白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


浅草で落ち合った四宮雁庵と藤原元総理を見送った四宮雲鷹を銃撃が襲い、早坂奈央も負傷してしまった。


066『四宮雲鷹は詫びたい』

 

 

 

───月曜日・夜、早坂奈央の病室

 

 

正確には月曜日になったばかりの深夜、銃撃からの負傷の為に緊急手術を受けて暫くは安静が必要な奈央は、左腕を首から吊ってる為にベットを起こして、同時に負傷した四宮雲鷹の尋問を受けていた。

雲鷹の秘書の天野八雲らは病室の外に待機している。

 

 

 

『で、心当たりはないんだな?』

 

『ありません。

今現在もマークしてる人間で、この時期に暗殺を指示する程の小物に動きはありません。』

 

『と、なると、身内か?』

 

 

そういうと、雲鷹は奈央の瞳を覗き込む。

 

 

 

『お前が手引きして、失敗したから時間稼ぎで負傷して混乱させる。

その間に、逃がした?』

 

『残念ながら、その推論は外れてます。』

 

『なら、ワザとお前に当てた?』

 

『私が貴方様に付けられた理由が解っていれば、その推論も。』

 

『だが、ワザと当てた可能性は否定しきれねえだろう?』

 

『・・・足を鈍らせるより、私なら離脱を選びます。』

 

『・・・なら、素人か?

だが、推定地点からは俺やお前だけでなく、親父や藤原の爺も狙えた。

他の警護も、だ。

何故、俺とお前だけなんだ?』

 

『・・・恨みを持つ者・・・。』

 

『一番最初に考えたが、そうなったら絞りきれん。』

 

『本宅の方々に比べれば、雲泥の差ですけど。』

 

『嬉しかないよ。

五十歩百歩だ、所詮。』

 

『・・・かぐや様を守る為、ですか。

貴方が憎まれても危ない橋を渡るのは。』

 

『・・・俺の立場は弱い。

預かった以上、俺のせいでアイツに負担をかける訳にはいかん。

かぐやだけじゃねぇがな。』

 

『・・・かぐや様自身は、どう思ってるのでしょうか?』

 

『・・・余計な話だ。

自分の事を大事にしろ。』

 

『・・・。』

 

『・・・月が綺麗だな。

知ってるか?

月夜は人を惑わすそうだ。』

 

 

雲鷹はそう告げながら、隣の病棟越しに窓の上辺付近の窓枠で見切れた下半月を眺めていた。

ベット横に座る雲鷹の視線を追い掛けて、奈央も窓の月を見る。

長い付き合いから、雲鷹は言いにくい事がある時は遠くを眺める癖がある。

もう戻らない二人の過去の関係、主人と近侍だった頃から変わず知っている数少ない雲鷹の癖。

そんな昔に思いを馳せて、戻らない日々の記憶を思い出していると、雲鷹の声で奈央は現実に引き戻された。

 

 

 

『・・・お前が撃たれて、生きた心地がしなかった。

 

また、お前を失うのかと・・・。

 

・・憎んでいた筈なのに、お前に心底失望した筈なのに。』

 

『・・・。』

 

『覚えてるか?

あの後、俺がお前との関わりを絶った時に、アイツが俺に談判しに来た事を。』

 

『・・・覚えております。

まさか、彼が貴方に意見するとは思いませんでした。』

 

『意見?

拳が何時から意見になったんだ?』

 

『・・・本当なら、私が殴れなければいけなかった。

貴方が殴られる理由はなかった・・・。』

 

『・・・今となっては、殴られて良かったとは思ってる。

あのまま、生半可で続いていたらお前が撃たれても何とも思わなかっただろう。』

 

 

そういうと、雲鷹は身を乗り出して奈央の顔を正面から見据える。

受けて、奈央も雲鷹の瞳を覗き込む。

二人の歪な関係、この世で代わりのいない筈の関係が壊れて、表面的な関わりしか持とうと互いにしなかった二人。

そんな二人は今夜、確かに月の力が作用したのかもしれない。

 

 

 

『・・・すまなかった。』

 

『・・・雲鷹様・・・。』

 

『俺より、お前の方が余程辛かっただろうに。』

 

『・・・私は責められる事しかしてません。』

 

『誤魔化してくれてたんだろう?

