられた。

童磨は嘔吐した。

助けた者達は「何故吐くのかわからない」という顔で互いの人糞を美味そうに食べていた。

 

筆舌に尽くしがたい行為が童磨に恩返しとして与えられた。

それらは、助けられた者達に取って善意だった。

童磨は人を助けるのを止めようとした。私が許さなかった。

童磨は恩返しという名の異常行為を次々と受けた。

私は恩返しを全て無視した。それが異常行為であることを、童磨という前例から学んでいたから。

 

童磨は蹲って震えていた。「お兄ちゃんどうしたの?」と気遣う少年がいた。

童磨は悲鳴をあげて少年の元を去った。

それは正常な善意であることは、私には分かっていたが。

 

「なんなんだよ、あいつら・・・。なんなんだよ、あいつら・・・。怖いよ・・・。」

「・・・生前、お前がしてきた行為と何ら違いがないぞ。」

「・・・俺は、皆が幸せになってくれると思った事しかしてないはずなのに・・・。」

「・・・それはお前の独りよがりだ。お前は自分の尺度でしか物事を測れない。

測ろうとしない。

・・・お前の人であった頃の情報を使者から聞いた。

正直、お前なんかに哀れみを抱いたよ。

自分の事しか考えていない者達に支えられた環境。狂わないはずがない。

だが、私は哀れみを抱いてもお前を許しはしない。」

 

「・・・消えたい。無に還りたい。」

「許さない。」

 

 

 

 

私と童磨は、人々を襲う罪人や異形を斬って捨てる仕事を続けた。

 

童磨の力は日に日に衰えていった。只の無力な人間になっていった。

 

私は完全に無力になった童磨を、人を襲う異形の矢面に立たせた。

逃げたら斬って捨てると脅した。

震えている童磨を助けたのは、かつて童磨に助けられた人々だった。それぞれが武器を持って。

当然異常行動をしていた者達も含まれている。

 

童磨を助けようとした人間が異形に襲われそうになった。

それを庇ったのは童磨だった。自らが傷つく事を厭わず助けた。

私は助けなかった。結局、無力な童磨と人々の力で異形が逃げ出したから。

 

童磨は自分を助けた人達に「ありがとう・・・。ありがとう・・・。」と泣きながら礼を言った。

童磨に助けられた人は「こちらこそ、ありがとう・・・。」と童磨を抱きしめた。互いに子供のように泣きながら。

 

童磨は私の元に来て「もう一度人間になって、人間のことを学び直したい。」と言った。

童磨と地獄で出会って、童磨がその決断をするまで数千年の時を費やした。

 

人の世に行く童磨を見て私は使者に言った。

「・・・正常な人間など存在するのか?」

「いません。断言できます。・・・ただ、歯止めがあれば正常な人間の「ふり」は出来ます。

「正常なふり」。それは非常に辛い生き方ですが。」

私は最後の仕事に向かった。完全なる異常。救う気持ちなど全くなかった。

 

 

 

 

(生きるために他者を踏みにじって何が悪い?

弱肉強食。人が自然の摂理と言っていることを、ただ人の世で実践しただけではないか。

私は常に死が身近にあった。何故神はそのような運命を私に与えた?

それに逆らい続けたら、神は私を地獄の最下層に堕とした。

許せぬ。何時か神を殺す。

天国にいる自分に何の落ち度もないと思っている下等生物を全員殺す。

待っていろ。必ず皆殺しにしてやる。)

 

 

無惨と顔を合わせたとき、私は自分の弱さに向き合わされる。

奴の甘言に乗って、私は鬼になった。奴と同じく死ぬのが恐ろしかったから。

奴に一度も逆らわなかった。奴は、即座に私を殺せる仕組みを組み込んでいたから。

 

無惨は阿鼻地獄で拷問にかけられていた。内容は省略する。

とりあえず、人間が想像できる苦痛を遙かに超えたものとだけ言っておく。

当然狂うことも無に還ることも許されていない。

それにもかかわらず、奴の目は復讐心に燃えていた。

何時か自分をこんな目に遭わせた者達に復讐したいと思い続けていた。

それは生けるもの、死したもの全てだった。

 

