今までありがとうございました。
それでは、最後の戦いを見届けて下さい。
どうぞ。
「Web小説を読む時はメーン!」
「部屋を明るくして〜!」
「離れて読んでくだサーイ」
033
地上一階。
強固な防壁に囲まれた通路を、黒いランボルギーニ・アヴェンタドールが爆音を立てて疾走していた。
賞金稼ぎロックダウンのビークルモードである。
その車体後部には、エネルギーシールドで包まれた円筒状のカプセルが強固に固定されており、その中には八九寺真宵が閉じ込められていた。
しかし、時速数百キロに達するスピードで走り続けているにもかかわらず、外に繋がるゲートが一向に視界に現れない。電子地図のデータ上では、すでに到着しているはずの距離だった。
通路は奇妙にねじれ、同じ曲がり角を何度もループしているかのような錯覚を呼び起こす。
「……何か仕掛けたな、お嬢ちゃん?」
不敵なエンジン音と共に、冷酷な賞金稼ぎロックダウンの合成音声が車内に響く。
カプセルの中では、大きなリュックサックを背負った八九寺が、とうに鋼の意志の宿るその瞳を見開いていた。
「……話しかけないでください。あなたの事が嫌いです」
「そりゃそうだろうな」
彼女を取り巻く空気は、ただの迷子のものではない。迷宮そのものを司る、神としての霊気が静かに通路を満たしつつあった。
「私には、町で帰りを待っている大切な人たちがいます。その人たちのためにも、あなたのような無礼な賞金稼ぎを、このままのうのうと宇宙へ帰すわけにはいきません!」
「フン、迷子の幽霊が神を気取るか」
「迷子ではありません、迷わせる側です! 一神様として、あなたに盛大なる天罰を下して差し上げます!」
八九寺の宣言と共に、通路の構造そのものが目に見えて歪み始めた。
彼女の能力は「人を迷わせる」こと。それはトランスフォーマーの高度な量子レーダーやGPSナビゲーションであっても例外ではない。ロックダウンの電子頭脳が導き出す「最短ルート」は、八九寺の神気によって『絶対に目的地にたどり着けない無限回廊』へと完全に書き換えられていた。
どれほど超科学のナビゲーションを積んでいようと、神が作り出した迷路からは脱出できない。
「チッ……怪異だか何だか知らんが、俺のコレクションに加えるには、少々生意気が過ぎるな」
ガシャガシャガシャ――!!!
ロックダウンは走行しながら瞬時にパーツを再構成し、漆黒のロボットモードへと変形する。
その時だ。
背後から冷気を切り裂いて、黄色いシボレー・カマロと、鮮烈な赤のドゥカティ・848が猛スピードで追いついてきた。
座席にいるのは、もちろん僕たちだ。
「ロックダウンが見えた!エピソード、頼む!」
「ああ!……逃さねえぜ、シルバーパワーを喰らえ!このロリコン2号!」
「1号は誰だよ!」
「暦でしょ」
「阿良々木君でしょ」
僕かよ!
と、そんな馬鹿みたいなやり取りをしている間にもエピソードがアーシーのシートから身を乗り出し、巨大な銀製の十字架をロックダウンに投擲する。
しかし、彼は微動だにせず、手首からシャープな硬質エネルゴン製ソードを瞬時に展開。迫り来る十字架の重心を完璧に見切り、最小限の動きで斜めに受け流した。
ガシィィィィィィンッッ!!!
強烈な火花が散り、十字架は弾かれて通路の壁に深く突き刺さる。
だが、八九寺のカプセルは地面に置かれた。
その隙に、僕らはカマロから飛び降りる。
同時に変形を完了し、身構えるバンブルビーとアーシー。
「八九寺!」
「阿良々木さん、助けに来てくれたんですね!それと戦場ヶ原さん、相変わらずのナイスバディです!」
「それは今回の私の活躍の話かしら、それとも私の体型の話かしら?」
呆れたように呟くひたぎ。
そうだ。彼女は八九寺とこれが初対面だったか。
八九寺の方は幽霊時代に会ってはいるけども。
ひたぎが面食らったのも無理はない。
「とにかく、再会と初めましての言葉は後よ!今はこのカプセルを開けないと!」
キィィィィィィィィィンッッ!!!!
さらに前方からは、ライムイエローのハマーH2救急車と、美しいパープルのMVアグスタ・F4が滑り込んでくる。ラチェットとエリータ・ワンだ。
「もう終わりだ、ロックダウン! お前は包囲されている!」
ラチェットが腕の円形カッターを回転させながら低く吼え、エリータがパルスブラスターの銃口をロックダウンの眉間へと固定する。
「その子を離しなさい。抵抗をやめるなら、これ以上の危害は加えないわ」
前後を完全に挟まれ、絶体絶命の窮地に陥ったロックダウン。しかし、光学センサーを緑に光らせる彼の冷徹な笑みは消えなかった。
「……ふん。これで俺を追い詰めたと思っているなら、随分と見積もりが甘いな」
その瞬間だった。
ボガァァァァァァァァァンッッ!!!!
ラチェットたちのすぐ真横の強固な隔壁が、内側からの圧倒的な熱線によって木っ端微塵に吹き飛ばされた。大量の瓦礫と凄まじい衝撃波がフロアを蹂躙する。
硝煙の向こうから姿を現したのは、紫色の巨体。
ディセプティコンの最強格たる参謀――科学参謀ショックウェーブだった。
その巨大な単眼が暗闇の中で赤く不気味に発光し、右腕の超巨大キャノン砲の銃口からは、今しがた放たれた高熱のエネルギーの煙がたなびいている。
爆発の凄まじい衝撃波と電磁ノイズにより、八九寺が維持していた空間結界の術式が一瞬にして強制解除され、破られた防壁の向こうに、外へ直結する真のエレベーター通路が露出する。
「感謝するぜ、科学参謀」
「きゃっ!阿良々木さん!」
ロックダウンが八九寺カプセルを掴み、背中に括り付ける。
ズドォォォォォンッッ!!!
奴は再びアヴェンタドールへとトランスフォームし、露出した地上出口へと向かって爆走を開始した。
「八九寺!待て!」
僕は叫び、駆け出そうとする。
しかし、その行く手を遮るように、ショックウェーブと彼の後ろに控えていた化学兵ミックスマスターが通路を完璧に塞いだ。
「誰も待ちはしない。人間よ、お前たちの行動はすべて論理的破綻に向かっている」
ズバババババ!!
「――黙れショックウェーブ!……暦! ここは私達に任せて先に行け!」
ラチェットがショックウェーブの足元へ向けてランチャーの対装甲弾を連射し、エリータ・ワンが俊敏な動きでミックスマスターの酸弾をいなす。
「友人を取り返してきなさい、少年!」
「すまない、頼む!!」
バンブルビーがビークルモードへと瞬時に戻り、ドアを開く。
僕とひたぎが滑り込むと、カマロはショックウェーブの巨体の下をスライディングするようにしてすり抜けた。
狂暴なエンジン音を響かせながら、八九寺を連れ去ったロックダウンを追って、僕らは白銀の地獄へと突入していく。
034
その白銀の地獄。
激しい空中戦と砲撃戦が交錯する中、ディーノの光学センサーが、オプティマスを追い詰めるブリッツウイングの不自然な挙動を捉えていた。
「見ろ、ホイルジャック。あいつの人格が変わる時、一瞬動きが止まっている」
アームブレードで飛来する銃弾を弾きながら、ディーノが鋭く指摘する。
「ははーん、そこが狙い目だな。そうと来れば、こいつの出番だ!」
ホイルジャックが不敵に笑い、背後から巨大な砲身を担ぎ上げた。先程ラムジェットの虚言癖を強引に黙らせた、あの高出力ショックキャノン砲である。
ズドォォォォォォンッッ!!!
発射と共に地鳴りのような爆音が響き、強力な電磁ショック弾が、レオパルト2の無限軌道で構成されたブリッツウイングのブーツ部分で炸裂。強烈なノイズが彼の電子頭脳を直撃する。
「おい、こっちだ!」
その反対側から、ディーノが両腕から強靭なアンカーワイヤーを射出。ブリッツウイングのF-4ファントムⅡとしての主翼へと完璧に引っ掛け、力任せに引き絞った。
電磁ショックによる内部回路への刺激と、ワイヤーによる外部からの強引な牽引。
左右からの予期せぬダブルの刺激に、ブリッツウイングの三重人格が限界を超えて混乱を始める。
「何だ、この赤太郎!丸焼きにしてやるメーン!――いえ、こっちの青いアインシュタイン爺さんを冷凍ハン・ソロ状態にしてやりマース」
「どっちも殺れば良いんじゃな〜い!?――うるさいデース。二者択一デース。というか青一択デース」
「ランダムもアイシーもうるさいメーン!赤だっつってんだろメーン!!――青だと言ってイマース。――赤!――青。――赤!もう人格グルグルグルグル!」
頭部のフェイスパーツがガシャガシャと高速で回転し、熱血、冷徹、そして狂気の顔が交互に現れる。
「――ああぁぁもう、どっちでもいいから全員ブッ殺してやるメーン!? デース!?」
完全に回路がショートし、その場に棒立ちになって頭を抱えるブリッツウイング。
その隙をホイルジャックは見逃さなかった。
「今だ、オプティマス!」
彼の声が戦場に響き渡る。
「感謝する!」
そう叫ぶとオプティマスは迫るメガトロンとラグナッツの追撃をメガストライカーからの精密な連射で撃ち抜き、強引に怯ませた。
一瞬の勝機。
オプティマスは背中のバーニアを噴射し、棒立ちになっているブリッツウイングへと一直線に突撃した。
慌ててメガトロン達が追撃しようとするが、アイアンハイドとウインドブレードたちの砲撃で留められる。
「お喋りもこれで最後だ!」
我に返ったブリッツウイングが狂乱のままに放った二連主砲の冷凍弾を、オプティマスは紙一重のステップで完全に掻い潜った。凄まじい踏み込みと共に懐へと滑り込み、巨体に両手をかける。
バリバリベキキィッッ!!!
