千変万化に負けない陰の実力者になりたくて! 作:kaneda,i9
温泉ランドには家族風呂というサービスがあって、それで混浴もできたらしい。でもあの後、アルファ達と一緒に温泉に入る事はできなかった。ガンマ曰く――
『今、帝都で重大な問題が起きています。なので我々はその対処に戻らなくては……いえ、
――と気合十分のコメント。それでみんな温泉ランドを出発して帝都に向かったんだ。重大な問題ってのは気になるけど……手伝ってほしくなさそうな彼女達は初めてだ。
もしかして、名誉挽回がしたいのかな? 僕が見てなきゃ挽回も何も無いと思うけど、やる気を邪魔しちゃいけないよね。
***
【帝都ゼブルディア】は
戦争が終わらなければ修復もままならない。《シャドウガーデン》は戦争の早期決着のため、秘密裏に動いていた。
アルファを始めとする七陰の6人が戻ってきたのは、そんな状況だった。活動拠点の会議室にて、アルファは他の5人を見回す。
「状況はニューから聞いた通りよ。裏で教団も動いているようね」
「主様は、ゼータはもう戻らないかもしれない――と仰ってましたが……今は、それどころでは無いですよね」
「ええ。残念だけど、彼女の捜索については後で考えましょう」
「リンドブルムの情報も、まだ見てないのに……」
イプシロンとイータは他に気になる事があるようだが、それ以上は言わなかった。ガンマも不安そうな顔で口を開く。
「しかしアルファ様、この状況を作り出したのは千変万化です。あの男が魔杖を煽ったから、それも我々に見せつけるかのようにミツゴシデパートで……これでは、またいいように利用されてしまいます」
「いいじゃない」
「え……?」
「私達は温泉ランドで
ガンマの疑念に対し、アルファは笑っていた。何ひとつ悩みがあるようには見えない吹っ切れた笑顔……会議中とは思えないその笑顔にベータやガンマは困惑する。しかしアルファは構わず話を続けた。
「今は目の前の問題に集中しましょう。話はそれから……いいわね」
「……わかりました。この拠点が巻き込まれる前に、何としても戦争を止めないと……ですね」
「帰ってきたばかりだけど、もうひと仕事よ。みんな」
「はいなのです! メス猫なんかいなくてもデルタに任せるのです!」
元気充分なデルタの言葉で、本格的に会議が始まった。皆の話を聞きながらアルファは……その裏で決意を固める。
(あの負けは、勝負を挑んでしまった私の責任……今の問題を片付けたら、ケジメをつけるわ)
***
アルファ達が温泉ランドから離れてだいたい1週間後。彼女達に帝都を任せて、僕はまだ温泉ランドに残っていた。クライ達と一緒に帰る事になりそうかな?
それで今日は朝風呂を目当てに大浴場に向かって、入り口前でクライと鉢合わせた。クライ、地底からはすぐに戻ってきたんだよね。
「おはようクライ。今日は早いね。いつもは朝食ギリギリだって姉さんが言ってたけど」
「たまには僕だって早起きするよ。でも結局、一番最後だったな……」
「へえ、みんな朝から鍛錬でも……ん?
