惑星クウラNo.2……夜。
この星には地球の月に該当する衛星が二つ存在する。
恒星から放たれた光を反射し、輝く二つの星……それらが見下ろす中、私は夜空でブロリーと向き合っていた。
「はッ!」
エネルギーを解き放つ。
ブロリー相手に生半可な攻撃をすれば、寧ろ隙になる。
殺す気……と言わずとも、死ぬ可能性がある程度の攻撃をしなければならない。
「だああっ!」
それはブロリーから私に対しても同様だ。
私が紫色のエネルギーを放つ対面で、ブロリーが緑色のエネルギーを放つ。
飽和したエネルギーは大気を破裂させ、スパーク音を響かせている。
その余波で、地上が僅かに揺れ続けているのが上空からも分かる。
「もう一度言ってやろう、ブロリー。そこを退け」
「退かない……!」
ブロリーは優しい子だ。
かつて敵であった獣であるバアを友と呼び、仲違いをした今でも大切に想っている。
虐待紛いの育児をしていたパラガスを父と慕っている。
情が深い、優しい子だ。
だからこそ、そんなブロリーだからこそ、ビッグゲテスターに騙される。
人の意見を聞かない、勝手に物事を考える。
奴は危険だ。
破壊すべきなのだ。
だからこそ、私が──
「そうか……ならば躾をしてやる!」
エネルギーを放出させ、ブロリーに肉薄した。
第五形態の私は、大柄なブロリーと同程度の体型となっている。
手足のリーチは殆ど等しい。
であれば、速度こそが近接戦の強さとなる。
「くっ!?」
ブロリーが拳による殴打を警戒し、守りを固めた。
「甘いッ!」
私は膝を、ブロリーの鳩尾へと突き立てた。
「かは……っ!?」
「逃さん!」
両手を組み合わせ、頭上からハンマーのように叩きつける。
鳩尾を蹴られて力が入らなかったのだろう、ブロリーは空中を錐揉みながら落下して──
「くぅっ!」
エネルギーを放出して、急停止した。
空中で受け身を取るように、体勢を整えて……私へ目を向けている。
「はぁ……はぁ……っ!」
息を整えようとしているブロリーを、私は見下ろしていた。
「ブロリー、お前は甘い。何故あんなものを庇う?奴はただの機械人形だぞ」
「オレ、難しい事分からない、けど……相手に何も言わせず、殺す事は、悪い事だって分かる……!」
「それが甘いと言っているんだ!」
私は手からエネルギー弾を放った。
圧縮されたエネルギーは、ミサイル弾よりも強力だ。
直撃すればダメージも入る。
「っ、お゛ぉっ!」
ブロリーは全身からエネルギーを放出し、バリアを展開した。
「少しはやる!だが──
バリアを展開した状態のブロリーに、私は接近した。
そして拳にエネルギーを纏いつつ、振り上げて──
「こいつは、どうだッ!!」
「っ!?」
エネルギーのバリアと、私の拳が纏うエネルギーが衝突する。
互いに削り合い、中和するかのようにエネルギーの力場が失われ……私の拳がブロリーの腹部に命中した。
「ぐ、お……っ!?」
身体をくの字に曲げて衝撃を逃そうとしたようだが、既に手遅れだ。
拳は腹部を……正確に内臓を捉え、衝撃を与えている。
強烈な衝撃にエネルギーが霧散する。
当然だ。
並の相手ならば腹部ごと貫くような一撃だ。
ブロリーとはいえ、耐え難い筈だ。
無防備に、衝撃で僅かに浮き上がったブロリーを、私は尻尾で弾き飛ばした。
「ぐっ!?」
空中で錐揉みしながら吹き飛ぶブロリーに対して、私は追撃をすべく接近する。
「っ!」
瞬間、吹き飛びながらもブロリーは私を睨み、手からエネルギー弾を発射した。
咄嗟の一撃にしてはエネルギーが練られており、威力も、精度も悪くはない。
恐らく、私に殴られた直後からエネルギー弾による反撃を狙っていたのだろう。
だが──
「まだ甘いッ!」
私はエネルギー弾を蹴り飛ばした。
軌道を変えて、頭上へと打ち上がったエネルギー弾が花火のように爆散した。
