神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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秋の選抜は原作の料理があるので非常に助かっていますが、それでも『文字』で表現するのは大変です。何より文字数がハンパ無い!!!

そして、これを原作に無い料理でやろうものなら…………ゾワゾワゾワ!




第二十三皿

 

 

 

『な、なんと! あの凄まじい悪臭を放つ貞塚選手の料理が単独1位! この得点を超える料理は出てくるんでしょうか!?』

 

 

 司会者である川島麗の実況に、先ほどまでどんよりと落ち込んでいた会場に活気が戻ってくる。

 

 

 そうして、ある意味仕切り直しとなった空気で次に料理を運んできたのは新戸緋沙子であった。

 新戸は1人1つずつ鍋を置き、スープを注いでいく。貞塚の料理とは違い、穏やかでスパイシーな香りが審査員たちの鼻腔をくすぐっていた。

 

 

「ふむ、これは羊肉。しかもラム肉やのうて年老いたマトンやな。マトンはラム肉よりも臭みが強いが、そこはスパイスでキッチリ臭味抜きしたというわけやな」

 

「スープにトロみが無いところを見ると、スープカレーの一種かしら? それにしてはスープに色が無いわね「違うな」っ、カムイくん?」

 

 審査員が貞塚の料理の臭さの余韻を引きずりながら、新戸の料理について色々と考えを巡らせる。一方、カムイは貞塚の料理と新戸の料理は別と考えを分けていた。

 

 

「これは、『四物湯 しもつとう』だ」

 

「っ、流石だ、食べずに見抜くか。その通り、これはマトン肉を使った【羊肉四物湯カレー】だ」

 

 【四物湯(しもつとう)】とは、血虚(血流不足)に対する漢方薬で主に女性の健康に用いられている。

 

 主成分は「当帰」「芍薬」「地黄」「川芎」の4つの生薬で、これらは血を補い巡らせる効果がある。

 主な用途としては産後の疲労回復や月経不順、貧血の改善に用いられている。

 

 

「『四物湯』言うたら、死にかけた旅人すらも蘇らせたっていう逸話もある料理やな!」

 

「確かにスパイスや香辛料は、中国では漢方などの薬として用いられていることが多い」

 

「ええ、カレーは多くの香辛料を使うことから滋養強壮にも良いとされていますからね」

 

 カレーに限らず、インドと中国は古代からシルクロードや仏教の伝播を通じて交流があるため、歴史的・文化的にも関係性は非常に深い。

 

 有名なところで言えば、インドから中国に渡り禅宗を広めた『達磨大師』や、『西遊記』でお馴染みの三蔵法師もインドから帰る時に『烏骨鶏の卵』を持ち帰り皇帝に献上したという逸話がある。

 

 逆に中国からインドに伝わったものの代表格としては、『茶』『砂糖』『製紙技術』がある。

 

 中国の喫茶文化が伝わったことで、スパイスを『茶』に入れて飲む『マサラ・チャイ』が生まれ、サトウキビから作る『白砂糖』が伝わったことでインドの製糖技術は大きく進歩した。

 

 さらに古代インドで使われていた『紙』と言えば『羊皮紙』が一般的であったが、中国の製紙技術が伝わってからは『製紙』に代替わりした。

 

 そのためインドと中国は互いに影響を与えあっており、スパイス(漢方)もその一つである。

 

 審査員たちもカレーを『薬膳』として作り上げた新戸の料理に期待を膨らませ頬張る。

 

 

 すると身体中に生気が漲り、大量の汗が噴き出してきた!

 

 

「ぬおおおおおおおおおおお! この味、この薬味成分! 身体中が熱くなってくる!」

 

 

「い、いつもボソボソと言っていて何を喋っとるのか分からん安東先生が、カンフー映画のスターばりに漲っとる!?」

 

「薬膳の味がたっぷり染み込んでいるから、羊肉の滋養成分と相まって更に身体を温めてくれます!

