才能ゼロの俺、最弱の鬼(つま)と『同期』して最強へ至る ~呼吸が使えないので、思考加速(OS)と筋肉(ハード)の暴力で「柱」になりました~   作:この俗物怪物くん

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『熟成(おっさん)』と『涙(ダム)』

北ノ町の夜は、やけにのんびりしている。行商人の声が通りを流れていく。そんな中を、妙に目立つ三人組が歩いている。

 

 前を歩くのは、東大卒(首席)(自称)の鬼殺隊士・松田定次郎だ。真新しい隊服に、背中には例によって巨大リュック。肩の上には、黒光りする一羽の鴉、美子(よしこ)

 

(クソッ……!カラスの救出騒ぎと、俺の脱水と、灯羽とのイチャつきで、丸二日半が蒸発している……!貴重な任務時間が、涙のダムみたいに流出しているぞ!)

 

 定次郎のプライドは、胃のあたりでキリキリと軋んでいる。それでも、ここから巻き返すしかないと、自分に言い聞かせている。

 

(よし。今日こそ本格的に聞き込みだ。東大卒(首席)の情報収集力、見せてやる。俺は決して、カラスとイチャついている場合じゃない男だ)

 

その肩の上で、まさにそのカラスが、キリッとした顔で口を開く。

 

「カァー!定次郎!昨日の夜から、その『女』は誰だ!任務地で女と密会とは、風紀が乱れる!お館様に即時報告案件よ!」

 

「(ギクッ)ま、待て美子!こいつは、その、そのだな……」

 

 視線が隣の灯羽に泳ぐ。灯羽は、すでに「作戦」を理解しているのか、柔らかく微笑んで首を傾げている。完璧な「良家のお嬢さん」ムーブだ。

 

「た、たまたまこの街にいた、俺の……その……恋人だ!」

 

「(間髪入れず、定次郎の腕にぎゅっと抱きつき)初めまして、美子さん。灯羽と申します。定次郎さんとは、お付き合いを――」

 

 美子の鋭い眼光が、灯羽と定次郎を交互に刺す。超美人と、明らかにスペックの低い男。何度見比べても、釣り合いが取れない。

 

「…………カァー……」

 

 美子の眼差しが、しんみりとした同情に染まる。なぜか、定次郎ではなく灯羽のほうに向かって。

 

「あんたみたいな『美人』が!なんで、こんな『才能のない(バグ)』男と付き合うのよ!もったいない!目を覚ましなさい!」

 

「誰が才能のない(バグ)だこの焼き鳥ィィィ!!」

 

 定次郎の怒鳴り声が通りに響くが、美子は全くめげない。胸を張って翼を広げ、なぜか自分のほうが「保護者」だと言わんばかりの態度だ。

 

「ふふ。いいんです、美子さん」

 

 灯羽が、定次郎の腕をさらにきゅっと抱きしめる。体温が、隊服越しにじんわりと伝わってくる。

 

「私、定次郎(このひと)の、そういう『ダメ(バグ)』なところも含めて、良いと思っているんです」

 

「…………っ!!」

 

 その一言が、定次郎の胸にクリティカルヒットする。

 

(お、おおお……!俺の『バグ』を、良い、と……?こんなこと、人生で言われる日が来るとは、想定外にもほどがある……!)

 

 ぐわっと、背中のあたりから熱いものがこみ上げてくる。喉がきゅっと締まり、視界が滲む。

 

「灯羽ああああああああああ!!」

 

「ちょ、え!?また!?さっきも宿で泣いているでしょうあなた!」

 

 定次郎の涙腺は、完全に壊れている。頬を伝う涙が止まらない。通りの端で井戸端会議をしているおばちゃんたちが、「若いのに苦労しているのねえ」と微妙な視線を送っている。

 

「カァー……。行冥に涙腺バグ、感染しているわねこれは」

 

(ヤバい。俺の『OS』に、新たなバグがインストールされている。名称:涙ダム……!)