だが、その隙をブロリーは見逃してはいなかった。
「がああああ!!!」
一気に体勢を立て直し、私へと組み掛かってきた。
捩じ伏せようとする両手に合わせて、私も両手で組み返す。
「ふん、力比べか……面白い」
そうすれば、手押し相撲のように手を組み合う。
「ぐぅっ!?」
「ふん……どうした?この程度か?」
「くっ、う、うおおおおお!!!」
ブロリーが力を込めれば、爆発的なエネルギーの嵐が発生した。
込めた力がエネルギーとして発現し、大気を震わせる。
「自分の有利な力比べに持ち込めたんだ……少しは喜んだらどうだ?」
私も力を込めて、押し返す。
私とブロリーから漏れ出たエネルギーが衝突し、衝撃波が発生する。
「お、おおおおっ!!」
ブロリーの身体、その筋肉の血管が浮き出ている。
汗をかきながら、息も荒くなっている。
だが、それだけだ。
私を一歩も下がらせる事は出来ない。
「ふんッ!」
私は一粒の汗もかかず、ブロリーの両腕を捻り上げた。
骨の軋む音が耳に響く。
「がぁっ!?」
既に“押し合い”でも“力比べ”でもなくなっていた。
だが、ブロリーは気丈にも体勢を立て直し私を睨んだ。
そして、ブロリーは口を開け──
「かぁっ!!!」
至近距離で、口からエネルギー砲を放って来た。
何とも野蛮だが、奇襲性のある有効な攻撃だ。
「こんなもの!」
咄嗟に私は腕を離して、そのエネルギー砲を避けつつ……空中で回転し、尻尾でブロリーを殴り飛ばした。
「ぐっ……!?」
回避しつつの攻撃。
ダメージは浅かったようで、ブロリーは何とか空中で耐えていた。
それでも、口元が切れたのか血を拭っていた。
「ふん……そろそろ、諦めるといい。なに、悪いようにはしない」
ブロリーでは私の第五形態を上回る事ができない。
大猿の力を取り込んだ暴走状態ですら、この姿を上回る事が出来ないのだ。
理性を保ったままの、今の状態でどうこうできる相手ではない、という事だ。
そして、その力の差はダメージとして蓄積されている。
衝突する度にブロリーの体力とエネルギーは目に見えて消耗している。
あと数度。
そう、あと数度、打ち合えばブロリーの意識を奪う事が出来る。
そう私は予感している。
「いやだ……っ!」
「何をそんなに意固地になっている?碌に会話した事のない、機械人形に同情する意味があるのか?」
「……オレは、姉さんにそんなこと、して欲しくない」
「勘違いしているぞ、ブロリー。私は別に善人でも、お人好しでもない」
私は宇宙の女帝、クウラだ。
クウラ軍の王であり、軍を守る義務がある。
己の、部下の安全を脅かす可能性は排除する。
そこに情など、存在する筈がない。
「……それ、でも」
エネルギーの消耗は、私の想像以上に深刻だった。
ただ飛行を維持するだけで、精一杯なようだ。
次で、終わりか。
私はそう確信して、エネルギーを身体に纏い──
「クウラ様!」
名前を呼ぶ声に、そのエネルギーを霧散させた。
そして、視線をそちらに向けた。
「……サウザーか」
私は部下の存在に気付き、そして、サウザーがメタルクウラを脇に抱えている事に気付いた。
少し、ぐったりとしているように見える。
「お探しの相手は、ここに」
そして、そんなメタルクウラを私の前に抱えて来たということは、サウザーは私の判断に肯定的だという事なのだろう。
「でかしたぞ、サウザー。さあ、その機械人形を私に渡せ」
「はっ!それは構わないのですが……少し、お話をしたく」
「話だと?後にしろ。今はそのガラクタを破壊する事が先決だ」
私の言葉に、サウザーが抱えているメタルクウラがビクッと震えた。
怯えてるのか、機械風情が。
「いえ、先に話をさせて頂きたい」
「……何だと?サウザー、お前もブロリーと同様に、私に慈悲を求めるのか?」
少し、失望する。