 まさに冷え性に悩まされる女性には最適な料理と言えましょう♪」

 

 新戸のカレーを食べて審査員は大絶賛! 『味』・『香り』・『滋養』と三拍子そろった新戸の料理を食べて、先ほどの貞塚の料理はカムイが言った通り『ただ臭いだけの料理』であることが分かった。

 

 そして審査員が新戸のカレーに夢中になっている傍らで、新戸は自分のカレーを貞塚にも食べさせる。

 

 えりなにストーカー紛いの行為と執着心を見せる貞塚は、『四物湯』の持つ心身浄化の効能によって、自身の持つ『淀み』が一時的に浄化されてしまった。

 

 

「自分のことしか考えていないアナタは、えりな様に相応しくない…………目ざわりだ、さがれ」

 

 

 『自分の料理は仕えるべき主のためにある』ことを誇りしている新戸は貞塚を一瞥すると、今度はカムイに近づいていく。

 

 

「どうだ、カムイ。私の料理、ちゃんと味は感じたか?」

 

 普段はなかなか表に出すことはしないが、『1人の料理人として』新戸はカムイのことを尊敬していた。

 (見た目だけは)自分と同い年で、主であるえりなを超える料理人がいるとは思わなかったからだ。

 

 えりなが【食戟】にて完敗したことは記憶に新しいし、えりなの味覚を治してくれたことについては本当に感謝している。

 無論えりなが味覚を失うきっかけを作ったのはカムイであるが、アレは真剣勝負の上での出来事。

 

 それに勝負を仕掛けたのはえりなの方であり、カムイは料理人として最高の料理を作っただけである。

 

 そればかりか、カムイとの出会いによって今まで女王気質で周りからは近寄りがたい雰囲気を出していたえりなも、最近は年相応の態度を見せることが多くなった。

 

 新戸も以前よりえりなと何気ない会話で笑い合うことが出来る今の状況を好ましく思っている。

 

 

 そのためカムイのことは感謝こそすれ、恨みなど微塵も抱いていない。だからこそ、1人の料理人としてカムイに認めてもらいたかったのだ。

 

 えりなとは違う。自分の主の恩人であり、その主をして『世界最高峰の料理人』と言わしめたカムイに、自分の料理を認めてもらいたいと思ったのだ。

 

 えりなが自分の料理でカムイに『美味しい』と言われようと一生懸命であるように、新戸も主であるえりなに並び立てる料理人でありたいと精進している。

 

 そのためには、カムイに自分の味を認めてもらわなければいけなかった。

 

 

 

「コクン、味は感じた。でも未熟」

 

「っ、未熟、だと…………!?」

 

「コクン。『味』『香り』『栄養価』『薬効成分』を、足し算にしているだけ。

 一品料理としても、薬膳料理としても、上を目指すのであれば、『足し算』ではなく『かけ算』にして、味や効能を、何倍にもしてみろ」

 

 

 食材には組み合わせることで相乗効果を発揮し、何倍にも美味くなるものがある。

 

 代表的な例で言えば『かつお節』と『昆布』を合わせることで、旨味成分である『グルタミン酸』と『イノシン酸』が合わさり、相乗効果によって単独で味わうよりも何倍も旨味を強く感じられる。

 

 また『薬膳』という観点から見れば、食材に含まれる栄養素は組み合わせにより効果が高くなるものがあり、有名なところで言えば『レバニラ炒め』が挙げられる。

 

 『レバー』に含まれるビタミンB群は『ニラ』や『にんにく』に含まれる『アリシン』と一緒に摂取することで、吸収率が上がるだけではなく疲労回復効果もより高くなる。

 

 新戸の料理は確かにカムイが味を感じられるほどの完成度ではあったが、それでもマトンに相性の良いものを合わせて旨味を何倍にも引き立たせなくては『味が薄い』ままなのだ。

 

 

