作者は用意したときに限って麻痺しないというジンクスがあるので、常に道具欄に持ち歩くようにしています。
それでもテリワンの一人旅だと意味ないんですけどね。
【▶つづきからはじめる】
吾輩はスライムである。
力は弱くとも意地だけは通す所存だ。
魔物の群れが突撃してこないことは不幸中の幸いというものだろう。
風向きは変わらずとも多少は穏やかになったのか、焼け付く息の赤黒い霧もまだ届いていない。
しかし、アレが集落を覆えば人間たちの被害も大きくなるのは簡単に予測できる。
戦士たちが倒れるようなことになれば、吾輩たちだけで人々を守護れる可能性など皆無であるが……?
「焼け付く息を止めるために必要なのはなんだ? 追い風や強風で跳ね返せるということは物理的な干渉による神経作用が起きているハズ。МPを消費するからと魔法扱いなら【
応ッ!
さすがはマスター、なにかこの状況を打破するための作戦を思い付いたようだ。
身内贔屓と言われようとも吾輩は断言するぞ。
同じ学園の人間たちとは判断力が違う。
どれほど多彩な呪文や特技を会得していても、それらを適切に使いこなせる知識と経験が無ければ宝の持ち腐れも同然。
然るに、マスターのように魔物のことを“知る”だけでなく“理解”する者であれば状況に相応しい手札も選べるというもの。
だから、きっと。
吾輩を脇に抱えて前線へ走り出したことにも意味がある。
「魔物マスターの少年ッ!? なにをするつもりだッ?!」
「自分に出来ることをッ! 成功しても失敗しても逃げるんで期待しないでくださいッ!」
「ならば良しッ! 退く用意があるなら存分に試してみろッ!」
「はいッ! ……スラぼう、無理を押し通して道理を捻じ曲げるぞ。ちとキツいかもしれないが、どうにか我慢してくれ。つーワケで、コレ」
む?
これは、火炎草か。
食せば人でも火の息のようなモノが吐ける薬草だな。
もちろん吾輩のようなスライムでも同じような芸当は可能ではあるが。
マスターはなにをさせるつもりなのだろうか?
まぁ、ともかく。
頼まれたからには食むとしよう。
「そんで、火を吐く前にコレを……消毒用に買っておいたクソ高度数のアルコールを一気に流し込むッ!!」
?!?!?!
こ、こ、コレはッ!?!?!?
「いけ! スラぼう! かえんほうしゃ、じゃなくて。【はげしいほのお】だッ!」
ぶるぁぁぁぁッ!!!!
「焼け付く息を焼き払うとはな!」
「正面だけじゃなく火花が横に広がってる?」
「なんつー力技だよ」
「魔物マスターらしい発想ではあるな。我らの知らぬ、特技の特性を良く理解しているのだろう」
「でもアルコールの特性はあんまりわかってなかったみたいね」
「目を回してるスライムの横でマスターくんが砂の上を転げ回ってんのおもろ」
「あのビン、裏通りの酒屋で売ってる豪傑火柱だろ? そりゃ揮発性もバツグンにあるわな」
「野郎どもッ! 迎撃態勢だ、配置につけぇッ!! 反対側の警戒は最小限でいい、ビッグボウガン部隊も全部コッチに呼び寄せろッ!!」
ふぬぅぅぅぅ。
なんとも刺激的な味わいよ。
しかし、これはこれで愉快な体験だ。
道具の力を借りて、たった1度の行動ではあるが、タダのスライムがドラゴン属の如き炎を行使できるなど。
此度は防御の為であったが、もしかしたら攻めに転じる切っ掛けとしても使えるかもしれん。
状況次第、つまりはマスター次第ではあるが。
ふむ。
火の息、か。
覚えられぬか試してみるか?
