笑術廻戦~もしも竈門炭治郎が五条悟だったら~ 作:モッチー7
乙骨憂太が初めて明確に夏油傑に出会ったのは、ハピナ商店街に出現した準1級呪霊の撃破を機に狗巻棘の本来の優しさと苦悩を知ってしばらくたった時であった。
この時点で既に、禪院真希を猿と呼んだなどの理由により夏油を嫌っていたが、乙骨と夏油の関係が明確に敵対と成ったのは、多くの呪術師・呪詛師が恐れ嫌う2017年12月24日……
非術師を殲滅し呪術師だけの世界を目論む夏油は、乙骨の最もデリケートな部分である祈本里香にまで手を出した挙句、乙骨の同級生達を次々と重傷を負わせた。これに怒った乙骨は激戦の末、自分を生贄にした最期の一撃(の心算だった)で夏油を吹き飛ばした……筈だった。
鬼舞辻 無惨に言われるがまま青い彼岸花を探し彷徨っていた黒死牟に発見された夏油は、黒死牟の説得を受けて鬼となり、上弦の弐へと登り詰め、遂に3度目の乙骨との出遭いを果たしたのである。
「8年ぶりか?お前がこの僕にボコられるのは」
「正確には2768日、7年6か月と4週だ……」
その直後、宇田は竈門炭治郎の背後に回り込んで銃口を向けるが、無下限呪術に阻まれて銃弾が届かないばかりか、リカにひょいっと猫つまみされて無造作に投げ飛ばされた。
とは言え、宇田は足から着地しながらお手本の様な受け身をして直ぐに体勢を整え直す。
対する炭治郎は別の意味で汗だくとなった。
(速い!?)
宇田の動きをまったく視認出来なかった。もしこれが攻撃であったら……炭治郎の頬を冷たい汗が伝う。
「大分使いこなしてるではないですか?無下限呪術を」
「くっ!」
ただ……リカの姿が見えない玉壺だけは宇田の一連の行動に混乱した。
「……サマーオイルよ、そこの人間はいったい何をしておるのだ?床体操か?」
そんな玉壺に侮蔑に満ちた視線を送る夏油。
(祈本里香の姿が見えないのか?あんなにはっきりと顕現しているのに……十二鬼月の昇降は所詮、無惨の匙加減でしかない訳か)
その間、乙骨は近くに落ちていた日輪刀を拾い、鞘を捨てた。
「おいおい。巌流島の佐々木小次郎じゃあるまいし―――」
「死ぬ気が無い癖に鞘を捨てやがってとでも?お前、8年前に言ったよな?急に大量の呪力を籠めたら器がもたないと」
そう言いながら左肩に峰を乗せる構えをとる乙骨。
だが、先に仕掛けたのは玉壺だった。
「サマーオイルよ!そこのモヤシはわたくしに任されよう!血鬼術!一万滑空粘魚!」
その途端、空を滑空するサンマのような魚計一万匹が乙骨に襲い掛かる。
「この前のリベンジをさせて貰おう。一万匹の刺客が貴様を食い尽く、す?」
何者かが一万滑空粘魚を追い払おうともがいているのは解るのだが、肝心のその人物の姿がまったく見えないので困惑する玉壺。
「え?何!?何が起こってるの!?」
夏油は呆れて溜息を吐いた。
玉壺では無理だと判断した夏油がバトンタッチを要求するが、
「待て!一万滑空粘魚はまだ終わってはいない」
(そう!日輪刀で斬られて消滅寸前の粘魚がばら撒く体液は毒だ。しかもその毒は経皮毒。皮膚からも吸収される。浴びれば終わり!)
だが、このままでは不味いと悟ったリカは、咄嗟に拡声器を作ってそれを乙骨に投げ渡した。
「やはりそう来るか!?」
夏油は直ぐに自分の耳を塞いだ。
「死ね」
その瞬間、全ての粘魚が同時に破裂した。
「え?……えぇー!?」
「やはり呪言か!?」
一万滑空粘魚を一瞬で葬られた事に大混乱して困り果てる玉壺。
その様に、宇田も時透も、炭治郎ですらも背筋が凍った。
(やばい、乙骨さんキレてる!)
炭治郎は、警護対象である里の中で呪言を使う乙骨が本気である事を察した。
一方、宇田も生きた心地がしていなかった。
(これが特級過呪怨霊・祈本里香。変幻自在で底なしの呪力の塊。それが乙骨の無条件の術式模倣を支えているのか)
これについて、夏油一派は勘違いしている。
祈本里香は本来、特級過呪怨霊に成れる程の素質が備わっていなかった。
だが、11歳の時に車に轢かれて死亡した際、乙骨の『最愛の人の魂を抑留する縛り』を受けてしまった事で乙骨の底なしの呪力と無条件の術式模倣を受け取ってしまい、特級過呪怨霊へと豹変してしまったのだ。
そして、運命の2017年12月24日……
乙骨を殺害して里香を強奪しようとした夏油を倒すべく自分を生贄にした最期の一撃を放った事で呪いをかけた乙骨が主従制約を破棄したとみなされ、祈本里香は無事に成仏した。
その際、底なしの呪力と無条件の術式模倣は乙骨に返却され、里香の遺志と能力を受け継いだ式神『リカ』を託されたのである。
とは言え、そのリカが夏油の手に渡ればとんでもない惨事が仁王立ちで待っているのは容易に想像出来るので、乙骨がやるべき事はただ1つ。
「まだ里香ちゃんを狙っていると言うのであれば、今度こそ死んで貰うよ……夏油傑!」
気付いた時には乙骨は夏油の真上におり、そのまま日輪刀を振り下ろした。
だが、夏油もそれを簡単に避けてしまう。
「うーん、良い太刀筋だ!前よりも少し強くなったかな?乙骨」
そこへリカも加わり、乙骨達の攻撃が強烈無比な連撃へと進化する。
そんな乙骨の本気に、炭治郎は呆然としつつもある疑念を抱いてしまう。
(どう言う事なんです乙骨さん?祈本里香とはいったい何者なんですか?)
一方、九十九由基と戦っていた
「なるほど……存在しない重量を術者に上乗せする事による攻撃力強化向上。その気になれば概念が絡む術式効果すら無視するんでしょうけど」
「やり過ぎるとブラックホールになる。夏油君も随分仕込んだもんだ」
(だが、所詮は『存在しない』。防御には使えない筈!)
ならばと攻撃に転じようとする
(何!?まさか……自分だけでなく式神にも存在しない重量を上乗せ出来るのか!?)
九十九の式神の突進をギリギリで回避した
「隙あり!」
九十九のパンチが漸く
「ぽ!?」
メキと音を立てて折れ凹む
「ぐぅっ!」
更に追加攻撃しようとした九十九だったが、嫌な予感がしたのでバックステップした。
「流石は十二鬼月。しかも上弦。なかなかしぶとい」
弾け飛んだ筈の
「そう言うあんたも十分
(特に藤襲山に閉じ込められて怯えていた頃の私じゃな)
「そう言うあんたも、鬼の癖に1級。十分厄介だよ」
「夏油様のお陰です。だから……」
「無理無理。あんな
「逃がすかよ。せっかくの上弦なんだから」
九十九げ蹴り飛ばした式神が
「何!?」
「隙あり!」
この機を逃さない九十九の乱打が、
だが、
軌道などの動きを曲げる血鬼術が先程外れた銃弾を呼び戻し、九十九の両足を貫通する。
「ぐ!?」
その隙に逃走に成功する
「不味いな……あの先には多分、夏油がいる!」