「それはもうやめたよ。訓練しない方がストレスみたいだったから」
さすが、日常が訓練か。それで元悪魔憑きのアルファ達と互角なんて、相当に鍛えてるね。
「立ち話もなんだし……続きは湯船につかりながらにしない?」
「うんうん、そうだね」
それで一緒に着替えてると、クライが気になる事を呟いた。
「……そういえば昨日の夜、シトリーが張り切ってたんだよね。なんかゴーレムがどうとか言ってさ。今朝はそれかも」
ゴーレムと言えば……イータが操ってたアレ、動いてるのを見たらシトリーが使ってたやつと同じに見えたな。僕がアトミックで消し飛ばしたヤツ。
***
同じ頃、温泉ランドホテル館 前の駐車場にて。全長約4メートルの漆黒のゴーレムがダンスをしていた。それを見ているのはクレアと、クライを除く《嘆きの亡霊》メンバーである。皆が思い思いの表情を浮かべる中……ゴーレムを操るシトリーはにこやかな笑みを浮かべていた。
「どうですか? やっと管理者の書き換えが終わったんですよ。あのマントは持っていかれましたが……いい取引でした」
「ふむ……」
「斬っていいかシトリー?」
「え……ダメですよルークさん。ここで壊れたら帝都までどうやって運べばいいんですか」
「これシトが動かしてんの? 私にもやらせて~」
「教えてもお姉ちゃん、すぐ飽きるでしょ」
シトリーの受け答えはどこかおぼつかない。ゴーレムを動かしながらの会話は難しいようだ。そんな折、おもむろにアンセムが口を開いた。
「シトリー、取引とは何だ?」
「ああ、うん。あの時、私が使った水のゴーレム。あれと交換したの。10個1セット、だいたい3億ギール。いい取引でしょ?」
「ふむ……」
「……3億なら私でも買えそうね」
冗談を言うクレアだったが、その声は僅かに震えていた。軽快な踊りで何度も地響きを起こすゴーレムに引いているようだ。
しばらく皆でゴーレムの踊りを眺めていたが……不意にゴーレムの額の模様が明滅を始めた。シトリーはすぐに踊りを止めて、ゴーレムを跪かせる。
「そろそろ魔力切れですね……ルシアちゃん。持ち帰る際は魔力チャージをお願いしますね」
「…………はぁっ!? なんで私がそんなことしないといけないんですか!」
突然の指名に面食らうルシア。怒鳴られてもシトリーはにこやかな笑みを崩さない。
「そこを何とかお願いします。近くの鉄道駅までで構いませんので」
「それこそどこかの商会にでも頼んでください。ちょうどミツゴシのホテルがそこにありますし」
「むぅ~ルシアちゃんの意地悪」
「私はシャドウのあの魔力……アトミックの再現で忙しいんです」
腕を組んでそっぽを向くルシアと、口を尖らせるシトリー。他の皆は動かなくなったゴーレムに近づくが……ふとリィズが目を丸くして振り向いた。よく知った気配、黒髪の盗賊、不詳の弟子がリィズ達を指さし固まっている。
「よおティー! テメエも来たのか!」
「な、なんでお姉さま方がこんな所に……!?」
「そんなん決まってんじゃんバカンスだよ。いいからこっち来い! 5秒以内ね」
「は、はいぃっ!」
慌てて全力疾走するティノ……彼女の同行者も一緒になって走り、リィズ達と合流した。金髪の同行者に、知り合いのルークが気軽に声をかける。
「ローズ王女じゃねえか。久しぶりだな」
「ルークさん! お久しぶりです。
「それがよ……ボスが6本腕の剣士だったんだ! 1対1で勝てるようになるまで挑んできたぜ!」
「まあ……! その雄姿、この目で拝見したかったです」
ルークの武勇伝に目を輝かせるローズ王女、そんな彼女にクレアは呆れた視線を送った。
「なんで2人が一緒にいるのよ。ティノはリンドブルムだって聞いてたけど……ローズ王女は?」
「私も女神の試練のため、リンドブルムに。参加者ではなく来賓としてですが」
「試練の後、ローズ王女が私を訪ねて来たんです。その……お姉さま達の話が聞きたいって」
「でもティノさんから話を聞いて驚きました。女神の試練の裏で、あのシャドウガーデンと行動を共にしていたんです。それで私もシャドウガーデンが気になって、一緒に」
「シャドウガーデンね……そう」
シャドウガーデン……その名を出してもクレア達の反応は薄く、予想外だったローズはティノと顔を見合わせた。
「皆さん、驚かないのですね」
「だって私達、シャドウガーデンと遭遇したばかりだもの。たぶんリンドブルムの後でこっちに来たんじゃないかしら」
「! やっぱりここにシャドウガーデンが……私達、シャドウガーデンの噂を聞いてここまで来たんです! ミリアを見ませんでしたか!?」
真剣な表情でティノが尋ねるが、対してリィズ達は首を傾げる。それに、後から合流したルーク達はミリアの事をそもそも知らない。
