正直、素人集団の弱点が出るので扇達の擁護派にはお勧めできないところです。そんな風に描いているので。
扇要の元へ、ライル・フェ・ブリタニアが『ロンスヴォー特別機甲連隊』に連れられて来訪するとの報告が上がった。
「一体、どういう状況なんだ?」
「報告によれば、皇帝弑逆の嫌疑をかけられて追われているようです。」
双葉綾香の報告に旗艦斑鳩のブリッジがどよめいた。
「おい、あの優男皇子がんな大それたこと考えてたのか?」
玉城の疑念に誰も答えない。エリア11で収監されていた時に一度会っただけで、彼の人柄はほとんど分からない。ただ、分かるとすればあの虐殺前のユーフェミアに近い考え方で、部下の名誉ブリタニア人は自分達の考えが全くと言っていいほど通じないくらいだ。
「分からん。少なくとも、これまでの奴の行動を考えればブリタニアの中では真っ当な感性の持ち主だが。」
星刻の意見は諸外国政府も抱いている印象でもあった。だが…
「自分の母親を幽閉するような男だぞ。」
千葉の意見はライルのマイナスとして認知されている。しかし、元をたどれば独立した息子の権限への介入に部下や領民達を殺そうとしたのだ。
法的にも筋が通っている上に、騎士にしようとした女を平民出身という理由だけで殺したのだ。個人的な復讐でも筋が通り過ぎている。
「扇、いずれにしてもまず会わないことには始まらない。」
「藤堂さん…」
「可能性の一つだが、もしかしたら奴も。」
つい先日、彼らが知らされた驚愕の事実。もし、『洗脳皇子』もそういうカラクリならば。
「それは…」
「確証はない。」
合衆国日本の暫定首都、蓬莱島にライル達はやってきた。既に亡命した百万人にもブリタニアの皇子が来ることが通達されており、会談はあくまでも斑鳩で行うものになっている。
その中で、ラルフは扇達に対する疑念が渦巻いていた。あの後、合流したラルフはゼロの死亡について星刻や神楽耶に遅れて問い詰めた。それから聞かされた、特区日本の真相……そして、ゼロの正体。
後者はともかく、前者はとても信じられない話。だが、そう考えればつじつまの合う話でもあった。
だけど……あのタイミングでやるなんて。
シュナイゼルが約束を素直に守る保証もない。いや、例え踏み切るにしてもシュナイゼルと入念に準備を進めてからの方がよかったのではないだろうか?
その場にいなかったラルフがあれこれ言えるような話ではない。だが、失敗した時は勿論だが、成功した時のデメリットへの考慮をしていない勢い任せな気がした。
シュナイゼルは…そういうのを全て考慮して爆弾に火をつけたんだ。
元々、ゼロを含めた中核が爆弾を抱えているような危うさはあった。その爆弾の正体を気付かれて、シュナイゼルは一気に導火線に火をつけた。後は扇達がその爆弾を勝手に爆発させるだけでいいんだ。
扇達はシュナイゼルに良いように扱われた。それは疑いようもない。その場にいなかった自分にとやかく言う権利はないが、それでもラルフは扇達に疑念を禁じえなかった。
日本を返してもらって、済む問題じゃないはず。もし、外にばれたらなんて言うつもりだったんだ?
扇さんたち、まさかゼロを理由に彼までなんて言わないよね?
