ミストバーンは欠片のように残っていたフレイザードを踏みにじり、そのまま姿を消した。
あまりにも呆気ない幕引きにポップ達もさすがに同情をしてしまうほどだった。
しかし憐れむ暇もなく、ダイ達は氷付けとなったパプニカの姫・レオナの救出に向かった。
そこには、僅かに溶けかけてはいるもののいまだに氷漬けの一人の少女の姿があった。
「な、なんで!? フレイザードを倒したら氷は溶けるんじゃなかったの!?」
ヒュンケルたちが調べた結果、氷を溶かし解放されるだけの生命力が彼女に残されていないのだと判明する。
このままでは残り僅かな生命力も底をつき、死にゆくのを見るばかりだと慌てたポップが必死に火炎魔法で溶かすべく奮戦するも、やはり死してなおフレイザードが放ったその氷の力は強く僅かにその表面を溶かすので精いっぱいだった。
(……俺の力だと砕くだけだ。気をポップに渡してみたけど体力がそこそこ回復しただけで、魔力そのものは回復しなかった。どうしたら……)
ただ見ているしかできない自分に焦燥感を感じつつ、悟飯は拳を強く握り込む。
そんな時、マァムが一つの可能性を口にした。
魔法を打ち出す魔弾銃。一つの弾丸に既に熱閃魔法が込められているらしくそれに追加で魔法を込めて放てば膨大な熱量になり氷を解かすことも可能なのではと。
危険は承知だがこのままでは死にゆく姫を見ているだけだと実行を決意。
だが……。
「はれ……」
「ぽ、ポップ!?」
「くそ、魔力が」
連戦に続く連戦と、先ほどまで氷を解かすべく力を振るっていたせいでついに魔力が底をついたのだ。
万事休すかと思われたその時、ダイの額に紋章が現れた。
(な、なんだこの気は!? 突然何倍も気が膨らんだ!? 今までのダイとはまるで違う……まるで、スーパーサイヤ人じゃないか!?)
ダイから感じていた気が爆発的に膨らんだことに驚いていると、目つきすら変わったダイが魔弾銃の弾丸を拾い上げた。
「くぉぉおおおお!! ベギラマぁぁぁあ!!」
気迫と共に弾丸に魔法をありったけ込めると、それを受け取ったマァムが魔弾銃で打ち込む。
激しい炸裂音と共に、魔弾銃は砕け散り……そして、氷は跡形もなく消え去っていた。
ばさりと倒れ込む彼女をすんでのところで抱き留めるダイ。
「生きてる……生きてるよぉ!!!」
弱弱しくも、確かに感じられた命の鼓動に涙を流しながらそう叫んだ。
皆の歓声が上がる中、マァムは砕けた魔弾銃を見つめ小さく「ありがとう」とつぶやいた。
その後、彼らはパプニカの生き残りたちに向けて「魔王軍フレイザードの撃破、パプニカの奪還」を大々的に告知。それにより各地で避難し身を隠していた国民や兵士たちが集まり始めた。
どの兵士たちもレオナ姫の無事を信じ、再起のチャンスを伺って各地の魔物たちと戦っていたようで涙を流しながら勝利を喜んだ。
民たちの無事を確認した悟飯たちは確保できた酒や食事でささやかながら、楽しいひと時を過ごした。
どんちゃん騒ぎで盛り上がる中、小さなざわめきが起きた。
「なんだ?」
静まり返った広場に向かうと、そこにはダイたちとレオナ姫が立っていた。
その近くには鎧の戦士、ヒュンケルの姿もある。
「俺の名は……魔王軍、不死騎団長ヒュンケル」
その宣言に先ほどまで楽し気に過ごしていた兵士たちが驚き、中には武器を構える者もいた。
「ま、まってよ! もうヒュンケルは魔王軍じゃないんだ!」
「そうなの! 彼はアバンの使途としての使命に目覚めて私たちの仲間となったのよ!」
ダイとマァムの言葉に悟飯は思わず顔を顰めるが、口を挟まず静かに見つめる。
(正直ダイたちの判断は甘すぎると思う。だけどこれは俺がどうこう言っていい問題じゃない。当事者でしか納得も理解も出来ない問題という奴だ)
「たとえどんな償いをしようとも、このオレが不死騎団によってこの国を滅ぼしたという事実はぬぐいようがない。
……幸いにも一度命を拾い、ダイ達の力になることができた。もはや思い残すことはない」
ヒュンケルは剣を地面へ投げ捨てる。
「レオナ姫、貴女の手でオレを裁いてくれ。この場で切り捨てられても、俺は構わん」
まっすぐな瞳で罪を償う姿勢を見せた。
