100カノ短編。pixiv転載。先パイセンが恋太郎に呼び捨てにされて慌てふためく姿を書きたかっただけです。

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ゲロ甘めざして書きましコーカサスオオカブト


輩先は恋太郎に呼び捨てにされて情緒がコーカサスオオカブト

 

 

 ちょっとエッチな話なんだけど。コーカサスオオカブトの「コーカサス」の部分って、ギリシャ語で「白い雪」という意味なんだって。上翅の金属光沢を雪に見立てて名付けられたらしいんだ。儚くてロマンチックな由来だね!

 

 ぐー!ぐー!ぐー!

 

「……おはよう、先」

 

 輩先は困惑した。ベッドに座る自分を見下ろす愛城恋太郎に、いるはずのない彼氏の声に。

 

 いつも通りの日常だった。学校に通い、恋太郎ファミリーに自身の武勇伝を語り、生徒最年長の威厳を見せつけ心を満たし、行きつけの駄菓子屋で腹を満たし、潤った自己肯定感と承認欲求を枕にして眠りについた。

 

ハズなのに──。

 

 目が覚めたら見知らぬ天井。赤い髪を揺らし辺りを見渡せば、知らないシャープな机。記憶にないソファ。立てかけていた筈の特攻服もどこへやら。自身の部屋とはまったく違うレイアウト。

 

 寝ていたベットも男性用の大きなものだった。目を下に向ければ、ぷらぷらと遊んでいる両足。大人のイメージを感じさせるチェック柄のカーペット。

 

 唯一変わっていなかったのは寝る時に着ていたパジャマだった。ボタン付きの前開き、子供用の桜があしらわれた可愛いパジャマ。そして先の目の前で突っ立っている恋太郎も、ボタンが付いたフリースパジャマを着ていた。

 

「恋太郎後輩?」

 

 先は絞り出す様に彼氏の名前を呼んだ。それは先が考えうる、現状で唯一の最適解ではないかと直感的に発した言葉だった。

 

「後輩? 先はまだ寝ぼけているのかな?」

 

 恋太郎は静かに笑った。優しげに、可愛い物を眺めているかのように先を見つめて。

 

 一体この状況はどういう事なんだ? 先は再び困惑する。しかし一つだけ理解できる事があった。それは先にとって最も大切な事──呼称であった。

 

「ね、寝ぼけてねーよ。恋太郎後輩こそアタイのことを呼び捨てなんてどういう了見だ?」

 

「了見って……先が言ったんだよ? 呼び捨てで良いって」

 

「は、はぁ? ど、どういう事だよ。アタイはお前の先輩──」

 

 先の瞳は戸惑いと憤りを滲ませる。だが、ふいに訪れた違和感に言葉がつまった。

 

 赤い髪を見下ろす彼は、落ち着いた様をゆったりと浮かべている。いつもの恋太郎じゃない。より精悍さを磨き上げ、肉体もどこかガッチリとしている。恋太郎が成人したらこんな感じになるであろう姿。

 

 上下関係に敏感な先は、直感で自分よりも上位の存在だと理解する。

 

「(な、なんでだ? なんか……恋太郎後輩がかっこよくみえる)」

 

 男らしいその出立ちは、先の鼓動を甘く跳ねさせた。

 

 しかし、先が頭の中で描いていた彼は後輩なのだ。今まで認知していた事と、今起こっている現象に、彼女の小ぶりな唇は閉ざされる。固まっている先に、恋太郎は笑みで相槌を打つ。

 

「ん? どうしたの?」

 

「な、なんでもねーよ」

 

「…………ふーん」

 

「な、なんだよ。ジロジロ見るんじゃねーよ」

 

 先は瞳を逸らした。見上げるという行為への疲労感を、芽生えたての恥じらいで隠すように。

 

「あ、ごめんごめん。首疲れちゃったよね?」

 

 立ちっぱなしだった恋太郎は膝を折った。ベットに座る先と目線が合わさる。

 

「ち、ちげーよ。これは疲れたとかじゃなくて…そう、恋太郎後輩にメンチを切りすぎるのは先輩として良くないと思ってだな……」

 