どいつもこいつも、私をなんだと思っているんだ。
私は私だ。
慈悲深い上司などではなく、暴力的で自己満足的な一人の宇宙人でしかない。
そんな私に、くだらない偶像を押し付けようなどと──
「いいえ、違います」
「……なに?」
私の言葉に、サウザーは毅然とした態度で首を振った。
「私からすれば、クウラ様がこの娘を危険視するのであれば、破壊すべきだと同意致します。クウラ様の決めた事であれば、忠実に従うのが臣下としての役目ですから」
「であれば、何故、今すぐにそいつを私に預けない」
「判断が些か、尚早かと。破壊するにも話を聞いてからで構わないと、具申させて頂きたく」
「……私に意見するのか?」
「意見ではなく、提案でございます」
どちらにせよ、意味は同じだろう。
顔を覆うプロテクターの下で、私は口元を歪めた。
「退け、サウザー。今すぐ、そいつを置いて、ここから去れ」
「であれば、先に言葉を交わす約束をして頂きたい」
「……チッ」
面倒だ。
ブロリーであれば、多少乱暴に扱っても死にはしない。
だが、サウザーなら……殺すつもりがなくても、致命傷になり得る。
脇に抱えたメタルクウラを無理矢理奪う事は、難しい。
「クウラ様、一度だけお話を聞いても良いではないですか。それでブロリーも納得致します」
「フン、話を聞いた所で、結末は変わりはしない」
「それで構いません。全てを聞いた上で殺したければ、殺しても構いません。それはこの娘も納得していますから」
「……何だと?そいつが?」
私は腕を組みながら、メタルクウラを見た。
こくこくと何度も頷いている姿を見て、片眉を上げる。
「はい。既に戦闘能力も失っている様子。煮るなり焼くなり、好きにできます。であれば、経緯ぐらい知っていても損は無いでしょう。再発防止にもなりますし……このままでは遺恨も残ります」
「……それは一理あるな」
サウザーの言葉に、私の中にある理性的な部分が理解を示す。
感情的には納得し難いが。
そして、私は打算を働かせる。
どうにもブロリーもサウザーも、このメタルクウラの意見を私に聞かせたいらしい。
であれば、その意見を聞いた上で破壊すればいいのだ。
彼等に無駄な抵抗をさせるのではなく、話を聞いた上でその全てを無視して破壊する。
それで問題はないのだと。
それが最も面倒ではないと。
「……仕方あるまい。いいだろう、話ぐらいは聞いてやる。精々、言い訳をさせてみろ」
私は身体に込めていたエネルギーを霧散させた。
空気に張り詰めていた威圧感も、緩んでいく。
「ありがたき幸せ……では、クウラ様、これを」
直後、サウザーが背につけていたマントを私に投げた。
私はそれを受け取り、そのまま身体に巻き付けつつ──
「……ふぅ」
声も、姿も、力も、落ち着いていく。
それでも思考は変わっていない、と思う。
たぶん。
「……じゃ、軍法会議かな。行くよ、サウザー、ブロリー」
「はっ!」
「……うん」
ハキハキと元気に返事をするサウザーに比べて、ブロリーはバツが悪そうだ。
そして、メタルクウラは……しょぼくれた顔をしている。
まぁ、そんな顔をしていようが私の決断は変わらないだろう。
何を言われようと、間違いなく、抹殺する。
この決定が変わる事はない。
と、思ってたんだけど。
「…………」
話を聞けば聞くほど、私は眉を顰める事しか出来なかった。
いや、話に妥当性がなくてムカついているという訳ではなく、私の中にあるちっぽけな良心が苛まれる所為で、強がる事しか出来なかったのだ。
その体を作ったのは、そもそも私のため──
許可は一応、私から取ってある──
この事態は噛み合わせの悪さ、そして、このメタルクウラ……ビッグゲテスターの人生経験の浅さによるものだ。
ずっと宇宙空間に漂っており、人間関係もなかった彼女……彼女か?
