「調査指令ですか。」
「うむ。」
尸魂界・瀞霊廷 一番隊隊長の執務室にて二人の死神が話し合っている。
「お主の遭遇した黒蟻の虚についての調査指令、しかし交戦は厳禁とのことだ。」
「それは随分と慎重なことで……四十六室の指示ですか?」
執務室の椅子に深く腰掛けた死神、山本重國が重々しくため息を吐き人差し指で上を示す。
「それは……冗談ではなく?」
「冗談でこんな事にはならぬ。上は件の虚を三界を揺るがしかねん者として見た上でそれでも交戦を禁じて来おった。」
それを聞きもう一人の死神、卯ノ花八千流は目を細める。
「それで、素直に従うおつもりなのですか?」
「調査はしよう、そしてそこでの交戦も決してせぬとも。」
山本の言葉に卯ノ花が眉を顰める。
「だが、その後に予定されている虚圏での大規模討伐。之を生き抜けないというのならば其奴もその程度の存在であったという事だろうて。」
「成る程、巻き込まれて勝手に死ぬのであれば仕方がありませんからね。」
ほんの少し愉快そうに卯ノ花が笑う。
今度は山本が眉を顰めた。
「先走った真似は許さん、順序は守ってもらうぞ。」
「ええ、その時が来てどの様な成り行きで何が起こるかを楽しみにしていますよ。」
***
尸魂界で政治的な思惑が進む様に虚圏でも策謀は渦巻いていた。
「ではアウレウスは無事に接触を果たしたのだな?」
「ええ陛下、奴はその理論を実現し得る存在を見つけ無事に取り入った様です。」
クツクツと嗤いが響く。
「奴の知恵は儂の手元にあった所で役には立たぬ。しかしだ、奴自身であればそれを活かせる存在を探すことが出来るであろう?」
「そのために庇護下から放逐なさったと!さすがは陛下の御慧眼。」
「いずれ奴等が全てを作る域に達したならばその時は改めて儂の麾下に加えてやろう。儂の全てを滅ぼす力と合わせて虚圏は完全に一つとなるのだ。」
無数の虚を従えた王冠を被り黒衣を纏った正真正銘の骸骨の如き異容を示す原初の最上級大虚、バラガン・ルイゼンバーンは愉快そうに嗤い続けていた。
***
複数の思惑が絡むのも知らぬままにミケラ達も行動を開始していた。
虚圏の砂を押し固めた砂岩とミケラが生成した鉄を組み合わせることでこれまでにない堅固な構造物を生み出すことが可能になった彼らは地下拠点『オルミゲロ』の構築に取り掛かった。
地下を掘り進め砂が崩れぬ様に霊圧で仮壁を作り鉄骨を張り巡らせ砂岩の板で蓋をする。
通路を巡らせ。部屋を作り。霊子の光で明かりを灯した。
その一画にミケラとアウレウスが立っている。
「これを君に渡そう。」
そう言って差し出されたのは砂岩のプレートと先の尖った鉄の棒であった。
「コレは…?」
「あいにく虚圏にはまだ碌な筆記具がない、しばらくはそれに記録をとってくれ。」
それはミケラがアウレウスに絶対に必要だと考えて与えたものである。
アウレウスはその体表に研究成果を刻み続けていた。
しかしその体表面という限られたスペースに刻み続けた記述はやがて足りないスペースを補うために重ね書きが繰り返され古い記述はもはや読み取ることさえ出来ない。
古い記述とはアウレウスの研究の基礎となった知見である。
これを失われるままにする訳にはいかないとミケラは簡易にでも筆記具を用意したのである。
アウレウスのために誂えられたその部屋には無垢の石板と記述を終えた石板とを収めるための棚が用意されている。
「この部屋ともう一つ部屋を用意した。此処は暫定的に書架とするとしてもう一つの部屋は好きに整備して好きに研究をするといい。」
「あり難き配慮、格別の御恩に必ずや答えさせていただきます。」
アウレウスが静かに傅いた。
「あえて私から希望をあげるなら水の構造の知見が欲しい所ではある。しかし物事には順序というものがありそれは君にしか測れないことだ。」
「いえ、必ずやミケラ様が虚圏に水をもたらせる様に一日も早く之を解明して見せましょう。」
アウレウスの研究は環境を得て加速する。
故にバラガンの計略も加速し。それらとは関係なく尸魂界の思惑も蠢き続ける。
動乱は近い。