「ギにゃぁぁぁぁぁっ!?」
驚異的な怪力によって、ブリッツウイングの象徴たる二連主砲が根元から強引に引きちぎられた。エネルゴンと火花が激しく噴き出す。
間髪入れず、オプティマスの左腕から眩い光を放つエナジーソードが展開された。
総司令官の鋭い一閃が、戦闘機形態の意匠を残すブリッツウイングの胸部――F-4ファントムのコクピット部分を真っ正面から深く、一文字に斬り裂く。
「メーン……デース……メーン……」
ブリッツウイングは人格を高速回転させながら混乱していたが、最後の力を振り絞り、左手首をニードルに変形させてオプティマスに向ける。
「……ええぃ、反乱軍め!死ねぃ!」
ドスの利いた声をした新たな人格。
だが、既に遅かった。オプティマスに斬られた箇所から火花が噴き出す。
「――良い子の皆はマネしないでね――!」
ボガァァァァァァァァァンッッ!!!!
結局、最期はどこかおどけた、狂気の人格が断末魔を響かせ、ディセプティコンの空陸参謀ブリッツウイングの巨体は、内部のエネルゴンコアごと激しく上下真っ二つに両断され、シベリアの寒空に巨大な炎の華を咲かせて大爆散した。
「馬鹿な、ブリッツが殺られた………!?」
アストロトレインが驚愕の声を漏らし、ラグナッツの光学センサーが憤怒に染まる。
爆風の中で、オプティマス・プライムは再びその光学センサーを鋭く光らせ、残るメガトロンたちへとその刃を向け直した。
035
ブリッツウイングの壮絶な大爆散は、ディセプティコンの戦列に一瞬の動揺と、それを遥かに凌駕する狂暴な激昂をもたらした。
特にその衝撃を真っ正面から受け止めたのは、大帝への絶対的忠誠を誓う巨漢ラグナッツであった。彼の単眼が怒りで血のように赤く沸騰する。
「よくもブリッツをやってくれたッツ!! 敵討ちッツ!!」
地鳴りのような咆哮と共に、ラグナッツは自らの巨大な両拳をミリミリと歪な音を立てて変形させていく。マニピュレーターが強固な装甲の奥へと引き込み、代わりに現れたのは、どす黒い光を放つ超高質量爆薬の信管――剥き出しの絶望そのものであった。
「P.O.K.E! 欠片も残さず消し飛べッツ!! 全てはメガトロン様のためにィィィッッ!!」
それはラグナッツがその巨体に蓄積した全エネルゴンを一撃の質量信管へと変換し、爆破圏内のあらゆる有機・無機物質を分子レベルで完全消滅させる、彼の文字通り「最終兵器」であった。
狂気的な加速を見せ、ラグナッツがオプティマス・プライムめがけて突進し、その破壊の拳を振り下ろす。
だが、百戦錬磨のオートボット総司令官はその全方位破滅の一撃の軌道と、ラグナッツの視野の狭さを完全に見切っていた。
忠誠心ゆえに、狂乱したラグナッツの視界には、もはや標的であるオプティマスしか映っていない。
オプティマスは背中のバーニアを一瞬だけ逆噴射させ、足元の永久凍土を滑るようにして、背後に迫っていた合体兵士ブルーティカスの射程圏内へとラグナッツの突撃を絶妙に誘導した。
その異様なエネルギーの臨界を察知し、20メートルの巨躯を持つブルーティカスが合成音声に焦燥を滲ませる。
「ラグナッツ、止まれ………! 我々を巻き込む気か……!」
しかし、今のラグナッツの耳に戦友の警告など届かない。彼の世界にはオプティマスのファイアパターンしか存在していなかった。
一方、戦況の決定的な自壊をいち早く察知した長距離重砲兵デフコンは長い腕にマウントされた機銃でディーノらを牽制しながらも、MAZ-543長距離ロケット運搬車両形態に変形し、雪原を後退し始めた。
オプティマス包囲網の中でも、輸送参謀アストロトレインがトリプルチェンジを敢行する。
彼は漆黒のD51型蒸気機関車へとその巨体を再構成すると、車体後部にスペースシャトルのジェットエンジンを部分的に展開。
凄まじい蒸気と排気煙を撒き散らしながら、猛スピードで上空へ離脱していった。
そして。
「メガトン・パァァァァンチッッ!!」
ラグナッツの絶叫と共に、信管を宿した両拳が地表へと激しく叩きつけられた。
次の瞬間、シベリアの曇天の荒野が、真昼の太陽を凝縮したかのような、悍ましい漆黒と深紅の閃光に包まれる。
ドゴォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!!
ラグナッツを中心に発生した絶対的な大爆発。爆破圏内の全てを粉砕するその圧倒的な質量と熱量は、永久凍土を何百メートルにもわたって消滅させ、衝撃の余波が真っ正面からブルーティカスを直撃した。
「ヌグゥゥォォォォッッ!?」
あまりの超振動と熱量に、コンバッティコンたちの分子結合が維持できなくなる。
巨大陸戦合体兵ブルーティカスは凄まじい金属摩擦音を響かせながら、強制的に合体解除へと追い込まれた。
複数の駆動音が悲鳴のように重なり合い、陸戦師団の面々が雪原へと崩れ落ちる。その大混乱の爆炎に紛れ、左腕のパーツとして強制変形させられていたエアラクニッドが、千切れ飛ぶように結合を解いて飛び出した。
「もう二度と合体なんて御免だッシャァァァ!」
全身から紫色の火花を撒き散らす満身創痍の暗殺兵は、コマンチに変形すると、文字通り蜘蛛の子を散らすように、白銀の吹雪の彼方へと一目散に逃げ去っていった。
「戦線が崩壊していくぞ! 立て、コンバッティコン!」
爆風の中で辛うじて踏みとどまったヘイルストームが、両肩のロケットミサイルを乱射しようとする。だが、その照準が定まるよりも一瞬早く、泥とエネルゴンに塗れた鉄の巨躯が猛然と突っ込んできた。
「漢の戦場を、その程度の火器でチョロチョロ動くなッ!」
アイアンハイドだ。限界を超えてエネルギーをチャージしたヘビーアイアン1.0の銃口が、容赦なくヘイルストームを捉える。
ズドォォォォォォンッッ!!!
極大のエナジー弾が放たれ、ヘイルストームの右腕が肩の付け根から文字通り消滅した。
「なっ、ウ、ウオォォッ!?」
「まだ終わっちゃいねえぞ!」
間髪入れず二発目、三発目が放たれる。至近距離からの容赦ない大砲撃が、ヘイルストームの左腕、そして頑強な頭部を正確に順番に消し飛ばしていく。
ドゴォォォンッッ! ボガァァァンッッ!
頭部を失い、完全に制御を失ったヘイルストームの残骸。その両肩にマウントされていた多連装ミサイルポッドが、内部回路の誘爆によって最悪の引火を起こした。
ドバァァァァァァァァァンッッ!!!!
凄まじい爆発と共に上半身が完全に木っ端微塵に弾け飛び、シベリアの雪原には、黒煙を上げる無惨な脚部だけがぽつんと直立したまま、力なく崩れ落ちた。
「コンバッティコン、退却せよ!!」
「こちらだ、オンスロート!」
辛うじて生き延びたオンスロート、スィンドル、ブラストオフは、AC-130に変形したドレッドウイングの格納庫に収まり、戦線から離脱する。
「何をやっている、この愚か者共が!」
自らの最高戦力クラスが次々と自滅し、撃破されていく光景に、破壊大帝メガトロンの真紅の光学センサーが怒りで激しく明滅する。
激しい硝煙の向こう側から、己の不手際を棚に上げて吼える宿敵に向け、オプティマス・プライムはエナジーソードを鋭く構え直した。
「お前の相手は私だ、メガトロン!」
「ええい、おのれプライムッ!!」
ガシィィィィィィィンッッ!!!
銀のデスロックブレードと、眩い光を放つエナジーソードが真っ正面から激突し、周囲の吹雪を一瞬で蒸発させるほどの凄まじい鍔迫り合いが始まった。
互いの装甲が軋み、凄まじい金属の摩擦音が戦場に響き渡る。
オプティマスのブレードがメガトロンの胸部装甲を激しく削り、火花が夜空のように飛び散る。
あまりの衝撃の連続に、メガトロンのボディから無数のパーツがパラパラと剥がれ落ち、シベリアの雪へと沈んでいく。
その僅かな、しかし決定的な「隙」を、オプティマスの電子頭脳は完璧に捉えていた。
オプティマスはエナジーソードの刃を滑らせるようにしてメガトロンの体勢を崩すと、驚異的な体術でデスロックブレードを握る大帝の左手首を強引に掴み、その禍々しい銀の大剣を力任せに奪い取った。
「ぬぉっ……!? 貴様ッ!」
驚愕するメガトロンの視界を、自らの武器であったデスロックブレードの切っ先が覆う。
オプティマスは奪った大剣を、メガトロンの右腕――あの凶悪なフュージョンカノンに繋がる関節部へと、一切の躊躇なく深く突き刺した。
グシャァァァァンッッ!!!
「ウグァァァァァァッッッ!!!!」
メガトロンの口から、引き裂くような絶叫が漏れる。
突き刺さったブレードがフュージョンカノンのエネルギー伝達回路を完璧に寸断し、内部で制御を失ったプラズマエネルギーが狂ったように逆流を始めた。青く苛烈なスパークを激しく迸らせながら、右腕のフュージョンカノンが内部から大爆発を起こす。
天をも焦がすような爆炎と共に、メガトロンの象徴であった右腕の肘から先が、無惨にも完璧に消し飛んだ。紫色のエネルゴンが鮮烈に雪原を汚していく。
「グッ………またか………!」
すかさず、オプティマスはメガストライカーの砲口を、装甲が剥き出しになったメガトロンの胸元へと突き付け、完全にトドメを刺すべくトリガーを引き絞ろうとした。
だが、その瞬間。
「メガトロン様ァァァァァァァァッッッ!!!!」
先ほどの大爆発のダメージで満身創痍、全身の装甲が焼け焦げてボロボロになったラグナッツが、文字通り狂信的な執念だけで地表を蹴り、メガトロンの身体を背後から突き飛ばすようにして、その巨体で総司令官の砲撃の軌道へと割り込んできた。
「ぬうっ!?」
オプティマスの目が見開かれると同時に、メガストライカーから放たれた極大のエネルギー弾が、ラグナッツの胸部装甲へと直撃する。
ズドォォォォォォォォォォンッッ!!!!