 

 結果として、定次郎はその場でしばらく号泣し、軽く脱水しかけて、灯羽に腕を引かれて宿へ戻る。貴重な任務の一日が、またしても涙とイチャつきで溶けていくのだった。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 翌日。さすがに危機感を覚えた定次郎は、涙腺を物理的に押さえ込みつつ、町の茶屋へ向かう。灯羽は今日は目立たないようにと、少し地味な着物姿でついてきているが、それでも十分目立っている。美人は、何を着ても美人だ。

 

(まずは聞き込みだ。鬼がいるなら、人が消えているはずだ。定番中の定番だな。問題は、俺が普通に質問すると、不審者判定されるリスクだが……)

 

 定次郎は、灯羽を「若妻」に見える位置に座らせ、自分はその隣で「疲れた感」を演出する。肩に美子が乗っているせいで、どうあがいても怪しさは消えない。

 

「はいはい、いらっしゃい。若いのに仲が良いねえ。新婚さんかい?」

 

「(にこり)ええ、まあ……旅の途中で、少し寄らせていただいているんです」

 

 灯羽の笑顔が炸裂した瞬間、茶屋の空気が一段明るくなる。隣の席のおっさんが、茶を噴きかけそうになっている。

 

(よし、場は温まっている。ここで情報収集だ)

 

「あー、その、女将さん。このあたりで、最近、誰か行方不明になったりは?」

 

「行方不明?若い娘のことかい?それなら、聞かないねえ」

 

「そ、そうですか」

 

 期待している答えと違う方向から返事が来る。定次郎の眉間にしわが寄る。

 

「それよりもだよ、うちの亭主がさぁ!」

 

「……亭主?」

 

「そうだよ! うちの亭主(四十八歳)が、昨日の夜から帰ってこないんだよ!あのスケベおやじ、絶対どこかの飲み屋で遊んでいるんだろうけどさ!全く、何考えているんだか!」

 

 女将の愚痴が止まらない。亭主の浮気疑惑、酒癖の悪さ、無駄遣いの数々。定次郎の前に、全く欲しくない中年男性情報が山のように積み上がっていく。

 

(いや、俺が聞きたいのはそこじゃない……!)

 

 その後も、あちこちで話を聞くたび、返ってくるのは似たような話だ。

 

「うちの常連の大工の親方がよ、二日前から姿を見ないんだ。ツケだけ置いていきやがってな!」

 

「隣の家の旦那、最近見かけないねえと思ったら、三日前から帰ってきてないんだってよ」

 

 並ぶのは、若い娘ではなく、四十代、五十代の、脂の乗ったおっさんたちの名前ばかりだ。

 

(おっさん、おっさん、おっさん……!!)

 

定次郎のやる気ゲージが、目に見えて減っていく。

 

(なんだこの任務……。俺はてっきり、『若い娘を鬼から救う、悲劇の剣士』ポジションに立つと思っているのに……。現実の俺、『中年おっさんを鬼から救う』じゃないか……)

 

 脳内に、筋肉質の中年男性をお姫様抱っこしてダッシュする自分の図が浮かぶ。即座に消したくなる。

 

(絵面がつらい……! これは読者ウケが悪い!)

 

「カァー。元気ないわね、定次郎」

 

「当たり前だろ……。おっさんばかりだぞ……」

 

「任務は任務よ。お館様からの命だもの。対象が青い娘だろうと、熟したおっさんだろうと、やることは同じよ」

 

 妙に正論だ。定次郎はぐうの音も出ない。

 

『ねえ、定次郎』

 

『なんだよ。慰めなら聞くぞ』

 

『その……おっさんって、食べたら、お腹、下さないかしら?脂、多そうだし』

 

『絶対に食うな』

 

 テレパシーの声が、妙に真剣なので余計に怖い。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 夕刻。太陽が山の端に沈みかけ、宿場町に橙色の影が伸びていく。定次郎は、集めた情報を頭の中で整理している。

 

