お待たせしました。
時刻は夜。
庵木総合病院入口の外に、轟と切島……そして
これから緑谷と爆豪を救出しに行く。
その前に二人は八百万に受信機を頼んでいた。
だからすぐに向かうのではなく一度病院前で待っていたのだ。
麗日は、誘われたあの時に既に決意していた。
故に病院前で待っていた二人と合流し、共に八百万が出てくるのを待っていた。
しかし彼らがやることは本来間違っていること。
来てくれるという方が可能性は低いかもしれない。
すると病室から影が出て来た。
「ッ! 八百万」
入院していた八百万が、三人の前に。
「八百万、答え…」
「私は――」
「――待て!!」
八百万が答える直前、それを遮るように背後から第三の声が響く。
全員が視線を向ければそこには――
「……飯田くん」
飯田が立っていた。
飯田は静かに口を開く。
「――なんで……なんでよりにもよって君なんだ? 轟君…俺の私的暴走を緑谷君とともに咎めてくれた…共に特赦を受けたはずの君が……なんで俺と同じ過ちを犯そうとしているんだ…! これはあまりにもあんまりじゃないか……!!」
「何の話だ……?」
「切島……」
飯田は職場体験での自身の過ちのことを語るが、その真意を知るのは轟と緑谷のみ。
故に他三人は何を言っているのか分からないでいるが、轟は何も言わずただ黙って聞いていた。
「俺たちはまだ保護下にいる…ただでさえ雄英が大変な時だぞ。君らの行動の責任は誰が取るのか分かっているのか!?」
飯田の言い分は最もであり正論。
行動に移し、下手すれば取り返しのつかないことになる。
現に職場体験で、そうなりかけた。
下手すれば飯田はステインに殺されていたかもしれない。
腕の後遺症も、後遺症だけに済まなかった可能性もある。
轟はそれでもと説得しようと前に出た瞬間――飯田は轟の顔を殴った。
それを見た他の三人は驚愕するが、そんなの気にせず飯田は轟の肩を掴み叫ぶ。
「俺だって悔しいさ! 心配さ! 当然だ、俺は学級委員長だ!!! クラスメイトを心配するさ!!!! 緑谷君と爆豪君だけじゃない!!!!」
「飯田……」
「君が暴走した挙句、兄のように取り返しのつかない事態になったら……僕の心配はどうでもいいって言うのか!? 僕の気持ちは――どうでもいいって言うのか……!?!?!?!?」
一人称が本来の言い方に戻るほど、飯田は取り乱している。
それに気づかないほど、彼らも視野が狭くなっているわけではない。
故に、轟は口を改めて開いた。
「聞いてくれ飯田。俺たちは、ただ正面からカチ込むつもりはないんだ」
「なに…?」
飯田は顔を上げ、轟の肩を掴んでいた手を放し下ろす。
「俺たちの目的は――戦闘なしで二人を救け出すことだ」
「おう! ようは隠密活動! それが俺ら卵の出来る……ルールにギリ触れねぇ戦い方だ!」
そう、保護下であり戦闘がまだ許されない彼らでも出来る活動範囲はある。
それを考え、ニ人はルールを破らないギリギリのラインでの爆豪並びに幻神の救出を考えていた。
「私は轟さんを信頼しています。ですが、万が一を考えて私がストッパーになれるよう、同行するつもりで参りました」
「なっ!?」
八百万は止めるであろうと思っていた飯田は、八百万の同行とその目的を聞いて驚愕する。
しかし飯田の視線は麗日へと移動した。
「三人のことは分かった……だが麗日君、君まで同行する意味はあるのか? 君が緑谷君と爆豪君を救おうとしたのは既に聞いているが……」
飯田の問いに、麗日はただ俯いていた。
意味もなくただ危険を冒して救けだそうとするのなら、止めたほうがいい。
数秒の沈黙の中、轟たちの視線も麗日に向けられている。
「私は……」
そして麗日は口を開いた。
「私はあの時、何もできなかった。救けようと必死に手を伸ばしたのに届かなかった」
一度は焼かれたものの完治した己の手を見つめる。
その手はあの時、二人に向けて伸ばしたが届かなかった手だ。
「あの時も、ここに来たのも……私がどうこうじゃなくて、『デクくんなら』って考えちゃってる。私、デクくんならこうするだろうって思ったから行動に移したんだ。デクくんならきっと『救けたい』って思って行動すると思う」
「麗日……」
「――だけど」
麗日は飯田を見つめる。
その表情はまさに覚悟を、決意を示すもの。
「ここに来たのも、デクくんたちを救けたいって気持ちも、私自身が思ったこと、決めたことなんだ。手が届くなら絶対に伸ばして掴む。私は私の意志で――二人を救けるんだ!!!」
それを聞いた飯田は目を見開く。
同時に止めても止まることはないだろうと理解もしてしまった
その示しとばかりに溜息を漏らす。
「分かった……切島君たちの作戦は言い返れば平行線。八百万君がストッパーとして同行するのもわかったが、一人では三人を止めきれないだろう」
そして飯田もまた、覚悟を決めた表情で告げた。
「――俺も連れて行け」
——◆——
時刻は進み、轟たちは新幹線を使用し、発信機の示す場所、神奈川県横浜市神野区へと辿り着いた。
「――さぁどこだ八百万!!!」
「お待ちください!!!!」