ラグナッツの体内で生き残っていたすべての火器、そしてエネルゴンコアが、その一撃によって完全に連鎖誘爆を起こした。
ラグナッツの巨体が文字通り「生ける爆弾」と化して大爆発し、その凄まじい衝撃波と炎の質量が、至近距離にいたメガトロンの巨体を強引に巻き込む。
皮肉にも、破壊大帝に最も忠実だった重爆撃兵の最期の献身は、その破壊大帝本人への追加爆撃となった。
「チィィィッ……プライムめぇぇぇ!」
片腕を失い、さらにラグナッツの至近距離自爆のエネルギーの直撃を受けたメガトロンの身体は、まるで紙切れのように激しく吹き飛ばされ、崩壊した秘密研究所のゲートに叩きつけられた。
036
一方、僕達。
ロックダウンを追い、一気に通路を駆け登るバンブルビーのフロントガラス越しに開ける視界――瞬間、シベリアの容赦ない白銀の光が、僕たちの目を鋭く刺した。
「……っ! まぶし、……何これ、地獄絵図じゃない!」
ひたぎが思わず腕で顔を覆う。
地表はまさに、凍りついた鉄と硝煙が渦巻く、混沌の極みと化していた。いたるところで黒煙が上がり、千切れた金属片が雪原に散らばっている。
その荒野を、八九寺を括り付けた黒いランボルギーニ・アヴェンタドールが、凄まじい雪煙を上げながら疾走していく。
「おい、プライム! 暦達だ!!」
満身創痍のアイアンハイドが、僕たちのカマロに気づいて大声を上げた。
「だが、ロックダウンもいるぞ! 逃がすな!」
ディーノが両腕のアームブレードを激しく擦り合わせ、逃走するロックダウンの進路を塞ごうと地表を滑走する。
オートボットたちが一斉に賞金稼ぎの迎撃へと動こうとした、その瞬間だった。
「待ちやがれ、俺たちが相手だッ!!」
鉛色の寒空から、キィィィィンと耳を劈くジェット噴射音が急降下してきた。
スタースクリーム、スカイワープ、サンダークラッカーの三機だ。F-22ラプターの翼が空を引き裂き、超音速の衝撃波と共にディーノとホイルジャックへと襲いかかる。
「うわあぁぁぁッ!?」
容赦ない不意打ちの体当たりが、ディーノとホイルジャックを凍りついた地面へと激しく叩きつけた。
さらにスカイワープがニヤリと下劣に笑いながら、両腕のガトリングと多連装ミサイルをアイアンハイドへ向けて掃射する。
シュバババババガガガガガァァァンッッ!!!!
「ぐぉぉぉぉぉッッ! クソが、キリが無いぞ……!」
激しい爆風の雨を浴び、アイアンハイドの巨体が雪原に膝を突く。
オプティマス・プライムもまた、加勢しようと一歩を踏み出すが、それを阻むようにスラスト、ラムジェット、ダージら新シーカーズが上空から一斉にミサイルを乱射。オプティマスの周囲に白熱の炎の壁を作り出し、その身動きを完璧に封じ込めた。
その時、僕たちのすぐ後ろにある秘密研究所のハッチゲートが、内側からの暴力的なエネルギーによって内側から激しく爆発した。
ドシャァァァァァンッッ!!!!
「が、はっ……!」
爆炎と共に、ハッチの内側から、全身の装甲をズタズタに引き裂かれたグリーンの巨体――ラチェットの身体が無残に放り出され、雪原を激しく転がった。
「ラチェット!!」
僕は叫ぶ。だが、本当の絶望は、その硝煙の向こう側からゆっくりと、しかし確実な足取りで進み出てきた。
暗い紫色の、そびえ立つような巨躯。
ショックウェーブだ。
その赤く不気味に発光する唯一の単眼が、冷酷に戦場を見下ろしている。
そして、彼の左腕に装備された禍々しい鋭利なブレードには――あろうことか、オートボットの女戦士エリータ・ワンの細い胴体が、真っ正面から深く、無慈悲に貫かれていた。
「エリータ姉さんッ!」
「ラチェット! エリータァァァァッッ!!」
アーシーとオプティマスの、魂を裂くような絶叫がシベリアの吹雪に響き渡る。
ショックウェーブは、光学センサーの光を弱らせていくエリータの身体を、ブレードから引き抜くようにして無造作にオプティマスの足元へと放り捨てた。
その一連の動作には、怒りも、愉悦も、悲しみすらも存在しない。
「……実に非論理的だ。勝算のない戦いに命を賭す行為、そのすべてが自己矛盾を孕んでいる」
冷徹な合成音声が、淡々と響く。
オプティマスは駆け寄り、瀕死のエリータをその巨大な両腕で抱き上げた。
「エリータ……! しっかりしろ、エリータ!」
「オ、プティ……マス……。少年、たち、を……救っ……て……」
彼女の胸の中で、最後の火花が小さく散る。
次の瞬間、エリータ・ワンの青い光学センサーから、静かに、そして完全に光が消え失せた。
「オオオオオォォォォォッッ!!!!」
最愛の戦友の死を前に、オプティマスのバトルマスクが激しい駆動音と共に閉まり、その青い目が怒りに燃え上がる。
だが、その隙をショックウェーブは見逃さない。
「感情による行動の硬直。予測通りの論理的結末だ」
ショックウェーブが右腕の超巨大キャノン砲を、オプティマスの頭部へ向けて完全に固定する。エネルギー充填の不気味な高周波音が響く。
激昂したオプティマスがエナジーソードを振り上げ、ショックウェーブへと肉薄しようとした、その瞬間――。
「よそ見をしている場合か、プライムッ!!」
ドガァァァァァァンッッ!!!!
片腕を失い、ラグナッツの自爆に巻き込まれて満身創痍のはずのメガトロンが、地を這うような執念で突進。その巨大な足で、オプティマスの背中を容赦なく踏みつけ、永久凍土へと力任せに叩きつけた。
「ぐはっ……!」
巨体が地面にめり込み、雪煙が舞う。
「ミックスマスター、今のうちに退け。これ以上、コンストラクティコンを失えん」
「はっ!」
メガトロンの冷徹な指令を受け、ショックウェーブの背後に控えていた化学兵はマック・グラナイト・セメントミキサーに変形し、研究所内に戻っていった。
一方、踏みつけられたオプティマス。
彼の頭上に、メガトロンが残された左腕でデスロックブレードを逆手に構え、その切っ先を突き立てる。
「終わりだ、オプティマス・プライム。貴様の首を、我が軍団の再起の標本として持ち帰ってやる」
「阿良々木さん! オプティマスさんが!!」
カプセルの中から八九寺が悲鳴を上げる。ロックダウンはニヤリと笑い、アクセルをさらに踏み込もうとした。
もはや、誰も動けない。全員が地面に伏せ、あるいは敵の猛攻に晒されている。
本当に、ここで終わってしまうのか。
――その時。
鉛色の雲を突き破り、激しいジェット噴射音と、大気を切り裂くような金属音が戦場全体に響き渡った。
「――遅れてすまない、プライム!!」
咆哮と共に、上空から滑空してきたのは、あの銀と青の鮮やかな海上司令官デプスチャージだった。
先程のオホーツク海で負った激しい損傷により、彼の背中にある象徴的な主翼は片方が完全に消失している。
だが、その隻翼のハンディキャップを補って余りあるほどの猛烈な突進力が、空中を制圧していた新シーカーズへと真っ正面から激突した。
「な、何だアイツはッ!?」
驚愕するスラストを、デプスチャージは圧倒的な質量攻撃で空中から強引に叩き落とす。
さらに着地と同時に、再び背中のジェットを吹かし、急加速。
「吾輩の力を見せてやる!まとめて水揚げだ、え~い!」
「止めろ、来るな――!」
デプスチャージはその頑強な両拳を振り回し、迫り来るラムジェットの顔面を真っ正面から殴り飛ばし、その回転の勢いのまま、スリップストリームの残された主翼を掴んで豪快に雪原へと叩きつけた。
『水揚げ』なのに、墜落させるとはこれ如何に。
だが、デプスチャージの乱入は一瞬にして新シーカーズを力技で蹴散らし、ディセプティコンの包囲網に決定的な穴を開けた。
「海の漢が網に穴を空けちゃだめだがな!え~い!」
「デプスチャージ……!」
オプティマスの目が、一瞬の勝機を捉えた。
「まだ生きていたか、釣りバカが……!」
メガトロンがデプスチャージの乱入にわずかに気を取られた、まさにその一瞬。
オプティマスは驚異的な膂力でメガトロンの踏みつけを跳ね除ける。
その胸貫く怒りを力に変えて立ち上がる彼の標的は、ジョルトとエリータ・ワンの命を奪ったショックウェーブ。
「私の仲間をこれ以上、奪わせはしない!!」
怒号と共に、オプティマスの巨躯がショックウェーブの懐へと滑り込む。
ショックウェーブが咄嗟に左腕のブレードを突き出すが、オプティマスはその刃を素手で掴み取った。手のひらの金属装甲が火花を散らして軋む。
バリバリベキキキィィッッ!!!
「何……!?」
ショックウェーブの単眼が赤と黄色に明滅する。
オプティマスは一切の躊躇なく、その驚異的な怪力によって、ショックウェーブの左腕のブレードを根元から強引に引きちぎり、シベリアの雪原へと投げ捨てた。
「論理、だと……? これが、我々の意志だ!!」
間髪入れず、オプティマスはメガストライカーをショックウェーブの背中――3つのエネルゴンリアクターコアへと突き刺すようにして叩きつけ、そのまま零距離でトリガーを引き絞った。
ズドォォォォォォォォォォンッッ!!!!
