ありふれない本当の勇者は世界最強   作:マサヒロ (旧名デイブレイク)

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pixivに投稿したんでこっちも


十一話 再会、戦友(とも)

 

 

 

 

 

ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ

 

スマホが着信を告げる。

寝ぼけ眼で画面を確認すると、表示された名前は『菊岡誠二郎』。

窓の外にはかすかに暖色の光が差し込み始めていたが、まだ夜の名残が濃い。

早朝に無理やり起こされた嫌味でも言ってやろうと、俺は電話に出た。

 

「……菊岡さん、今何時だと思ってるんですか」

 

「それについてはすまないキリト君。だが、これは僕も今知ったばかりだし、君も知っておいた方がいいと思ったんだ」

 

菊岡にしては珍しく、早口で捲し立てるように話す。

 

「だったら、早く教えてくれ。まだ眠いんだ」

 

「ああ、そうだね。……君の友人で約7か月前に失踪したハジメ君が今、東京の病院に入院している」

 

それを聞いた瞬間、眠気が吹き飛んだ。

勢いよくベッドから飛び起き、足音も気にせず勢いよくクローゼットに駆け寄って服を引きずり出す。

 

「ハジメは何処に入院してるんだ!!!」

 

両親やスグが起きるかもしれないと思ったが、そんなことは今の俺に考えられる余裕はなかった。

 

「落ち着けキリト君!!それに今行った所で面会はできない!!それに……」

 

続く菊岡の言葉に、俺は血の気が引くのを感じる。

手から黒色のジーンズが滑り落ち、スマホを握りしめたまま俺は言葉を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球。

SAO事件の解決から2年。

新たなる人類とも称される真性人工知能の発表から、すでに約4カ月が過ぎていた。

一時はSAO事件に匹敵するほどの熱狂を呼んだ白昼の集団失踪事件も、今ではすっかり世間の関心から遠ざかっていて、世間の話題の中心は、ユージオやアリスといった真性人工知能達へと移り変わっていた。

今となっては短い時間で事件の進捗のなさを報道したり、賢しらなコメンテーターや、下心を抱えた自称オカルト研究者などが様々な見解で話題を引き延ばそうとするだけだった。

そんな状況でも今もなお消えた学生達の家族や、友人達は必死に探していた。

しかし、手掛かり一つ得られぬまま誰もが心身の疲労と諦念に侵され始めていた。

そんな中、突如として希望が文字通り舞い降りてきた。

失踪した生徒――南雲ハジメの帰還である。

自宅のカーポートを突き破り、自家用車を廃車にしたというオマケ付きで。

ハジメの帰還はすぐさまニュースで報じられ、生徒達の家族は新たな希望を胸に我が子の行方を追い始めた。

警察関係者や特ダネを狙う報道陣も動き出し、ハジメの病室に殺到しては真相を聞き出そうと躍起になった。

だが、それは叶わなかった。

ハジメは――昏睡状態。

会話をすることは不可能なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地平近くにあった太陽は、すでに高く昇り世界を明るく照らす。

だが、その穏やかな光は二人の足取りを軽くすることはなかった。

キリト――桐ヶ谷和人は、結城明日奈――アスナと並んで病院の自動ドアをくぐる。

キリトがかつて入院していた病院に来た目的は一つ。

ハジメに会うため。

 

「キリト君、顔色悪いよ……」

 

アスナがそっとキリトの横顔を覗き込む。

ただ、その声も心配と自分自身への言い聞かせのような響きが滲んでいた。

 

「……アスナこそ、無理してないか?」

 

「ううん、大丈夫……でも、やっぱり、怖いよね」

 

二人の間に、沈黙が落ちる。

その時だった。

病院の自動ドアが開き、勢いよく声が飛び込んできた。

 

「キリト!! アスナ!!」

 

二人が振り返ると、肩で息をしながら駆け込んできた少女が居た。

早見幸。

かつて攻略組ギルド《月夜の黒猫団》に所属していた、サチだった。

サチの顔にはキリト達と同じような、喜びと悲しみ、困惑、恐怖の表情が入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。

本来はサチ以外にも、ハジメとのかかわりがあるSAOサバイバー達が何十人も見舞いに来るはずだった。

だが、それぞれの都合が重なり、今日この場に集まったのはこの三人だけとなった。

 

「……行こうか」

 

キリトのその言葉に、アスナとサチも静かに頷き、三人は並んで歩き出した。

受付でキリトが菊岡の名前を出すと、対応していた看護師が慌ただしくカウンターの横を抜けて走っていく。

その間にも、サチの肩はわずかに震えていた。

アスナはそっとその手を取り、優しく包み込む。

 

「大丈夫よ、サチさん。ハジメのことだから……なんだかんだで困った笑みでも浮かべながら起きてるわよ」

 

励ますように微笑むアスナ。

だが、その手もまた、かすかに震えていた。

その時、駆け出して行った看護師がスーツ姿の男を伴って戻ってきた。

 

「やあ、こんにちはキリト君にアスナ君。サチ君とは久しぶりかな?」

 

フレームレスの眼鏡に高級そうなスーツ。

元総務省仮想課職員にして元二等陸佐、ユージオやアリスを生み出したラースの元司令官。

そして現在はAIの人権獲得に精力的に取り組む男、菊岡誠二郎がそこにいた。

 

「菊岡さん、さっそくで悪いがハジメの病室への案内をお願いできるか?」

 

「もちろん。キミ達はそのために来たんだろう。……ついてきてくれ」

 