「そうか、相性の良いものとの組み合わせか………フッ、ありがとうカムイ。参考になった」

 

 カムイの『未熟』という言葉は決して新戸を低く見たからではなく、『もっと美味しくなる』という期待を込めての感想であったのだと新戸は理解する。

 

 口下手なカムイに手間のかかる弟のような感覚を覚えた新戸は、『仕方ないヤツだ♪』と言わんばかりに軽く微笑んだ。

 

 

 そうして新戸の審査が終わり、出た点数は『93点』! 貞塚を圧倒的に上回る点数に観客は大盛り上がり! 順位が入れ替わり、新戸が単独トップに躍り出た。

 

 

 

 

 それから審査は、吉野悠姫が【ジビエカレー】で86点。北条美代子が【菠蘿咖喱炒飯 パイナップルカレーチャーハン】で同じく86点を出し二位タイとなる。

 

 なおカムイは、途中から口直しのために『グルメ界』で降る『グミの雨』を参考に作ったグミを食べていた。

 

 

「いやぁ、驚きやで~~~。まさかあんなに野性味溢れる鴨カツが食えるとはなぁ♪ お嬢ちゃん、今度ワシの美食倶楽部に招待したるわ」

 

「ええ! いいの!? 太っ腹ですなぁ♪」

 

「ガッハッハッハッハッ♪ 構へん構へん♪」

 

 吉野の底抜けの明るさに絆され、気難しい審査員たちもすっかり気を良くしてしまった。この爆発したコミュ力、流石は『ガールズ版幸平』と言える。

 

 

「えっと、それでカムイくん。どうだった、私の料理///////////////」

 

 

 元気印の吉野が突然緊張した面持ちで、カムイに自分のカレーの感想を求める。

 

 カムイの身上を知り、自分が育てた鶏たちで最高の料理を作ってくれた吉野はカムイへの感謝から、誰よりもカムイに『自分の料理』を認めてもらいたい………知ってもらいたいと思っていた。

 

 

「未熟。具とルーにだけ工夫をして、ライスにはほとんど、手を加えていない」

 

「うっ! 確かに、ライスはそのまま出しちゃった……………」

 

 『カレーライス』は『具』『ルー』『ライス』の三要素からなる。

 

 しかし吉野は『具』には鴨カツ、『ルー』は鴨のフォンから作っていたが、肝心の『ライス』は普通に炊いたご飯を盛り付けただけだった。

 そのため、カムイは吉野の片手落ちな仕事に対して『未熟』と評価するのであった。

 

 

 

「北条さんの【菠蘿咖喱炒飯 パイナップルカレーチャーハン】も見事でした。まさしく新しい中華、新しいカレーの一ページを綴る一品と言えます」

 

「特筆すべきは容器に使ったパイナップルの内側に塩をまぶし、酸味が必要以上にチャーハンへ移らないよう工夫した点だな。実に見事だった」

 

 

「ありがとうございます。それで第零席殿、私の料理はどうだった?」

 

 自分の料理を評価してくれた審査員にお礼を言うと、北条は次いでカムイにも自分の料理の感想を求める。

 

 未だに男尊女卑の考えが横行する前時代的な自分の店において、『男には負けられない』という考えを持つ北条は『世界最高峰の料理人に認められる』という箔がどうしても欲しかった。

 

 

「未熟。『パイナップル』の酸味と、『カレーチャーハン』の味が、完全に一つになっていない。双方の架け橋となる、『あん』や『ルウ』も、作るべきだった」

 

「ぐっ……………言ってくれるじゃないか」

 

 カムイの評価に顔を悔しさで歪ませる北条。カムイの言う通り、北条の料理は単品として見た場合は優れてはいた。しかし北条が作った料理は吉野と同じ『カレーライス』の発展系。

 

 『パイナップル』を具、『カレーチャーハン』をライスに見立てたのならば、二つをまとめあげて味を爆発させる存在。

 謂わば起爆剤のような『ルウ』に相当する何かが必要だったのだ。

 