(行方不明者は、すべて中年男性。消えるのは、決まって夜。最後に目撃される場所は、飲み屋街か、この宿場のあたり……)

 

 視線を上げると、そこには「藤の家」と書かれた立派な看板がある。彼が今泊まっている、鬼殺隊御用達の宿だ。

 

「…………」

 

(いやいや、まさかな……鬼殺隊御用達の宿屋が、鬼の根城なんて……)

 

 頭の中で、東大首席(自称)の理性が、必死に否定している。だが、論理は残酷だ。条件を並べていくと、どう考えても、この宿が一番怪しい。

 

(情報の集中度、行方不明者が最後に飲んでいる場所、女将の妙な色気……)

 

 思い返すと、到着した初日から、女将は妙に愛想が良い。笑顔は眩しいが、その奥の目は、どこか「値踏み」をしているように見える瞬間がある。

 

『そういえば、あの女将、あなたを見る目が、ちょっとねっとりしている気がするわ』

 

『ねっとりって言うな』

 

『わかるでしょう? ああいう目って、私、嫌い。なんか「食材」を選んでいるみたいな……』

 

(……あ)

 

 全ての点が線で繋がる感覚が、ぞくりと背筋を走る。

 

「………………と言うか、犯人、この宿屋だろ完全に!!」

 

 自分で口にした瞬間、さらに血の気が引く。この三日間、自分は鬼の巣のど真ん中で、カラスを助けたり、脱水で寝込んだり、恋人とイチャついたりしていることになる。

 

(よく生きているな俺……!)

 

慌てて部屋へ戻り、リュックの中の灯羽に報告する。

 

『灯羽! 鬼、この宿の女将だ、多分!』

 

『えっ!?あの美人女将? ――(ハッ)……道理で、あなたに妙に愛想が良かったわけね……』

 

『そこ嫉妬ポイントかよ!』

 

『当たり前でしょう。私の夫(よてい)に色目を使うなんて、いい度胸だわ』

 

(夫予定って、字面が重い……!)

 

 だが、嫉妬に燃える灯羽のOSは、頼もしいことこの上ない。定次郎は深呼吸をして、夜まで待機することに決める。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 夜。宿の廊下は静かだ。客室の灯が一つ、また一つと落ちていき、やがて聞こえるのは、虫の音と、遠くの川のせせらぎだけになる。

 

 定次郎は、気配を殺して廊下を進んでいる。肩には美子、背中には灯羽入りのリュック。三人一体のバグチームだ。

 

「定次郎、右の奥の部屋から、変な匂いがするわ。血と、酒と……何か熟成した匂い」

 

(熟成……嫌な予感しかしない単語だな)

 

問題の部屋の前に立つ。障子の向こうから、低い男のうめき声が聞こえてくる。

 

「……や、やめ……うっ……」

 

「ふふふ……力を抜いて頂戴。せっかくの旨味が逃げるわ」

 

 定次郎は、迷いなく障子を蹴り破る。

 

「鬼殺隊だ!!」

 

 中には、豪華な床の間。その中央で、宿の女将が、今まさに一人の中年男性の腹に牙を立てようとしている。男性の体は、すでに半分ほど喰われているが、まだかろうじて息をしているようだ。

 

「あらぁ?」

 

女将の顔が、にっこりと笑う。その瞳の奥には、澄んだ狂気が宿っている。

 

「見つかってしまったわね、坊や。……でも、言ったでしょう?あなたは私の好みじゃないの」

 

「質問だ。なんで、おっさんばかり狙う?」

 

「あら、簡単な話よ」

 

女将は、喰いかけのおっさんの頬を、指先で撫でる。中年男性の頬は、涙と脂と汗でテカテカしている。

 

「若いのは、青臭くてダメ。まだ旨味が薄いの。脂も乗っていないし、ストレスも少ないし……」

 

(ストレスの有無を旨味に換算するな)

 

「でもね、こういう『熟成(おっさん)』は違うのよ」

 

女将の目が恍惚と細まる。

 