スライムに実戦レベルのブレス攻撃を会得できるとは思えぬが、努力は無駄にはなるまい。
野営の煮炊きにも使えるだろうからな。
「あ〜、ビックリした! 度数の高い酒は注ぎ口に火を灯せる、な〜んて話を聞いたことはあったが、まさか身を持って体験するハメになるとは。ま、いいや。お疲れスラぼう。あとは戦場慣れした大人たちに任せて、俺らは尻尾巻いて逃げっぞ! 俺もお前も尻尾ないけどな!」
再び吾輩を脇に抱えて逃げ出すマスター。
こういうところもほかの人間とは違う。
実に不思議なことだが、自ら危険へと赴きたがる人間というものを何人も見てきた。
それも、吾輩から見ても実力の程度が知れる者ほど危険を顧みないのだから意味がわからない。
大手柄を欲する気持ちは理解できるが、身の丈に合わぬ成果を求めて小なり大なりの群れに迷惑と跡始末を押し付けるのは無駄どころか不利益でしかないだろうに。
戦える者には戦いの中で役目があるように。
戦えぬ者には戦いの外で役目がある。
それになんの不満があるというのか?
いや。
吾輩とて戦いは苦手ではあるが、マスターが期待してくれるのであれば奮起せねばと考えている。
スライムですらそうなのだから、きっと人間にも退けぬ理由があるのだろう。
『ケケケッ! ハデにかましたじゃねぇ〜の!』
「まぁね。少なくとも戦う義理の無い子どもとスライムがこれだけのことをしたんだ、まさか本職の戦士たちが後ろでガタガタ震えてはいられないだろうさ。自分を1人前だと思ってる大人ほどプライド刺激されるのに弱いし」
『まぁ、悪いお顔をなさって。けれど、このまま隠れてやり過ごすつもりではないのでしょう?』
『突っ込んでくる数も数だし、叩き損ねたヤツぐらいはオイラたちでどうにかしてやらないと大変だぞ。後ろに残ってる人間、あんまり強そうなのって……うん、残ってなさそう』
チラリ、と後ろを確認する。
人間たちは避難を続けているようだが、最初の焼け付く息による被害と動揺の影響で手間取っているらしい。
ゴールド袋を抱え、他者を押し退けて逃げる商人がいる。
動きの鈍い老人を支え、励ましながら歩く少年がいる。
青ざめた顔で無理やり笑いながらこれ以上
ふむ。
まぁ、自分の身を守ることを最優先とするのは生きとし生けるものとして当然の行動だ。
しかし人間という生き物はその辺りの匙加減が難しいらしく、己の命を第一に考えることが許されぬときもあるようだ。
吾輩が逃げぬのは理由があるからだ。
マスターがいる。
仲間がいる。
タダのスライムより力がある。
そうでなければ我先に逃げ出していた。
力を持たぬ者か命を惜しんで逃げる行為は至極真っ当な判断だと思うのだが……賢さがたかまれば、いつかは理解できる日がくるのかもしれん。
「うんうん、まさにカオス。■■■放送ならさり気なく原作キャラがゲストに紛れてもわからんな。さて皆の衆、これから俺たちは壁抜けしてきたモンスターを足止めするワケなんだがその前に。ひとつ、確認したい。いま────歌は聞こえてるか?」
『『『歌??』』』
歌、とは……歌のこと、だろうか?
『とりあえずオレにゃ聞こえてねぇ〜ぜ?』
『わたくしにも……特に、は』
『オイラにもサッパリだよ』
吾輩にも聞こえんな。
頭まで届いて響くのは魔物の群れによる地響きと、あとは戦士たちの勇ましい掛け声だけだ。
「1番嬉しいのは俺の幻聴。慣れない大規模戦闘の興奮で頭がおかしくなってるパターン。それなら終わってから気の所為だったで笑っておしまいにできるからね」
『こんなにウルセェ中でハッキリ聞こえるってな、酒場の酔っ払いみてぇに大声で叫ぶよーな歌ってことかよ?』
「いや、それだけ別枠。聞こえてくる大きさは静かなのに、目の前で歌ってるのを聴いてるみたいなヘンテコな感覚だ」
『ではマスター、歌声というのでしたら、そこに込められた感情のようなモノがあると思うのですが。そちらは?』
「憎しみで怒っているような気もするし、悲しくて泣いているような気もする。誰かに聞いてほしいと思っているようで、独り言のようにただ歌っているような気もする。つまりよくわからんってことだ」
語りながらもマスターの視線は鋭く、それは魔物の群れのさらに奥のほうを睨みつけている。
向こうになにかを見付けたか?