 また『あんかけチャーハン』のようにトロッとした『あん』とパラッとした『米』が合わさった食感………中国では『滑 ホウ』と呼ばれる食感は日本人の好きな食感の一つでもあるため、料理の完成度を高めるのなら、尚更『ルウ』が必要だったと言える。

 

 

 吉野同様に、北条の料理もまた『カレーライス』を構成する三要素の内の一つを欠いたため、今一つ得点が伸び悩んでしまった。そのことは二人の得点が同じであることが証明している。

 

 吉野と北条の審査が終わり、次はアルディーニ兄弟の審査が行われる。先に運ばれてきたのは弟であるイサミ・アルディーニだった。

 

 

「ほう、これは『カルツォーネ』か。となると中身は……………」

 

 『カルツォーネ』。ピザ生地で具材を包んで三日月形に形状するイタリア南部発祥のピザの一種。

  片手で食べやすく食べ歩きにも適しており、冷めにくく温め直しても美味しさが保たれるため、イタリアでも人気がある品だ。

 

 

「おほぉーーーーーー! 食べた瞬間に口の中へトマトのコクが溢れ出てきおったわ!」

 

「はい、水を一切使わずトマトの水分だけで作った『イタリア式カレーパン』です」

 

「なるほど! コクたっぷりのカレーに外はパリッと、中はモチモチの生地がよく合っているわ♪」

 

「生地は『ぶどう』を発酵させた天然酵母で作っています」

 

 イサミの作った『イタリア式カレーパン』を絶賛する審査員たち。イサミも自分の料理を褒めてくれて嬉しそうにするが、それでも一番気になるところは別にあった。

 

 

「どうかな、カムイくん。ボクの料理」

 

 カレーパンを完食したカムイにイサミは自分の料理の感想を尋ねる。

 

 【神域の料理人】と呼ばれ、ここ遠月学園でも最高の実力者の称号『第零席』の称号を冠するカムイは、自分のみならず高みを目指す料理人にとって是非とも挑戦したい相手だった。

 

 

「未熟。『カレーパン』という枠に囚われて、カレーを固めるのに、小麦粉を使っている。小麦粉ではなく、煮詰めて固めた方が、トマトのコクが活きる」

 

「っ…………確かに、『カレーパンのカレーは小麦粉で固める』という先入観に囚われちゃってたよ。確かにそっちの方がトマトの風味も活かせるよね」

 

 通常のカレーパンは生地を発酵させているので、空気の穴が大量に空いており、その隙間を通ってカレーの水分が滲み出てきてしまう。

 そのためカレーに小麦粉を多く入れて固めることで、水分が滲み出るのを防いでいるのだ。

 

 だが小麦粉で固めるとその分だけカレーの味が重くなるので、ある意味では『必要悪』と呼べるかもしれない。

 かと言って、水分を少なくすればするほど火加減は難しくなり、料理人にとって最も避けたい『焦がす』という行為と隣り合わせとなる。

 

 だからカムイは『無水カレー』として上を目指すのなら、調理の難易度は上がってしまうが、小麦粉ではなく極限まで煮詰めて水分を飛ばすべきだと苦言を呈したのだ。

 

 イサミの料理は『87点』と現状で2位をマークするが、当のイサミ本人は詰めが甘かったと悔しそうにしていた。

 

 

 次に運ばれてきたのは兄であるタクミ・アルディーニ。料理は牛のすね肉と鶏ガラのフォンをベースにしたカレーソースに、フィットチーネを絡めた『カレーパスタ』と呼ぶべき品。

 

 しかし見た目の印象としては、先ほどのイサミの料理の方が強かった。

 

 

「っ、な、なんや!? このズシンとくるコクはっ!!!」

 

「見た目はただの『カレーパスタ』なのに! この濃厚な味とコクはいったい!?」

 

 食べる前は拍子抜けしていた審査員たちだったが、食べた瞬間に脳髄へ衝撃が走った! 見た目に反して濃厚な旨味とコクが舌に叩きつけられたのだ!