極大のエネルギーがエネルゴンコア、そしてチューブで繋がれていた右半身で炸裂し、ショックウェーブの象徴たるキャノン砲が、銃身ごと歪にへし折れて爆破四散した。
「ウグ、ガ、ガガガァッ……!」
両腕の武装を完全に破壊され、ショックウェーブの巨体が激しく後退する。
「おのれ、ここまでか……! 全軍、一時撤退だ!」
片腕を失い、ラグナッツをも失ったメガトロンは、ショックウェーブの重傷を目にして、これ以上の戦闘継続は不合理と判断した。
「ショックウェーブ、引くぞ!」
「……了解。これ以上の戦闘は、我が軍の消滅を意味する。撤退は極めて論理的だ」
ガシャガシャガシャ――!!!
満身創痍のメガトロンと、両腕を破壊されたショックウェーブは、瞬時に異形のエイリアンタンクへと変形。
激しい泥と雪煙を巻き上げながら、シベリアの吹雪の彼方へと猛スピードで撤退を開始した。
「待て! 八九寺が……!」
僕は叫んだが、ロックダウンの黒い車体は、すでに彼らの撤退に紛れるようにして、白銀の地平線の向こうへと消え去ろうとしていた。
037
シベリアの曇天を衝いて、漆黒の円盤に四本の角が生えたような形の巨大な宇宙船――賞金稼ぎロックダウンの愛艦『ナイトシップ』が、重力制御エンジンの不気味な重低音を響かせながら急速に浮上していた。
地表はみるみるうちに遠ざかり、遥か下方の雪原に点在するトランスフォーマーたちの鋼鉄の身体が、まるでちっぽけなピンのように縮んでいく。
そのナイトシップの格納庫デッキ。
ガシャガシャガシャ――!!!
アヴェンタドールからロボットモードへと瞬時に変形を遂げたロックダウンが、背中に括り付けていたカプセルを無造作に床へと降ろした。
カプセルの中では、八九寺真宵が膝を抱え、それでも毅然とした瞳で冷酷な賞金稼ぎを見上げている。
「……ずいぶんと手荒な歓迎ですね。私のリュックサックが潰れたらどうするつもりですか、この誘拐魔」
「黙っていろ、お嬢ちゃん。お前の価値はその奇妙な霊的特異性にある。無傷で依頼人に引き渡せば、それで俺の仕事は完了だ」
ロックダウンは肩をすくめ、手首のソードを格納した。
「……あら、やっと帰ってきたッシャ? 随分と遅かったじゃない、ロックダウン」
暗薄い格納庫の影から、不機嫌極まりない粘り気のある金切り声が響いた。
姿を現したのは、全身の装甲から紫色のスパークを散らし、先程の合体解除による精神的ダメージを色濃く残したエアラクニッドだった。彼女は自身の蜘蛛足アームをだらりと垂らし、床に這いつくばるようにして彼を睨みつけている。
「無様な姿だな、エアラクニッド。合体兵士の『腕』としての居心地はどうだった?」
「うるさいッシャ! 脳みそが筋肉でできている単細胞共と意識を繋げられる苦痛を、あんたも一度味わえばいいッシャ! ……それより、そのガキはどうするッシャ?」
エアラクニッドの妖しい単眼が、カプセルの中の八九寺へと向けられる。
「ディセプティコンに引き渡す。連中によると、科学参謀殿の完全復活の為のエネルギーにするため、彼女が必要らしい。……ひとまず大気圏を離脱して、別の惑星で連中と合流する」
「へえ……エネルギー源、ねぇ」
エアラクニッドが、八九寺をまるで高価なバッテリーでも見るかのような、底冷えのする視線で凝視する。
その会話を聞いていた八九寺の背中に、冷たい戦慄が走った。
(エネルギー源……? 私を、トランスフォーマーたちの動力源にするというのですか……!?)
怪異としての『神性』を抽出され、ただの燃料として消費される――それは神としての消滅、すなわち存在そのものの完全な抹殺を意味する。
「ダークマターエンジン全開!飛び立て!」
ロックダウンが冷徹に告げ、船のメインモニターへと視線を向けた。
船体が突如として激しく振動し、重力の変化が八九寺の体にのしかかる。
窓の外に目をやると、先ほどまで眼下に広がっていた白銀のシベリアの永久凍土が、見る見るうちに縮んでいく。地球の青い輪郭が見えてきたような気がした。
「阿良々木さん……!」
八九寺は祈るように呟くしかなかった。
一方、遥か下方の、硝煙と泥に塗れたシベリアの永久凍土。
「オプティマス、このままじゃ八九寺が……! 宇宙に連れて行かれちゃう!!」
バンブルビーの車内から飛び出した僕は、遥か上空で大気を歪めながら上昇していく黒い影を指差し、悲痛な叫びを上げた。
「待って、暦、落ち着きなさい! 私たちの手が届く距離じゃないわ!」
ひたぎが僕の肩を掴んで制止するが、その視線もまた、絶望的な速度で遠ざかるナイトシップへと向けられている。
オプティマス・プライムはエリータ・ワンをそっと雪原に横たえると、その青き光学センサーを天空へと向けた。
「……ウインドブレード、デプスチャージ。どちらか私を抱えて飛んではくれないだろうか? 私の質量を、あの高度まで運ぶ必要がある」
総司令官の悲痛とも言える要請に、赤い航空剣士は苦しげに首を横に振った。
「ごめんなさい、オプティマス……。さっきのドッグファイトで、もう私の主翼のタービンは限界よ……。これ以上の高高度飛行は、エンジンそのものが融解するわ」
「吾輩もだ、プライム……。海中ならともかく、片翼を失った今の吾輩では、己の巨体を浮かせるエネルゴンを捻り出すのがやっとだ。すまぬ……吾輩の力が及ばず……!」
デプスチャージが隻翼を震わせ、無念そうに咆哮した。
誰も飛べない。空を行く翼が、オートボットには残されていなかった。
だがその時、戦場の後方でガラクタを漁っていたホイルジャックが、金属の焼けるような酷い異臭を放つ「何か」を両腕で抱え、白煙を上げながら走ってきた。
「――待たせたな! オプティマス、これを使え!」
ドシャリ、と彼の足元に置かれたのは、巨大な二基の黒いアフターバーナーに、不格好な銀色の翼が継ぎ接ぎされた、異様な形状のバックパックだった。
「それって――」
ひたぎが、そのパーツの一部に見覚えがあるかのように目を見張る。
「ああ。エジプトから回収したジェットファイアの残骸パーツに、サイドスワイプから無理を言って借りてきた超高出力エンジンパーツ、それに戦場に転がっていたコンストラクティコンどもの装甲を力任せに繋ぎ合わせた、即席のロケットブースター……いや、『ジェットウィング』だ!」
ホイルジャックが、誇らしげに胸を張る。
だが、そのバックパックの隙間からは、あちこちから青や黄色の危険な過負荷スパークがパチパチと飛び散っていた。
「ホイルジャック……これの安全性は?」
アイアンハイドが嫌な予感に満ちた表情で尋ねる。
「安全性? あるわけないだろ! 異種金属と異なる規格のシステムを電子溶接で強引に繋げたんだ。十中八九、いや100%の確率で、上空で爆発を起こすだろうさ! だが――」
ホイルジャックは不敵に笑い、オプティマスの頼もしい胸部装甲を叩いた。
「それ以上に、今すぐ司令官を宇宙の果てまでブッ飛ばすだけの推進力は、保証するぞ!その八九寺真宵という神様に誓ってもいい!」
「……飛べれば十分だ。感謝する、ホイルジャック!」
オプティマスは一切の躊躇なく背中を向け、ジェットウィングを自身の背部マウントへと強引にドッキングさせた。
ガシャァァァァンッッ!!!
システムが接続された瞬間、オプティマスの全身のフレームが、急激な過電流によってビリビリと激しく震え、バトルマスクの奥の青い目が爆発的な輝きを放つ。
「暦、ひたぎ君、そして皆。必ず、八九寺真宵を連れ戻す。……私を信じて待っていてくれ!」
総司令官の力強い声。
直後、彼の背負った即席ジェットウィングから、白銀の雪原を一瞬で消し飛ばすほどの、青白い超高熱プラズマが噴射された。
ボガァァァァァァァァァンッッ!!!!
「うわぁぁぁッッ!?」
僕たちはその凄まじい風圧と爆風に吹き飛ばされ、雪原へと転がる。
視界が晴れたとき、そこにはオプティマスの姿はなかった。
あるのは、シベリアの曇天を垂直に貫き、宇宙へと向かって伸びる、一条の青白い光の尾――ソニックブームの激しい轟音だけだった。
「……ホントに大丈夫か、あれ?」
エピソードが、背中の巨大な十字架を支えに立ち上がりながら、唖然とした表情で空を見上げた。
「祈るしかないだろう、今はな」
ドラマツルギーがその巨体で吹雪を遮りながら、静かに、しかし確かな信頼を込めて、総司令官が消えた天空を睨み据えていた。
038
大気圏を突破し、漆黒の宇宙空間へと躍り出た巨大宇宙船『ナイトシップ』のブリッジ。
眼下に広がる青き地球の輪郭を冷酷に見下ろしながら、賞金稼ぎロックダウンは操舵コンソールに強固な金属の手を突き立て、満足げに合成音声を響かせた。
「フン……ここまで来れば、あの錆びついたプライムとて追ってはこれまい。地球の有象無象ども共々、大人しく指をくわえて見ているがいい」
「そうだといいんだけどねぇ……」
満身創痍の体をアームで支えながら、エアラクニッドが怪訝そうにメインモニターのレーダー波形を睨みつける。その瞬間、近接警報の赤い発光が彼女の単眼を刺した。
「――いや、嘘ッシャ!? ロックダウン、後ろを見るッシャ! 何か凄まじい質量が飛んできて……って、プライムッ!?」
「何だと……!? そんな馬鹿な!」
ロックダウンが鋭く振り返り、メインモニターの外部カメラ映像をズームさせる。
そこには、大気圏の摩擦熱で全身を赤黒く灼きながら、ホイルジャックの作った即席の『ジェットウィング』から狂暴なプラズマの尾を曳いて急接近する、鋼鉄の魔神の姿があった。過負荷による青い火花を全身から散らしながらも、その光学センサーは一切の揺らぎなくナイトシップの船尾を捉えている。
「追ってくるぞ、あの馬鹿……! クソッ、後部レーザー砲用意! 」
ロックダウンの怒号に応じ、ナイトシップ後部の外殻パネルがガシャガシャと不気味な駆動音を立ててスライドし、三連装の対空レーザー砲塔がその禍々しい砲口を露出させた。
「……撃て!」
ズババババババババッッ!!!!
