白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
期末試験の報奨の「一日オフ」に出掛けた早坂愛は、田沼翼と遭遇して成り行きから同道し、それを柏木渚が見掛けて二人を追い掛ける事態となる。
───月曜・泉岳寺別邸
日課を終えて、使用人用の食堂で朝食を取っている四宮かぐやの向かいの席に、近侍の早坂愛が腰を下ろす。
この光景も定着して二ヶ月になる。
『おはようございます。』
『おはよう、愛さん。
昨日は遅かったみたいだけど?』
『・・・知人と会ってましたので、申し訳ありません。』
『ううん、オフなんだから。
ただ、・・・恋人?』
『なっ!?』
『・・・違うのね。
期待しちゃった。』
『抜け駆けはしません。』
『サッカー部の渡部さんは?
手放しで愛さんを褒めてたわよ。
・・・サッカー部の他の人達は顔を顰めてたけど。』
『皆さんレギュラーですから、自信あったんでしょう。』
『三年生がいる間はレギュラーは殆ど任されないそうだから、彼らは夏からみたいよ。
渡部さんは一年生からレギュラーだったみたいだけど。』
『中等部からエースだったそうですね。』
『・・・記憶にある?』
『・・・全く。』
愛とかぐやは同時に吹き出し笑い合ってしまう。
渡部神童のアフロ頭は一度見れば忘れないはずなのに、二人共全く記憶にない。
中等部までは極度の癖毛の為に丸坊主かスポーツ刈りだったが、高等部に進級してからお洒落に目覚めて髪を伸ばしたのだが、天パが災いしてアフロ頭になってしまった。
お洒落に目覚めてアフロ頭というのが、なんとも・・・。
無論、動機は「モテたいから」。
現状、人気はあるがサッカーが上手いからであり、男としては見られていない悲しい人気である。
他人の事を笑っていた二人だが、早々に騒動に巻き込まれる。
登校すると土曜日の交流試合の事が、壁新聞となって四面も用いて詳細に報じられていたのだ。
四面の内の三面は試合直前の助っ人探しから白銀御行達の出場、奮闘するも惜敗だった試合内容と結果、試合後の対戦チームと観客を交えた昼食の様子等が写真付きで報じられていたが、残る一面は四条眞妃のシュートと、かぐやと愛のゴールシーンと、御行とかぐやの喜び抱き合うシーンがやや不鮮明な画質ながらデカデカと掲載されていた。
当然の如く、号外も多数配られていた。
為に、御行達はクラスメイト達から質問攻めにあっていた。
愛は今まで目立たない様にしてきた(その割にはギャルファッションで目立ってるが)のが、スポーツ万能で勉強も出来る(期末試験50位)と解って、ノーマークや嫌厭していた男子達が群がり始め、隠れファンの女子も生まれ始めていた。
御行とかぐやは言わずもがな、「付き合え」「公言しろ」圧力が増加してクラスメイトに追い回され事態となった。
そして、壁新聞を作成掲示したマスメディア部部長・朝日雫は頭を抱えていた。
サッカーの交流試合の取材と壁新聞作成は事前に許可していて、大した問題もないだろうと部員の紀かれんと巨瀬エリカに一任していた。が、蓋を開けたらサッカー部は故障者多数で助っ人を集め、その助っ人が御行達六人になる等は予想も出来なかった。
雫はかぐやに借りがある為にかぐや関係は記事にしない様、部員達には釘を差してチェックも入れていたが、かぐやの参加は試合直前に決まった上に土日は別用に出掛けていたので対応できなかったのだ。為に、かぐやに乗り込んで来られないか戦々恐々であった。
壁新聞を作成したかれんとエリカの二人は、当初は形式的な取材と記事にするつもりで紙面の1/4程度に収めるつもりだったが、神童が助っ人に御行を出場させると解ってからエンジンが掛かり、かぐやまで出場させると知った瞬間にフルスロットルになった。が、前回の濡れ衣事件(第三者が新聞を勝手に作りマスメディア部の二人が疑われた)があり、エリカが離れた校舎から気付かれない様に望遠レンズで試合を撮影。
かれんは別角度から試合の経過を記録し、試合後には御行達が帰ったのを見計らって保護者やサッカー部員達に取材していたのだ。
途中、かれんが御行とかぐやが抱き合ったところで卒倒する等のハプニングがあったが、無事に取材成果は四面の壁新聞に結実したのだった。