「ミリア……って誰だリィズ?」
「えーっとね……白髪の女で、シャドウガーデンを探してて、ティーが先輩風を吹かしてたハンターだよ」
「リィズが戦ってたヤツか?」
「アイツは銀髪のベータ。ミリアなんて私は見てないなぁ。クレアちゃんは?」
「私も見てないわ。ティノ……ミリアがどうしたの?」
「実は――」
ティノは眉をひそめ、拳を震わせミリアがシャドウガーデンの一員になった事だけを話した。だが話が終わった時……リィズはつまらなそうに鼻で笑う。
「そんな事よりティー、女神の試練はどうだったんだ?」
「!? そんな事って――」
「まさか何も呼び出せなかったとか言わないよね? ティーは私が一生懸命に鍛えてあげたんだよ? それなのにもし負けたとか言うなら……この温泉ランドで鍛えなおしてやらねえとな?」
「え……いや……その……」
「……ティノさんはシャドウガーデンと行動を共にしていたので、試練の方には不参加です」
「ローズ王女!? なんで言っちゃうんですか!?」
次の瞬間、ティノの襟首をリィズが掴んだ。本気の力強さに、ティノは背筋が凍る思いをする。
「ティー……テメエは何しにリンドブルムにまで行ったんだ?」
「……ミリアと一緒にシャドウガーデンを探すためです」
「言い訳してんじゃねえ! 女神の試練もシャドウガーデン探しも、どっちもやりゃあいいだろ! そんな簡単な事も分からねえのか!」
「そんな無茶な……」
離れようともがくティノだが、リィズの腕はまるでびくともしない。誰も助け船を出さないまま、リィズはルシアに向かって声をかける。
「ルシアちゃん、アレやって蛙のヤツ! まず耐性の特訓するから!」
「蛙!? 蛙のヤツって何ですかお姉さま!?」
「仕方ないですね……」
半目でティノを睨み、詠唱を始めるルシア。その様子に慌てたのはクレアもだった。
「ちょっと、ここでやるの!?」
「あ、クレアちゃんもやるんだっけ? じゃあクレアちゃんも――」
「『
――3人の人間が蛙に姿を変えた。ティノとクレアと、ローズである。
「けろ? けろけろ!?」
「けろ……」
「けろけろ? けろけろけろけろ!?」
「ああもう! 詠唱の途中で追加注文しないで! 手元が狂っちゃったじゃないですか!」
***
「極楽極楽……」
「うんうん、そうだね……」
僕とクライは露天風呂を満喫していた。本館がまだ休業中だからか、ホテルの方も客足が少ないみたいで……僕達は2人きりだ。せっかくだし、何か聞いてみようかな。温泉の邪魔にならない程度に。
「温泉でも宝具をつけたままなんだね。クライって」
「何が起きるかわからないからね……また温泉がドラゴンになるかもしれないし」
まず気になったのはクライの姿だ。指輪もアクセサリーも身に着けたまま温泉に入っている。用心深いみたいだけど……本命の質問は次だ。
「
「じゅう……いやいや、そんなに持ってないよ」
「持ってはいるんだ」
「……うんうん、そうだね」
じゅう……10!? 『結界指』は高額で取引されてる宝具だ。1個で小さな屋敷が立つぐらいの価値はあるって聞いたけど……それが最低でも10個!?
こっちは持ってる事を確かめたかっただけなのに……驚いて言葉が出ない。それでクライは視線をそらして、露骨に話題を変えようとしてる。
「あはは……こ、ここってホントにいい湯だねシド君。エリザも連れて来たかったな~……」
「エリザって……例の追加メンバー?」
「うん。砂漠の宝物殿で偶然 出会って、嘆きの亡霊に誘ったんだ」
僕やクライの幼馴染じゃない嘆霊の追加メンバー……それが《
どんな人かはわからないけど……嘆霊も七陰も1人足りなかったんだね。そう思うと、こっちもゼータの行方が少し気になってくる。どこで何をしてるんだか……
***
ゼータは帝都を離れた後、まず霧の国【ネブラヌベス】へ向かった。《シャドウガーデン》の559番と合流するためである。
559番は青みがかったピンクブロンド髪を持つ
「そこにいるのは誰だ? 隠れても無駄だ、姿を見せろ!」
「……私に剣を向けるなんて、昔に戻ったみたいだね。ヴィクトーリア」
「ゼータ……様……!? し、失礼しました!」
「主の言う通り、宝物殿の呪い……か」
ゼータは帝都での顛末を559番に話した。帝都に隠された聖域に、魔人ディアボロスの右腕は存在しなかった。もう1人の同士ニーナも千変万化の罠で帝都を離れた……と。ゼータと559番は盟主シャドウを永遠の存在にする……そんな野望の同士でもあった。
「――私の存在を君が忘れたように、教団も調査隊を送った事を忘れているとしたら……まだチャンスはある」