ついて早々、切島が駆け出そうとし八百万がすぐに止めた。
もはや猪突猛進とも言えるその行動、やはりストッパーがいなければこの時点でバレている可能性もあっただろう。
「ここからは用心に用心を重ねないといけませんわ。私たちはすでに
「そうやった…つまり隠密や!」
「それだと余計に目立つぞ麗日」
隠密行動。
麗日はあからさまに顔を隠していると言わんばかりに、両腕をクロスして隠す。
その行動が逆に目立たせてることを、轟が冷静にツッコんだ。
「だが八百万君の言う通り、このままじゃ偵察もままならないぞ」
「だとしたらどうすんだよ…?」
何をするにしても、ここに偵察や隠密に長けた者、"個性"すらいない。
しかし八百万は提案としてある店へ指を差し向ける……なぜか頬を赤めソワソワしながら。
ちなみにその店の看板には――『激安の王道
―
――
―――
数分後、彼らは準備を終え店から出た。
「なるほど、変装か」
「そういうことですわ!」
ホスト風の衣服と、特徴的かつ目立つ紅白髪全体を黒ヘアーを被り、固めの火傷も含め隠した轟。
ドレスとサングラスを身に付け、髪型も念入りに変えた八百万。
「この格好は…何なのだ?」
「後で教えっから!」
蝶ネクタイにちょび髭、髪型を変えさらには眼鏡を外した飯田。
角、もしくは獣人の耳に当たるのか、トゲトゲにしていた髪を下ろし生やすように付けている切島。
「な、なんか落ち着かんなぁ……」
黒をベースにオーバーサイズパーカーや帽子を被った麗日。
「ふっ、夜の繁華街……子供がうろつくのは目立ちますものね!」
「八百万――わざわざ買わずとも『創造』でどうにかできたんじゃないか?」
「ッ! そ、それはルール違反というものですわ!!」
どこか満足げな八百万に対し、轟が核心的な指摘を言いだす。
それに対し八百万は慌てながら否定し理由…否、言い訳をした。
「(ドンキ、入りたかったんやな……)」
「(ピュアセレブは入らないんだな……)」
気を取り直し、発信機が示す場所へと向かおうとした。
「お? 雄英じゃん!?」
だが束の間に、第三者から雄英という言葉が聞こえた。全員が思わず硬直し、声の方へ振り返るも、その視線は人々にではなく、ビルに設置された巨大スクリーンへと向いた。
何故か?それはその映像に――
『それでは先ほど行われた雄英高校謝罪会見の一部をご覧ください』
正装を纏った相澤、ブラド、根津校長の三名が映し出されていたからだ。
——◆——
同時刻の
雄英の記者会見がテレビにて放送されている映像をテレビに映す中、BARには
「不思議なもんだよなぁ……何故ヒーローが責められてる?」
一度テレビの画面を消した死柄木は爆豪へ視線を向けて、上機嫌で喋り始めた。
「奴らは少~し対応がズレてただけだ。守るのが仕事だから? 誰にだってミスの一つや二つある。「お前らは完璧でいろ」って? 現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ…爆豪君よ」
「守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!」
人の命は失えば戻ってこない。
だがそんな人の命を金や自己顕示に変化させ、それをルールで縛り上げる現代の超人社会。
そしてヒーローもまた敗北する時はするのに、その敗北者を励ますどころか責め立てる国民。
「俺たちの戦いは【問い】ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか。一人一人に考えてもらう。俺たちは勝つつもりだ……――君も、勝つのは好きだろ?」
死柄木の話を大人しく聞いていた爆豪の拘束を外すよう、死柄木は荼毘に指示する。
無論荼毘は反論するも、死柄木は対等に扱うことで、仲間になってもらうのが目的だと言い切る。
荼毘は数秒爆豪を見てから、隣にいるトゥワイスに任せることにした。
「は俺!? 嫌だし!」
「外せ」
「もうやだ~……」
文句を言いつつもトゥワイスは爆豪の傍に移動し、彼を拘束している拘束具を外し始める。
「強引な手段だったのは謝るよ。けどな、我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむただの暴徒じゃねぇのをわかってくれ。君を攫ったのは偶々じゃねぇ」
「ここにいる者…事情は違えど、人に、ルールに、ヒーローに縛られ苦しんだ」
死柄木はゆっくりと爆豪の傍まで歩み寄る。
爆豪は拘束を解かれ、軽く手を解していた。
「君ならそれを――」
だが次の瞬間、爆豪はトゥワイスの顔面を膝で蹴り飛ばしてから死柄木へ迫っていき、ご自慢の右の大振りをかまして爆破させた。
爆破を受けた死柄木は顔に装着していた手が外れ床に落ち、他の連合メンバーも驚愕していた。
「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…! 馬鹿は要約出来ねェから話が長ェ!! 要は『嫌がらせしてえから仲間になって下さい』だろ!?」
