“私”は演劇部に属する高校生。先輩に対して思うことがあります。
『監督:脚本:演出:主演:東条琥珀』
登場人物
東条 琥珀(とうじょう こはく)…演劇部の2年生。今大会の脚本を書く。
鷹野(たかの)…演劇部1年。
清水(しみず、しーちゃん)…演劇部2年。琥珀と仲が良い。
A先輩(実質声のみ)…琥珀の先輩。現在は3年生。
以上4人。清水とA先輩は同一人物が演じることも可能
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それだけ書いて、私は手を止めた。頭の中に大まかな構成は完成しているが、これを書いてしまえば、絶対後悔する。
この話は先輩、演劇部への不満を『一年生への宿題:1ヶ月の間に脚本を4000文字以上書いてくる』という先輩からの課題で、丸めてぶつけてやろうというものだ。
名前が先輩風すぎる。先輩はきっと気づく。でも私は怒りが抑えられなかった。それをぶつけて書いたものだ。
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シーン1
(雑踏音と、A先輩が周りを歩き回る足音がするが、舞台全体が暗くて見えない。舞台中心の琥珀にのみ小さくスポットライトが当たっている)
(琥珀は椅子に座ってよれよれの台本を持ち、ペンを持ってぶつぶつと暗記している)
(点線部分はA先輩と琥珀が何かを話しているが、口だけが動いていて何を言っているかわからない。A先輩の手などがスポットライト内に入り見えることはあるが、顔は見えない)
A先輩 ………
琥珀 ………
A先輩 ………
琥珀 ………
A先輩 ねえ来年さ、琥珀ちゃんが脚本書いてくれる?
(スポットライトフェードアウト)
(明転、暗め)
(A先輩の姿はない。いつのまにかいる清水が琥珀の背後にそろそろと近づく)
琥珀 いや、「脚本書くの?」だっけ。「誰が書くの?」だったか…?
清水 ワッ!
(地明かり、前明かりカットイン)
琥珀 うわっっびっくりしたぁー!
清水 何してたのー?
琥珀 え、ああ脚本のこと考えてたの。
(下手から鷹野が入ってくる)
鷹野 お疲れ様です
琥珀 あ、おつかれさまでーす
清水 で、脚本どうなの?
鷹野 あえ、今度の大会、琥珀先輩が書くんですか!?
琥珀 いやぁ…まだ考え中なんだ。なにせ初めて書くわけだし。
清水 まあなんかあれば手伝うよ!そういえば琥珀!あ、鷹野君も!
鷹野 なんですか?
清水 前すごい早口言葉見つけたんだー。えーっとね、
(清水、スマホを取り出して、そのページを探す)
清水 ああこれこれ「きげき きききりん きつつき ききん きき ききつけ きき ききょう ききゅう きゅうきゅう きき きく きき ききめ(喜劇 樹木希林 キツツキ 飢饉 危機 聞きつけ 嬉々 桔梗 気球 救急 危機 菊 機器 効き目)」……ってやつ。めっちゃむずいよ。
琥珀 えっと、「きげききききりんきつつききちん」……確かに難しい
鷹野 「きげききききりんきつつきききんききききつけききききょうききゅうきゅうきゅうきききくききききめ」
清水 え、言えんの!?
琥珀 すごいね!
鷹野 休みの日も外郎売り読んでたからかなー
(鷹野のセリフ中「読んでた」のあたりで暗転)
シーン2
(明転)
(2人の声だけ聞こえる)
鷹野 脚本、どんな感じですか?
琥珀 前文芸部で書いたやつを使おうと思ったんだけど、登場人物が1人しかいないんだ
鷹野 じゃあ新しく書くんですか?
琥珀 そうなんだよね、でも今まで2人以上が登場する話自体書いたことがないんだ
鷹野 何か…手伝えることはありますか?
琥珀 手伝う…ああ……
鷹野 っていうか、清水先輩に脚本頼めばよかったんじゃないですか?
(琥珀、話しながら下手から登場。後から鷹野も話しながら続く)
琥珀 確かにしーちゃんの方が才能あるよ。でもあの子塾あるから。
鷹野 ちょいちょいありそうな嘘を言ってきますからね。でも琥珀先輩だって前塾あるって言ってたじゃないですか。予定とか外部の先生との連絡も全部やってますよね。…睡眠時間大丈夫ですか?
琥珀 最近は5時間寝れてないね
鷹野 大丈夫じゃないですね。それこそやっぱり清水先輩に頼んだ方が…
琥珀 うーん…頼んでもやってくれないんだよ
鷹野 もうやってるかもしれないですけど、やんわりじゃなくてはっきりいうとか
琥珀 あっちもやるって言ったよ。でもいつのまにかなかったことになってる。
鷹野 期限とかを決めたら?