いや。
聞こえているのだったな。
吾輩には全く聞こえない歌声とやらが。
ふむ。
マスターの気の所為であれば、確かに話は簡単に終わるのだが。
どうやら、目の前の魔物の群れを退けただけでは帰れぬやもしれんな。
▼▼▼
吾輩はスライムである。
手足は無くとも踊りも得意だ。
「そぉ〜れ、ハッスルハッスル!」
『『『ハッスルハッスルッ!』』』
ハッスルだッ!!
「お、おぉ〜? 思いのほか、効くなコレ……」
「ハッスルダンス……下手な【
「あのマスターの子といたずらもぐらが持ってるタンバリンにも意味があったりするのかしら?」
「まぁ、あるんだろうな。魔物マスターにしかわからんなんかが」
「おい、無駄口叩いてないで少しの時間でも横になっとけ」
「さすがに体力と空腹までは癒やせないようですからね。前線に戻るのが遅れれば、それだけ万が一が起こり得ますよ」
ハッスルダンス。
本来ならば、コレほどの激戦の最中に使えるような特技ではない。
如何せん効果のほどは【
だが、吾輩のマスターはひと味違う。
発見したのは偶然らしいが、大勢で同時にハッスルダンスを踊ることで回復効果を高めることに成功したのだ。
そうしなければならない危険な場面があった、というワケではなかったらしい。
単に複数人で集まって練習していたときに誰かが気付いたというだけの話だそうだ。
そこで、偶然だけで終わらせないのが人間の優れたところであり恐るべきところなのだろう。
複数人で同じ呪文を唱え、擬似的に上位の呪文のように使用する手段は昔からあったそうだ。
吾輩も絵本で読んだことを覚えている。
過去の伝承にて、攻撃呪文の中でも最高峰の破壊力を持つ【
天空の武具に認められた勇者だけが使えると言われた【
ふむ?
ならば、このマスターが考案したハッスルダンスパーティーも、時の流れによって由縁のわからぬ伝承となる可能性もあるのだろうか?
最後の魔物マスターだけが使えた踊りの奥義、とでも呼称されるかもしれんな。
と、まぁ。
こんな具合に。
戦う者たちの回復・治療はどうにか間に合っている。
吾輩たちのハッスルダンスだけが頼りではない。
砂漠の戦士たちにも僧侶呪文を会得している者は少なくないようだし、戦えぬ者たちも薬草や毒消し草などを使い援護している。
回復は、間に合っているのだ。
防御の壁も、壊れてはいない。
ただ、状況は有利であると言い難い。
魔物の数は順調に減っており、戦士たちもそれに気付いているため士気も低くは無いのだろう。
だが押されている事実は変わらない。
弓矢で遠距離から支援していた櫓も、リザードフライの襲撃で潰されてしまっている。
連中、集団で戦闘する習性がある上に【
レベルの高い人間にとっては脅威とはなり得ないそれも、周囲への被害という観点で見れば決して無視できぬのだ。
やはり数。
個のステータスで劣っていたとしても、これだけの規模であれば数の暴力は強い。
…………ぬッ!?
この気配、マスターッ!!
「しまッ────下からくるぞッ! 気を付けろォッ!!」
ぬかったわッ!!
弱者だからこその臆病さこそが生存能力!
危険から身を遠ざけることが生存本能!
だというのに、この体たらく……己が多少、力を得たからと驕っていたかッ!!