漆黒の宇宙空間を、無数の紫色の光条が切り裂く。
オプティマス・プライムは背中のブースターを限界まで明滅させ、急制動と急旋回を繰り返して数発のビームを神業的な機動で回避した。しかし、継ぎ接ぎのジェットウィングはすでに限界を迎えていた。制御の狂った右翼のノズルが炎を噴き、姿勢が僅かに乱れる。
その一瞬の隙を、5発目のレーザービームが正確に捉えた。
「ぬぁっ!」
ドゴォォォォォォンッッ!!!!
直撃。即席のブースターが最悪の誘爆を起こし、爆炎の華が宇宙に咲く。推進力を完全に失ったオプティマスの巨体は、地球の重力圏へと引き戻されるように、激しいキリモミ状態で大気圏へと真っ逆さまに墜落を開始した。
「命中ッシャ! 」
エアラクニッドが歓喜の金切り声を上げる。だが、ロックダウンのバイザーの奥の瞳は、さらなる冷徹な貪欲さにギラつ行かせていた。
「……ふん、名付けて『オチテマス・プライム』だな。エアラクニッド、船を反転させ、地上へ降下させろ。いい機会だ。あの満身創痍のプライムを仕留め、俺の最高級のトロフィーに加えてやろう……! そして、あの忌々しい吸血鬼の心臓もな!」
黒き宇宙船は、再び恐怖の影となって白銀の地球へと急降下を開始した。
039
地上、シベリアの永久凍土。
「おい、空を見ろ! ……あれは司令官だ!」
アイアンハイドがヘビーアイアンを構えながら、曇天の雲を突き破って落下してくる巨大な炎の塊を指差した。
「やられたんだ!」
ディーノの青い光学センサーが、墜落する赤と青のフレームを捉えて叫ぶ。
『大変だ、落ちてくる!』
バンブルビーが電子音声で悲痛に警告を発するのとほぼ同時に、その巨躯が轟音と共に地表へと激突した。
ズドォォォォォォォォォォンッッ!!!!
シベリアの大地が激しく爆ぜ、巨大なクレーターが形成される。
「オプティマス!!」
「暦、危ないわ!」
ひたぎの制止を振り切り、僕は変形を解いたバンブルビーの車内から飛び出して、煙が立ち込めるクレーターの中央へと必死に駆け寄った。背後からはドラマツルギーやエピソード、羽川たちもビークルモードのオートボットたちと共に急行してくる。
クレーターの底では、ジェットウィングの残骸を黒焦げにして転がるオプティマスが、軋む関節音を響かせながら辛うじて上体を起こしていた。装甲の隙間からエネルゴンが漏れ出ている。
「オプティマス、大丈夫か!?」
僕が叫ぶと、総司令官はバトルマスクの奥から、絞り出すような、しかし切迫した声を響かせた。
「暦……! 今すぐここから離れろ……! 奴が来る!」
その言葉が終わるより早く、上空の雲を割って、ナイトシップの巨体が地表すれすれにホバリングし、そのハッチから漆黒のランボルギーニが猛烈な速度で飛び出してきた。
「プライム!」
空中変形を経て、地面へ着地したのは賞金稼ぎロックダウン。その右手には、あの悍ましいスパーク摘出用キャノンがギラギラと怪しい緑の光を放っている。
彼の肩のミサイルが火を吹くと同時に、激戦の火蓋が切って落とされた。
ガシィィィィィィィンッッ!!!
満身創痍のオプティマスがエナジーソードを展開して立ち向かうが、ロックダウンの容赦ない手首のブレードがその刃を弾き飛ばす。
「あの赤い血祭り野郎のスパークはすでに頂いたが、総司令官、貴様の頭部も最高のコレクションになりそうだ!」
「貴様……! クリフジャンパーの無念、今ここで晴らさせてもらう!!」
オプティマスがメガストライカーを構えようとした瞬間、ロックダウンのスパーク摘出用キャノンがその隙を突き、オプティマスの胸部装甲へと深く突き刺さった。
グシャァァァァンッッ!!!
「ウグォォォォッッ!?」
オプティマスが苦悶の声を上げる。ロックダウンはさらにオプティマスの手からエナジーソードを強引に奪い取ると、身動きを封じるように、その巨大な刃でオプティマスの肩の装甲を貫き、大地面へと力任せに縫い付けた。
「しまっ――」
「これで終わりだ、夜露死苦」
ロックダウンがトドメの一撃を振り下ろそうとした、まさにその時。
「――調子に乗るのも大概にせよ! 儂もリベンジじゃァァァッッ!!」
僕の影の中から、凄まじい吸血鬼の闘気と共に、金髪幼女――忍野忍が怪異殺しの大太刀『心渡』を両手で構えて飛び出してきた。
「旧ハートアンダーブレードばっか活躍させるかよ!」
『クリフジャンパーの無念を思い知れ!』
続いて、エピソードとバンブルビーもまた、十字架を振るい、右腕のプラズマキャノンを乱射しながら突撃する。
「二人とも止めろ! これは私の戦いだ!」
オプティマスが叫ぶが、ロックダウンは緑の光学センサーを冷酷に光らせた。
「違う、俺の戦いだ。――皆殺しにしてやる!」
キィィィィィィィィンッッ!!!!
ロックダウンがソードを横一線に振るい、忍の放った心渡の凶刃と真っ正面から激突、凄まじい火花が散る。
怪異の膂力を持ってしても、ロックダウンの鋼鉄の質量には押し負けそうになる。さらにロックダウンは片手のキャノンをバンブルビーへと向け、容赦ない対空射撃でビーを牽制し、近づけさせない。
「翼! オプティマスを助けるわよ!」
「ひたぎちゃん、無茶だよ!」
「でも無駄じゃないわ!」
ひたぎが叫び、羽川やドラマツルギーたちを引き連れてオプティマスの側へと駆け寄る。
「ディーノ、お前のワイヤーを貸せ!」
ドラマツルギーが叫び、ディーノが両腕から射出した強靭なアンカーワイヤーを掴み取ると、それをオプティマスの胸に突き刺さっているロックダウンのキャノンへと力任せに巻き付けた。さらにそのワイヤーの端を、アイアンハイドとディーノのフレームへと強固に結びつける。
「羽川、戦場ヶ原、乗れッ!」
アイアンハイドとディーノが瞬時にビークルモードへとトランスフォームし、二人がそれぞれに滑り込む。
「いくぞォォォッッ!!」
ギギギギギギギガガガガガァァァッッ!!!!
GMC・トップキック C4500とフェラーリ・458イタリア。
二台のスーパーマシンがエンジンを限界まで咆哮させ、タイヤから凄まじい白煙を上げて後方へと急加速した。ドラマツルギーの怪力と、二台のシークレットエージェントの強烈な牽引力が合わさり、オプティマスの胸に深く埋まっていたスパーク摘出用キャノンが、ミリミリと音を立てて強引に引き抜かれていく。
「なっ、小賢しい人間どもが……!」
ロックダウンの意識が一瞬、後方の牽引へと向いたその隙を見逃さず、忍が心渡で渾身の打撃を繰り出した。しかし、ロックダウンは紙一重でそれをかわし、逆に強力な裏拳で忍を僕の方へと激しく吹き飛ばした。
「うわっ、忍!」
受け止めた僕ごと、二人は雪原へと転がる。
すぐさまロックダウンが冷酷な足取りで迫り、その鋭利なソードの切っ先を、地面に伏せる忍の胸元――心臓へと正確に向けた。
「今度こそ心臓をもらうぞ、阿良々木暦……!」
絶対的な死の刃が振り上げられた、その瞬間。
――バキィィィィィンッッ!!!!
アイアンハイドたちの決死の牽引により、ついにオプティマスの胸からキャノンが完全に引き抜かれ、ロックダウンの体勢が大きく崩れた。
そして、オプティマスの肩に突き刺さっていたエナジーソードが、衝撃で宙へと跳ね上がる。
「――お前の契約も、ここまでだ!!」
オプティマス・プライムの巨大な右手が、宙を舞うエナジーソードの柄を完璧にキャッチした。
総司令官は胸の傷口から激しい火花を散らしながらも、怒りの咆哮と共に地表を蹴り、ロックダウンの背後へと一瞬で肉薄。
グシャァァァァァァァンッッ!!!!
眩い光を放つエナジーソードの刃が、ロックダウンの背中から、ちょうどクリフジャンパーに付けられた胸の傷を突き破って真っ正面へと深く貫通した。
だ。
「ガ……、ア、ギガガガガガァッ……!?」
ロックダウンの口から、青緑色の不気味なエネルゴンが激しく噴き出す。その飛沫が、すぐ目の前にいた僕と忍の周囲の雪原へと激しく飛び散った。
オプティマスは一切の手加減なしに、突き刺したソードをそのまま力任せに上方へと引き裂いた。
バリバリベキキキィィッッ!!!
