ライルは蒼天と睨み合っていた。
「池田……日本独立を掲げていたが…今でもそれは変わらないのか?」
池田がその問いに答える。
〈ああ、それは譲れないな。ここでやめれば、死んでいった部下達になんて言い訳する?〉
ライルは少し羨ましかった。こんな状況でも初志を貫徹できる池田の生き方が。
「私は正直、もうどうでもいいんだよ。兄様でもルルーシュでも、結局ブリタニアの世界制覇は達成。人が人を支配するか、機械で人を支配するかの違いがあるだけ。私にはどちらも止めることができない。」
もはや二人はライルの力で止めることは出来ない。ルルーシュに限れば勝った後で後ろから刺すことを考えもしたが、そうなれば貴族達が復活の機会だと暴発する未来が見えた。万が一にでも失敗すれば、せっかく取り付けた祖父母と領民達、有紗達の安全保障も失われる。
「だから、私は身内の安全だけでも守ることを選んだ。そして……君と喧嘩が出来る最後の機会だと思って、今回の戦いを仕掛けた。只の我が儘などら息子だよ。」
〈私はいいと思うがな。〉
「え?」
思わぬ回答が返ってきて、ライルはきょとんとした。
〈自分の手に負えない事態なんて世の中探せばいくらでもある。お前の場合は、そのスケールが大きすぎただけであろう?負けたら、地獄でお前に負けた奴らに自慢するネタも増えるし、もしもお前を殺してもお前のお姫様達の安全はシュナイゼルに頼ってでも確保してやる。〉
「……兄様が首を縦に振るとは思えないがな。」
〈ぬか喜びさせるよりはいいだろう?〉
「それは言えている。では…そちらの言い方に則って…」
蒼天が刀と左腕を構え、ベディヴィエールがスピアモードのロンゴミアントとカルンウェナンを構える。
「いざ、尋常に勝負!」
池田についてきた西野と稲垣は暁直参仕様でこの戦闘に参加していた。しかし、既に二人は池田の戦いについて行けなくなっており、ほぼ足手まといになっていた。ベディヴィエールと蒼天のスピードが余りに速すぎて暁では追いつけない。
〈くそ!ここまで来て我らは足手まといか!〉
部下だった西野はパネルをたたき、稲垣は歯ぎしりしていた。
「おそらく、池田は死を覚悟している。ライルと戦っているときや、奴のことを話す池田は生き生きとしていた。」
おそらく、一介のパイロット…ひいては軍人としての好敵手と意識していたのだ。あの沢崎に呼応した戦いの時から既に。
おそらく、ライルもまた一介の軍人として池田を意識していたのだろう。それが、蓬莱島で初めて直接出会うことで決定的になったのだ。
今更ながら、自分は最低の上官だ。池田の才能は認めていた。藤堂にも匹敵する、もしくはそれを超える才能の持ち主だ。
なのに、彼がブリタニアそれも皇族との戦いに夢中になる様をよく思わなかった。それどころか、ライルが池田を唆したなどと……一方的に決めつけてライルの部下の名誉ブリタニア人達も地位や金が目当てですり寄っただけのクズだと決めつけた。
そんな自分が変わったとすれば、海棠と彼の部下や子供達との出会い、E.U.で革命政府の捨て石に準じてでも家族のために身を粉にする日本人や他に居場所がなかった外人部隊だろう。
相手が違うだけで、彼らも名誉ブリタニア人と同じようなことをしていた。自国のためだけにやればいい、国に忠実であるべきだ等と視野狭窄に陥った自分を恥じたものだ。
むしろ、日本人が打倒するべきはブリタニアよりも先に私のようなイデオロギーだけを要求する最低な軍人や政治家だったんだ。
「もう何も言わんぞ、池田。お前はお前のやりたいようにやっていい。」
〈……ああ、もう!ライル・フェ・ブリタニア…お前が池田少佐を殺すのはもう戦争だから当然だ!その代わり、負けるにしても無様に負けるな!〉
ここまで来たら、もう邪魔をしたら無粋だ。下手をしたら、池田自身に殺される。こうなったら、とことん見届けてやる。
ゲライントとシュテルンの戦いは決着が付いた。ゲライントは大型でパワーがあるが、その分攻撃が大ぶりになりがちであった。シュテルンがその僅かな間隙を突いて、懐に入り込んでゲライントのフロートを破壊、戦闘継続能力を奪った。
「図体のでかさが仇になったようね…」
〈訓練でも大型機の相手には慣れていたから。〉