琥珀 それでも忘れてきて、結局自分がやることになる
鷹野 じゃあ一回ちゃんと話し合ったら…?
琥珀 まず集まってくれないんだ。
鷹野 …そうなんですか
琥珀 そうだよ。そうだ、だから脚本も私がやることになったんだよ。去年も誰も何もやろうとしなくて。
鷹野 そう..なんですか
琥珀 来年は、ちゃんと仕事は分担するんだよ
(話し終わる少し前くらいに上手へ消える)
シーン3
(清水と鷹野が下手側に並んで座って話している)
清水 ジュリアーノ・ビシンブルトの「役者は愚かでなくてはならない。利口な役者は役に立たない」という言葉知ってる?
鷹野 何ですかそれ、っていうか名言なんて何もわかんないです。
(琥珀上手から登場。手には数部の台本を持っている)
琥珀 また嘘吹き込んでるのしーちゃん?
鷹野 あっ琥珀先輩!それ脚本ですか?
琥珀 そうだよ!ここに置いとくから持ってってねー
(鷹野、清水は各々台本を手に取ってパラパラと見る)
鷹野 ありがとうございます。あと、嘘ですかあれ!?
清水 そうだよー今考えた。
鷹野 …おお、なんかプロっぽくてかっこいいですねこう本の形になると。……ドキュメントの脚本ももう読みましたけど、結局1人芝居にしたんですね。誰がやるんですか?
琥珀 私
鷹野 …自分も出たかったです
琥珀 ごめん、今回は裏方やってくれない?
鷹野 …はい!がんばります!
清水 ごめん今日早くから塾だから帰るね!
琥珀 はーいおつかれさまー
鷹野 お疲れ様でーす!
(清水、下手から捌ける)
鷹野 先輩、この道化師、哀しみを纏っている雰囲気を出すとかって書いてありますけど、ありきたりすぎません?哀しくおどけているっていうイメージありますけど本来の道化師ってこう、仕事としてのものだったんだから別に悲しみなんてなかったし普通に楽しんでいたんだと思うんですけど、いやもちろんめんどくさいとか思う人もいたと思います、でもこの道化師には純粋な楽しさの方が合うと思うんです。
琥珀 うーん、そうかもしれないけど私はこの道化師がただ楽しんでるとは思わないんだよね。解釈不一致だねぇ
鷹野 いや、それはそうですけどなんていうか…
琥珀 まあ一つの意見として考えとくよ。
(琥珀だけ上手へ捌ける。鷹野は舞台に取り残される)
(暗転)
シーン4
(明転。暗め)
(2人の声は下手の方から聞こえる)
鷹野 結局シーン4のセリフ、このままなんですね。あと先輩気づいたんですけど…
琥珀 はいはい。でも言っとくけど私はあなたとは解釈が違うからさー。で、どこ?
(照明暗くなる。2人の声は中央辺りから聞こえる)
鷹野 音響なんですけど、太鼓の音より賑やかな雑踏?の方がわかりやすいと思うんです。あと、雑踏に銃声を混ぜるとか。
琥珀 あんまり直接的な表現は使いたくないんだよね
鷹野 あと全体通してなんですけど、照明がついたり消えたり単調すぎると思うんです。特にここなんか、暗転するよりもホリゾントの方が…
琥珀 それは顧問にも言われたねー。でも私は暗転にしたいんだよ。
鷹野 そうですか。最終的な判断は脚本家の権限ですからね、
(照明さらに暗くなる。鷹野立ち止まる)
鷹野 発声やらないんですか?
琥珀 今日は3年生が模試やってるからできないんだ
(琥珀だけ話しながら上手へ)
シーン5
(上手側に琥珀、下手側に鷹野がいる。極端に離れていていて、2人の間には不自然な空間がある)
(琥珀はスマホを触り、鷹野は台本を読んでいる)
琥珀 最近清水ちゃん来なくなったんだよ。音響も大会の日に用事があるからって今回は無理だって。残念だなー
鷹野 じゃあ音響は誰がやるんですか
琥珀 顧問の先生に頼むしかないよね。他の部員も全員幽霊になってるし
鷹野 幽霊部員…?
琥珀 そうそう
(数秒の間)
鷹野 ……練習、しないんですか
琥珀 するよ?でも1人じゃ気が乗らなくて
鷹野 発声もしてないですよね
琥珀 大会2週間前からでも結構出るようになるよ
鷹野 一昨日が大会2週間前でした
琥珀 毎日本気でやれば出るようになるから!