金属が裂ける悍ましい音と共に、賞金稼ぎロックダウンの上半身は真っ二つに叩き割られ、その漆黒の巨躯は、何のエネルゴンも失ったただの鉄くずとして、雪原へと力なく崩れ落ちた。
静寂が、シベリアの戦場を包み込む。
オプティマス・プライムは激しい駆動音と共にバトルマスクを解除し、深く息を吐き出すようにして、静かに呟いた。
「……誇り高き、戦いだ……!」
その視線の先では、主を失ったナイトシップが、自動操縦の術を失ったかのように、煙を上げて遠い空へと漂流し始めていた。
八九寺の救出まで、あと一歩のところまで、僕たちは辿り着いたのだ。
040
シベリアの雪原に、ただ鉄の骸と化したロックダウンが横たわる。
絶対的な勝利の直後。しかし、静寂は長くは続かなかった。
崩壊した秘密研究所のゲートから、青いオイルとエネルゴンを撒き散らしながら、破壊大帝メガトロンが呻き声を上げて這い出してくる。
片腕を失い、さらにラグナッツの自爆に巻き込まれたその巨体は、すでに自立歩行すら危ういほどに激しく軋んでいた。
「おのれ……おのれオートボットどもめ……! だが、ここで全滅するわけにはいかぬ……!」
メガトロンの真紅の光学センサーが、虚空へと合図を送る。
「ディセプティコン、退却だ! 全軍退却! アストロトレインに乗り込めッ!!」
大帝の号令に応じ、上空でホバリングしていた巨大スペースシャトル――アストロトレインが、轟音と共に地表へと急速に降下し、その巨大な後部ハッチを開放した。
研究所の奥底から脱出してきたサウンドウェーブが、胸部にレーザービークを格納しながら、右脚と急造の左義足で跳ねるように素早くタラップを駆け登る。
その背後にはアリス、バズソー、ラットバット、そして怪我人の応急処置を終えた“メディック”ノックアウト、フラットライン、ブレークダウンの「医者トリオ」が、慌ただしく機内へと滑り込んでいった。
「おい、急げ! 早くしろ!」
「押さないでください、私のボディに傷がついてしまいます!」
さらに、先程のデプスチャージの猛攻やオプティマスの追撃によって重症を負ったスラスト、ラムジェット、ダージ、スリップストリームの新シーカーズ四機が、ギスギスと関節を悲鳴のように鳴らしながら、AC-130へとトランスフォームした突撃爆撃兵スカイクエイクの巨大な貨物室へと引きずり込まれるようにして収容されていく。
まさに敗走というべき大混乱の最中、はるか遠くの空から、ローターから黒煙を吹き上げたコマンチヘリが、力なく降下してきた。
ドシャァァァァァンッッ!!!!
雪原に不時着気味に滑り込み、激しい火花を散らしながらロボットモードへと変形する暗殺兵エアラクニッド。
「はぁ、はぁ……何よこれ、散々な目に遭ったッシャ……」
満身創痍の彼女が辛うじて上体を起こした、その瞬間。
[b:ガチャガチャガチャガチャッッ!!!!]
彼女の周囲を、スタースクリーム、スカイワープ、サンダークラッカーのシーカーズ三人衆が高速で包囲し、その両腕のバルカン砲の銃口を一斉に彼女の眉間へと突きつけた。
「おやおや、賞金稼ぎ一派の蜘蛛娘じゃないか。一人でどこへ行こうというのだ?」
スタースクリームが、その顔に極上の嘲笑を浮かべて見下ろす。
「この前はよくもメガトロン様を愚弄してくれたな。今ここで、その小賢しい手足を一本ずつ引き千切って、どう料理してやるか……!」
スカイワープが凶暴な笑みを浮かべ、バルカン砲のシリンダーを威嚇するように回転させた。
「や、止めなさいッシャ……! 私はただ、あのロックダウンに雇われて――」
エアラクニッドが後ずさりするが、背後にはアストロトレインの冷たい装甲壁が立ち塞がっている。
そこへ、足を引きずりながらも、力強く雪原を踏み締めながら、メガトロンがじりじりと歩み寄ってきた。その真紅の目は、ゴミを見るかのように冷酷だった。
「ショックウェーブが復活し、賞金稼ぎが死んだ今、交渉は決裂だ。この女も、もはや我が軍にとって用済みよ。ここでスクラップにしてしまえ」
「ひいっ……!?」
絶体絶命。エアラクニッドの単眼が恐怖に染まる。
「――お待ちを。メガトロン様」
その時、スカイクエイクの貨物室から、身体のあちこちの装甲をひしゃげさせた新シーカーズの軍師スラストが、スリップストリームに肩を借りるようにして前に進み出てきた。
「……何だ、スラスト。我が決断に異を唱えるか」
メガトロンが鋭く睨みつけるが、スリップストリームが不敵な笑みを浮かべてそれを遮る。
「作戦後の『賞金稼ぎ一派』の処遇に関しては、新シーカーズの軍師スラストに一任されているはずですわ。そうよね、スラスト?」
「はい。この女の暗殺スキルと空戦能力を、単なる鉄くずとして捨てるのは惜しいかと。……もちろん、裏切りを防ぐための徹底的な『監視』はつけるべきですが」
スラストの言葉に、メガトロンはふんと鼻を鳴らし、シーカーズが突きつけていた銃口をゆっくりと下げさせた。
「……よかろう。使える駒は、骨までしゃぶり尽くすのが我が覇道。サウンドウェーブ、この蜘蛛娘を拘束し、アストロトレインに乗せろ。徹底的に搾り取ってやれ」
「……了解。メガトロン様」
サウンドウェーブが胸部から強靭なエナジー触手を伸ばし、エアラクニッドの四肢と背中の蜘蛛足アームを有無を言わさぬ力で縛り上げていく。
「何で……何で私がこんな目に遭わなきゃいけないッシャァァァ……!」
エアラクニッドの屈辱と悲鳴に満ちた叫びを無視し、彼女の身体はアストロトレインの貨物室の奥深くへと乱暴に放り込まれた。
全軍が撤退を終え、アストロトレインのハッチが閉まりかけるその時。
メガトロンはふと、動きを止めた。
その真紅の光学センサーが、破壊された秘密研究所のゲート脇に、奇跡的に無傷のまま放置されていた『それ』へと留まる。
それは、かつて秘密研究所の資材搬入用、あるいはシベリアの永久凍土を往復するために使われていた、ひどく泥に汚れ、錆びついた旧式の大型車両――マック・M915タイタン・タンクローリーだった。
「……フフフ、ハハハハハ……!」
メガトロンの口から、低く、不気味な哄笑が漏れ出た。
先のエジプト決戦で満身創痍となり、さらに今回のシベリア戦役で右腕まで失った彼の絶対的なボディは、すでに限界を迎えていた。
今までは騙し騙しこの戦闘形態を維持してきたが、このボロボロのエイリアンタンク形態では、これ以上の先はない。
この錆びついた旧世代のボディでは、総司令官オプティマス・プライムには勝てない。
ディセプティコンを率いる絶対的統治者として、新たな「姿」が必要だった。
地球の土着の、それでいて強固な質量を持つ、泥に塗れた怪物の姿が。
ならば――。
「フン……。これより、俺様は新たなる『力』を得る」
メガトロンは、その残された左手を、雪に埋もれかけた錆びついたフロントグリルへと静かにかざした。
キィィィィィィィィンッッ……!!!!
大帝の左手から、暗黒のエナジーが迸り、マック・トラックの車体を包み込んでいく。
その瞬間、メガトロンの傷だらけの銀色の装甲が、まるで生き物のように不気味に変形・融合を始め、マック・トラックの持つ「泥臭く、しかし圧倒的に頑強な荒野の覇者」としてのスキャンデータが、彼の電子頭脳へと急速に書き込まれていく。
「さらばだ、オプティマス・プライム……!」
暗黒のエネルギーに包まれながら、メガトロンの巨体はアストロトレインの機内へと消え、巨大スペースシャトル及びその左右を固める2機のAC-130はシベリアの曇天を突き破り、宇宙の闇へと爆音と共に消え去っていった。
041
轟音を立てて上空を漂流し始めていたロックダウンの巨大宇宙船『ナイトシップ』。
自動操縦を失い、あちこちから不気味な青白い過負荷スパークを放ちながら不規則に揺れるその影を、僕たちはただ地上から見上げることしかできなかった。
「ダメよ……! あの高度じゃ、いくら漂流していると言っても、私たちには乗り込む術がないわ!」
ひたぎが焦燥を滲ませた声を上げる。
「――いや、諦めるのはまだ早いぜ!」
と言って、ハッキングの天才である小型TFブレインズがビーの装甲によじ登ると、その小さな指をパチンと鳴らした。
「このロックダウンの野郎の船のセキュリティはガチガチだがよ、本体がスクラップになっちまえばシステムの同期が一時的にルーズになる! 俺の超絶ウルトラハッキングを見せてやるぜぇ!」
ブレインズは不敵に笑うと、髪の毛のような配線コードを火花散らせながら激しく震わせ、ビーのモニターに備え付けられたキーボードを猛スピードで叩き始めた。
「メインサーバーのドメインをバイパスして……よし、ナイトシップの重力制御OSを強制的にオーバーライドしたぜ! 地上へ降下しやがれ、このポンコツ大怪獣め!」
ズゥゥゥゥゥゥンッッ!!!!
