才能ゼロの俺、最弱の鬼(つま)と『同期』して最強へ至る ~呼吸が使えないので、思考加速(OS)と筋肉(ハード)の暴力で「柱」になりました~   作:この俗物怪物くん

11 / 14
バグだらけの初任務

育手の家の朝

 

 縁側から差し込む日差しが、畳を明るく照らしている。その真ん中で、松田定次郎は、真新しい隊服に腕を通しているところだ。白と黒の隊服は、鏡で見るとそこそこ様になっている……はずなのに、後ろ姿には、やたらごつい出っ張りがある。

 

巨大リュック対応の、特注仕様だ。

 

背中には、あの魔改造リュック。中身はもちろん、俺の相棒にしてOS、灯羽だ。

 

(よし。肩ベルトの位置も調整済み。腰紐もオッケー。これで、いつでも灯羽とシンクロできる。……見た目が完全に行商人だが、そこは我慢だな)

 

 肩を回してフィット感を確認していると、廊下の向こうから、風鈴の音がチリンと鳴る。

 

 風鈴を頭につけたひょっとこ面の男が、ひょこひょこと歩いてくる。刀鍛冶の金槌さんだ。その肩には、一羽の黒い鴉が止まっている。目つきが鋭く、胸を張っている姿だけ見れば、やたらと有能そうだ。

 

「お待たせしましたぁ! 松田定次郎様の刀と、鎹鴉でございます!」

 

「おお……!」

 

 思わず声が漏れる。日輪刀。鬼殺隊員の証。ついに俺も、正式に鬼殺隊だ。

 

 そのとき、肩の鴉が、定次郎をジロリと見下ろす。

 

「カァー! あなたが松田定次郎ね! 私があなたの鎹鴉よ!」

 

「(鴉が喋った!? ……いや知ってるけど)ああ、よろしく。名前は?」

 

「ふん。『美子(よしこ)』よ!あんた、育手様から『才能がない』って聞いてるわ! だから、この天才の私がついてやりに来たのよ! ありがたく思いなさーい!カァー!」

 

(……なんだこの鴉、初対面からすげえムカつくな)

 

『(くすくす)ふふ。いいじゃない、似た者同士よ』

 

『どこがだクソザコナメクジ。お前はGPS外されてるだろ』

 

『それ、褒めてる?』

 

美子が、金槌さんの肩を蹴って、定次郎の肩へ華麗に飛び移ろうとする。

 

「カァー! この美しい飛行フォーム、よく目に焼き付け――カァッ!?」

 

次の瞬間、美子は見事に方向転換に失敗して、縁側の梁に頭から突っ込む。

 

――ドンガラガッシャーン!

 

「カァ……(☆)」

 

 そのままぐるぐる目を回しながら、定次郎の足元に落ちる。

 

「……ああ、美子……。こいつ、飛ぶ速さだけなら隊一番なんだがな。どうにも方向転換がド下手でな。落ちこぼれなんだ、許してやってくれ」

 

(速いけど曲がれない……? なんか、親近感を感じるな。最近、親近感を覚える相手が増えすぎだ)

 

 定次郎は、美子を両手で持ち上げる。その横で、いつの間にか正座していた悲鳴嶼行冥が、すでに両手を合わせている。

 

「(もう涙声)……南無……。なんと痛ましい……。この小さな体で、己の『才能(バグ)』と戦っているとは……!」

 

「カ、カァ!?(な、なんなのこの坊主……)」

 

「おい行冥! お前の涙でそいつが溺れそうになってるぞ! はい、美子、こっちこい」

 

 定次郎が美子を救出すると、行冥はハッと我に返り、それでも目の端から涙が止まらない。

 

「……すまない、美子殿。私は、生まれてこのかた『才能のない者』を見ると、条件反射で涙が……」

 

「お前、俺の顔見てるとき、ずっと泣いてるけどな」

 

「定次郎、君は才能がないどころか、今や『神速』を身につけた男だ。私の涙は、尊敬と敬意の涙……南無阿弥陀仏……!」

 

(それはそれで重い)

 

金槌さんが、場を仕切り直すように咳払いをする。

 