煙幕がBAR内に広がる中、爆豪はいつも通りの調子で語る。
「無駄だよ。俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた! 誰が何言ってこようが――そこァもう曲がらねえ!」
彼の眼は強い意思が宿っていた。
そして先の爆豪の『爆破』の衝撃によりリモコンが床に落ち、電源ボタンが入ったことで再び雄英の記者会見が映り出した。
——◆——
記者会見場。
記者の一人が相澤に対し質問を投げかける。
その内容は事件の最中、生徒に戦うよう促したことの意図を知りたいとのこと。
それに対し相澤はすべての状況を把握できていなかったこと、最悪の事態を避けるためと答えた。
「最悪の事態とは? 26名の被害者とニ名の拉致は最悪と言えませんか?」
「……私があの場で想定した最悪とは、生徒が成す術なく殺害されることでした」
棘のある質問に冷静に答える相澤に対し、記者は目を細める。そして相澤に続いて根津も言葉を述べ、襲撃時の
ガスを吸い意識を失った生徒らの命に別状はない。
同時に生徒のメンタルケアも行い、深刻な心的外傷は見受けられないことを伝えた。
「不幸中の幸いだとでも?」
しかし記者は懲りずその話題に食いつく。
「未来を侵されることが、最悪だと考えております」
「果たしてそれは、攫われた爆豪君並びに緑谷君についても同じ事が言えるのでしょうか?」
爆豪勝己――雄英校に優秀な成績で入学、体育祭準優勝。
中学時代にはヘドロ事件にて強力な
しかしその反面、体育祭で見せた粗暴な言動と態度など、精神面に不安定さなどが散見されている。
そこに
まさに記者は今ここで言えるのであればその根拠を今すぐ言えと遠回しに言っているようなものだった。とても攻撃的な言葉。
だがそれだけでは終わらない、彼らは使えるカードはとことん使ってくる、捉え方によっては
「――加えて緑谷君についてですが、彼は中学時代まで目立ったことはありません。一つ注目する点があるのなら彼は中学までの間は"無個性"だったらしいですね」
あぶり出す為なら徹底的に材料を絞り出す。
そう示すように、緑谷の"個性"登録の情報を開示した。それに対し相澤は一瞬反応し、それを記者は見逃さない。
「遅咲の発現だけでも信じがたく、あり得ないこと。なのに彼は――"個性"を複数所持しています。遅咲に加えて複数何てこと、過去からこの超人社会となった現代に至るまで前例はありません」
「(それはこちらも知りたいところだよ)」
記者の発言に相澤は内側にて静かに本音を漏らす。
それもそうだろう、入試試験も見ていた相澤からしても緑谷の"個性"には謎が多すぎる。
しかし自身が預かった生徒の一人、保護下であることに変わりはない。
「一方で、
しかし記者はとんでもない可能性というものを突き出した。
「緑谷君は人の姿をしたままではありますが――その脳無と同じ
「――――はっ????????」
相澤は思わず呆けた声を漏らした。
その可能性は確かにあるだろうが、まさかそんな内容が飛んでくるとは思ってもみなかったのだろう。
「体育祭の映像を何度も見返しましたが、あまりにも関連性がありません。別として、エンデヴァーさんの息子さんも二つの"個性"を扱いますが、アレはあくまで左右でそれぞれの融合型だというのはこちらも分かっています。ですが彼のはその融合型とも言い難い程に、いくつもの"個性"を使用しています。そこから
改めて考えれば、そうとらえることも十分できてしまう。
入試の時は"個性"を発現させたばかりの赤子のように扱えてなかった生徒が、入学初日には扱えるようになったどころか試験では見せなかった力まで使用していた。
そんなの、後から追加したとしか言いようがない。
「(わかっちゃいたが…まさかそこまで調べ上げてるとは…! 緑谷の"個性"のことは俺らでもまだ不確定要素が多すぎることだぞ? まさか、そういう可能性を視野に入れさせることで挑発し、粗野な発言を引き出そうとしてるのか…! コイツは、イレイザーのメディア嫌いを知っている!!)」
この記者は相澤がメディア嫌いなのを知っているのだろう。だからこその言葉。
そして相澤はゆっくりと立ち上がり、それに対し記者はニヤつく。
そんな相澤を見て内心焦っていたブラドだが、そんな相澤は頭を下げた。
「―――爆豪勝己の粗暴な行動については、教育者である私の不徳の致すところです。ただ、体育祭での一連の行動は彼の理想の強さに起因しています。誰よりもトップヒーローを追い求め、もがいている。あれを見て隙と捉えたのなら、
相澤の言葉を受け騒然とする記者。
そんな中、相澤は続けた。
「緑谷出久についても、私は
その答えに記者は食い下がるも、それ以上答えることはなかった。
「我々も手を拱いてるワケではありません。現在、警察と共に調査を進めております。我が校の生徒は必ず取り戻します」
記者会見の所と、麗日の変装が一番難儀でしたね。
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