どうしても気になったラルフは立ち合いを扇達に要請することにした。
久保カイトは千載一遇のチャンスに震えていた。まさか、有紗の方から来てくれるなんて。
「これは、チャンスだ。」
「ああ、行村中佐の仇を取る絶好のチャンス!」
「そして、奴に操られている名誉ブリタニア人達を救出するのだ!!」
そうだ、形式だけの皇妃とはいえ有紗は奴に無理やり結婚させられたんだ。そして、他の女達と共に奴に…
想像しただけで腸が煮えくり返る。奴は二枚舌で日本人や他のナンバーズを操っている。いや、暗示か何かを使っているに決まっている。
「有紗、今度こそ助けるぞ。」
ライルが連れてきたのはレイとゲイリー、長野、非戦闘員である有紗と美水、優衣、リーザだ。
この四人を連れてきたのは、あえて弱い人間を連れてくることで他意がないとアピールする意味があるのだろうな。長野はそう分析した。
有紗は民間人でただのメイド、美水は中華連邦で公務に着いていたが自衛能力はないに等しい。優衣とリーザは銃の扱いを学んでいるとはいえ、本職は学生。万が一の場合、一人ずつ守ることになりそれだけでこちらは行動に制限がかかる。
とはいえ、それは相手がプロである場合だ。あちらはどれだけ行ってもセミプロ、しかも根元は素人集団だ。ゼロという抑止力が不在の今、看板に酔った素人が何をしでかすか分からない。
飛行艇から降り立ったライルの姿は蓬莱島の市民にも映されていた。日本人達の視線は当然憎悪だ。憎きブリタニアの皇子、それも多くのナンバーズを誑かす『洗脳皇子』だ。
しかし、それでも亡命者の若い女の中にはライルの整った容姿に眼を奪われる者もいた。同時に、あの顔で女を誑かしたんだ。と勘繰る者もいた。
後ろには『売国侍』と紅月カレンと同じハーフでありながら、ブリタニアにへつらった娼婦騎士、そして本物の娼婦の女が付き従った。挙げ句に、中華連邦の女も付き従っていた。
団員もライルが大勢のナンバーズや中華連邦、E.U.の女を洗脳したと信じて疑わない。その中で、ラルフは飛行艇から降りたところまで付き添っている少女に眼を奪われた。
「あ、あの人…」
どこかで……そうだ。カラレス時代に出会ったノエル・アーデルハイト、ジョゼット家の陰謀で家庭崩壊に追いやられた平民の少女だ。
「無事だったんだ…」
誰にも聞こえない小声で呟き、ラルフはそれを見送った。
『ロンスヴォー』の面々も途中までは同行していたが……
「嫌われているわね、案の定。」
「そりゃあな。」
フィリップがあっさりと言い切るが、クラリスはため息をついた。植民エリアの人間なら、自分達の状況がいかに苦しいのかは分かっているはず。それから脱却するために、侵略者の靴をなめるのをクラリスは悪いとは思わない。
「イデオロギーで病気が解決しないのは自分達が分かっているはずなのに……ゼロと藤堂をランプの精か何かと勘違いしてるんじゃないの?」
「それはあるかもしれないな。」
「………本人が一番迷惑してるかもね。」
絶望的な状況下での勝利を人間は奇跡だと思い込む。そして、その奇跡が戦争以外でも起こるものだと錯覚する。そうなった時、待っているのはおそらく破滅という名の敗北だ。
「ウチのもだけど、あっちの素人共が暴れないように警戒しておく?」
「だな。」
「お久しぶりですね、黎星刻。」
「こちらこそ、壮健なようで何よりだ。」
ライルはまず星刻と握手し、後ろの長野が藤堂と敬礼を交わす。
「お久しぶりです、中佐。」
「長野大尉…貴官も無事で何よりだ。」
そして、美水は……
「ご無沙汰しております、星刻様。あの…父はこちらには?」
「申し訳ありませんが、貴女の立場も考慮してお父上は四川に。」
「…そう、ですよね。やはり。」
更に、紅月カレンもいたために…
「久しぶりね、カレン。」
「ええ…」
どうにも知り合いが鉢合わせるような組み合わせをしてしまったようだ。
「双方、旧交を温めるのは後で。」
ゲイリーが窘め、更に立会人としてバルディーニと海棠が同席することになった。有紗が艦から持ってきた紅茶を全員に配る。
「無茶な交渉に応じていただき、ありがとうございます。」
「いえ、それでその……」
「皇帝弑逆、ですね?」
「はい。」
扇の問いにライルは答える。
「それにつきましては、バルディーニ将軍から既にお受け取りになっている資料の通りです。皇帝陛下が神根島に留まり続ける真意を問い質そうとしたところを、『セント・ガーデンズ』に襲われました。」
同席していた皇神楽耶がそれに対して
「それはお伺いしております。ですが、一体あなた方は何を想い神根島へ?」
流石皇神楽耶……こちらの裏事情に食い込んできた。
