少女は大勢の鬼に担がれて山の中を移動していた。
空を飛ぶように木の太枝を跳び移って移動する鬼達。
彼らは今日は良い獲物が手に入ったと喜んでいる。
「……」
恐怖から声が出せない少女の頬に涙が伝う。
その顔は何処か諦めているようだ。
(仕方ないよね……)
自分は、あの日に食べられた血の繋がらない家族と一緒に殺される筈だったのだ。
自分独りだけ生き残ってしまった。
その上、望んでいなかったとはいえ、守ってくれた大好きな人を罪人として牢に入れてしまった。
だからこれは、あの日の続きで、自分の番がきただけ。
なのに。
「た……て……」
「あ?」
助けて欲しいと願ってしまうのはわがままだろうか?
そんな資格は無いと理解しているのに、昔自分を守ってくれた人を思い起こしてしまう。
「助けて……せんせい……!」
搾り出すようなか細い声。
次の瞬間に、鬼の頭をめがけて角材が飛来してきた。
角材が鬼の頭を潰す。
跳び移っていた木から落ちると、少女を落としてしまう。
しかし、その身体はすぐに誰かに抱きとめられ、地面に着地した。
「大丈夫ですか?」
優しい声で自分と同い年くらいの男の子が話しかけてきた。
鬼が移動している山の小屋で、勝己と玄弥は待機していた。
「じゃあ。私が全員すぐに片付けるので、玄弥君は連れ去られた女の人を守ってあげてください」
その提案に不死川玄弥が異を唱える。
「おいこら。テメェ一人で手柄を全取りする気かよ!」
「? いいえ。私が手早く倒した方が任務が早く終わると思いまして」
さも当然のように言う勝己に玄弥が舌打ちする。
「大層な自信だな、おい! お前ならあの鬼達をすぐに片付けられるってのか!」
「えぇまぁ、はい。たぶん、柱を除けば鬼殺隊で一番強い剣士は私だと思いますから」
さも当然のように言う勝己に玄弥は眉を動かす。
確かに、最終選別の時から抜きん出てた気はするが、こうまで断言されると思うところがある。
「おい、お前……」
「お前、ではないですけど、なんです?」
「兄貴……お前が風柱の継子になったって話は本当か?」
「…………………………はぁ?」
内容を理解して反応を返すのに時間がかかった。
なんでそんな話になっているのか勝己には理解できない。
確かに以前お世話になったが、それからまったく会ってないし、上弦の参との戦いで負傷しても見舞いにも来ない関係で師匠ヅラされても困る。
「そんな事実はありませんが、なんでです?」
「いや、そういう話を聞いて……」
前に風柱に連れ去られて稽古、という名の一方的に打ち負かしをされて、それを見ていた他の隊士が勘違いして噂が広まったのだろう。
額に手を当てて大きな溜息を吐く勝己。
「私の師は父だけです。強くなる為にお世話になることはあっても、継子になるつもりはありません」
ハッキリと言う勝己に玄弥は安堵した様子を見せる。
「そっか……」
そんな話をしている内に、鴉から複数の鬼が娘を抱えてこっちに近付いてもいる事を報告する。
「それじゃ、お仕事お仕事っと」
刀を抜く勝己に対して、玄弥がちょっと待てと制止する。
「玄弥君?」
「とりあえず、鬼が見えたらコレを投げてみるわ」
山小屋に置いてあった、角材を持ち出してくる。
「ちょっと待って!」
「おらぁあああっ!!」
勝己の制止も聞かずに玄弥は鬼が見えると全力で角材を投げ飛ばした。
その後、頭が吹き飛んだ鬼から拉致された娘を勝己が保護した後、六匹中、四匹の鬼の頚を即座斬り落とし、追いついた玄弥が一匹を仕留めて見せる。
「玄弥く〜ん、頑張って〜」
「うるせぇっ!! 気色悪い声出してんじゃねぇっ!!」
残りの鬼と玄弥が一対一で戦っている。
その様子を不安そうに見ている女の子に、勝己が鞄から煎餅を取り出した。
「食べます? 美味しいですよ」
「は、はぁ……」
煎餅を一枚受け取るが、やはり鬼との戦いが気になっている様子。
「あの……いいんです? 手伝わなくて」
「大丈夫ですよ、玄弥君は強い……はずですから」
小声で不安になる事を言った気がするが、女の子はそれ以外質問しなかった。
そんなやり取りをしているうちに、玄弥が鬼を地面に押し倒す。
「クソが! いい加減、死にやがれっ!!」
鉄砲で頭を撃ち抜いて倒す。
息が上がっている玄弥。
勝己は今戦った鬼達について考えていた。
(下弦に近い実力があった。それに鬼達が徒党を組んで動くなんて、指針が変わった?)