土の下、土の中。
当然だな、砂漠に生きる魔物がそれを出来ぬ道理はない。
不幸中の幸いと言えるかは怪しいところではあるが、前線を離れ治療を受けていた戦士たちが即応してくれているので大事には至らぬと信じたいところだ。
マスターも同じことを考えたのだろう。
この場は砂漠の戦士たちに任せ、深く潜り込んで広場へと到達した一匹のサンドマスター目掛けて駆け出している。
無論、我らも続く。
いまのところほかの気配は感じぬが、だからといってアレが仲間を呼ばぬとも限らぬ。
現に正面の戦いの熱気に意識を持っていかれてしまい奇襲を見逃しているのだから。
『────、────ッ!』
「フッ……散弾ではな!」
ほぅ?
様子がおかしいと思っていたが、接近する脅威に反応するだけの判断力は残っているのか。
周囲の瓦礫をまとめて尻尾で薙ぎ祓いマスターへぶつけようとしてくるとは。
だが甘いな、その程度の攻撃では吾輩のマスターは捕らえられん。
ひらり、ひらりと。
踊るような足捌きで軽々と瓦礫を避けるマスター。
武道家としても踊り子としても高い熟練度を持つ者の【みかわしきゃく】は伊達ではないのだ。
「お前に恨みはない。だが、これもこの世界に生きとし生けるものとしての自然の摂理。覚悟はいいな?」
『────ッ!!』
「いくぞッ! これが魔物マスター奥義ッ!」
マスターの姿が消える。
やるのか、アレを。
「────秘技、しっぷう餌付け」
『……? …………ッ?!』
フフンッ。
サンドマスターめ、驚きのあまり動きが止まったな。
戦士の特技、威力を捨てて速度を極めた瞬速の一撃【しっぷうづき】の応用だ。
目にも止まらぬ早業で口の中に骨付き肉を咥えさせるこの奥義、世界広しといえどマスター以外に使い手などおるまい。
モンスターじいさん殿はもう歳だからな。
以前もガメゴンロードの背中の甲羅を洗うのをほかの生徒が代わろうとしたときに、まだまだ若い者には負けんと意気込んだ結果……うむ、まぁ、アレだけ派手に転げ落ちて怪我ひとつ無いのは流石というか。
もしかして、だが。
魔物マスターを名乗る人間は桁違いの頑強な肉体に変化する可能性が……?
いや、そんなことよりサンドマスターだ。
突然の肉の旨味を食らってしまった衝撃は軽くないらしい。
先ほどまでの暴れっぷりが嘘のように大人しくなり、じっくりゆっくり咀嚼して骨付き肉を飲み込んでいる。
フフフ……美味かろう?
しかもおかわりもある!
しかも被害を受けた集落の人間たちの戸惑いと冷ややかな視線を気付いた上で無視するマスターは霜降り肉すらも取り出したのだ!
