その古明地こいしは、周りからの理不尽な差別を受ける。
悟り妖怪。
意識しなくても相手の心が読めてしまう、という気持ちの悪い妖怪だ。
つまり、皆から忌み嫌われ、差別される対象である。
当然のことだ。
誰だって、自分の心を読まれるのは嫌。
「古明地こいし、だっけ?アンタ、悟り妖怪なんでしょ?」
「う、うん。でも、悪いことは何もしないよ...?」
「いや、悟り妖怪ってだけで気持ち悪いんだよね。近づかないで。」
「...はい。ごめんなさい。」
何処に行っても、何をしていてもこの様な扱いは当然のことで、誰も疑問には思わない。
…私は、『悟り妖怪』だから。
意識しなくても、勝手に相手の心は読めてしまうし、その所為で会話も噛み合わない。
それでも、全て私が悪いから。
家に帰ると、私の心が読めてしまったのか、お姉ちゃんが話し掛けてきた。
「こいし、ごめんなさいね。私が不甲斐ないばかりに...」
「...お姉ちゃんは何も悪くないよ。」
「いえ、私の所為なの。ちゃんと私達も認めて貰える場所、見つけられないから...」
そんな楽園のような場所、在るわけがない。
探すことなんて、疾うの昔に諦めていた。
悪いのは、お姉ちゃんじゃない。この世界の方だ。
何故私達がこんな目に遭わなければならない?
平穏な生活を望んでいるのに、それすら見向きもされない。
嗚呼、理不尽だ。
それは、ある日のことだった。
いつもの散歩の帰り道、何やら周りが騒々しい事に気が付く。
「おい!危ないから、今すぐ此処から離れろ。」
「え、自分の家が近くに在るのですが...」
「家?君もしかして...」
その人の話では、私の家が火事になっていたらしい。
原因は、私達を良いように思わない連中の放火。
偶然降ってきた雨のお陰で、他の家へ移る事態は避けられた。
「お姉ちゃんは、何処にいるのですか。」
家に彼女を置いたままだったことを思い出す。
不安感が私を襲った。
「大丈夫。元気よ。」
その声に一瞬安堵を覚えたが、すぐに絶望に変わった。
足に回復に時間が掛かる程大きな怪我を負っていた。
「こんな怪我で、元気なわけ無いじゃん。」
「本当に大丈夫だから。それよりも、こうなってしまって、ごめんなさい。」
お姉ちゃんが謝ることじゃない。
何で、何で私達がこんな目に遭わなきゃいけないの?
唯普通に暮らしたいだけなのに。
「.........」
自分の弱さに、魔が差した。
もう、嫌だ。
何もかも投げ出して、楽になってしまいたい。
楽になって、幸せというものを感じてみたい。
自分のエゴだと解っていても、どうしようも無かった。
「もう、逃げ出してしまおう。」
土砂降りの中、駆け出した。
誰にも染まりたくない。染まれない。
限界だ。
たった一つのエゴを持って、幻想少女は走り出す。
その、閉じてしまった瞳には、何も映りはしなかった。
映らなくても良いと思った。
自分が周りから視えなくなってしまえば、解決する。
そして、
走って、走って、息を上げて、走り続けて、辿り着いた先に、夢と出会った。
「嗚呼...綺麗だ。」
美しい海。
幻想郷には存在しない筈の、大きな水平線が見える。
汚れきった心が、少しずつ薄れていく。
向こうへと、大声を上げて、叫んだ。
何を言ったのかは覚えていない。
最初で、最後の『私』の声。
届かなくても、伝えたかった。
この世界は、理不尽で構成されている。
妹、こいしが突然消えたあの日から、一度も姿を見ていない。
「ごめんなさい。ごめんなさい、こいし...」
彼女を見たという人物は、私に語った。
「虚ろな目をしていていた。」と。
変わってしまった。彼女は変わってしまったのだ。
何故、私達は『悟り妖怪』として生まれてこなければならなかったのか。
何故、こいしがこんな目に遭わなければいけなかったのか。
その真相を知る者がいるのならば、この理不尽を止めて欲しい。
古明地姉妹...
幻想郷の嫌われ者ですね。
結構いい感じに書けた気がします。