その言葉と共に菊岡は歩き出し、三人はそれに続いて病院の廊下を進んでいった。

白い床に靴音が淡く響き、どこか冷たい空気が肌にまとわりつく。

そしてタイミングよくやってきたエレベーターに乗り込んで、僅かな浮遊感が体を包む。

 

「あの……ハジメの容態って、どうなんですか」

 

オドオドとした様子で菊岡に質問するサチ。

菊岡は振り返ることなく静かに答えた。

 

「……ハジメ君の容態は、ニュースで報道された通りだよ。突然自宅のカーポートと車を潰した状態で発見されて、“何故か”軽い打撲で済んでいる。だが、廃人状態で会話できる状態ではないよ」

 

その言葉にサチの顔は青くなり、キリト達の顔も歪んでいく。

浮遊感が消え、チャイムが鳴る。

エレベーターの扉が開き、菊岡が先導して廊下を進む。

三人は無言のまま、その背中を追った。

 

「ここだよ」

 

菊岡が扉の前で振り返った。

病室のネームプレートには『南雲』の文字。

そして、菊岡は静かに引き戸を開けた。

カーテンに遮られ、ハジメの姿はまだ見えない。

三人は、意を決してカーテンの向こう側へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

三人は、カーテンの向こう側で息をのんだ。

ハジメはそこにいた。

しかし、三人が望んだ姿ではなかった。

ハジメの胸からはケーブルが伸び、繋がれた心電図が規則正しい波形を刻み、波形と共に鳴る電子音が病室に響く。

口には管が差し込まれ、コシューという音を立てて機械がハジメの肺に空気を送り込むたび胸が僅かに上下した。

それらが、今ハジメの肉体が生きている証だった。

機械に生かされているハジメの手を、ハジメの両親――愁と菫が握っている。

もう二度と離さない、その強い意志がその手に込められていた。

ハジメの頭にはヘッドギアがつけられ、その顔を見ることはできない。

ヘッドギアからつながるケーブルはノートPCと接続され、そのノートPCを眼鏡姿の男――ラースの技術者、比嘉タケルが操作していた。

タケルがノートPCから顔を上げると、三人の視線が一斉に集中する。

まるで、そこに何かを求めるように。

タケルはその視線に困ったようにこめかみをかきながら、ぎこちなく笑った。

 

「えっと……久しぶりッスね。キリト君にアスナ君。サチ君とは初めましてかな……」

 

そう言って立ち上がると、タケルはサチに手を差し出した。

サチはおずおずとした様子で、その手を握り返した。

どちらからともなく手を離すと、三人は愁と菫に深く頭を下げた。

愁と菫も立ち上がり、三人に向かって静かに頭を下げ返した。

 

「ありがとう。ハジメの為に見舞いに来てくれて……」

 

「いえ……本当はもっと大人数で来る予定だったんですけどね……」

 

愁の言葉にキリトが静かに答える。

その声には、悔しさと申し訳なさが滲んでいた。

 

「それでも……来てくれただけで十分よ」

 

菫がそう言いながら、ハジメの手を包む指先に力を込める。

涙をこらえているのが、三人にもはっきりと分かった。

 

「あの……時間が無いので説明させてもらっていいッスか?」

 

タケルのその言葉に、五人の視線がタケルへと向いた。

タケルはヘッドギアと繋がるケーブルを軽く持ち上げ、ノートPCのディスプレイを三人に見せた。

ノートPCのディスプレイには不規則に揺らめく虹色の雲のようなモノが映し出されていた。

その中心にぽっかりと穴が開いているかのように暗い闇がある。

 

「これがハジメ君の魂――僕らはフラクトライトと呼称しているけど、そのリアルタイム活動を視覚的に表したものッス」

 

そして、タケルがディスプレイに映るフラクトライトの中心部、闇の部分に指を置いた。

 

「本来ここにあるべきはずのものがあるんです。主体――セルフ・イメージがきれいさっぱり消えている。それが今のハジメ君の現状です……」

 

「セルフ・イメージ……?それが無いとどうしてこうなるんですか?」

 

菫が声を震わせながら、タケルに問いかける。

 

「セルフ・イメージはフラクトライトの核と言えるモノなんです。これが機能していないと外部からの情報も入力されず、外部に行動を出力できない……今のハジメ君は、自分が何者なのか、何をするべきなのかが解らず、食べることや眠ることといった染みついたアクションしか取ることが無い……そんな状況です……」

 

心電図が鳴らす電子音だけが病室に音を響かせた。

 

「じゃあ……どうしてハジメはそんなことになったんだ」

 

沈黙に耐えきれず、キリトが問いかけた。

握りしめた拳は、音が聞こえそうなほど強く力が入っている。

 

「……それが、わからないんッス。多分、失踪していた7か月が関係しているんでしょうが……それらを知る手段は僕らには無いので……」

 

再び、電子音以外の音が消える。

 

「でも、まだ希望はあるッス」

 

先ほど絶望を伝えた張本人でもあるタケルが静寂を切り裂く。

だが、5人はその言葉に飛びつくしかなかった。

その時、閉められていた扉が音を立てて開けられる。

 

「比嘉君……少し、人使いが荒くないかい……?」

 

そこには、巨大な袋を三つも抱えた菊岡が立っていた。

走ってきたのか、その額には汗が浮かんでいる。

肩を上下させながらも、しっかりとした足取りで歩き、三つの袋を丁寧に比嘉の傍に降ろす。

 

「菊さんナイスタイミングッス。ハジメ君を回復させるために用意したのがこの――『ナーヴギア改』ですね」

 

ハジメは……

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