本来なら御行とかぐやはかれんとエリカを問い詰めに行くところだが、クラスメイトの攻勢と張り出された二人の抱き合う写真に恥ずかしさと嬉しさがパンパンの風船の様に破裂しそうだった。
そこかしこで号外を持つ生徒達に騒がれてるのも、二人の行動を抑制していた。
『田沼君、早坂さんは見なかった?』
『いや。
どうしたの?』
『ううん、何でもない。
ごめんね。』
『・・・行ったよ。』
『・・・ありがとう。』
『大変だね、いきなりあんなになっちゃって。』
『追い回されるのはゴメンだし。』
『・・・僕の前では、無理な喋り方しないでいいよ。』
『・・・どういう意味?』
追っかけに変貌して試合の詳細を聞きたいたがるクラスメイト達に、愛を始め出場した面々や観戦していた藤原千花達は生徒会室にまで押し掛けられて、とてもお昼は取れないと何時ぞやの体育倉庫で集まってお昼を取っていた。
屋上も考えたが、御行を茶化すつもりだった龍珠桃ですら閉口するほど、生徒達が御行達を探して屋上にも来ていた。
かぐや達がお昼を取っている間、愛が囮としてクラスメイトを引き付けていたのだが、予想以上に押し寄せて来るので捌き切れなくなり、逃げ出して休憩していたところ見つかりそうになり翼が庇ったのだ。
『日曜日の君の方が話しやすかった。
何か事情があるんだろうけど、息抜きは大事だよ。』
『・・・。』
「何でバレるんだろう・・・」と、細心の注意を払って演じているのに御行に続いて翼にまで勘付かれるなんてと愛は思ったが、ギャルモード愛の語尾が元々不自然なのが原因で、演技以前のミスチョイスなだけだった。
取り敢えず「ありがと」と翼に礼を言って隠れていた空き教室から出ると、翼の恋人の柏木渚がこちらに歩いてくるのが見えた。
ただ、まとっている空気がいつもと違う。
張り詰めた雰囲気は「氷のかぐや姫」と言われていた以前のかぐやのソレに似ていた。
渚の目は虚ろで愛だけを捉えて迫ってくる。
『渚?』
渚には最愛の恋人の翼の声も聞こえていない様だ。
『渚! 待って!!』
三人のいる廊下の奥から渚の幼馴染の四条眞妃も血相を変えて走ってくる。
良くない事が起きてるとしか思える状況で、愛は思う様に動けなくなっていた。
腕を伸ばせば愛まで届く距離まで渚が来た瞬間に愛の顔の左側、左頬を中心に衝撃が走る。
次いで痛みが走り、愛は床に両膝をついていた。
『・・・叩かれた?』
衝撃と痛みの為に薄ぼんやりした靄のかかった様な思考から導き出された推論は、普段の愛なら考えられない事だった。
叩かれた衝動か、耳鳴りが周囲の音を遮断して、うるさい。
床を見つめる格好になった目線を渚の方に向けると、背中から眞妃が、前から翼が渚を抑え様としてるが、渚は何かを必死に訴えながら、その目は憎らしげに愛に向けられたままだった。
『なんで!
なんで、庇うの!?
翼!!?』
『渚、落ち着きなさい!』
『どうしたんだ、渚!?』
翼が愛を庇う様な姿勢を見せた事が余計に渚を刺激し、二人掛かりで抑えようとしてるのに止まらない渚。
ついに、翼を押し退け愛に掴みかかろうとする。
ショックから立ち直ってない愛は動けず、渚は飛び掛かる様な勢いで愛を叩こうとした刹那、愛の視界を影が覆う。
誰かが叩かれた音がしたが、誰が叩かれたかは影のせいで愛には解らなかった。
ただ、何故だが渚の動きが止まり、その隙に後から眞妃が羽交い締めにして抑え込んだ。
誰が叩かれたのだろうかと、愛の視線が影に向けられる。
黒かったのは髪の色と制服で、見覚えのある赤いリボンが見える。
あのリボンの柄は───、
『かぐやさん!』
『四宮さん!』
『かぐや!』
廊下の端から藤原千花が名を呼びながら走ってくる。
叩かれる瞬間を見ていた眞妃と翼も名を呼ぶ。
愛を庇ったのは、主人の四宮かぐやだった。
渚に叩かれた為か、体が右を向いてやや姿勢を崩していた。が、二人掛かりでも止まりそうにない渚を、その姿勢から反動を付けて渚の左頬を、かぐやの右手が叩く。
乾いた音と共に今度は渚の体が右を向いて姿勢を崩す。が、渚も負けじと二発目を繰り出し、かぐやの左頬を再度叩く。
ビンタと乾いた音の応酬は、翼が体ごと渚とかぐやの間に割り込んで収める。
『いい加減にしろ! 渚!!』
翼の叱責に反応して翼の顔を睨み付ける渚は、堪えきれず泣き出してしまった。
『かぐや様!