その姿勢に内心、ダイたちの甘い判断よりヒュンケルの真摯な態度のほうが好感を抱いた。
レオナは小さく呼吸をすると、
「ヒュンケルの望み通り、このパプニカの王女のレオナが判決を下します」
流石のダイたちも口をはさむつもりはないらしく、不安げに2人を見つめている。
「あなたには残された人生のすべてをアバンの使途として生きることを命じます!!」
その言葉に心底驚いた顔で固まるヒュンケルに、よく通る声で続ける。
「友情と正義と愛のために、己の命を懸けて戦いなさい。そしてむやみに自分を卑下したり、過去にとらわれ歩みを止めたりすることを禁じます。……以上! いかがかしら?」
その締めくくりを聞いたヒュンケルのうつむいた顔からは、雫が落ちるのが篝火に照らされて見えた。
「承知……しました」
親しい者たちはほっと胸を撫で降ろし、パプニカの兵士たちは拍手を送る。
もちろんすべての人間が納得したわけではないだろうがそれでもレオナ姫の決定に意を唱える者はいなかった。
「……すごいな」
思わずつぶやくと、いつの間にか隣に来ていたマトリフが酒とサンドイッチを食べつつ呟く。
「あの姫さんはかなりの大物だぜ。怒りや憎しみを乗り越えた判断をできるならパプニカは持ち直せるかもな」
「そう、ですね」
悟飯はふらりとその場を離れる。その背中を見つめるマトリフは溜息を大きく吐いた。
「やれやれ、ごつい見た目のくせに繊細な奴だな」
そう言って彼はワインを仰いだ。
盛り上がる宴会の音を背に歩き、夜風に当たっていると数名の兵士たちと大柄な男の姿があった。
バダックとその仲間、そしてクロコダインだった。
「む」
クロコダインは悟飯に気が付き視線を向けると、バダック達も気が付いて「こっちで飲まんか」と誘う。
悟飯は無言で近づき近くに腰を下ろすと、酒をついだコップを渡される。
焚火がはじける音が聞こえる中、一言も発しない悟飯にバダックたちも何かを感じ静まり返る。
数分の沈黙の後、彼は静かに口を開く。
「……クロコダイン、お前はロモスを襲ったことをどう思っている」
ロモスを襲ったという言葉にバダック達が僅かに反応する。彼が具体的に何をしていたかは聞いていたらしい。
「ご、悟飯殿、クロコダインは悪いやつじゃないんじゃ、じゃから」
「わかってる。わかってるよバダックさん……俺もクロコダインがそれほど邪悪な奴じゃないってわかってる。でなきゃダイたちが心を許すわけない。…だけど、それは罪を許される事とは別問題なんだよ」
「その通りだ」
クロコダインが樽をジョッキのように飲み、はっきりと答える。
「魔王軍に居た頃、力こそが正義であり真実だと思っていた。強いものが上に行って弱いものを従える。当然の摂理で常識だと思っていた」
「弱肉強食、だな」
「ウム……しかし、ダイやポップと戦って理解した。人間は力の強さなど関係なく尊敬できる奴がいるという事を知った。ダイのように強大な力を持っても優しさを失わず、ポップのように貧弱でも強い心を持ち男の価値を見せてくれた……そんな人間を俺は、ロモスで大勢殺した」
沈痛な面持ちで静まり返るバダック達。
クロコダインの声から後悔とは違う、一種の自分の過去を恥じている雰囲気を感じた。
「クロコダイン、一発だけ……殴らせろ」
「構わん」
そういうと2人は立ち上がり向かい合うと、悟飯はクロコダインの頬を強く殴り飛ばした。
3倍以上体格差がありそうなクロコダインが吹き飛び地面に倒れる。
「ぐっ……すさまじい力だ。重く、早い……」
「今の一撃は、ロモスで死んだ人たちの分だ」
「多くの命を奪ったにしては軽すぎないか」
「そうだな、それこそお前を何回殺しても足りないくらいだ。だから残りは……俺も一緒にロモスで謝ってやる。許されるか分からないが、それくらいはしてやる」
その言葉に目を見開いて見上げるクロコダイン。
「これからは同じダイの仲間としてよろしく頼むよ。クロコダイン」
張りつめていた声音が優し気に変わると、悟飯は小さく微笑んで倒れる彼に手を差し伸べる。
「……ッ、うおぉっ」
彼は大粒の涙を流しながら、その手を握り返すのだった。