「ふふ、強がってる先も可愛いよ」

 

「お、おい。だからアタイは──ん!?」

 

 先輩なんだ──そう言いたかった。だが言えなかった。先の小ぶりな唇が恋太郎の唇で蓋をされてしまったからだ。

 

 先は目を見開いた。眼前に閉じられた瞼。擦れ合う鼻の感触、恋太郎の息遣いに、身体中をぴりぴりと震わせる。

 

「フー!? フゥ……ン」

 

 小鳥の鳴き声にも似た先の声が、二人のいる空間を満たしていく。

 後輩にあるまじきキスだった。先の後頭部に手を添えて、膝に乗せていた両手も大きな手で捕まえて。恋太郎じゃなきゃ許されないであろう長い口付け。

 

「な、なに……すん…だよぉ」

 

 恋太郎の強引で自分勝手な行いは、先の反抗する意思も、強気で振る舞う気概も閉じ込めてしまった。

 すっかりちぢこまる先に、恋太郎は小首を傾ける。

 

「朝起きたらちゅーしろって言ったのは先だよ?」

 

「あ、アタイはそんな甘えん坊じゃねーよ」

 

「えー。先が甘えてくれるの嬉しいんだけどな」

 

「てかよ、何でさっきから呼び捨てなんだよ…」

 

「もーまだ寝ぼけてるの? さっきも言ったよ。それに……」

 

 恋太郎は先の左手を優しく握る。

 

「(え──?)」

 

 握られたその手の薬指には、淡く光沢を放つリングが嵌められていた。先の培ってきた知識が正しければ結婚指輪と言われる物であった。

 

「夫婦だし?」

 

 茶目っ気と誇らしさを混ぜ合わせた顔をする恋太郎。対照的に、先はバチクソに取り乱す。

 

「お、おお……おおお、おくさん!!?」

 

 いつ結婚したんだろうか。先と恋太郎は高校生。恋太郎と結婚できたら凄く嬉しいし幸せなんだろうなとか思っていた。だが、踏まなければいけない段階をぶっ飛ばしすぎている。

 

「結婚した時『これからは夫婦なんだから対等だ』って、先が呼び捨てで良いって言ってくれたんだよ?」

 

 確かに夫婦なら当然だろう。だが、先には恋太郎と式を挙げた覚えもなければ下の名前で呼べと言った記憶もない。

 

「(あ、アタイ、恋太郎後輩の奥さんになっちまったってことなのか……? でもアタイは部屋で寝ていたはずだ。わ、分かんねぇ……でも……)」

 

 先は薬指で輝いているリングに目を奪われていた。自分の手じゃないような気さえする。だが、この手を握り返してくれる体温が、それを否定してくる。

 

「れ、恋太郎後輩……」

 

 先は自分に言い聞かせるように呟いた。落ち着きを取り戻したかった。だが同時に『夫婦』という願ってもない称号に、先の小さな心臓は早鐘を鳴らし始める。

 

「恋太郎……だよ」

 

「え?」

 

「俺の名前も呼び捨てで良いんだよ?」

 

 言ってほしい。そんな気さえ伝わってくる黒い瞳に、先は耐えきれず顔を逸らした。だがちょっぴりの負けず嫌いが先の背中を押す。

 

「……れ、恋太郎」

 

 呼び慣れた名前から少し背伸びをして、後輩の枷を外した。その時、先の中でも枷が一つ外れたような音がした。

 

「よく言えました」

 

 赤い髪を撫でる手は、とても大らかだった。震える小動物の毛並みを落ち着かせるかのような手つき。でも赤い毛をした女の子はちょっと不機嫌になる。

 

「な、なんかガキ扱いしてねーか?」

 

「ちょっとしてるかな」

 

「て、てめぇー……」

 

「ふふ、先は睨んでる顔も可愛いね」

 

「……っ。また呼び捨て……」

 

 彼に名前を呼ばれる度に、触れなかった場所を弄られているような感覚を全身に覚える。それは先にとって未知の体験であり、快感を孕んでいた。

 