大丈夫ですか!?』
この時になって、ようやく動ける様になった愛はかぐやを庇う様に前に出ながら、自分の代わりに二回も叩かれたかぐやを気遣う。
『・・・ちょっと口の中を切ったみたいね。
なかなか、効いたわ。』
愛が取り出したハンカチを左頬に当てられながら、かぐやはそう答える。
アイドルグループの撮影の時、同じグループの子が他の子の彼氏と浮気したとかで、髪を掴み合って叩き合うは蹴るはで、男顔負けの乱闘騒ぎの様な喧嘩に遭遇した経験上、白銀かぐやとしては渚に叩かれた位は大した事はない。
渚がここまでの行動に出て、相手が愛だった事がショックではあるけれども・・・。
いったい、二人の間に何があったのだろうか・・・。
泣き出した渚を翼が諌めながらなだめてる為に、警戒は解かないがかぐや達に再び襲ってくる事はなさそうに見えた。
『直ぐに保健室に!』
『いえ、私は大丈夫です。
私より愛さんを。』
『私なら大丈夫です。
私よりかぐや様を。』
『「二人共」行きましょう!』
『・・・騒ぎが大きくなると、事です。』
『なら、体調不良にしたらどうですか!?
先生達には私から言いますから!!
保健室が目立つなら、生徒会室へ!!!
ともかく、手当して冷やさないと腫れて跡が残ります!!!!』
こうなると千花がこちらの意見など聞かなくなる事を知ってるかぐやと愛は、千花の提案に従う事にする。
が、ここで問題がある。
叩かれたのは、かぐや・愛・渚の三人もいるという事と、経緯としては加害者と被害者になる為、保健室でも生徒会室でも一緒になる事に危惧がある。
しかしながら、何故叩いたのか渚に理由を聞かない訳にもいかず、気不味い空気の中で眞妃・かぐや・渚・愛・千花が生徒会室に残った。
途中で合流し事情を知って鬼瓦の様な顔になった御行と、そんな御行に気後れしている翼が残ろうとしたが、女子なら体調不良が通るが男子はそうもいかずに教室に戻った。
こういう場合は、男が居ては邪魔なのだ。
御行と一緒にかぐや達と合流した石上優と伊井野ミコは、御行同様に授業に参加する為に一年生の教室に戻っている。
他に目撃者がいなかった為に、事は生徒会と渚達当事者だけ、まだ収まっていた。
『状況が状況ですから、情報漏洩防止で施錠しますね。』
眞妃達にそう告げると、かぐやは慣例を破って生徒会室のドアに鍵を掛けてから、自分の席に座る。
生徒会長席側のソファに左からかぐや・愛の二人が座り、向かって反対側ソファに出入口側から眞妃・渚・千花が座る。
千花が渚の横に座るのは逃亡防止の為で、愛を庇ったとはいえかぐやを渚に叩かれた事に千花は怨嗟の感情を抱いており、五人の中で一番危険な雰囲気を醸し出していた。
一方、当の渚は泣いて吹っ切れたのか、スッキリした顔で愛を見ている。
『それで、柏木さん。
何があったんですか?』
かぐやは事情聴取を始めた。
受けて、渚が答える。
『・・・翼に浮気されたんです。
相手は、この人です!』
渚はそういうと愛を指差す。
『証拠はあるんですか?』
『これが証拠です!』
かぐやの問にそう答えると、渚は自分のスマホを取り出し、画面に映像を出してテーブルに置く。
かぐや達三人は画面を覗き込み、翼と愛が店の中で仲良さげに商品を見てる映像を確認する。
その間、渚は泣き腫らした赤い目で愛を睨みつけてるが、愛は涼しい顔というかやや呆れた顔で渚の敵意のこもった視線を受け止めている。しかしながら、自分が叩かれたのは大した事はないが、かぐやが愛を庇って二回(二回目は二人の応酬の結果だが)も叩かれたのは堪えた。
それ故、本音では渚を折檻したいが今は我慢している。
『この後も、二人は駅に向かって電車に乗って何処かに行ったんです。
翼は電話に出ても「電車だから」って直ぐ切って、その後は電話にもメールにも出なかったんです。
今日、理由を聞いたら間違えて電源を切っていたって、そんな事今まで無かったのに・・・。
最近は、二人で話をしていても上の空で生返事して、様子がおかしいんです!』
四六時中、周りの事などお構いなしにイチャイチャしてる二人からは考えられない事に、渚の友人や幼馴染である眞妃やかぐやも驚きを隠せない。
『・・・貴女が飽きられただけじゃないの?』
『どういう意味ですか!?』
『そのまんまよ。
自分の胸に手を置いて考えてみたら?』