「仕事の重圧、家庭の問題、酒と脂と不摂生。全部、時間をかけてこの身に染み込んでいる。その凝縮された旨味が、たまらないの。噛むたびに人生の味がするのよ……!」

 

(全く共感できない。世界には理解不能な性癖が多すぎる)

 

「だから、あなたみたいな若い子は、見逃してあげる。さあ、坊や。今日は見なかったことにして、部屋に戻りなさい。あなたはまだ、仕込みが足りないわ」

 

手をひらひらと振り、完全に「脇役」扱いだ。

 

「悪いが、俺は鬼殺隊だ。任務放棄はしない」

 

日輪刀の柄に手をかける。女将鬼の眉が、わずかに吊り上がる。

 

「なら、仕方ないわね。……若いけれど、少しは骨のある味がするかしら?」

 

『定次郎、あんなやつ、さっさとぶった斬りなさい。熟成趣味とか、趣味が悪すぎるわ』

 

『同意だ。よし灯羽、シンクロ開始。百倍速でいい』

 

『了解。演算開始――』

 

 世界が、わずかに色を変える。時間が伸び、女将鬼の動きがスローモーションになる。だが、灯羽のOSが完全同期すると、もはや相手の動きは、止まっているも同然だ。

 

(右足、一歩。体幹ロック。上半身、捻りを最小限。肩の力を抜いて――)

 

刹那。刀が走る。

 

 現実世界で、それは、ほとんど「音」だけの現象だ。金属のわずかな鳴動と、空気が裂ける気配。次の瞬間には、定次郎の刀はすでに鞘へ戻っている。

 

「あら、やるじゃな……」

 

 ふわりと、女将の首が宙を舞う。床に落ちる前に、その肉体は砂のように崩れていき、闇に溶けていく。

 

「でも、あなたの味は、まだ……若すぎ――」

 

言葉の途中で、完全に消える。

 

「……若くて結構だ」

 

 静まり返った部屋の隅で、ぼろぼろの中年男性が、かすかに息をしている。だが、体の半分以上は喰われていて、とても助かる状態ではない。

 

「……た、の……む……。おれの……か、かあ……に……」

 

 うわごとのような言葉が、途切れ途切れにこぼれる。定次郎は、その手を握る。

 

「心配するな。お前のことは、俺がちゃんと……」

 

言い終わる前に、男性の瞳から光が消れる。手から力が抜け、ぐたりと垂れ下がる。

 

(……間に合わないか)

 

定次郎は、静かに手を離し、両手を合わせる。

 

「南無」

 

 背中のリュックから、ひょこりと灯羽が顔を出す。目は、床に残された「食べかけの遺体」に釘付けだ。

 

「ねえ、定次郎。これ――」

 

(あ、完全に『食料』認定している目だ)

 

「……食うなよ、と言いたいところだが」

 

 さっきまで息をしている男の遺体は、もう動かない。鬼が喰い散らかした痕だらけだ。このまま放置すれば、別の鬼や獣の餌になるだけだ。

 

(俺は、この男を殺していない。事故死だ。俺たちは、ただその『後始末』をするだけだ……)

 

「……弔いだ。俺がやらないなら、お前がやれ。骨の欠片も残すな。遺族のところには、骨も帰らない。それならせめて、完全に消えてもらったほうが、まだマシだ」

 

「……本当に、いいの?」

 

「ああ。責任は、俺が取る。横領の共犯だ」

 

 灯羽の瞳が、少し潤んでいる。だが、その奥には、飢餓を満たせることへの喜びも、隠し切れずに滲んでいる。

 

「……いただきます」

 

 灯羽は、静かに遺体へ歩み寄り、血鬼術で自分の口を汚さないように工夫しながら、それでもきっちりと、骨の欠片一つ残さないように「弔っている」。定次郎は、その間、窓を開けて外を見つめ、ただ背中で彼女の行為を受け止めている。

 

(行冥。俺は、もう多分、まっすぐな正義の男じゃない。線引きが、きっと普通の鬼殺隊士と違う。……それでも、俺は、『人』は殺さない)