「好きな人の名前って、何でこんなに愛おしく感じるんだろうね?」

 

「わ、わかんねぇ……」

 

 正直な感想だった。見下されるような言い方に嫌悪を抱く先にとって、今この瞬間は想像もしていなかったことだ。

 

「じゃあ、分かってくれるまで俺が何回でも呼んであげるよ。先」

 

「は、はぁ? アタイは別に──」

 

「先…」

 

「だから──」

 

「先…」

 

「そんな顔で名前呼ぶなって……」

 

「先…」

 

「うぅ……ううううう……! うぅー!」

 

 『先』と──声と言葉が積み重なる程に、吐き出てしまいそうな気持ちを歯を食いしばって耐え忍んだ。

 また、心の中の枷が一つ外れたような気がした。

 

「伝わったかな?」

 

「全然分かんねぇ……」

 

「今日はいつもより意地っ張りだね?」

 

「い、意地っ張りなら、どうするんだよ?」

 

 売り言葉に買い言葉だった。ツンとした目が、反抗の色を仄かに香らせる。

 可愛い意地であった。だから恋太郎の顔が近づいてくるのを──彼女はされるがままに受け入れる。

 

「ん……」

 

 短い逢瀬だった。しかしそれは、先の心にあった最後の枷を外す引き金となった。

 

「さっきより短いんだけど……」

 

 先はジトりと恋太郎を睨んだ。

 

「やっぱり意地っ張りだね?」

 

 睨まれた恋太郎は笑みを返した。

 

「わりーかよ…」

 

 その暖かな輝きに先は目を伏せた。

 

「ごめん、甘えん坊だったね」

 

 伏せた目を恋太郎は覗き込んだ。そして互いに──

 

「う、嬉しくねーのかよ……?」

 

 とろけちゃうくらい大好きな瞳にビビーンときた。

 

「ううん、凄く、嬉しい」

 

 止めるものは何もなかった。

 

 

 それはまるで数年間会えなかった恋人に、やっと出会えたかのように。

 

 改札口から出てきた青年を今か今かと待ち焦がれた赤髪の少女。小さな体躯が震える中、スマホのカメラ通話では気づけなかった時の流れにピントがズレる。

 

「恋太郎……」

 

「先……」

 

 それでも、互いの気持ちが変わってない事に心を朗らかに。

 一緒にいられなかった時間を埋め合うように手を絡ませ合う。

 そうして二人の邪魔だても起こらない密な場所へ──。

 

「恋太郎……」

 

「なに?」

 

「……好き」

 

「俺も先のこと大好きだよ」

 

 瞳が重なる度に頬を染め合った。堪えきれず、少女は目を伏せ素顔を隠す。青年はそれに愛しさを見出し啄んだ。先の唇はてらてらと輝きを放ち、瞳は恍惚を浮かべる。

 

「恋太郎……恋太郎」

 

 先は溢れ出る気持ちを華奢な腕に乗せ、恋太郎を抱きしめる。酷く弱々しい力であった。だが恋太郎のリビドーを掻き乱すには十分過ぎる程であった。

 

「先っ」

 

 恋太郎はたおやかに彼女へと覆いかぶさり、熱にうなされた目を先へと注ぐ。

 注がれた目に当てられて、先の瞳にも火が灯った。

 

「ボタン、外していい?」

 

 言うや恋太郎の了承も得ず、先の指は彼の着るパジャマへ伸びていく。そして一つずつ、ゆっくりと外し始めた。

 

 慣れてはいなかった。細い手は震えていた。ふいに左手の薬指が光った。それが先の奥底をより一層掻き立てた。

 

「ぁ………」

 

 ボタンを外し終えると、パジャマが重力に従い垂れ下がる。左右で揺れるフリース。顕になった胸板と腹筋に、先は小さな声を漏らした。

 おそるおそると、彼の胸をなぞる。柔らかな弾力に潜む筋肉の躍動。鼻を包む成熟な香り。視界を包み込む静かな野生。それは先の情動を暁へと誘う。

 

「先のも取っていい?」

 