自身やかぐやが叩かれた事や、不本意ながら授業を休まざるを得なかった事などで、ストレスが募っていた愛は棘のある言葉を渚に投げつける。
実際、翼はアクセサリーショップで渚と翼用のお揃いのプレゼントを選んでいただけで、その後も前も渚の話が出ていたのだから。
我ながら、目的地が一緒で変な好奇心の様な感情が働かなければ、直ぐに別れていた。
呪うなら自分を、こんな面倒事を引き起こす彼女持ちの男の相手なんかするんじゃなかったと愛は後悔している。
『愛、事実はどうなの?』
『・・・喋れないのに、外国人観光客に道を教えていたので、私が代わって案内をしただけです。
それで終わるはずだったんですが、何故か向こうが私だと気が付いたみたいで、土曜日のサッカーの試合の話をしながら歩いただけです。』
『それで、二人でお店に行く必要があるんですか!?』
『そのお店は彼が用事があったみたいで、私は付き添いというかプレゼント選びで意見を求められただけです。』
『そんなのおかしいでしょう!?』
『渚、落ち着いて。』
『おかしいって言うなら、全く面識のない私にプレゼント選びの意見を求める貴女の彼氏の方がおかしいのではないかしら?』
『そ、それだけじゃありません!
その後で、横浜の喫茶店でご飯食べてたじゃないですか!
まるで、デートみたいに!!』
『渚、アンタ横浜まで追い掛けたの!?』
と言う眞妃も無言のかぐやや千花や応酬をしてる愛自身も、自分の恋人が知らない女とデートみたいな事してれば尾行するなと思ってはいるが・・・。
しかし、そこまで素人に尾行されてたのに気付かなかったとは、我ながら未熟だなと愛は痛感する。
『そこまで知ってるなら、後は彼氏に聞いたらいいじゃない?
貴女に喋らないのは、彼にやましいところがあるからじゃない?
それに、私と彼が食事していたのを貴女は止めなかったんだから、貴女は容認したという事でしょ?』
『あ、愛・・・、流石に言い過ぎじゃ?』
『これぐらい言わないと解りませんよ、この人は。』
『わ、私だって・・・、本当はお店に入って翼を問い詰めたかったわよ!
・・・だけど、あちこち探し回って疲れてたし・・・、
もし、本当に浮気だったり、
・・・もう私より貴女の方が良いとか言われるかもとか・・・、
別れ・・・たいって言われたら、
とか・・・。』
途中から声が弱々しくなって、言い終えると同時に渚は泣き出してしまった。
眞妃が背中を擦って落ち着かせようとするが、渚は感情が制御できなくなっていて、しゃくりあげてる。
眞妃としても翼を諦めきれない気持ちは未だあるものの、渚が落ち込む姿に自分が被る。しかし、直前まで翼と渚の間に不穏な空気はなかった。
見ない様にしても翼を目が追ってしまう眞妃は、翼がそんなに他の女の子に気が向いてる様には感じなかった。
故に、翼の渚に対する態度が不可解でならない。
あれだけイチャつきまくって、周りから殺意のこもった視線を浴びてもお互いしか見えてなかった二人が・・・。
───ワンチャン、あるかな?
『早坂さん、なんか・・・、さっきからワザと柏木さんに恨まれる様な事言ってません?』
千花は愛の言動を好意的に解釈しようとしてるが、愛は単に彼氏の翼を問い詰めず自分やかぐやを叩いた渚に頭にきてるだけなのだが、肝心の翼が居ない以上は水掛け論にしかならない。
『愛さん。
確認したいのですけど、貴方は田沼さんが海外の方に道案内をしていて、それが上手くいってないようだから手助けをした。
その後に、目的地が一緒だから駅に向かう途中でお店に寄ってプレゼント選びを手伝った。
駅から電車に乗って横浜に行って目的地に行って、その後で食事をした。
これで合ってます?』
『はい、その通りです。
邪推されるのも嫌ですから言いますが、目的地は横浜にある「海が見える丘公園」のバラ園です。
丁度、今がバラの見頃の時期なんです。
田沼さんが何故そこに行ったかは本人に聞いて下さい。
私は、雑誌の特集で見掛けて興味があったから行っただけです。
食事も、道案内とプレゼント選びのお礼と言われました。』
『でも・・・、物凄く真剣な面持ちでした。
翼が困ってる様な様子で、貴女が怒ってる様に見えたし・・・。』
『詳しくは本人に聞いて下さい。
ただ、田沼さんは悩みがあるそうです。
と、だけは言っておきます。』
『な、悩みって!?』
『それは、彼本人に聞いて下さい。
私から言える話ではありませんから。』
『愛、貴女は何を隠してるの?