シルヴィオとの訓練では通常サイズのディナダンとの訓練になれていた。だが、相手はそれ以上であった。特段抜きん出て強いわけではないが、無理のない戦い方が出来るタイプだ。
「ああ、生きて帰ったらシルに殴られるわね。」
海棠とエルシリアの戦いは決着がつこうとしていた。二機は互いに斬り結んで、距離を取ってはハーケンで撃ち合い、格闘戦ではパワーが拮抗していた。
モーナットの二刀流とベイリンの長剣が再び激突し、二機は押し合う。
「お前こそ惜しいな!日本軍の恭順派として孤児達の安全を保証して軍門に降っていれば、ライルは間違いなくお前を取り立てていたぞ!!」
それは惜しみのない賞賛、そして本心だった。資料だけ見ても、彼の能力はブリタニアの名将達に引けを取らず、日本人に風当たりが強いE.U.でも前線部隊から信頼を得ている。
〈悪いね!軍人としての本懐を果たす方法をそっちにしてしまって!〉
軍人の本懐…あくまで他国の侵略から民を守るというあり方を優先したか。或いは、譲歩でも引き出すためにそちらを選んだか。
「方法を間違えたとは思わないのか!?それこそ、孤児達を死なせずにすんだとは!」
〈後悔先に立たず、だよ!あの子らを止められなかった以上、そっちしかなかった!!〉
あの時、なんでもっと強く。殴るでも何でもしてあの子達を止めなかったのだろうか。
海棠の胸の内にあった楔だ。否、その答えはもう出ている。自分も多くの部下や同僚を殺された怒りがあの頃は渦巻いていた。政府の宣伝を真に受けた親達の煽りを受け、その親達を殺されて復讐に狂う子供達。
言葉だけでは足りないなら、それこそ頬を刀で傷つけるくらいはしてでもやめさせるべきだった。人を殺めるのがどういうことか。ブリタニアがナンバーズを家畜扱いするなら、自分達もブリタニア人を人間と見なさない。そんな理屈は限られた仲間内でしか通じない。全ての人間に通じるわけがないのだ。
そこを優先してしまった……結果、子供達は海棠を恩人として、もう一人の父として慕うがそのために大勢が死んだ。
「俺のような最低のクソ野郎のためにあの頃保護した子達の半分が死んだんだ!もう、引き返せないんだよ!!」
〈……そうか。なら、無理にでも歩みを止めるしかないんだな。〉
「止められるのかい?このみっともないろくでなしを。」
かなうことなら、本当に自分を……それ以上にあの子達を止めてほしかった。
二機が激突した。モーナットの二刀流がベイリンの一閃でたたき折られ、そのままハーケンで両腕を破壊、追撃で両足を切断した。
「さすが、若者には勝てないね…」
〈よく言う……折れた剣でこちらの左腕を潰しておいて。〉
あの一瞬、折れた剣で反撃してくるとは誰も思わないだろう。おかげで腕を一本やられた。
「さて、煮るも焼くも自由だ…」
〈そうか……なら、お前はライルに引き渡す。お前のようなタイプならライルは気に入るだろうし、私も興味があるのでね。〉
シルヴィオとゼラートの一騎打ちはまだ続いていた。パワーで勝るアルプトラウムと機動力で勝るディナダン……奇しくもランスロットとギャラハッドの二機と条件がほぼ並んでいた。決定的な違いはディナダンとアルプトラウムの総合性能に大きな差がないという点。そのため、アルビオンのような他の追随を許さない機動力を有していないディナダンはパワー負けしていた。
そして、ついにパワーで押し負けて剣をはじかれてしまった。すぐに背中の二刀流で対応しようとする反応はゼラートも流石だと賞賛する。それでも…
「今までパワーで勝る相手と戦ってこなかったのが仇になったな。」
ゼラートはグラスゴーでサザーランドやグロースターと戦い、グロースターではあのヴェルキンゲトリクスと戦った。それに対し、シルヴィオは格下の機体でも渡り合ってくる敵とは戦ってきた。同レベルの相手とも戦ってきただろう。だが、単純なパワーで勝る相手との戦い方にはなれていなかった。もう少し粘っていれば、慣れていただろうに。
アルプトラウムのパワーに任せた二刀流がディナダンの両腕を剣ごと破壊した。ここまで来れば、もはや勝負はあった。とどめないし捕らえようとしたところで部下達のKMFが撃ってきた。勝負がついた段階で介入を決めていた。
「勝負が決まったタイミングで救いに来る、か。良い部下達を持ったな。」