うむ。
マスターらしい判断だ。
「待て」
『…………ッ!』
ピタリ、と。
サンドマスターの動きが、今度こそ完全に止まる。
それはレベルの差なのか。
それともステータスの影響か。
あるいは呪文や特技など手札の多さが侮れぬと警戒させるのか。
どれも違う、のだろう。
少なくとも吾輩はそう思っている。
賢さを得てもなお言語化が難しいこの感覚、これが魔物マスターに求められる強さと別枠の“格の違い”なのだ。
それはそれとして食欲という本能は別の話。
霜降り肉を前にしてヨダレが出る姿に品性を求めるのは違う。
何故なら、霜降り肉は美味いからな。
それでもサンドマスターは動かない。
否。
動けないのだ。
そうなるようにマスターは威圧している。
仲間として受け入れることと、魔物マスターとして格付けを実行し従わせることは矛盾しない。
上下関係を明確にすることは、同時に魔物マスターが眷属の生命に対して責任を背負う意味もある……らしい。
そういう会話をマスターとモンスターじいさん殿がしているのを何度か聞いたことがある。
スライムの群れでも力のある長が皆を気遣うことはあった。
それと同じようなモノ、と。
ひとまずはそのように理解することにした。
わからないことは、これからわかるようになれば良い。
マスターの眷属が増えれば、いつかはそういう日が来るだろう。
「……ヨシッ!」
『────ッ! 〜〜〜〜♪』
うむ。
格付けは済んだか。
ひと噛み毎に丁寧に咀嚼するその姿。
堕ちたな、コレは。
「よしよし、これからよろしくな。サンちゃん、とかはちょっと安直過ぎるし……砂の、サラサラとした、そういう方向性で……よし、今日からお前はサラサと呼ぶことにしよう。気に入ってくれたか? そうかそうか、でも巻き付く力をもう少し弱めてくれると助かるかな。いやホント、信頼してくれるのはいいけど加減無しは上や下から中身が出そうになっちゃうから。う〜ん、ちょっと【
ヘビやミミズのように細長い胴体を持つ魔物は、強力な個体であれば厚手の鎧すら巻き付きで粉砕できるというが。
そこまでではなくとも、退避してきた戦士たちの鉄の鎧が歪んでいたことから察するに、サラサ嬢とて非力ではないだろう。
やはり耐久力。
頑強な身体は全てに勝るということか。
甘えたくて突進してきたメタルドラゴンやウイングタイガーに跳ね飛ばされても笑顔で痩せ我慢してみせるマスターだ、面構えが違う。
▼▼▼
吾輩はスライムである。
文化の違いは楽しむ心が肝要だと思う所存だ。
砂漠のバザーは護られた。
負傷者は少なくないが死者は出なかった。
しかし焼け付く息から逃げ損ねた者たちの治療は続いているようで、満月草や【
全身に違和感が残り、しばらくは安静が必要な者たちで日影や屋根の下は埋まってしまっているな。
まったく。
2度目はマスターと吾輩が運よく防ぐことができたのだから、最初の警告で素直に逃げていればよかったものを。
だが早々に逃げ出した者たちが無事かといえば……どう、なのだろうな?
吾輩にはあまり、こう、無事を喜ぶ空気感には思えんが。
我が身を守るため懸命に動いただけで冷たい視線を向けられるのは理不尽な気もするが、皆で協力して群れを脅威から身を守るべきときに勝手に逃げたと思えば……いや、しかし、逃げることしか出来ぬ者は残られても邪魔なだけであるし。
『マジでサイアクっていうか〜、ちょっと聞いてよマスタ〜。ウチ、ちょっとイイ感じのオアシス見つけて寝てただけなのにさ〜。ホント、ヤんなっちゃうつーか。気が付いたら戦いに巻き込まれてるしさ〜、コレ悪くないよね? だってウチが自分でニンゲン襲ったワケじゃないし〜?』
「つまりテメェらを操ってココを襲わせたヤツがいる、ってコトでいいのか?」
『は? 気安く話し掛けてくんなよニンゲン。ウチはいまマスターと話してんのわかんねーの? 空気ぐらい読めよカス。絞め殺して挽き肉にされてーワケ?』
「よーしわかった。オーケイ、オレが悪かった。ボウズ、事情聴取は全面的にオマエに任せる。このお嬢ちゃんのご機嫌取りは魔物マスターじゃなきゃムリだって理解した」