ビッグゲテスターは一般的な常識が欠けているのだ。
それは仕方のない話だ。
つまり、善意と打算、本人の環境。
悪意が無いのであれば、壊す──殺す事は躊躇われる。
「…………ぐずっ、ごめんなざい……」
そして、本人の態度。
メタルクウラは、顔をしわくちゃにしながら鼻水を垂らし、謝罪をしている。
小さい女の子の姿で、だ。
まぁ、幼い頃の私の姿だから、同情する気持ちも半分にはなるが、それでも半分は同情している。
「クウラ様」
やめろ、サウザー。
そんな目で私を見るな。
ブロリーもだ。
……くそ、何でこうなる。
いっそ、私が間違っていると責められたのなら、反論する事ができた。
だが、彼等は私を責めていない。
ただ、寛大さを求めているだけだ。
「…………っ」
目下、目の前で頭を下げているメタルクウラを睨む。
睨めば申し訳なさそうな顔をして、縮こまった。
演技ではなく、恐らくは素の反応だ。
演技ならもう少し上手く、同情を誘う言動をする筈だ。
「…………はぁ」
私はため息を吐いた。
くそ、こうなるのが目に見えていたから、反論なんて聞きたくなかったんだ。
今更、こんな話を聞いた後では罪悪感が湧いてしまう。
「……ちっ」
認めたくはない。
認めたくはないが……この、目の前にいるメタルクウラは、私達を害するつもりなどないだろう。
ここで破壊することに、きっと意味はない。
私の癇癪を、怒りを霧散させるため……つまり、八つ当たり以上の意味を持たない。
であれば、もう意味はない。
「……まぁ、じゃあ、壊すのはやめる」
「クウラ様っ」
「姉さん!」
生暖かい鬱陶しい視線に顔を顰めつつ、メタルクウラに目を向ける。
まだ、死刑執行を待つ死刑囚みたいな顔をしている。
「で?サウザーはどうしたいの?」
「クウラ軍に従軍させるべきかと……クウラ様に案は?」
メタルクウラが僅かに震えている。
喜んでるのか怖がってるのかよく分かんない。
でもまぁ、まだ信用がなぁ、ないしなぁ。
仕事の内容も……うん、そうだなぁ。
「じゃ、雑用で」
「は、雑用?」
「そう雑用。掃除、洗濯、食事の用意……軍の雑用をさせようかなって」
「……それはつまり、今回の騒動に対する罰と?」
「まぁ、そんなとこ」
実際は軍務に関わらせたくないからだけど。
「あと、それと……大人の姿にならないこと。ずっと子供の姿で、力を発揮しないこと。勝手に大人になったら、叛逆の意思ありとして処分するから」
私が発した、脅しの言葉にメタルクウラが顔を上げた。
「あ、ありがとうございます!精一杯頑張りますです!」
感謝感激って顔で涙を流しながら、祈るように私を見上げている。
「……うげ」
脅しだというのに、許しだと思っている。
だが、私はそれを不快だとは思わない。
私は現金な女である。
私は私を害する奴が嫌いで、私を好きな奴が好きだ。
つまるところ、どうにもこうにも、憎みきれなくなってしまう。
「……とにかく、詳細は詰めるから。沙汰が下るまで、独房にも入ってて」
そう口にして、周りを一瞥した。
サウザーは納得したように頷いているし、ブロリーは嬉しそうだし。
……はぁ。
まぁ、今はいいか。
次に問題を起こしたら、その時こそ処分しよう。
「ああ、あと、名前。メタルクウラってのも……私と被るし、変えなきゃ。うん……お前の名前は──
私はちみっこいメタルクウラを見て、名前を告げた。
◇◆◇
クウラ軍の古参であり、総務部である俺は頭を抱えていた。
それも当然である。
「レモ先輩!備品の配備、完了しました!」
自分の上司、それもとびっきり上の上の軍団長と瓜二つで、幼い少女然とした後輩が出来たからである。
上司であるサウザー様から聞いた話、曰く──
彼女の名前は、『ゲデス』。
命名はクウラ様らしい。
なんでも機械生命体らしく、常識に疎いのだとか。
しかし、何故、クウラ様そっくりなのかは俺にも分からない。
「おう……じゃあ、次は格納庫まで工具を運んでくれ。それが終わったら休んでいいから」
「承知いたしました!」
元気に返事をしながら、スカートをふりふりとさせた。
ゲデスは何故か、メイド服を着ている。
理由は本当に不明だが、少なくともサウザー様の案ではないのは確かだ。
つまり、幼なげなクウラ様がメイド服を着て雑務をこなしている……そんな絵面になる訳で。
クウラ様の苛烈な面を知る者達は遠巻きに恐れており、クウラ様を崇拝する者達からは可愛がられている。
目の前でゲデスが工具の入ったコンテナを、軽々と二つ持っている。
とんでもない馬鹿力に、俺は苦笑する。
「では、レモ先輩。行ってまいります!」
「おう、気をつけていけよー」
「はい!」
どたどたと倉庫から離れていく姿を見て、俺はため息を吐いた。
「クウラ様はなんでこうも、俺を信頼してんのかねぇ」
クウラ様から下されたのは、ゲデスの監督……そして、教育である。
物事の常識を教えて、クウラ軍で問題を起こさぬように教育することを指示されている。
指示されている……ということは、出来ると思われているということで。
「自分より強い機械生命体に情操教育なんて、俺に出来る訳ねーってのに」
俺は頭を掻いて、床にへたりこんだ。
ひんやりとした感触に、また不安を吐いた。