「忘却の呪い……自身で体験しなければ、とても信じられない話でした」
「とにかく、右腕を使う計画は白紙に戻った。手段を変える必要があるね」
「一旦 隠れ家へと戻り、計画を練り直す……という事でしょうか」
「ん。そうしよう」
リンドブルムのさらに東……イーストシール監獄島が存在する巨大湾岸地帯に、ゼータ達の隠れ家はあった。
イーストシール湾はマナ・マテリアルの空白地帯。中心部から離れていてもその影響は少なくなく、湾岸一帯は植物の根付きさえも悪い不毛の地となっている。
そんな人の寄り付かない場所で、ゼータは隠れ家の中から人の気配を感じ取った。隠された入り口の前で立ち止まったゼータを、559番が訝しむ。
「如何なさいましたかゼータ様」
「わからないか」
「? それはどういう意味でしょうか?」
「ここで待て」
ゼータでなければ気づけない程に隠された気配、相手は凄腕の
「少なくとも、暗殺者ではなさそうだ」
思い切ってシーツを引っぺがすと、黒い肌と白い髪の女性が露わになる。巧妙に隠されたこの隠れ家を発見し、眠っていても気配は僅か、そして
ゼータは女性の正体に心当たりがあった。その女性はゆっくりと体を起こし、寝ぼけた赤い目でゼータをじっと見つめはじめる。
「あなた……誰?」
「こっちのセリフ。それは私のベッド。君の名前は?」
「……私はエリザ……ぐぅ」
「あ、おい」
呼び止める間もなくエリザは二度寝を始めてしまった。ゼータは顔をしかめ頭を抱えるが……すぐに不敵な笑みを浮かべる。
(やっぱり放浪のエリザか。もしかしたら彼女なら……魔人の精霊石について、誰よりも詳しく知っているかもしれない)
『精霊石』 それは精霊人に伝わる伝承の中に登場する呪いの宝石だ。しかし森に住まう精霊人と、放浪の民である砂漠精霊人。両者で精霊石の伝説が食い違っている。
その事は《シャドウガーデン》でも議論の的になっていた。精霊人の国々に対する《ディアボロス教団》の介入を考えれば答えは明白……
精霊石とディアボロスの関係を教団が隠蔽……しかし、放浪の民である砂漠精霊人にその影響は届かなかった――と、シャドウガーデンは結論づけた。
魔人ディアボロスの力の一部が封じられた真紅の石……それがゼータの知る『精霊石』の伝説だ。さらなる情報はゼータにとって希望となるか、それとも……
(どうやって聞き出すか……ヴィクトーリアとも相談するかな)
ゼータは落ち着いた足取りで入口へと戻っていく。
***
お風呂上りは冷たい牛乳……やっぱりこれだね。僕はコーヒー牛乳、クライはフルーツ牛乳を一息に飲み干した。
「「はぁ……」」
一緒に温泉に入って、近くでクライを観察したけど……やっぱりレベル8の実力者には見えない。じゃあ知恵者なのかというと……そんな風にも見えない。
でもあの時、アトミック・ソードで全く驚かなかったのは強者の風格があった。……あの瞬間のクライは、まさに陰の実力者だった。
目指す方向性は違えど、同じ陰の実力者として負けてられない。……なんて考えてると、クライが話しかけてきた。
「そういえばシド君って、どんなハンターになりたいんだい?」
「うーん……とりあえず、姉さんに独り立ちを認めてもらう事かな。離してくれないんだよ」
「はは……クレアは昔からシド君の事を大事にしてるもんね」
「そうかな」
姉さんの機嫌をとるの大変なんだけど……口にはしないでおこう。
「1人でいるから心配されるんじゃないかな。パーティを組むのはどう?」
「うーん……考えておく」
陰の実力者としての活動を考えると、表向きはソロハンターでいたいんだよね。最終的にはレベル4あたりの中堅を目指すとして……交友関係はもう少し広げてもいいかもしれない。ヒョロとジャガばかりを頼ってると、2人がいない時が大変そうだし。
「……そうだ! シド君にピッタリの宝具があるんだ。これを使えば体の動かし方とかわかるんだってさ」
曖昧な返事を続けてたら、クライが何か閃いた顔をした。それでポケットから取り出したのは……見覚えのある肉の仮面。それが口を動かして、しわがれた声を発する。
『む……? なんだ貴様か。貴様のような実力者を、進める程の力は無い。そう言ったはずだが』
「えっ? シド君……この仮面と知り合いなの?」
……しまったぁぁぁぁぁっ!!? 口止めするの忘れてたぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
これにて第3章の本編は終了です。
感想と評価、できればお待ちしています。
次章の予告となる章間エピソードは、4章の完成に目途が立ったら投稿します。
……4章まっっったく書けてないので、かなり待たせることになると思います。