「あー、なんかスミマセン」
「サンドマスターって、あんな口調なんだな」
「あの子が居合わせなかったら一生縁のない知識ね」
「いやー、さすがに全部がそうではないだろー」
「個性か。珍しい個体ということか」
『いや? 学園のモンスター牧場にもいるぜぇ? あんな感じで女子生徒と喋るシルバーデビルとか』
「逆に、それモンスターと戦えなくなりそう」
「別に私たちが魔物の言葉を理解できるワケではありませんし、大丈夫なのでは?」
「つまり魔物マスターとパーティー組むと常に聞こえる可能性があるっちゅーことか」
「仲間にしなけりゃいいんじゃねーの? しらんけど」
「つまり、正気を失って目的も無く暴れていた……と。そういうことなら諸々の事情を含めて1回だけ謝っておく。悪かったな、仲間もまとめてブッ飛ばすようなことして」
『オッケー。ウチも1回だけ許したげる。これでウチもマスターのマジ眷属ってカンジってコトで、バリバリ活躍したげるっしょ! んで、まだほかになにかウチに聞いとくことある系?』
「直前のことで覚えていることがあれば。例えば、知らない声に呼び掛けられたとか、もしくは……あー、出来れば外れてて欲しいんだけど……なにか、こう、歌声っぽいヤツとか」
『え? つーかそれ答えじゃね? なに、マスターもあの鬱陶しい歌聞こえてたん? ただでさえ身体の自由が奪われたカンジしてっときに延々とリピートされたせいでテンション下がりまくりだったわガチで』
「そっか。……そっかぁ。ちくしょう、俺の幻聴であって欲しかったわ切実に」
周囲に確認したり、というつもりは無いようだ。
当然と言えば当然か。
魔物の群れの騒音すら貫いて耳まで届く歌声など怪しさしかない代物なのだ、砂漠の戦士たちにしろ避難していた人間たちにしろ聞こえていたのであれば話題のひとつにでも出てくるだろう。
それがなく、マスターの言動に首を傾げているのではな。
「鉄の金庫を求めて来てみれば、これまた厄ネタらしいモノ出てくるんだもんなぁ。しゃーない、今日は早めに休んで明日の朝一番から調査のために」
「ボウズ」
「はい、なんでしょう?」
「今日と言わずに明日も1日寝ておけ。そしたら、その間に自警団の団長権限で“砂漠船”を手配してやる」
「はぁ。砂漠、船……ですか」
「お前、砂漠のバザーと言えば名品がなにか知ってるか?」
「砂漠のバラ」
「おま、そりゃ、テメェ。天空伝説に出てくる秘宝だろうが。確かにアレも砂漠が舞台の部分あっけどよ、未来が見える女王なんて御伽噺にしかいねぇだろ。そうじゃなくて、もっと現実的な特産品のほうだよ」
「ガラス細工ですね。調合や錬金に使う実験器具から砂時計や調味料入れのような実用品はもちろん、美術品やアクセサリーなんかも有名ですよね。なんでも“月の海”と呼ばれる特別な砂から生成してるって聞いたことがあります」
「そうだ。で、その月の海って呼び名は例え話じゃねぇ。ここから先に広がる砂漠にゃ人間が歩いて渡れんような区域が広がってんだ。しかも、その区域ってヤツが定まってねぇ。わかるか? 常に目に見えない底無しの海が移動してんだよ。それが月の海だ」
「……砂漠で溺死なんて笑い話にもなりませんね」
「お前がそうなるかは、わからん。サンドマスターが月の海を泳いでるところは何度も見てるからな。もっとも、それと同じぐれぇ他所から来たらしいモンスターが砂に飲み込まれてくトコも見てっけどな」
「歌声、本当に気のせいかもしれませんよ?」
「あんな規模の……下手すりゃ砂漠のバザーが丸ごと潰されるような規模のスタンピードなんざ年寄り連中の昔話でも聞いたことがねぇ。そいつを引き起こした原因を探らにゃ皆が落ち着いて眠れやしねぇだろ? コイツも仕事だよ、団長としてのな」
危険に備えるためには知識や経験が必要だ。
未知なる危機に備えることは難しい。
だから、知るために行動する。
道理だな。
もちろんマスターが聞いたという歌声がスタンピードの発生に関わっているという保証はない。