親父や黄光が把握してる当時の俺の事に、ズレや把握できてない事が多い。』

 

『・・・私は、貴方様の近侍を仰せつかったのです。』

 

『・・・自分が犠牲になれば良い・・・。

 

その考えは、俺は嫌いだと言った筈だ。

 

その俺が同じ事を考える様になったのは、お前の影響だ。』

 

『・・・。』

 

『話はここまでだ。

 

後は、旦那にでも慰めて貰え。

怪我が治ったら、存分に働いて貰う。

 

嫌とは言わさん。』

 

『・・・はい。』

 

 

言い終えると雲鷹は病室を出ようとするが、扉の前で立ち止まると背中越しに奈央に言葉を送る。

 

 

 

『奈央、お前が助かってよかった。』

 

 

捨て台詞の様に告げて、雲鷹は病室を出ていく。

奈央は俯いて言葉を返す事ができなかった。

 

 

───許された、とは思ってない。

 

 

極稀に会えても、一方的に指示を受け「気色悪い」「どぶネズミ」などと罵られて終わるのが当たり前だったのが、かぐや様が京都本宅に押し掛ける際に頼られてから、雲鷹は少し変わった様に思える。

あれ以来で初めて雲鷹から連絡を受け、かぐやが無謀な事を考えている様だと相談された時、「何故、私なのだろう?」と疑問が頭から離れなかった。

 

 

「かぐやの乳母をやってたんなら行動が読めるだろ?」

 

 

とは、言われたが・・・。

 

 

 

本当なら、自分が頭を下げて詫びて許しを請わねばならない。だが、自分が彼の弱点になってはいけないと考え、それならば憎まれてる方が都合がいいと思い、距離を置いた。

 

 

───けれど、それは間違いだったのだろうか?

 

 

───間違いというならば、自分と同じ道を実娘に歩ませているのは、どうなのだろうか?

 

 

知らず知らず奈央は自分の右手を見つめ涙をこぼしていた。

そんな彼女の右手を優しく包む感触がある。

唐突な事に奈央は動転するが、自分の右手を包んだのは人の手で、その手から腕を辿って視線を動かした先には、自分の夫が真摯な眼差しを向けていて、二人の視線が交わる。

雲鷹と入れ代わる様に入って来ていたのだろうが、それに気が付かない程に考え込んでいたのだ。

 

 

 

『・・・あなた。』

 

『・・・泣きなさい。』

 

『・・・そんな、

 

・・・あなた、』

 

 

言葉を続けようとしても嗚咽と涙に邪魔されて言葉にならない。

今は虚勢を、嘘をつかなくていいと言われたようで、奈央は自分を止められなくなった。

夫の正人の腕を掴み、暫し奈央は自忘の時を刻む。

 

ひとしきり気持ちを涙に換えて流すと、正人に促されて奈央は傷付いた自分の身体をベットに預ける。

あまり時も過ぎずに奈央が寝息を立てるのを確認すると、正人は病室を出る。

 

病室の外には雲鷹が付けた護衛が立っていた。

 

 

 

『雲鷹様は、「上に居る」と言われました。』

 

『・・・そうか、後を頼む。』

 

 

護衛は返答代わりに頷くと、正人は病室を彼に任せて屋上に続く階段を上がる。

 

雁庵の検査入院の為に病棟丸ごと占有・・・は出来なかったが、一番上の階と二番目の階は抑え階段は防火扉で塞いで護衛を歩哨の様に立たせてある。

エレベーターも修理中として占有してある。

 