さっきから、喋り方がらしくないわよ。』
『ノーコメントです。』
『堂々巡りになりそうですから、一旦止めませんか?
午後の授業、皆さんはどうします?』
『私は戻ってもいいけど、かぐやは渚はどうする?』
『体調不良のままにしておきます。
早退してもいいですけど、田沼さんに真相を話して貰わないといけませんし、会長への報告もありますから、放課後まで残ります。
愛さんは?』
『このまま、ここに居ます。
今から授業に戻っても憶測を呼ぶでしょうから。』
『なら私と愛さんはこのまま。
藤原さんもいいですか?』
『はい、居ますよ。
この間、部で作ったゲームがありますから、よかったら皆さんで。』
かぐやと愛の二人に戦慄が走る。
その可能性を全く考えてなかったのだ。
『あ─、そういえば藤原さん!
楽器の調整はどうします?
午前中に届いてましたよ。
お昼に確認しようと思ってましたが、そうもいきませんでしたから。』
『ああっ!
忘れてました。
それなら、この時間を使って調整します。
上ですか?』
『ええ、そうですよ。』
『じゃあ、ちょっと失礼して。』
『かぐや、楽器って土曜日の?』
『そうですよ。
眞妃さん達が演奏したドラムセットも来てます。
ただ、組み立ては自分達でしないといけませんけど。』
『なら、やるわ。
渚も来るわよね?』
『いや、私は苦手で───。』
『渚、来る、わよね!?』
『ア、ハイ。』
眞妃の猛烈な圧に大人しく従い、眞妃達三人は生徒会室二階へ上がっていく。
『あの、四宮さん、早坂さん。
叩いてしまって、ごめんなさい。』
『気にしてません、という事はないので、今回の事は「貸し」にします。
愛さんは?』
『私もそれで。』
『という事ですので、私達に「貸し」一つづつです。
いいですね、柏木さん?』
『解りました。
それで許して貰えるなら・・・。
本当にごめんなさい。』
そういうと、渚は上の階に上がっていく。
我ながら甘いなと思うが、心情的には渚の気持ちも共感できるので、翼を詰める事で埋め合わせるかとかぐやは考える。
『申し訳ありません、かぐや様。
私のせいで、かぐや様にまで危害が。』
『私が勝手に飛び込んだ結果だから、愛が気にする必要はありません。』
『ですが。』
『「海が見える丘公園」の「バラ園」。
前に聞いてたプランの一つよね。
それで、行ってみてどうでした!?』
『・・・かぐや様、切り替え早いですね。』
『制裁は、会長に任せます。
田沼さんがどういうつもりだったのかも解りませんが、愛さんは少しは理由を聞いているのでしょ?』
『一応、田沼様なりに真剣に柏木様との将来を考えてはいる、という状況ではあります。』
『そう、なら成り行きを見守りますか。』
そう言いながら、かぐやは自分の左頬と右手を触ってみる。
白銀かぐやとなってからも、人を叩いたのは早坂愛の髪を掴んで連れて行こうとした兄の四宮雲鷹を叩いて以来、一度もない。
それが偶然そうなったとはいえ、愛を庇う為に柏木渚を叩く事になるとは・・・。
特に、利き腕ではない為に力加減が出来なかった右手で叩いたのに、叩き返して来る渚も中々ではあったが。
今、渚とかぐやと愛の三人は左頬がほんのり赤くなったままなのだ。
大人になれば笑い話になるだろうが、しばらくはギクシャクするなとかぐやは思っていた。
かぐやに対面している愛は黙ってはいるが、身体が小刻みに震えてる様にかぐやには見えた。
そっと、そして力強くかぐやは愛を抱きしめる。
『か、かぐや様?』
『私は、実は嬉しいの。
いつも守って貰ってばかりの愛を守れた事が、今は嬉しい。』
あの時、走っていく渚を眞妃は直線的に追い掛けて行ったが、かぐやは先回りする道を選び、それが的中した。
かなり渚達に離されていたから間に合うか、かぐやは不安だった。
いつしか、愛だけでなくかぐやも涙を流していた。
二人の少女は、暫し泣き合う事となった。
─────つづく