「さ、旦那。こちらが日輪刀だ。持ち主によって色が変わる『色変わりの刀』あんたの色は、何色かね?」

 

「(ごくり)……やはり、最強の『黒』とか来るか? あるいは、雷っぽく『黄色』とか? いや、ここは意外性の『ピンク』で――」

 

『ふふ。あなたに色なんてつくのかしらね? 才能(ゼロ)なのに』

 

『黙って見てろ、OS。ここで俺の株が上がるかもしれんだろ』

 

定次郎は、慎重に柄を握る。

 

 ……十秒。

 

 ……三十秒。

 

 ……一分。

 

刀は、何色にも変わらない。

 

静かな時間が流れる。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「(涙を拭きながら首を傾げ)……?」

 

 刀は、どう見ても、ただの鋼の色だ。黒っぽいような銀色のような、なんとも言えない地味な色。

 

(……うん。そうだろうとは思っていた)

 

『ぷっ……ククク……。色なし!ダッサ!才能ゼロが可視化されてるわよ、定次郎!』

 

『うるせえ!このGPS解除ザコ鬼!』

 

『なんか罵倒がひどくなってない!?』

 

金槌さんは、気まずそうに頭を掻く。

 

「ま、まあ、色が変わらない奴も、たまーにいる。気にすんな。色なんかより、中身だ、中身」

 

「フォローが雑だぞオヤジ」

 

「カァー!でも安心しなさい定次郎!色がなくても、私という『色物』がついてるわ!ド派手に行きましょう!」

 

(言い方がひどい)

 

 そこへ、美子が定次郎の頭の上にひょい、と飛び乗る。さっきの大クラッシュが嘘のように、バランスだけは絶妙だ。

 

「さあ、そっちの柱候補はほっといて、任務の時間よ!初任務!初任務!北ノ町へ向かえってさ!」

 

その瞬間、隣で正座していた行冥の顔色が、さっと変わる。

 

「……初任務、だと?」

 

重い声だ。あ、やばい、と定次郎は直感する。

 

「あー……そうだ。今、美子が――」

 

「(立ち上がりながら)ダメだ定次郎オオオオオ!!」

 

いきなり決壊だ。今日イチどころか、ここ数日の中でもトップクラスの号泣である。

 

「初任務!それは、隊士の死亡率が最も高い局面!君(才能ゼロ・改)が、一人で行くなど!私が許さん!私も行く!!」

 

「いやいやいや、お前は別任務あるだろ!柱候補は忙しいんだよ!」

 

そこへ、タイミングよく、別の鎹鴉が窓から飛び込んでくる。

 

「カァー!悲鳴嶼行冥!東ノ山ニテ異形ノ鬼ノ報告アリ!出陣セヨ、出陣セヨ!」

 

「なっ……!なぜだ!なぜ、今、私に別の任務を……!」

 

「当たり前だろ。お前みたいな怪物を、ヒヨッコの付き添いに回す余裕なんかないって判断だ。ありがたく行ってこい、行冥」

 

「(定次郎をぎゅううううと抱きしめ)……定次郎……!死ぬな……!君が死んだら、私は――」

 

「背骨折れるから!物理的な死因になるから離れろ!!」

 

 定次郎は、なんとか行冥の腕から抜け出す。行冥は、三歩進んで二歩下がる勢いで、何度も振り返りながら、東の山へ向かっていく。

 

「定次郎オオオ! 南無阿弥陀仏ゥゥゥ……!」

 

「カァー……あれ、本当に人間?」

 

「ギリ人間だ。ギリな」

 

行冥の背中が見えなくなってから、ようやく静寂が戻る。

 

定次郎は、育手に向き直る。

 

「……じゃあ、オヤジ。行ってくる」

 

育手は、無言で立ち上がると、奥から何かを持ってくる。

 

白い紙に包まれた――花束だ。

 

「……餞(はなむけ)だ」

 

「お。意外としおらしいじゃねえか。何の花だ?」

 

「菊だ」

 

「それ、完全に葬式のやつだろうがあああああ!!!」

 

定次郎の怒号が、朝の空に響く。

 

「いやいや、縁起がいい菊もある。長寿とか、そういう――」

 