階段を登り切ると、正人は屋上に出る。

月明かりを浴びて雲鷹がタバコを吸いながら、正人を待っていた。

 

 

 

『ここは、危険があります。

それに、冷えませんか?』

 

『今は、ちょうどいい。』

 

『・・・。』

 

『今日の事をどう考える?』

 

『・・・嫌がらせ、・・・といったところでしょうか?』

 

『そいつが解せない。

俺もだが、早坂も死んでいておかしくなかった。

・・・何故、やらなかった?』

 

『・・・いつでも襲えるという誇示・・・。

だとしても、それならばご当主の居られる間に・・・。』

 

『・・・おちょくられてる様で不快だ。

 

昨日の予定は、俺は奴と、親父は藤原の爺と会うだけだった。

 

・・・俺が奴と会わない様にする為だけに、撃ったのか?』

 

『・・・私の考えを述べさせて頂ければ、玄人の技ながら発想は素人の人間と思われます。』

 

『・・・一つ、考えてる事がある。

 

足止めだ。』

 

『・・・足止め?』

 

『俺が襲われて怪我人が出れば、他は警護を固めて動かなくなる。

余程の事が、なければな。

四宮だけでなく、全国にも知れ渡った頃だろう。

全国の動きが鈍くなるか、警護の関係で目立つ動きをせざるを得なくなる。』

 

『日本全体の足止め・・・?』

 

『あんまり大きく考えるとそうなる。

ただ、そうまでした理由が解らん。』

 

『・・・そこから探りますか?』

 

『あらゆる可能性を考えろ。』

 

『解りました。』

 

『・・・すまなかった。』

 

『・・・貴方が気になさる事ではありません。』

 

『俺に付けられなければ、・・・早坂は怪我をせずに済んだ筈だ。』

 

『・・・推定地点からは、貴方の後頭は狙えました。

ちょうど、後頭部だけ狙える角度だったんです。

・・・私は妻を誇りに思ってます。』

 

『・・・目がそうは言ってねぇぞ。

それに、本当に俺が狙いなら最初で仕留めていただろう。』

 

『それでも、です。』

 

『・・・、・・・かぐやが親父に会いたいと俺のところに来た時、鼻で笑ったよ。

散々ほっとかれたのに、そんな事をして何になると思った。』

 

『・・・。』

 

『だが、今は週末毎に親父に会ってる。

・・・俺もそうすればよかったのかと、今は思う様になった。

 

「時間がない」。

 

かぐやは俺にそう言った。

確かに、その通りだ。』

 

『・・・だから、ですか?』

 

『お前の女房に連絡を取ったのは、それだけじゃないがな。

 

・・・ただ、詫びと祝いを言いたかった。』

 

『祝い・・・、ですか?』

 

『結婚と娘が生まれた事の、な。

今更ながらだが、お前にも言っとく。

 

・・・おめでとう。

 

 

・・・貴方の方が俺より先輩だが。』

 

『・・・ありがとう、ございます。

 

妻も、喜びます。』

 

『本人には、俺が直接言う。

 

少し待ってくれ。

 

 

・・・見つけ出せよ。』

 

『はい、全力を挙げて。』

 

『話はそれだけだ。』

 

 

その言葉を最後に、二人の男は屋上を後にする。

 

翌朝より、日曜から病院入りして不機嫌極まりない四宮雁庵の検査が始まった。

藤原元総理も一緒に検査入院して

来て現場は混乱したが・・・。

 

初日に手間のかかる検査を集中させて、火曜日以降は検査結果を元に予備の検査をするだけとなったので、連絡しておくかと雲鷹が気を回りしてかぐやにも雁庵の経過と、負傷を伏せて奈央がついでで検査入院したと伝えたが、火曜日朝にはかぐやが早坂愛を伴って病院に突撃して来て、我が妹ながらと雲鷹は苦笑いする事になった。

 

 

 

 

 

─────つづく

 

 

 

 

 

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