 

 夜の風が、頬を撫でている。どこかで犬が吠えている。世界は、何事もないように回っている。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 翌日。任務完了の報告を美子に託し、定次郎は宿を引き払う。リュックの中からは、ぐったりした灯羽のテレパシーが途切れなく飛んでくる。

 

『うう……お腹痛い……。定次郎のバカ……』

 

『なんで俺のせいだよ!? 『熟成(おっさん)』なんか食うからだろ!』

 

『だって、美味しそうだったんだもん……。脂が……すごくて……。胃が悲鳴を上げている……』

 

(血鬼術のOSが胃もたれとか言うな)

 

道すがら、定次郎は町外れの花屋に立ち寄る。

 

「すいません。菊の花束を、特大で。白と黄色を混ぜてくれ」

 

「おお、派手だねえ。誰か亡くなったのかい?」

 

「いや、まだだ。これからだ」

 

「は?」

 

「この住所だ。ここに、毎日届けてくれ。ツケで構わない」

 

 そう言って紙切れに「育手の家」の住所を書いている。主人はますます首を傾げているが、金さえ払えば文句はない。

 

 しばらく歩き、ようやく見慣れた山道が見えてくる。鬱蒼とした木々の間に、育手の家の屋根がのぞいている。

 

(よし。初任務、生還だ。これであのクソオヤジに、思いっきり文句をぶつけられる)

 

 玄関を開けるが、中は静まり返っている。いつものように育手の悪態も、行冥の号泣も聞こえない。

 

「……あれ?」

 

靴を脱いで上がろうとした瞬間、足元で「ちゃぷ」と水音がする。見下ろすと、玄関の土間に、不自然な水たまりが広がっている。空は快晴で、雨の気配は一切ない。

 

(雨漏り……ではないな。屋根は無傷だ。じゃあ、この水は何だ?)

 

 しゃがみ込んで、水面を指でなぞる。ひんやりとしている。匂いは薄い。ほんの少しだけ、塩の気配があるような、ないような。

 

「ねえ、定次郎」

 

「お、腹はもういいのか」

 

「それはそれとして、質問。普通の人間って、涙で『水たまり』を作れたりする?」

 

「……普通は、しないな」

 

「だよね」

 

灯羽が、水たまりを真剣な目で見つめている。OSがフル回転している時の顔だ。

 

「ここ、さっきまで誰かが座っていた痕跡がある。足跡、畳のへこみ……。きっと、あなたの『クソ親友(とも)』――悲鳴嶼行冥」

 

「クソ親友言うな」

 

「あの人、ここであなたを待っていた。あなたが帰ってくるかどうか、不安で、不安で、じっと座って……」

 

灯羽の視線が、水たまりをなぞる。

 

「そして、ここに、『これ』を残した。涙の量、深さ、広さから考えて……相当の時間、泣き続けている」

 

(解析が細かい……)

 

「そこで、私の仮説」

 

灯羽が、きゅっと目を細める。

 

「あの人、血鬼術を使うわね」

 

「は?」

 

「だって、人間が自然に流せる涙の量じゃないもの。これは、もはや能力。『涙の呼吸・壱ノ型・ダム決壊』くらいの威力がある」

 

「いや呼吸だから人間だろ!」

 

「血鬼術・水属性の可能性もある。『涙で周囲を水没させる鬼』なかなか厄介。あなたの周りのバグ率、明らかに上がっているし、そのくらいのイカれた鬼がいてもおかしくない」

 

(やめろ。俺の心の聖人を、鬼側にカウントするな)

 

定次郎は、ため息をつきながら、でも少しだけ笑ってしまう。

 

「まあ、あいつが人間だろうが鬼だろうが、俺の親友には変わらんよ」

 

「……ふうん。そこだけは、ぶれないのね」

 

 灯羽が、少しだけ柔らかく笑う。水たまりに映る空は、澄み切った青色だ。その上に、二人分の顔が並んでいる。

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