だがサラサ殿が語っていた話を信じるのであれば無関係と切り捨てるのも難しい。
そして、マスターは決してサラサ殿を疑わないハズだ。
まるで疑問のように口にしてはいるが、その実、心の内では既に確信に変わっていることだろう。
しかし……砂漠の海、月の海か。
吾輩も絵本で読んだな。
一応、夜間であれば見分けることも出来なくないハズだが。
そんなことは砂漠の戦士たちこそが吾輩などより詳しいのは明らか。
ならば、それを知って尚の事、危険であるということか。
夜の戦闘。
足場も光源も限られた中で。
迂闊に船から落下すれば砂の海で溺死。
うむ。
吾輩なら遠慮したいところだな。
謎の歌声で魔物たちが凶暴化しているのであれば余計に。
「そういうことであれば遠慮なく甘えさせていただきます」
「おぅ、大人の優しさには素直に甘えとけガキ。ほかに気になることは?」
「個人的に砂漠の探検と言えば遺跡のイメージがあるんですが。失われた王家の隠し財宝と、呪いがセットになってるようなヤツとか。呪いの歌声っていうのも物語の定番だと思います」
「その手のロマンはオレもキライじゃねぇ。が、さっきも言った通り月の海が常に移動してるんだ。遺跡なんざあったとしてもとっくの昔に沈んじまってるだろうよ」
「それは確かにそうかもしれません。サラサ、正気を失う前はオアシスでのんびりしてたんだよな? それって草木も生えてるような場所?」
『そりゃねー。やっぱ日影は欲しいっつーか、睡眠の質を妥協すんのはお肌に悪ィじゃん? っぱ水辺がサイキョーっしょ』
「月の海と一緒にオアシスの位置まで動いているとは考えにくいと思います。そうでなければ水なんてあっという間に枯れてしまうでしょう。植物が育つ暇もないほど簡単に」
「……法則性がある? そんなバカな、いや、その考え方がそもそも間違っているのか? 確かめる方法が無いからって、実際にどうなのかは別だ。なるほど、だったらロマンを求めるのも悪くねぇな」
「砂の流れを見極める必要があるなら、危険を覚悟の上で夜の出航になるかもしれません」
「一応、聞いておくがよ? オレたちに任せてボウズはここで待ってるって選択は」
「ほぼ確実にモンスターが関わってる出来事です。仮にも魔物マスターである自分が、モンスターの生態で知らないことがあるとは言えません。師匠であるモンスターじいさんの名誉を、弟子である自分が傷物にするワケにはいかないでしょう?」
「カカッ! こんな命知らずじゃなきゃ務まらないってんなら、魔物マスターに誰もなりたがらねぇのも納得だぜ!」
「別に好き好んで危険を求めてるつもりはないんですけどね。むしろ冒険するならギリギリまで準備はしっかり整えたいほうです」
「そうかよ。ならオレたちには無い視点で必要になりそうな備えってヤツをしっかり揃えておいてくれ。バザーなんて呼ばれちゃいるが、ここで産まれ育ったヤツも多い。オレを含めてな。今回のスタンピードを引き起こした誰かがいるなら、そいつを許すワケにはいかねぇんだよ」
住処への執着、いや愛着か?
吾輩のようなスライムには無縁の……いや、マスターが居るところこそが吾輩の帰るべき住処と思えばわからなくもない。
牧場にいるモンスターじいさん殿の眷属たちに比べれば、いや、比べるまでもなく非力な吾輩でも、マスターに危害を加えようとする者がいれば立ち向かう覚悟は出来ている。
当然、それが人間でも魔物でも変わりなく。
そう、立ち向かう覚悟はある。
のだが。
歌声と、呪いと言っていたか?
実体のない脅威を相手にする戦い方とは、どのようにすれば良いのだろうか?
ふーむ。
見た目でわかりにくいメラゴーストなども、自慢のぷるぷるボディの体当たりが通用するからなぁ。
明日は1日を準備に使うと話していたし、呪文の使い方でも改めて練習しておくとしよう。
【▶ここまでのほうけんをきろくしますか?】
※「なんと この話の続きを 書けと申すか!?」
※「そ、それはいかん! もう一度考えてみなさい」
※「うむ。では 読者が 続きを考えるということで 良いな?」
はい
いいえ