「久しぶりだな、無惨。」

「様をつけろ、無礼者。」

「そんなに復讐したいのか、全てに。」

「当然だ。まず、私を短命に生まれさせた神を殺す。

私に逆らった鬼狩り全てを殺す。

人間を殺す。生命を殺す。全て殺す。全て無に還す。」

「誰もいなくなるぞ。そんな孤独に耐えられるのか?」

「孤独は竈門炭治郎の心の中で既に味わったよ・・・。

あの時の私は惨めだった。今でも思い出すと怒りが止まらぬ。自分自身にな。」

 

「お前は自分自身すら憎んでいるのだな。」

「そうだ、猗窩座のようにな。」

「お前は異常だ。」

「そうだ、童磨のようにな。」

「なるほど、お前は私達に自分を重ね合わせていた訳か。」

「あぁ、そうだ。私は自分に似たものを集めた。強くはなかったが数多く集まったよ。」

「皆死んだ。そして、地獄にももういない。お前の痕跡は人の世にも地獄にも無い。」

 

「フフフフフフ。ハハハハハハハハハハハハ!!!!」

「・・・・・。」

「違うぞ、黒死牟。私の想いは生きている。

かつて、産屋敷は「人の想いは永遠」と言っていた。

聞いたときは下らぬと思ったが、今では奴の言葉がよく分かる。

確かに、私が死んで鬼は全滅した。

だがな、私が千年かけてばら撒いた悪意という想いは永遠に無くならないんだよ。

人は今でも醜く争っているのだろうなぁ。そこに私の想いがある。

人がいる限り私は永遠だ。それは産屋敷の想いなどとは比べものにならないほど、深く深く根付いている。」

 

「・・・先ほどお前は『全て殺す。』と言った。

なのに『人の心の中に自分がいる限り自分は永遠。』と言う。

それは矛盾だ、無惨。

それでは人を、全てを滅ぼした時にお前も死ぬからな。」

「・・・・・。」

「はっきり言ってやろう。お前は負け続ける事を望んでいる。

そうして勝者の影として生き続ける事を望んでいる。

お前は、影としてしか生きられないから。」

「・・・・・。」

 

「お前が不治の病でなかったら、こんな事にはならなかったと哀れみをかけられたいか?」

「断る。私は健康体でも、この道を選んだ。全てを憎む道を。全てを踏みつける道を。」

「お前のその執念だけは誰も叶わぬだろうな。」

「そうだ。私は強い。この地獄も耐えきってみせる。そして何時か全てを滅ぼす。必ずな。」

 

「・・・ありがとう。私の目標が出来た。」

「なに?」

「私はお前を超える。お前を倒す。そのために刃を振るい続ける。

私は敗者として地獄に堕ちた。だが二度と負けぬ。」

 

「・・・そうか。どうでもいいことだ。だが、心の片隅に止めてやる。

お前は長年私に仕えてくれたからな。」

私は無惨の元を去った。何時かお前を超えたときに再び来よう。

 

 

 

 

「お疲れ様でした。」

「・・・これでいいか?縁壱。」

 

「お見事でした。兄上。・・・いつから気がついていましたか?」

「最初からだ。お前のことは気に入らない。雰囲気で分かる。」

「・・・兄上には長き時間お手を煩わせました。」

「全くだ。信じられん時間をかけた。」

 

「・・・兄上は、これからどうされますか?

人の世に戻りますか?天国へ逝かれますか?」

 

「・・・他の選択肢は無いのか?」

「他とは?」

「人の世でも天国でも戦えぬ。そんな退屈なところには行きたくない。

私は地獄で他の世界がある事を知った。

他の世界を巡り猛者と戦いたい。そんな願いは叶えられんのか?私は欲張りだからな。」

 

「可能です。ただし条件がございます。」

「何だ?」

「私も共に行きたいと存じます。今度こそ共に戦いたいと思っております。」

「・・・分かった。共に行こう。

・・・ところで、元の姿に戻って良いか?」

「・・・正直、何時まで鬼の真似をしているのかと思っておりましたよ。」

「お前は本当に気に食わない奴だ。」

 

私は人の姿に戻った。

 

もし、これを読んでいる者で腕に覚えがあるものがいたら、我々と仕合うかもしれぬので、名乗っておく。

 

私の名は、継国巌勝。隣が弟の、継国縁壱。共に果てなき強き高みを目指し、旅を続ける兄弟だ。

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。