鷹野 …琥珀先輩
琥珀 ……ん?
鷹野 帰りますね
琥珀 え、なんで?
鷹野 もう6時ですから。それに練習しないんじゃいる意味ないです。課題もできないし、いたところで先輩の1人芝居にいちゃもんつけるだけじゃないですか
琥珀 そのいちゃもんも大事だよ。でないと…ほら..
鷹野 ずっとぐだぐだ雑談ばかりして練習しないじゃないですか。意味ないです。2週間前にして立ち稽古してないってなんなんですか
琥珀 じゃあ今からやるか
鷹野 だからもう6時です。帰る時間ですよ。あと、大会の裏方、辞退させてください。自分もその日用事があるんです。
琥珀 え、いや…今?それじゃあ照明は誰が
鷹野 顧問の先生にでも頼んでください
琥珀 いやいや、無責任だよ
鷹野 無責任はどっちですか。もう先輩の愚痴には付き合ってられないです。
(鷹野、下手に捌ける)
(綺麗なままの台本を開いて見つめ、少しして嫌な顔で下手側に投げ飛ばす)
(台本が落ちる前に暗転)
シーン6
(1ベルの音と共に明転)
(舞台上には琥珀がスマホを持って立っている)
琥珀 うん。自分のせいだよな。
(電話の呼び出し音)
(下手からスマホを持った鷹野が入ってくる)
(以後、電話をしながら会話に合わせてまるでそこで話しているかのように、近づいて目を合わせて会話をすること。しかしスマホは耳に当てたまま、実際は離れた別のところにいる)
琥珀 久しぶり鷹野君。
鷹野 おつかれさまです先輩。今の時間、もう出番ですよね。電話してる場合じゃないんじゃないですか。
琥珀 わかってるよ。
鷹野 じゃあ…もう切って、集中してください。怒られますよ。
琥珀 わかってるよ。
鷹野 すいません。…あの、そういえば、照明と音響は結局誰がやるんですか?
琥珀 顧問ともう1人の先生が、片方ずつ。
鷹野 そうですか。……がんばって、くださいね。
琥珀 ねえ
鷹野 はい
琥珀 あのさ、なんで助けてくれなかったの。
鷹野 すいません。
琥珀 何もしてくれなかったの、なんで。一番見てたでしょ、ずっと私が苦しんでたの、知ってたでしょ!最後まで、いたから。
鷹野 …琥珀先輩だって、何もしなかったじゃないですか。
琥珀 …は?
鷹野 助けを求めなかったじゃないですか。
琥珀 でも
鷹野 やってくれないやってくれないって言って!それでもずっと抱え込んで!独裁してたのは、先輩でしょう!だから、みんな、他の先輩方もいなくなったんです
琥珀 何回も言ったじゃん!……頼んだよ。受けてくれた人もいたよ?でも結局誰もやってこなくて、私がやったんだよ。
鷹野 だからっ、もっと、____すれば…!
琥珀 それができたら苦労しなかった。
鷹野 ですよね。すいません。
琥珀 ……切るね
鷹野 すいません。本当にすいません……先輩。
(電話が切れる。琥珀は無言でスマホの画面を見つめる)
(数秒後、2ベルがなる)
(琥珀はスマホを舞台に置いたまま上手に数歩歩き、走る)
(その途中で暗転)
***
滅茶苦茶だ。すみません先輩。今なら先輩のことも前よりはわかったと思っています。でも先輩にも何かあったのではないでしょうか。
私はドキュメントのタイトルに『試作脚本「監督:脚本:演出:主演:東条琥珀」』と入力し、先輩に送信した。
来年、脚本を書く担当になりたいと密かに思っている私は、先輩の背中を追いたい。先輩は天才だ。追いつけない。
私は、大きなため息をついた。琥珀は先輩のようであり、将来の私を書いたもののようにも思えたからだ。
物語は本番直前の琥珀の回想として展開する。
東条という苗字は日本の独裁者と言われた東條英機から。仕方のない独裁みたいな視点が似てるかなと。
上手が琥珀(独裁派)がはけたり入ったりする。下手が鷹野達(反対派)が主にはけたり入ったりする。捌ける側で心情の変化を表す。だから琥珀は初めは下手に捌ける。
「役者は愚かでなくてはならない。利口な役者は役に立たない」という言葉。役に立たない、が一般的な役に立たないのと、演じる「役」が立たないの2つの意味を持っている。
シーン6で鷹野が公演の始まる時間を覚えていたのは、琥珀のことを罪悪感から気にかけていたから。
琥珀が書いた脚本の照明と音響は簡単なもののままなので先生2人で回せるはず。