「私は人間として、最後までお嬢様にお仕えしたいのです。」
そう、咲夜は言った。

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第1話

「私は、人間として、最後までお嬢様にお仕えしたいのです。」

 

彼女は、私にこう言い放った。

永遠亭の医者に「妖怪にでもならなければ絶対に治らない病気」と処置されてから三日が経った。

様子から察するに、もう時間はない。

 

「咲夜...やっぱり、もう一度、考え直してくれないかしら。」

 

「すみません。変なところだけ頑固なもので...」

 

「......」

 

「本当に申し訳ございません。でも、お嬢様にお仕えすることができて、幸せで...」

 

言いかけて、咳き込んだ。

痛みからなのか、それとも、辛さなのか。顔を少し歪め、微笑を作っている。

そして、静かに目を閉じた。

 

「咲、夜...?ねぇ、どうしたの。咲夜!返事して...!」

 

「咲夜ぁ...死んじゃだめだよ...」

 

私と同じ様に咲夜に駆け寄ったフランが言った。

返事は、無い。

…彼女は死んだのだ。

 

「......」

 

唯、私がこの事実を受け止められないだけ。

嗚呼、こうなることは、前から解っていたはずなのに。

たった一人の人間の一生なんて、私にとってはすぐだと、解っていたはずなのに。

 

 

 

しばらくして。

紅魔館もいつも通りの日常に戻ってきた。

 

「お姉様、お友達が出来たから、ここに連れてきてもいいかしら。」

 

「それは良かったわね。勿論よ、挨拶しなくちゃ。」

 

「やったー!ありがとう、お姉様。」

 

一人の人間がいなくても、紅魔館は平和だ。

外を眺めながら、主としての業務に取り掛かる。

 

「咲夜、紅茶を淹れて頂戴...」

 

「............」

 

「そうだったわね...」

 

やはり、嘘を吐いた。紅魔館はかなり変わっていた。

こうして、自分で紅茶を淹れるのは何時振りだろう。

様々な記憶が蘇っていく。

 

 

 

あれは、私がまだ450歳程度の頃だ。

まだ、美鈴も、小悪魔もいない。そして、私達を世話してくれるメイド長も。

 

「吸血鬼...許さないッ!」

 

ある時、貴女は、単身でこの館に入り、私に襲いかかってきた。

急のことで、焦っていた私は、貴女が所持していた銀製のナイフを一発喰らった。

流石に痛かったな。

それでも、吸血鬼と人間には、明らかなチカラの差があった。

 

「早く、私なんて殺してしまえよッ!」

 

そう放った君に、私は、問う。

 

「貴女、名前は?」

 

「そんなものは無い。あったとしても答える義理は無いだろう。」

 

その目には、怒りと憎しみが籠められている。

でも、どこか寂しそうで、儚げな表情も視えてしまった。

 

「私、決めたわ。【十六夜咲夜】、貴女には今日からこの館でメイドをして貰う。」

 

「十六夜咲夜?お前、何を言って...」

 

「これは制約よ。さあ、早く仕事に取り掛かりなさい。」

 

「ッ...」

 

 

 

それから、まだ未熟だった貴女が、メイド長へと駆け上がるまでが、一瞬の様に感じられた。

私とパチェが喧嘩して、慰めてくれたこと。

フランの外出を後押ししてくれたこと。

本当は、まだまだ創る予定だった思い出。

貴女が紡いでくれた、言葉。

 

「ねぇ、咲夜。」

 

「............」

 

何も無い、虚空。でも、そこに咲夜が立っている。

不意に、そう感じられたのは何故だろうか。

 

「本当はさ、というか私、やっぱり貴女に生きていて欲しかったの。」

 

きっと、そこに立っている貴女は、物寂しそうな表情をしているだろう。

 

「寿命なんて、気にせず、みんなで楽しく笑っていたかった。」

 

「ええ。私もそうしていたかった。」

 

確かに声が聞こえた。

 

「ねぇ、咲夜。」

 

「...はい。」

 

「私、だめな主かしら。」

 

どれだけ拭っても、目の辺りが熱くて、視界が霞んでしまって。

 

「そんな事無いです。私の方こそ、何時も背負わせてしまって、だめな従者ですから。」

 

「......そっか。」

 

「はい。」

 

 

 

 

「でも、後悔はしていないのですよ。」

 

「え?」

 

「お嬢様、いえ、レミリア・スカーレット様。私は、貴女の下に就く事ができて、幸せでした。」

 

初めて、名前で呼ばれた。

 

「咲夜...」

 

「そして、自分が行ったこの『選択』も後悔はしていません。...と、そろそろ時間ですね。」

 

辺りが、眩いばかりの光に包まれる。

 

「それでは、今度こそ、本当にお元気で。」

 

「待って咲夜、まだ話したいことが...いや、何でもない。」

 

これ以上はやめておこうと思った。

それが、彼女を引き留めてしまうかもしれないから。

 

 

 

 

人生には、幾つもの『選択』がある。

それらは、貴方が決めていくものだけど、後悔はしない選択をして欲しい。

きっと、貴方が後悔してしまう選択は、周りの人にとってもその対象となり得てしまうから。

 

「はぁ...疲れた。もう寝ようかしら。」

 

「布団は掛けてくださいね。」

 

「解ってるわよ。」

 

…………

 

今でも不意に、咲夜のことを思い出す時がある。

忘れたくても、忘れられないものだ。

 

少し微笑みながら、布団に入った。

 




感動系難しい...
咲夜さんをいい感じに描写出来たような気がします。

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