「大事なものは最初から持たない」と決めていた原田と藤堂の話
▼不意に「大事なものは最初から持たない」というテーマを思いついたのでとりあえず原藤で書きます 次は同じテーマで夢を書く予定
pixivより転載

1 / 1
【FGO原藤】「お互いが大事になってしまったのにね」

 子どものときから決めていたことがある。

 「大事なものは最初から持たない」と。

 それは、密偵として鍛えられる最中に、不意に与えられた玩具。親は何を思っていたのだろう、と今の原田は思う。それでも、単純なつくりのそれに、幼い原田は夢中になった。訓練のとき以外は、どこにでもそれを持って行った。

 原田は、その年にしては利発な子どもだった。密偵として鍛えられていたためもある。それでも、幼子だったのだ。だから、気に入っていた玩具をなくすような事態になった。

 親は何も言わなかった。ただ、2度と玩具を与えることはなかった。幼い原田には、そうでなくとも大事な玩具をなくして落胆していたのだ。親からの無言の叱責は、子どもを打ちのめすのに十分だった。

 だから、と原田は決めていた。将来、密偵になれば、様々な物事に接することになる。だから、そのときは。

 ──大事なものを作るまい。最初から持たなければ、辛い思いをしなくて済む。

 

 そして原田左之助は、密偵として上がった先で、見事「仲間」という大事なものを作ってしまったのだ。

 そこを新選組と言う。

 

「……さん」

「んぁ……?」

「原田さん、ちゃんとしてください」

 落ちていた意識が、不意に浮上する。頭が上がる。鼻腔を酒精が擽った。

 原田の視界には、新選組の幹部がいる。正確には、大半が酔い潰れている幹部だ。それぞれの部下や酔い潰れていない幹部が介護している様子が見える。

 そして、原田の傍にいたのは藤堂だった。

 藤堂は、水の入った器を片手に原田の顔を覗きこんでいる。その顔が少し赤い。

 原田は茫洋とした意識で、目の前の顔を手で挟んだ。

「ちょっ」

 そのまま手で頬を揉みしだく。自身の手もその頬も熱く感じる。とにかく揉みまくると、碧い目が鋭くなった。

 途端、水を浴びせられた。

 藤堂が、持っていた器の水を原田の顔面に引っ掛けたのだ。

 しかしなにせ間近の話だったので、藤堂にもその類が及んだ。しかし彼は気にせずに言う。

「目は醒めましたか」

「……醒めた」

「ならこの手を離してください」

「揉み心地いいんだけどな」

「今度は殴りますよ」

「冗談だって」

「まったく……」

 原田は、物理的に冷えた頭で再び周囲を探る。

 聴覚には喧騒が戻って来た。まだ騒いでいる者もいるし、嘔吐しかけているのを慌てて持って来られた盥に顔を突っ込んでいる者もいる。要はいつもの宴会だ。

 藤堂の頬がほのかに赤いのも、彼も酒を飲んだのだろう。そんなことを考えながら、原田は先程見た夢について思い出す。

 幼い頃の心の傷だ。こういったものは、不意に膿を吹き出す。だから、その勢いに負けて、つい普段は隠していることが表出する。

「──駄目だな」

「何がです」

 藤堂の問いかけに、原田は一瞬言葉に詰まった。

 ……しかし、この透き通った碧い眼に隠し事は難しい。だから、答える。

「大事なもんは、最初から持たないようにしてたんだけどな」

 藤堂は目を瞬いた。そして、緩く笑う。

「奇遇ですね。僕もですよ」

「お前も?」

「えぇ」

 藤堂は苦笑して言う。

「……幼い頃、母に購ってもらったものを落としてしまいまして。そのときに母に酷く叱責されてからは、大切なものは最初から持たないように決めてたんです」

 原田はそれを聞いて思う。──藤堂の家族の話は、母親しか出てこない。父親はいない、としか聞いていない。そのたったひとりの親に、どれだけ酷く叱責されたのだろう。

 藤堂は続けて言う。碧い目を伏せて。

「『拾ってきなさい』と言われて、夜道を何度も独りで探りました。でも、結局なくしものは見つかりませんでしたね」

「──それで、お前は今は大事なもんは持っちまったのか?」

 藤堂は、笑んだ。胸を突かれるような微笑みだった。

 

 

 そんなことを、日本から離れた大陸の果てで思い出す。ふと目を開くと、原田は自身が今にも死にかけていたことを思い出した。看取る者は、誰もいない。

 看取ってくれたかも知れない者たちは、日本に置いてきた。

 ……あれから、大事なものは増えた。仲間、友人、上司。家族もいた。

 けれど、原田の手からはほとんどのものが滑り落ち、家族は自ら置いてきた。

 ごふ、と血を吐く。それを気遣ってくれる者もいない。作ることもなく生きてきた。

 地面に仰向けに倒れている中、思い出すのは、もうずっと昔のこと。

 同じ、「大事なものは最初から作らない」と言っていた彼。

 ──大事なもののために、血溜まりに沈んだ彼。

 あれから、原田は自身の何かが壊れた。

 気が付けば、こんなところにいた。

 原田は目を瞑る。

(平助。俺はどうすればよかったんだろうな)

 もういない人の名を心で呼びながら、原田は意識が遠ざかるのを感じた。

 

 大陸で狼が死んだ。鮮やかな赤毛の狼だったという。

 

 

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。