「どの口が言ってるんだそのクソ真顔!!覚えてろよオヤジ!生きて帰って、その菊、お前の仏壇に供えてやるからな!!」

 

育手は、苦笑いを浮かべながらも、どこか誇らしげにうなずいている。

 

「……死ぬなよ、定次郎」

 

「言葉と花束が矛盾してるんだよ!!」

 

そんな漫才じみたやり取りを背に、定次郎は山道へと歩き出す。

 

背中のリュックが、ぎゅむ、と揺れる。

 

(……灯羽、静かだな。緊張しているのか? それとも――)

 

不安になって、こっそりリュックの口元を開けて中を覗き込む。

 

そこには、丸くなって寝ている灯羽の姿がある。

 

「すー……すー……」

 

「おい。任務中だぞ」

 

『んあ……? 定次郎……? だって、ヒマなんだもん……。鬼には睡眠いらないけど、これは『娯楽』よ、娯楽……すー……』

 

(禰豆子は人を食わない代わりに寝ているが、お前は単なるサボりだろこれ)

 

そんな会話をしていると、頭上の美子が、元気よく羽ばたく。

 

「カァー!定次郎!急ぎなさい!北ノ町はあっちよ!全速力で行くわよ!」

 

「おう、任された!……って美子、その方向は――」

 

美子は、勢いよく飛び出して、住宅街のほうへ突っ込んでいく。

 

「そこには民家があるぞ!」

 

――ガシャーーーン!

 

気持ちいいくらいの音を立てて、どこかの家の窓ガラスが割れる。

 

「カァァァ……(いてて……)」

 

(謝罪に行きたいが、任務中だ。帰りに覚えていたら土下座しよう)

 

「こ、これは想定内の……偵察よ!窓の強度を確認したの!さ、行くわよ定次郎!」

 

「自分で言ってて苦しくないのかお前」

 

それでも、美子の飛ぶ速度は本物だ。方向は壊滅的だが、時折電柱にぶつかりながらも、最終的にはきちんと北ノ町の方角へ曲がっていく。

 

(『任意操作(バグ)』の俺。『クソザコハードウェア』の灯羽。『曲がれない天才』の鴉、美子)

 

(……俺の周り、変なやつしかいないのかよ)

 

『でも、その全部が揃っているから、あなたは今、生きているんでしょ?』

 

『……お前、たまにいいこと言うな』

 

『でしょ? ご褒美に、今夜の缶詰、私が開けてあげる』

 

『そこは俺の成長ポイントだろうが』

 

 そんなくだらないやり取りをしながら、定次郎は、初任務の地・北ノ町へ向かう。

 

 山を一つ越えると、薄い霧の向こうに、瓦屋根が並ぶ小さな町並みが見えてくる。夕焼けが、町全体を赤く染めている。

 

「カァー!到着!ここが北ノ町!鬼ノ気配、微弱ナガラ複数アリ!」

 

「おお……ちゃんと仕事もしてるんだなお前」

 

「当たり前でしょ?私は天才鎹鴉よ?方向だけがちょっとバグっているだけ!」

 

(その『ちょっと』で窓ガラスが犠牲になるんだよな)

 

定次郎は、町の入り口で足を止める。

 

夕日のオレンジと、これから訪れる夜の闇。その境目に、自分たちの影が長く伸びている。

 

(さあ、初任務だ。バグだらけでもいい。俺は、俺のやり方で、鬼を斬る)

 

背中のリュックが、ぽん、と軽く叩かれる。

 

『ねえ、定次郎』

 

『なんだ』

 

『怖い?』

 

『当たり前だろ。命がかかっている』

 

『ふふ。でも大丈夫。あなたのOS(私)は、いつだって、あなたに張り付いているから』

 

『頼りにしてるぜ、俺のバグ天使』

 

『言い方がひどい!』

 

定次郎は、苦笑しながら日輪刀の柄に手を添える。

 

「――行くぞ。『神速(0.028秒)』の、初任務だ」

 

 そうして、バグだらけの三人――人間と鬼と鴉――は、夕暮れの北ノ町へと、一歩を踏み出す。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。