 

 

「これは、麺を三重構造にして、外側の層にターメリックを、真ん中の層にパルメザンチーズを、練り込んでいる」

 

「Si、一口食べただけで見抜くとは恐れ入る」

 

「っ、た、確かに、麺が三層に分かれている!」

 

「でも麺にチーズなんか練りこんだら、茹でる際に溶けだしてしまうはず……………っ、そのための三重構造か! 外側の層が真ん中の層をガードしてるんや!」

 

 

 見た目は変哲もない『カレーソースのパスタ』であったが、食べれば全く新しい感動を与えてくれる!

 まさしく『新たなる食の地平を切り開く者』として相応しい料理だった。

 

 

「Grazie! それで…………どうだった、カムイ。ボクの渾身の皿は」

 

 

 審査員から絶賛を受けてタクミ自身も喜ぶ。しかしそれでもタクミは尋ねずにはいられなかった。

 目の前にいる当代最高峰の料理人に、自分の料理がどこまで通用するかを!

 

 

(旨味が活性化していないため、『味』が薄いことに関しては仕方ないと言える。だが…………)

 

「悪くはなかった。しかし肝心要の麺の工夫が、単に『味のためだけ』というのは、もったいない」

 

「むっ、そうか。確かに見た目は普通だったしな…………次からはお客様の興味や好奇心を刺激できるよう見た目にも拘ろう」

 

 

 カムイとしては、この世界の料理人の味が薄いことに関して仕方ないと割り切っている。

 そのためカムイの評価は今までとは違い、『未熟』とは言わないものの改善の余地はあるというものだった。

 

 タクミもカムイの言う通り、『味』はともかく見た目にはもっと拘れたと思いカムイの評価を素直に受け入れる。

 幸平同様、タクミもまたどこまでも自分の料理を極めることに余念が無いのだ。

 

 タクミの料理の得点は『92点』、点数そのものは新戸に及ばないまでもカムイの評価は今までで一番高かったと言える。

 

 

『さぁ、高得点が続いていきます! この流れはどこまで続くのでしょうか「お待たせしました♪ どうぞお召し上がりください」って、ちょっと、勝手に!?』

 

「もう、待ちくたびれちゃったわ。お待たせ兄さん♪ 私の料理、たっぷり堪能してね♪」

 

 司会者の進行を無視して次の料理を運んできたのはアリスだった。相変わらず自分のペースで物事を考えるアリスに、司会者の川島麗も心の中で罵倒する。

 

 

「これは、いったい…………?」

「ほ、本当にカレー、なのか?」

 

「モチロン♪ 紛れもなく、この皿『全て』がカレーですわ♪」

 

 審査員が戸惑うのも無理はない。アリスの運んできた料理はパッと見とてもカレーには思えなかったのだ。

 

 緑色のアーチがいくつも作られており、その中に豆腐のような立方体が置かれている。

 立方体の上にはクリームが乗せられていて、皿の外側にはいくつものソースが少量ずつ盛られていた。

 

 見た目からはまったく味の予想が出来ないため、審査員は恐る恐る料理を口に運ぶが、誰一人感想を言うことなく固まってしまった。

 

 

「あ~~~~え~~~、これは、温かくて、冷たくて、なんとも…………」

 

「えっと、これは……何て言えばいいのかしら?」

 

「美味しいことは美味しいのだが………この料理の美味さを表現できる言葉を、私は持ち合わせていない!」

 

 百戦錬磨で今まで多くの料理を食べてきた審査員たちでさえ、言葉では言い表せない料理に会場中がザワつきだす。

 

 そうして審査員たちが言いよどんでいると、真っ先に口を開いたのはカムイだった!