ブレインズのハッキングが成功した瞬間、上空で迷走していたナイトシップのエンジンが再び怪しい光を放ち、ゆっくりと、しかし確実にシベリアの雪原へと高度を下げ始めた。
地表へ激突する寸前、凄まじい逆噴射の風圧が周囲の永久凍土を白く吹き飛ばし、四本の不気味な角を持つ巨大な漆黒の船体が、どっしりと雪原に着陸した。
「ハッチを開けたぞ! 暦、急げ!」
アイアンハイドが叫ぶ。
「行くぞ、忍!」
僕はバンブルビー、そして影に潜む忍と共に、ナイトシップの重厚な金属のタラップを駆け登り、不気味な緑色の照明が明滅する船内へと突入した。
格納庫デッキへと続く、薄暗く粘り気のある通路。
壁面には、ロックダウンが宇宙のいたるところから蒐集してきた、おぞましいトロフィーや奇妙な培養液カプセルが並んでいる。
だが、その暗がりの奥から、カサカサ、グチャグチャと、トランスフォーマーたちの駆動音とは明らかに異なる「有機的で不気味な音」が這い寄ってきた。
「……っ! 何よ、この寒気は……」
後方からついてきたひたぎが息を呑む。
薄暗い通路の影からヌッと姿を現したのは、金属と肉組織が不気味に融合した、異形の宇宙生物――エイリアンたちだった。
格納庫の中央で僕たちの前に現れたのは、三つの不気味な頭を生やした異形。
その頭部が、それぞれ左右に激しく揺れながら、調子の外れた合成音声で合唱するように呟き始めた。
「オイラ頭無い。オイラ頭無い。オイラ頭無い――」
その不気味な言葉に、僕は思わず顔を引きつらせて絶叫した。
「頭あるじゃん! 3つも!! しかもめちゃくちゃデカいのが!!」
さらに、天井からは鋭い金属製の関節を持つ巨大な蜘蛛型エイリアンが、鋭い牙をカチカチと鳴らしながら、糸の代わりにエネルゴンの粘液を垂らして降下してくる。
「カサカサ……ギギギ……」
そして極めつけは、通路の真ん中の檻に鎮座する、カエルのように膨れ上がった湿ったオレンジ色の肉塊エイリアンだった。
全身に小さな無数の目が蠢き、僕たちに気づくと、湿った呼吸音と共に、幼い子供のような、それでいてひどく歪んだ金切り声を上げた。
「ママー……、ママーッ!!」
不気味極まりない鳴き声が狭い通路に反響し、異様な悪臭が鼻を突く。
「何だ、こいつらは……!」
僕は思わず一歩後ずさり、バンブルビーが咄嗟にプラズマキャノンを構えて僕たちの前に立ちはだかった。
僕の影から、忍が呆れたように顔を半分だけ覗かせる。
「……ふん、ロックダウンの悪趣味なペットショップ、あるいは
「ああ……。一刻も早く八九寺を助け出して、ここを出よう!」
幸いにも、エイリアンたちは監禁用の檻やカプセルから半ばはみ出しているだけで、動けない状態か、あるいは僕たちをただ威嚇しているだけだった。
不気味な包囲を掻い潜り、僕たちは格納庫の最奥へと一気に走り抜けた。
そこには、先ほどロックダウンが無造作に放り出した、強固なプロテクトカプセルが静かに佇んでいた。
「八九寺!」
僕はカプセルの強化ガラスを叩く。中にいる八九寺は、僕たちの姿を認めると、その丸い瞳に涙をいっぱいに溜めてコクコクと何度も頷いた。
「待っていろ、今助ける!」
バンブルビーが駆け寄り、その強靭な両手でカプセルの電磁ロックを力任せに掴み取ると、火花を散らしながら強引に引き剥がした。
プシューーーッッ!!!
カプセルのハッチが開き、内部の冷たいガスが抜けていく。
僕は真っ先にカプセルの中へと手を伸ばした。
八九寺は、少し震える手で僕の手をぎゅっと握りしめ、次の瞬間には、カプセルから飛び出すようにして、僕の胸の中へと勢いよく飛び込んできた。
「……ただいま、帰りましたっ……! 阿良々木さん……!」
小さな肩が、僕の胸の中で微かに震えている。
その温もりを感じた瞬間、僕の胸の奥を占めていたすべての張り詰めた糸が、一気に解けていくのが分かった。
僕は彼女の小さな背中を、壊れないように、しかししっかりと抱きしめ返した。
「……おかえり、八九寺。本当によく頑張ったな」
「はい……っ、はい……!」
「ケッ、全く、熱いこって。永久凍土も溶けちまうぜ」
ブレインズがビーの肩の上でニヤニヤと笑い、忍もまた、嬉しそうに喉を鳴らした。
「さあ、戻ろう。地上の皆が待っている」
オプティマスの静かな、しかし確かな慈愛に満ちた声に促され、僕たちは八九寺を連れて、ナイトシップの外へと一歩を踏み出した。
だが、ハッチを降り、白銀のシベリアの永久凍土へと戻った僕たちの前に広がっていたのは、勝利の喜びだけでは語れない、静まり返った『現実』だった。
崩壊した秘密研究所のゲートから、ホイルジャックとディーノが、重い足取りで何かを運び出してくるのが見えた。
それは、かつて僕たちのために盾となり、戦い、そして散っていった仲間たちの姿だった。
シベリアの吹きすさぶ風の中、白銀の雪原の上に、三つの鋼鉄の遺体が静かに並べられた。
一人目は、最期までショックウェーブ復活の阻止と僕らのサポートをしてくれた、青い技術兵、ジョルト。
二人目は、サウンドウェーブの音波によって研究所の奥底で命を奪われた、美しき青い女戦士、クロミア。
そして三人目は、僕らを地上に逃がすため、その冷徹な科学参謀のブレードに貫かれて最期を迎えた、オートボットの誇り高き女戦士、エリータ・ワン。
三人のボディからは、トランスフォーマーたちの命の証である青い光は完全に失われ、静かな、冷たい灰色の金属へと変色していた。
オプティマス・プライムが、その三人の遺体の前にゆっくりと歩み寄り、静かに膝を突いた。
「ジョルト、クロミア……そして、エリータ……。お前たちの犠牲は、決して無駄にはしない。このシベリアの地で、お前たちが示した勇気と誇りは、我々の火花スパークの中に永遠に生き続けるだろう」
その言葉を合図に、アイアンハイドが、ディーノが、バンブルビーが、そして片翼を失ったデプスチャージが、静かに右手を額へと掲げ、最高の敬意を込めた敬礼を捧げた。
ウインドブレードは静かに目を閉じ、胸元で手を合わせて祈りを捧げている。
僕とひたぎ、八九寺、そして羽川や忍、ドラマツルギーとエピソードも、並べられた三人の鋼鉄の戦士たちに向け、静かに頭を垂れ、黙祷を捧げた。
吹き荒れるシベリアの猛吹雪が、三人の遺体にうっすらと白銀のベールをかけていく。
その静寂の中で、僕たちは、失ったものの大きさと、それでも守り抜いた小さな命の温もりを、深く、深く胸に刻み込んでいた。
042
シベリアでのあの凄絶な死闘から、丸一日が経過した。
日付は2月14日。世間一般ではバレンタインデーと呼ばれるその日、僕とひたぎは、白く煙る北海道の、とある静かな港町にいた。
昨日までの、あの命を削り合うような鋼鉄の戦争、雪原を朱に染めたエネルゴンの奔流、そして宇宙船が墜落するほどの極限の喧騒が嘘のように、この町に流れる時間は穏やかで、そして冷たかった。
潮風が運んでくる塩の香りと、港に停泊する漁船のエンジン音が、僕たちが「日常」へと生還したことを何よりも強く実感させてくれる。
今回のシベリア戦役における超常的な後始末――破壊された秘密研究所や、残されたナイトシップの処置、そして散っていったオートボットたちの骸の回収などは、すべて羽川たちを介して、今回のシベリア遠征の仕掛け人、臥煙伊豆湖が担っていた。
「臥煙さん、本当に何でも知ってるし、何でも片付けちゃうんだな……」
そんな愚痴とも感心ともつかない独り言を口にしながら、僕はコートのポケットに深く手を突っ込み、隣を歩くひたぎに歩幅を合わせた。
羽川やドラマツルギー、エピソードに八九寺といった面々は、事後処理の手伝いや臥煙さんからの「お説教(あるいは指示)」に対応するため、現在は別行動をとっている。
(ちなみに羽川は「こういう事があるから国境って嫌なんだよね」とかボヤいてた。僕はあいつの事が少し怖い)
結果として、僕とひたぎは、この緊迫した旅路の中で初めて、文字通りの「二人きり」の時間を得ることになった。
軒を連ねる海鮮市場の呼び込みの声が、活気よく朝の寒気を切り裂いていく。
氷の上に並べられた、見事なまでに肉厚な、赤く茹で上がった甲羅の群れ。それらを眺めながら、ひたぎはふと立ち止まり、マフラーに半分埋もれた顔を僕の方へと向けた。
「暦。せっかくだし、……蟹、食べていかない?」
少しはにかむような、それでいてどこか感慨深げな彼女の提案に、僕は一瞬、彼女と出会ったあの「最初の怪異」のことを思い出していた。
おもし蟹。
重さを失った少女と、血の通った吸血鬼のなれの果て。僕たちの関係は、まさにあの「蟹」から始まったのだ。
「ああ。生還祝いに、お腹いっぱい食べていこう」
僕が微笑みながら応じると、ひたぎの瞳が嬉しそうに細められた。
シベリアの荒野で散っていった、誇り高き鋼鉄の戦士たち。 彼らが命を賭して守り抜いた、このあまりにも平凡で、ありふれた、けれど愛おしい「日常」を。
僕たちは、その茹で上がった蟹の温もりと共に、深く、深く、噛み締める。
043
土星の冷たい重力に囚われた、名もなき氷の衛星。
その荒涼とした地表に、漆黒の巨躯を横たえるディセプティコンの超大型宇宙戦艦『ネメシス』があった。
かつてここに不時着し、半ば遺棄されていたその船体は、今や鈍い金属光沢を取り戻しつつある。
周囲には無数の作業用ドローンが群がり、装甲の亀裂を修復する火花が暗黒の宇宙に散っていた。
重苦しい排気音が響く中、スペースシャトル形態で慣性航行してきたアストロトレインが着陸する。
そのハッチが開き、満身創痍のディセプティコン兵士たちが次々と降り立っていった。
船内の最深部。
かつて軍団の創設者であり、メガトロンの師でもあった『堕落せし者』ザ・フォールンが座っていた、あの禍々しい鉄の玉座。
そこに火花を散らす満身創痍の破壊大帝、メガトロンが鎮座していた。