「………おう」

 

 先の腰に手が添えられた。身体がピクリとはねる。恥ずかしさを誤魔化すように口元を隠した。だが潤んだ瞳は一点に恋太郎を見つめ続ける。

 恋太郎は先の頭を数往復撫でてあげ、下腹部から徐々にボタンを解いていく。

 

 そっと掻き分けるような恋太郎の所作に、一つ、また一つと、解かれた布の揺らめきが、先の肌をくすぐる。

 

「(これ、あ、アタイ……下着つけて)」

 

 またそれは、先の慎ましい膨らみを伝い。熱にあてられ突き出た突起をはしたなく擦った。

 

「(……まぁ、いっか……)」

 

 先は思考を脱ぎ捨てた。夫婦なら、男女の関係なら、心の片隅で望んでいたことならば。受け止めたい、受け入れてと願っていたのだから。

 

 彼の手が、登ってくればくるほど立ち上る高揚感に、身を委ねてしまいたかった。

 

「れんたろう……」

 

 恋太郎の手が、先の膨らみに触れる。本当に最後の枷であった。息を吐く音がどんどん大きくなっていく。

 

「さき……」

 

 甘い声が、これから起こることの果てを想像し、目の奥をきゅっと締めつける。心臓から送られる血液は恐れと歓喜をごちゃ混ぜに、先の身体中を駆け巡る。

 

「だい……すき……」

 

 そして輩先と愛城恋太郎。愛し合う男女が今、最後の枷を外し理性の垣根を踏み──

 

 

 

 

 

 

 コーカサスオオカブトォォォォォォォォォ!!!!

 

「はっ?」

 

──コーカサスオオカブトォォ!!

 

──コーカサスオオカブトォォ!!

 

──六時だよ? コーカサスオオカブトォォ!!

 

 けたたましい音に先は叩き起こされた。むくりと身体を起こした。お天道さまの暖かさを右頬に、辺りを見渡す。

 見慣れた机。記憶通りの形をしたソファ。立てかけられた特攻服。見間違う筈もなく先自身の部屋だった。

 

──コーカサスオオカブトォォ!!

 

「夢…………うわあああああああああ!!?」

 

──コーカサスオオカブトォォ!!

 

 

 先は叫んだ。そして涙した。ベッドの上で年甲斐もなく打ちひしがれた。この瞬間まで味わっていた甘い一時をコーカサスオオカブトが奪ってしまったからだ。コーカサスオオカブトが先の心を現実へと引き戻してしまったのだ。コーカサスオオカブトがもたらしたコーカサスオオカブトをコーカサスオオカブトが台無しにしてしまったのだ。

 

「アタイ……アタイは……うわあああああん!!」

 

 先は生まれて初めてコーカサスオオカブトを心底恨んだ。

 

 

 ──当日、お花の蜜大学附属高等学校屋上で、先は「いい夢見れますよ」と言われ借してもらった『コーカサスオオカブト目覚まし時計』を抱え、寧夢に詰め寄った。

 

 先は寧夢に、一言どころか百個ほど言いたい事があった。しかし夢の内容が内容だったので、言うに言えず、もじもじと押し黙ってしまう。そんな彼女に瞼を閉じた寧夢は「ぐーぐーぐー!」と喜びのハグをかます。抱えた目覚まし時計ごと寧夢に捕まった先がもぞもぞと身体を揺らしていると、そこへ恋太郎が現れ、先は「びゃっ!?」と声をあげるが恋太郎は「二人とも可愛いー!」と脈絡もなく寧夢ごと抱きしめる。

 

 小さな先を囲む寧夢と恋太郎。

 その三人の姿はまさに、アジア最大級のカブトムシであるコーカサスオオカブトの三本ツノであった。

 うーん、かっちょいい。

 

「そうはなんねぇだろーがぁぁ!」

 

 こうして二人に抱きつかれた先の、悲鳴にも似たツッコミは、青空へと羽ばたいていき、儚く消えていった。

 

 カチッ…

 

──コーカサスオオカブトオォォォ!!






コーカサスオオカブト〜

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