 

 

「これは、『温度差』による『食感と味と香りの変化』に、焦点を当てた、カレー料理だ」

 

「そう! そうなのよ! さっすが兄さんだわ♪」

 

 

 誰もがまともな感想を述べることが出来ない中で、カムイだけはアリスがこの料理で表現したかったものを理解していた。

 

 カムイが自分の料理の唯一の理解者であることにアリスは大喜び!

 

 だがあまりにも喜び過ぎて、おりえ嬢がやったようにカムイの膝の上に座り、両手をカムイの首に回してしな垂れてしまった。

 

 

「カ、カムイくん。『温度差』による変化に焦点を当てたとは、どういうことなの?」

 

「味覚や嗅覚をはじめ、人間の感覚というものは、成分の量が同じでも、形や温度によって、感じ方が異なるということだ」

 

「それはまぁ、そうやな」

 

 味覚に限らず人間の感覚とは常に一定ではない。形やソレ自体の温度、さらには周囲の気温や湿度によっても感じ方は様々である。

 

 この料理で言えば、メインの四角いムースはトマトとフォアグラを裏ごしして、ターメリックなどのスパイスと混ぜた後に『瞬間凍結器』で四角く固めたもの。

 舌に乗せた瞬間に体温で香りとフォアグラの旨味がじんわりと溶けだすように設計されていた。

 

 中央にある白いクリームは6種のチーズとジャガイモを合わせたピューレ、これも急速冷凍させているので舌の上に乗せると体温で自然と溶けていく。

 

 更にはコリアンダーとほうれん草を混ぜたパイ生地をアーチ状に形成し、少しずつ食べることでパイの暖かさが冷たさに慣れた舌を戻しつつコリアンダーの香りを楽しめるようにした。

 

 そうして休めた舌を、また冷たさを利用したムースやソースが体温によって舌に旨味と香りを広げる。

 

 まさに温度差による『味と香りと食感の変奏曲』であった。

 

 

「なるほどなぁ、流石は『分子ガストロノミーの申し子』や!」

 

「まさしく! 人体と美食のメカニズムを知り尽くしている彼女だからこその料理だ!!」

 

「ええ。コレは今までにない、まったく新しいカレー料理! 美食の叡智の粋とも呼べる品です♪」

 

 これまでに見たこともない『美食』、まさしく【秋の選抜戦】に相応しい料理に審査員は感動し、点数は驚異の『95点』!

 

 1人持ち点が20点のルールで、これは事実上の満点とも言える評価だった。

 

 

「見て見て兄さん! 私、トップよトップ♪」

 

「そうだな、面白い料理だった」

 

「でっしょ~~~~♪ だ・か・ら~~~~ご褒美、ちょうだい♪」

 

「? 何が欲しいんだ」

 

 新戸を超えて最高得点を出したことにアリスはカムイの膝の上ではしゃぎだし、あまつさえご褒美をねだる。

 カムイもアリスの性格は知っているので、飽きるまで好きにさせている。

 

 だが、運営委員の専用ルームから鋭い視線が送られているのに気づいていなかった。

 

 

「そうねぇ…………っ♪ フフフ、兄さんがさっきから食べてるソレ、もしかして手作り?」

 

「コクン」

 

「じゃあソレ! そのグミ『食べさせて』♪」

 

 アリスはカムイが口直しに食べている『グミ』を貰おうとする。

 

 『グルメ界』の特殊な気候が生み出したグミを参考にカムイの手によって作られた『特製グミ』。

 そんな市販のグミとは一線を画す代物が入っている箱をアリスに渡そうとするカムイ。

 

 

 しかし何故かアリスは受け取りを拒否した。

 

 

 

「ノンノン♪ そうじゃなくってぇ、ア~~~ン♪」

 

「………………………………」

 

「早く~~~、ほらア~~~ン♪」

 

 

 どうやら先ほどの『食べさせて』というのは、文字通りカムイに直接食べさせてほしいという意味だったようだ。周りの者もアリスの自由気質にどうしたものかと戸惑っている。

 

 カムイも『わざわざ食べさせてもらう必要は無いのでは?』と思うが、口を開けたまま一向に閉じる様子が無いので、仕方なしにグミを摘まんで食べさせようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ! チュウ、チュウ、チュウ、チュウ。レロォ、チュポ、チューチューチュー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスは口の中にグミが入った瞬間、カムイの手をガッシリと掴んで指を吸い始めた!