その足元へ、片腕を失い、単眼の光学センサーを不気味に明滅させた科学参謀が歩み寄る。
「よくぞ戻った、ショックウェーブ」
メガトロンの、地鳴りのような重厚な声が広間に響く。
「はっ、有難き幸せ。……メガトロン様、これからどうなさるのですか。オールスパークは失われ、太陽を贄とする恒星破壊計画も破綻したと聞きましたが」
ショックウェーブの平坦な電子音声には、しかし確固たる論理と冷徹な忠誠が宿っていた。
そこへ、静かに足音を忍ばせて情報参謀サウンドウェーブが合流する。
彼は光学センサーを光らせ、整列した生き残りたち――新シーカーズやコンバッティコン、そして自分の部下たちを見渡した。
誰も彼もが損傷し、手痛い傷を負っている。
「……我らの傷を癒すことが最優先かと」
掠れた機械音声が、冷静に現状を分析する。
メガトロンは、脚部関節の軋む音を立てながら、深く玉座に背を預けた。
「……よろしい。しばし隠れ、力を蓄えるのだ。幸い、時間も、資源もここにはある。人類どもが我々の存在を忘れ、自らの愚行で身を滅ぼすその時まで、牙を研ぐが良い」
メガトロンは立ち上がり、ゆっくりとネメシスの最下層へ向けて視線を落とした。
そこには、未だ起動せず、冷たい眠りについたまま並ぶ無数のディセプティコンのプロトフォーム・ポッドが沈黙している。
破壊大帝は、その赤き双眸をかつてないほど凶暴に輝かせ、傲岸不遜な咆哮を轟かせた。
「――
044
後日談というか、今回のオチ。
あの後ひたぎと蟹をつつき、曲直瀬市のアパートに帰ってくると意外な先客が待っていた。
「……帰ってきたわね。チョコは無いわよ」
「おかえり。阿良々木くん、ひたぎちゃん」
こうこうと灯る蛍光灯の光の下。
あらかじめ用意されていたかのように並ぶローテーブルを囲み、そこには二人の女性が、極めて重々しい、それでいて有無を言わさぬオーラを放ちながら鎮座していた。
一人は、今回のシベリア遠征の後始末を臥煙さんとしていたはずの、委員長の中の委員長――羽川翼。
そしてもう一人は僕らが発つ時にささやかな激励の言葉をくれた隣人――老倉育。
「おかえりなさい。羽川さんから色々聞いたわよ。……半年前みたいに今回も酷い目に遭っていたのね」
冷ややかに、しかし怒りのボルテージを極限まで溜めた彼女の鋭い声が、狭い玄関に響く。
その目は、完全に「尋問」のそれだった。
「え、羽川から……?」
僕が狼狽えて羽川の方を見ると、彼女は人差し指を頬に当て、こてんと首を傾げた。
「うん。老倉さん、お隣さんでしょう? 阿良々木くんが帰ってこない間、すごく心配してたみたいでさ。私が事後処理のついでにこの街に寄ったら、偶然ばったり会って、それで……ちょっと、情報交換をね」
「情報交換って……」
「まあまあ、阿良々木君もひたぎちゃんも座ってさ」
そこから、僕とひたぎ、そして羽川と老倉を交えた、あまりにも過酷な「シベリア遠征」の報告会が始まった。
シベリアの秘密研究所、ショックウェーブの復活、エリータ・ワンたちの死、そしてロックダウンとの死闘と、八九寺真宵の救出。
さらに話の流れで、研究所地下円形ホールでのプリテンダーとの一件についても、羽川によって老倉の耳に包み隠さず入ることになってしまった。
すべてを聞き終えた瞬間、室内の温度が、シベリアの永久凍土を遥かに下回る氷点下へと急降下する。
「……なるほどね」
老倉が、みしり、と畳を踏みしめる。その額には青筋が浮かんでいた。
「せっかく戦場ヶ原さんと元鞘に収まったっていうのに……何? また浮気?どういうつもり?」
「ち、違う! あれは浮気じゃない! 僕は一方的に被害に遭っただけで……お、老倉、お前も半年前の件で知ってるだろ、あれは不可抗力というか、そのプリテンダーは僕を暗殺しようと――」
「そんな事分かってるわ。でも、その時にお前が嬉しそうにしていたっていうのは別問題よ」
老倉が、一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
「そうだよ」
静かに、しかし有無を言わせぬ圧力で、羽川がそれに便乗した。
「半年前の件には私はいなかったから知らないけど、今回のシベリアでのブラック羽川時の記憶は、今の私にもばっちりHD画質で残っているからね。あの時、あの猫ちゃんが阿良々木くんにすり寄って、阿良々木くんがどんなに情けない顔でデレデレしていたか、私は全部、特等席で見ていたんだよ?」
老倉の怒号と、羽川の逃げ場を塞ぐ理路整然とした追及。
そして、隣で静かにシャーペンを回すひたぎ。
「北海道で蟹を食べて生還を祝った直後に、こんな話を聞かされる私の立場も考えてほしいわね。……まぁ今回は傍観者として、二人の判決に従うわ」
と、彼女は冷酷に告げる。
僕の影の中から、トドメと言わんばかりに金髪の幼女の呆れた声が響いた。
(なんじゃ、儂の知らぬ間に、またあの偽・元委員長に引っ掛けられおったのか。この際、一度本気でお灸を据えられてみてはどうじゃ?少しはマシになるじゃろう。じゃあ、儂は知らん顔を決め込むとするかの。かかっ)
「忍! 助けてくれ!」と心の中で叫ぶが、影は完全に静まり返ってしまう。
昨日からの激闘と移動の疲労から、今にも意識を失い、深い眠りに落ちそうになっていた僕の脳髄は、彼女たち三人から下される容赦のないお説教の嵐によって、これ以上ないほど激しく揺り起こされ、叩き起こされることになった。
僕たちの、あまりにも騒がしく、そして手厳しい日常は、まだまだ続きそうだった。
045
「この宇宙には、決して解き明かせない謎がある」
「時にはその謎が、剥き出しの牙となって我々を襲い、不条理な暴力となって大切な友を奪い去っていくのかもしれない」
「だが、我々は立ち止まらない。流されたエネルゴンを、捧げられた尊い犠牲を、決して無駄にしないために――我々はこの星を、彼らの未来を守り続ける」
「私はオプティマス・プライム。共に戦い、そして星の海へと散っていった勇敢な同志たちに、このメッセージを捧ぐ」
「――願わくば、激動の戦火に起こされることのない、穏やかなる眠りが、彼らのスパークに訪れんことを」
あとがき
人の別れというものは想像よりずっと早く訪れる物のようです。
原語版トランスフォーマーシリーズにてオートボット総司令官のオプティマス・プライムの声を担当されたピーター・カレンさんの訃報が、まさにこのあとがきを書いていた時に入ってきました。
突然の知らせに、今も心の何処かでは信じられない思いがあります。
初めてトランスフォーマーと出会った時から、ピーター・カレンさんは私のヒーローのような存在でした。
G1、実写映画、プライム。
数多くの作品の司令官に命を吹き込み、彼は私達を励ましてくれていました。
いつかこの日が来るとは覚悟してはいましたが、まさかこんなにも早いとは。
きっと彼の魂はマトリクスに帰ったのでしょう。
心からご冥福をお祈りします。
さて、『物語シリーズ』と『トランスフォーマー』の二次創作クロスオーバーも、気づけばこれで3作目となりました。
今作を執筆するにあたり、いきなり映画『ダークサイド・ムーン(DOTM)』本編の物語に入るのではなく、「まずはそこに至るまでの前日譚から丁寧に描いていこう」と思い立ったことが全ての始まりです。
そのため、本作には直接の原作となる映画本編が存在しません。
強いてベースを挙げるなら『DOTM THE GAME』と『ロストエイジ』ですが、実質的にはオリジナル展開のストーリーで構成されています。
合間合間のシーンでは、初代G1アニメの第39話『トリプルチェンジャーの反乱』や第3話『地球脱出!』といったファンに愛される名エピソードのオマージュを織り交ぜるなど、様々な試行錯誤を重ねました。
そうしたロボットSFの要素の中に、八九寺の「神性」や「忍の心臓強奪」といった『物語シリーズ』特有の怪異要素を組み込んだオリジナル展開を組み立てるのは一苦労でしたが、非常に書き甲斐のある挑戦でした。
また試験的な試みとして、ディセプティコン側のキャラクター造形や会話劇も実写映画版のテイストだけでなく、G1や『トランスフォーマープライム』版のノリに近づけて描いてみたのですが、いかがでしたでしょうか。
結果としては独自解釈、オリジナル設定が跳梁跋扈する無法地帯一歩手前の本編になりましたが、生暖かい目で楽しんでもらいたいところです。
物語シリーズ側の要素としても、原作『扇物語』から約1ヶ月、強制謝罪の怪異現象『妖魔令』騒動の『その後』を設定しており、阿良々木君と戦場ヶ原さんの絆の再構成を描けたと自負しています。
バレンタインデーに蟹を食べるとはあの二人らしいオチですね。
というわけで、100%爆発で書いた二次創作クロスオーバー小説『起物語 第轟話こよみウェーブ』でした。
サブタイトルの「第轟話」ですが、クロスオーバーも3作目ということで、車が3つ並んで『轟』という単純明快なネーミングになっております。
副題である『こよみウェーブ』にも、阿良々木君を絶え間なく襲う「絶望の波」と、作中で立ちはだかった二大参謀――ショックウェーブとサウンドウェーブというダブルミーニングを込めています。
最後になりますが、全45章という(前2作に比べてコンパクトになったとはいえ)長きにわたる本編に最後までお付き合いいただき、楽しんでくださった読者の皆様に心より感謝申し上げます。
相変わらず生成AIの力に大いに頼りつつの執筆となりましたが、八九寺ちゃんのユーモア、羽川さんの類まれなる知性、そしてエピソードの軽薄さやドラマツルギーのタフさが、皆様の日常に少しでも彩りを添えられたなら、幸いです。
それではまた、愛する人たちに『揺り起こされる』物語でお会いしましょう。
改めて、偉大なる司令官のスパークに安らぎあれ。
RIPピーター・カレン。
――嘘烏