「それも、資料の通りです。通信記録を送っても良いです。」
「それ以外に、何かあるのでは?」
つまり、こちらが本当にクーデターを企てていたのではないか?という事か……
「こちらからもお聞きしたいのですが、神根島では式根島基地の部隊が反乱を起こしたという通信を傍受しております。何故、あなた方がその鎮圧に?」
「シュナイゼル皇子から、正式な要請があったからです。ブリタニア皇帝に万が一のことがあれば、休戦条約が白紙に戻る恐れがあります。」
正論だ。しかし……
「ではもう一つ…その反乱の首謀者はどうなったのです?『ナイトオブワン』と『ナイトオブトゥエルブ』も鎮圧に動いていたと聞いております。」
「…式根島基地の暴走だそうですが?」
「………あんな小さな基地の部隊が、こんな情勢下で?身びいきのつもりはありませんが、私の部下達が昨年に起こした事件のような突発的なものとはわけが違うと思います。」
神楽耶だけでなく、扇と星刻の表情が動いた。これでほぼ確定だ。
やはり、神根島に襲ってきた部隊の黒幕は……
「あの状況下で、皇帝陛下に剣を向ける人間は私の知る限り一人だけです………どういうことですか?」
「…その件につきましては、こちらと宰相閣下の間における機密に触れることですので。」
認めているようなものだ。
「分かりました……話がそれましたが、我々の扱いにつきましては。」
「……休戦条約の締結もありますし、そちらが冤罪をかけられたのであれば監視という形でならば駐留を許可します。期間は冤罪の証拠をつかむ、またはそちらの保護を申し出たブリタニア軍が来訪した場合には保護観察をそちらに移行します。」
「はい、それで構いません。ですが……そちら側から何かあった場合、双方による国際法廷を開廷して頂けるのでしょうか?無論、こちらから手を出した場合でも。」
「国際法に則ることをお約束します。」
バルディーニはライルの交渉を見ていた。粗削りではあるが、問題はない。最低限の礼節はわきまえている。頼み方も比較的腰が低い。
しかし、『合同の国際法廷』と来たか。これで何かあれば、ブリタニアだけ有利な裁判は無理だ。しかし、逆に『黒の騎士団』による名誉ブリタニア人への一方的な弾劾裁判もできない。監視役の兵士が何かすれば、こちらが裁かざるを得ない。分かりやすいカードを見せて、動きを抑え込んだか。
皇神楽耶議長も相当だが、彼もまた。
そういえば、アンドラもまた彼にはやや好意的な意見があったな。
シュナイゼルは完璧な話術を得意とするなら、ライルは互いに有利なカードを提示して交渉をするタイプだろう。
仮にも皇族としてその手の指導を受けていた身、素人が多いこちらでは不利だな。まして、利権しか頭にない政治家共でも勝てないだろう。
若く、正論や善意が先走りがちだが良識と倫理さえまともに持っていない政治家よりはましだ。E.U.の奴らに彼の半分でも良識や倫理があれば、あそこまで酷いことにはならなかっただろうに。
神楽耶から蓬莱島に方針が通達された。また、外に出る場合は監視が付く事になった。無論、ライル軍側は丸腰だ。これは万が一に制圧しやすくするため、同時に『武器を持たない者に危害を加えない』という『黒の騎士団』の創設時の掟を遵守させる意味合いもあった。
だが、皮肉なことに『ロンスヴォー』の主立った士官とライル軍の中核は末端の構成員がそれを遵守する可能性が低いという可能性をそれぞれに考えていた。
根拠は、彼らが看板に酔いしれた素人集団に過ぎないという本職の軍人だからこその共通認識だ。『正義の味方』という誰の耳にも心地よい言葉に酔いしれ、『自分達のなすことが全て正義』だという暴論に走る可能性がある。
実際、ブリタニアへの憎悪を差し引いても『武器を持たない人間に危害を加えない』という最低限の掟を無視して、アッシュフォード学園の占拠という暴挙に走ったのはブリタニア及び諸外国にとっては記憶に新しい。
久保カイトがまた出てきましたが、有紗を助けるという点だけは動いてません。
でも、その有紗の意志はまるで聞こうとしていません。『洗脳皇子』に操られているの一点張りです。
対照的にラルフは扇達から全部聞きました。でも、懐いていたが故に失望も大きいという扇達がゼロと同じ状態………とは違いますね。
実際に、純血派のナンバー3と知り合いという点に誰も言及しないのがおかしいです。機情だからシュナイゼルとコーネリアも介入できないのがあったでしょうけど、『黒の騎士団』なら普通尋問の一つや二つあるし、殺すや追放はなくても二人を別々に監視するのが普通だと思います。
ゼロのギアスでそっちがお流れというか、お咎めなしというか………