 それどころか口を離してはカムイの指を舌で舐め、また口を入れては指を吸うという背徳的なことをやり始めたのだ!

 

 カムイの指を舐めて吸い付くアリスは、徐々に頬を赤らめ色気を醸し出しだす。

 その光景を見た会場にいる観客たちは、見ているだけで恥ずかしく感じるほど顔が赤くなっていった。

 

 

 

 ただ1人を除いては。

 

 

 

 

「ア・リ・スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」

 

 

ダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッッッッ!!!!

 

 

「落ち着け薙切! それ以上は窓ガラスか薙切の手のどちらかがダメになる!!」

 

「えりにゃん、顔が子どもに見せられないくらいに可愛くなくなってる」

 

 

 アリスが突如として始めた暴挙に、とうとうえりなの堪忍袋の緒が切れた! 力の限り窓ガラスを叩きまくる様は、今にも窓をブチ破って会場に飛び降りかねない勢いである。

 

 

「アリスを失格にしましょう! 今すぐにっ!!!」

 

「だから落ち着けって薙切ちゃん! ほら、一色が止めに入っているからさ!」

 

「手ぬるいです! 私が直接行って止めさせてきます!」

 

「今の薙切じゃダメだ! 会場で乱闘を起こしかねない、包丁とかだってあるんだぞ!」

 

「好都合ですわ!!!」

 

「何がだ!? 仮にも料理人が言っていいセリフではないぞ!?」

 

 司、竜胆、女木島、斎藤の四人は荒ぶるえりなを必死で抑えようとしていた。

 ちなみに茜ヶ久保もいるのだが体格的に抑え役は無理なので、何かあった場合の連絡役に徹している。

 

 

 

 

「まったく…………キミも女の子なら、もっと恥じらいを持たないとダメだよ?」

 

「はぁ~~い。フフ♪ どう、そこのオバさん。アナタにこんなこと出来ないでしょう♪」

 

「なっ、私への当てつけのつもりだったのね!?」

 

「アリスくん、審査員の方を挑発しないように。もう皆のところへ戻りなさい」

 

「は~~い。ウフフ、オバさんへの意趣返しは出来たし、えりなも揶揄うことが出来たから、まぁ良しとするわ♪

 それじゃあね、兄さん。グミありがとう、とっても美味しかったわ♪ 兄さんの指も♪チュッ」

 

 

 アリスの行為はどうやら『子ども』とバカにされたことに対するおりえ嬢への仕返しだったらしい。

 

 そのついでにえりなにも嫌がらせをしたようだ。もっとも、別の意味での個人的な感情も含まれてはいるみたいだが。

 

 アリスはカムイへ投げキッスをして離れていき、次がいよいよ最後の審査。

 

 

 

 カムイも注目する『食材に好かれる才能』を持つ、田所恵の番である。

 

 

 






ラブコメシーン、久しぶりに出しました♪ アリスを絡めるとラブコメ色が強くなると気づいた今日この頃です。

そしてアリスの料理を文字で表現するのは、ガチで大変でした!

最新機器が無いので、自宅でフォアグラの代わりにアンキモを使ったり、スパイス入りパイとか作ったりと、何とか自分で作った味の感想を元に書きました。

コレであっているのか不安なので、実際にマンガ通りに作れた方がいれば、どんな味だったか教えて欲しいです。

それでは皆さん、次回で♪
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