考えても判らない事なので、報告だけはしようと決める。
「玄弥君遅いですよ。もっと手早く倒さないと。それに、鉄砲に使うなとは言いませんが、頼り過ぎると弾丸が無くなったらどうするんです?」
「うるさい! 分かってるよ、んなことはっ!!」
怒鳴ってくる玄弥に勝己は肩を竦めた。
「それより、やっぱり兄弟ですね。よく見ると、風柱様に似てます」
突然話題を変える勝己に玄弥は驚きつつも少しだけ表情を和らげる。
「そ、そうか?」
玄弥本人としてはあまり自分が兄と似ているという認識は無いのだが。
「はい! 怒りっぽいところとか! 顔に傷にあるところとか!」
「
「あははははっ!」
叫ぶ玄弥に対して勝己は笑ってやり過ごす。
これが天然なのかからかっているのか判断出来ないのが質悪い。
そんなやり取りに鬼から助けた女の子が玄弥の隊服を掴む。
「あ? どうした?」
「先生……先生を知ってるのっ!?」
「先生?」
女の子の様子に二人が訝しんでいると、それを察して先生、とやらの事を教えてくれた。
悲鳴嶼という名前に背の高い、盲目の人。
「もしかして、こんな感じの人ですかね?」
勝己が細長い木の棒で地面に人相を描き始める。
「お前、上手いな……」
簡略化された絵だが、よく悲鳴嶼の特徴を捉えられている。
それを見た女の子が涙を流しながら頷く。
「お、おい! 泣くなよ……」
困っている玄弥。
女の子は腕で涙を強引に拭うが、まるで止まる様子がない。
「せんせい……生きてた……生きてたよぉ……う、うぅ……」
少し考えて、玄弥が提案する。
「あ〜なんだ。悲鳴嶼さんの知り合いなら会うか?」
「え?」
「事情よく分かんねぇけど、案内するぞ」
玄弥からの提案に、女の子は肩を震わせた。
「いいの、かな……」
「会いたくねぇんなら良いけどよ。会える時に会っておかねぇと、後悔すんだろ」
兄に会っても拒絶されている自分の境遇からの意見だった。
まぁ、悲鳴嶼なら邪険にはしないだろうという信頼もある。
「玄弥君、優しいですね」
「茶化すなよ、ぶっとばすぞ」
すると、女の子が頭を下げる。
「お願いします。案内、してください」
「あいよ。そういや、聞いてなかったな? お前の名前は?」
「沙代、です……」
その日、岩柱である悲鳴嶼行冥の下に思いがけない客が訪れた。
「先生ぇっ!!」
その娘が駆け寄ると悲鳴嶼の服を掴んで泣きじゃくった。
「沙代、なのか……?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
鬼に襲われたあの日、守ってくれた悲鳴嶼を結果的に子供達を殺した犯人にしてしまった事を泣きながら謝罪する。
そんなつもりはなかった。
鬼が太陽で消滅し、駆けつけた人達に説明するには沙代があまりにも子供だった。
あれではどう見ても悲鳴嶼が犯人にしか見えない状況だった。
なんとか撤回しようとしても、沙代自身、あの事件以後、上手く喋れなくなってしまった事など。
久方ぶりに再会した少女は、拙いながらも当時の説明をしてくれた。
あの時、子供達が怪我や病気を発症した時に薬や医者を頼る為に悲鳴嶼が貯めていたお金を、当時子供達の一人だった獪岳が手を付けた事。
それを咎めた他の子供達が獪岳を寺小屋から追い出し、それが結果的に鬼を招き入れる事態になった事。
そしてあの夜、みんなが目の見えない悲鳴嶼を守ろうとして行動していた事。
「そう、だったのか……」
「あの時、守ってくれてありがとう、先生」
ようやく、あの日の感謝を告げる。
嘘、ではないと思いたい。
そもそも今更そんな嘘をつく理由もない。
悲鳴嶼は沙代の頭を撫でる。
沙代はあの日より大きくなった筈なのに、今は穏やかだった日々に戻ったように無防備に頭を撫でられてくれた。
「ありがとう、沙代。ようやく私は、あの日のことが報われた気がする」
ずっと子供を疑ってきた。
子供達は純粋だが、自分を守る為に嘘をつく事がある。
しかしあの日、殺されたあの子達は、目の見えない自分を守る為に立ち上がってくれたのだと知った。
これまで抱えていた心の痼が消えてなくなるのを感じる。
それから、今の沙代がどう暮らしているのかなどを話す。
ある程度話が終わった頃に、沙代を送る為に勝己と玄弥がやってくる。
「あ。さっきの話を聞いてて気になってたんですけど、獪岳って人、もしかしてこういう首飾りをしてる髪の短い男の人です?」
沙代に見せるように、地面に勾玉の絵を描く。
「そう、ですけど……」
「知っているのか?」
「えぇ。初めての任務で一緒に戦った隊士です。かなり強い人でした」
獪岳は手の平に鬼の血が注がれる。
「有り難き血だ……一滴でも零すこと罷り成らぬ……もしも零した時には……お前の首と胴が泣き別れだ……」
その注がれた血を獪岳は────。
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