〈お前ほどの男にそう言ってもらえるなら、素直にうれしいよ…〉
こちらもエナジーが心許ない。ウェンディのシュテルンが援護に回り、暁部隊も着いてくる。
〈中佐、ご無事ですか?〉
「ああ、ただエナジーが心許ない。」
シルヴィオのディナダンは今のダメージでフロートも損傷し、飛ぶことすらままならなくなった。エリアのヴィンセントが支え、後退する。
「すまない、今のダメージで飛ぶこともままならない。」
〈ご無理をなさらず………どうしてもと言うなら、うちのちびっ子共に会うボーナス弾んでください。会ってみたいってうるさいから。〉
孤児院の子供達か……さては、私のことを話したな。
「ああ、なら早く頼む。」
しかし、ゼラートも部下達に慕われているようだ。エリア達が介入するのとほぼ同じタイミングでこちらの方にも。一対一にお互い拘ったが、これが部隊を指揮する戦闘であればどうなっていたか。
負けていたかもしれないな……そちらでも。
自分は正道より。だが、あちらは邪道。より正確には、そうしたものが役に立たないと考える手合いだ。
人種や家柄を度外視する意味では、ライルとも合いそうな気もするが。
そう考えながら、シルヴィオは部下達に運ばれていった。
ベディヴィエールの剣を蒼天の刀が受け止め、二機が押し合う。蒼天の左腕はこの隙を逃さないが、ベディヴィエールが足蹴りで左腕を弾き飛ばしてハドロン砲を撃つ。蒼天もすぐさま体勢を立て直して輻射波動砲で相殺した。
「お前こそ、どうして今の地位を脅かすような弟に付いているんだ!?」
確かに表面上のナンバーズの解放はしているが、やはりライルがこれまで行ってきたこととは違う。同じブリタニアの支配体制でも、ライルの方が時間はかかっても方向修正だって緩やかだ。
〈今君が言ったように、事態がもう私の容量を超えてしまった!〉
二機のハーケンがぶつかり合い、互いにはじかれる。
〈時間をかけるつもりが、過程を省略しすぎてこうなった!!〉
なるほど、大体分かった。今ここでルルーシュを殺して、ライルが即位しても結局エリア制度の撤廃それ自体を受け入れる者などいない。貴族ならばなおのことだ。
ライルにすり寄ってエリア制度を復活させようとしても、ライルの方針とエリア制度の甘い汁を吸う貴族の考えは水と油。すぐに殺されるのが池田も想像できる。そうなれば、結局シュナイゼルが漁夫の利を得るも同然だ。
〈時間をかけ、方針転換の警鐘をならすつもりだったがもう警鐘をならしても意味がない!!〉
しかも、ライルは既に先帝弑逆未遂の容疑がかかっている。ルルーシュが殺したと公言している以上、そちらはほぼ無意味だろうがルルーシュを殺したところで支持する者はいないだろう。
「だから、せめて身内だけでも護ろうと!?」
〈そうだ!もう、他に取れる道がないんだ!!〉
『セント・ガーデンズ』に陥れられ、ライルのとれる選択肢はもはや限られている。蓬莱島もあの連中が余計なことをしなければ、少なくともライル個人への印象は変えられた。だが、結局ライルは洗脳した部下を手元に置くことに固執したなどという偏った見方だけが残った。国際的に非があるのは『黒の騎士団』であることなど、綺麗に忘れている。
池田も感じ取っている。日本人のみならず、ナンバーズ系全ての腐敗だ。『ブリタニアの皇子だから、洗脳に決まっている。』
自分達が正義だから、等という理由でだ。只の傲慢なこじつけでしかない。だから、負けるのだ。目の前にいるこの男に、そんな連中が勝てるわけがない。
「お前の道をどうこう言うつもりはないよ!限られた選択肢の中で取りたい物を取るのも一つの道だ!」
二刀流の一本を刀で弾き飛ばし、更にもう一本を輻射波動で膨張させて破壊した。そのままベディヴィエールは距離を取って槍を連結させる。
「ようやく本領か…!」
こんな時だというのに、池田は高揚した。あのホッカイドウで燻っていた頃からの乾きが潤うかのようだ。
もしかしたら、自分も日本独立は既に頭からなくなっているのかもしれない。今あるのは、この男と思い切り戦いたい。それだけなのだろう。
みんなやり合って、決着はまちまちです。
ライルはもう、自分の目指した改革や方向転換が出来なくなり、身内だけでも守るになりました。