そう、咲夜は言った。
「私は、人間として、最後までお嬢様にお仕えしたいのです。」
彼女は、私にこう言い放った。
永遠亭の医者に「妖怪にでもならなければ絶対に治らない病気」と処置されてから三日が経った。
様子から察するに、もう時間はない。
「咲夜...やっぱり、もう一度、考え直してくれないかしら。」
「すみません。変なところだけ頑固なもので...」
「......」
「本当に申し訳ございません。でも、お嬢様にお仕えすることができて、幸せで...」
言いかけて、咳き込んだ。
痛みからなのか、それとも、辛さなのか。顔を少し歪め、微笑を作っている。
そして、静かに目を閉じた。
「咲、夜...?ねぇ、どうしたの。咲夜!返事して...!」
「咲夜ぁ...死んじゃだめだよ...」
私と同じ様に咲夜に駆け寄ったフランが言った。
返事は、無い。
…彼女は死んだのだ。
「......」
唯、私がこの事実を受け止められないだけ。
嗚呼、こうなることは、前から解っていたはずなのに。
たった一人の人間の一生なんて、私にとってはすぐだと、解っていたはずなのに。
しばらくして。
紅魔館もいつも通りの日常に戻ってきた。
「お姉様、お友達が出来たから、ここに連れてきてもいいかしら。」
「それは良かったわね。勿論よ、挨拶しなくちゃ。」
「やったー!ありがとう、お姉様。」
一人の人間がいなくても、紅魔館は平和だ。
外を眺めながら、主としての業務に取り掛かる。
「咲夜、紅茶を淹れて頂戴...」
「............」
「そうだったわね...」
やはり、嘘を吐いた。紅魔館はかなり変わっていた。
こうして、自分で紅茶を淹れるのは何時振りだろう。
様々な記憶が蘇っていく。
あれは、私がまだ450歳程度の頃だ。
まだ、美鈴も、小悪魔もいない。そして、私達を世話してくれるメイド長も。
「吸血鬼...許さないッ!」
ある時、貴女は、単身でこの館に入り、私に襲いかかってきた。
急のことで、焦っていた私は、貴女が所持していた銀製のナイフを一発喰らった。
流石に痛かったな。
それでも、吸血鬼と人間には、明らかなチカラの差があった。
「早く、私なんて殺してしまえよッ!」
そう放った君に、私は、問う。
「貴女、名前は?」
「そんなものは無い。あったとしても答える義理は無いだろう。」
その目には、怒りと憎しみが籠められている。
でも、どこか寂しそうで、儚げな表情も視えてしまった。
「私、決めたわ。【十六夜咲夜】、貴女には今日からこの館でメイドをして貰う。」
「十六夜咲夜?お前、何を言って...」
「これは制約よ。さあ、早く仕事に取り掛かりなさい。」
「ッ...」
それから、まだ未熟だった貴女が、メイド長へと駆け上がるまでが、一瞬の様に感じられた。
私とパチェが喧嘩して、慰めてくれたこと。
フランの外出を後押ししてくれたこと。
本当は、まだまだ創る予定だった思い出。
貴女が紡いでくれた、言葉。
「ねぇ、咲夜。」
「............」
何も無い、虚空。でも、そこに咲夜が立っている。
不意に、そう感じられたのは何故だろうか。
「本当はさ、というか私、やっぱり貴女に生きていて欲しかったの。」
きっと、そこに立っている貴女は、物寂しそうな表情をしているだろう。
「寿命なんて、気にせず、みんなで楽しく笑っていたかった。」
「ええ。私もそうしていたかった。」
確かに声が聞こえた。
「ねぇ、咲夜。」
「...はい。」
「私、だめな主かしら。」
どれだけ拭っても、目の辺りが熱くて、視界が霞んでしまって。
「そんな事無いです。私の方こそ、何時も背負わせてしまって、だめな従者ですから。」
「......そっか。」
「はい。」
「でも、後悔はしていないのですよ。」
「え?」
「お嬢様、いえ、レミリア・スカーレット様。私は、貴女の下に就く事ができて、幸せでした。」
初めて、名前で呼ばれた。
「咲夜...」
「そして、自分が行ったこの『選択』も後悔はしていません。...と、そろそろ時間ですね。」
辺りが、眩いばかりの光に包まれる。
「それでは、今度こそ、本当にお元気で。」
「待って咲夜、まだ話したいことが...いや、何でもない。」
これ以上はやめておこうと思った。
それが、彼女を引き留めてしまうかもしれないから。
人生には、幾つもの『選択』がある。
それらは、貴方が決めていくものだけど、後悔はしない選択をして欲しい。
きっと、貴方が後悔してしまう選択は、周りの人にとってもその対象となり得てしまうから。
「はぁ...疲れた。もう寝ようかしら。」
「布団は掛けてくださいね。」
「解ってるわよ。」
…………
今でも不意に、咲夜のことを思い出す時がある。
忘れたくても、忘れられないものだ。
少し微笑みながら、布団に入った。
感動系難しい...
咲夜さんをいい感じに描写出来たような気がします。