ガイアが俺に早く消えろと囁いている   作:差六

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第21話「未練」

 ヴェインが二つ目の魔法を解除し始めてからおよそ十数分、戦闘は順調に進んでいた。

 

「『ジャベリンレイン・ブレイズ』!」

 

 空高く飛ぶクリアシャインが振り下ろす杖に従い、無数の炎槍が天から降り注ぐ。

 

 いくら彼女の魔法が大雑把であっても、相手が十メートル超の巨体、それも愚鈍ともなれば余裕をもって全て着弾する。

 

 頭や肩、大外れは棍棒に向かいつつ、どれもオックスレギオンを焼き尽くした。

 

 そのため前方にいた四体を打ち滅ぼしながらも、構えた槍は未だ数本漂っている。

 

「で、余りはこっちに!」

 

 振り返りつつ、クリアシャインはそれらをイデアの暴走体へと打ち放つ。

 

 普段の数倍気合が込められた今夜の魔法は段違いの威力を秘めている。それこそ一本一本が家屋をたやすく吹き飛ばすほどだ。

 

 しかしその炎槍は全て、突如現れた半透明の壁に容易く阻まれた。

 

 そして次の瞬間には一転、槍は『緑』の風を纏いクリアシャインに向かって飛ぶ。

 

「うわ、っとと」

 

 乱雑な飛行魔法で横にずれ、その反撃は辛うじて避けられた。掠った髪が数本空に舞う。

 

「シャイン、大丈夫!?」

「全然余裕!」

 

 髪を無意識のうちに弄りながら、慌てて飛んで来た親友にクリアシャインは笑顔で答えた。

 

 だがその笑みも改めて暴走体に向き合った途端沈み、代わりに渋面が浮かぶ。

 

「反射擬き、ね。厄介な能力」

 

 向けられた魔法を受け止め、自身の力を加えて送り返す。

 

 魔法少女達が悠乃だったものへ攻撃することに躊躇があったのも最初だけ。この能力が判明してからしばらく経ったが、誰もこの壁を貫く術を見いだせていない。

 

 それは地を駆ける耕太郎も例外ではなかった。

 

 三百六十度、あらゆる角度から近づこうと飛び跳ねても、一定の距離に近づいた途端必ず障壁に阻まれる。

 

 もう何度目かも分からない挑戦に失敗した彼は、大きく舌を打った。

 

「チッ、そりゃ攻撃されてなくても出せるよな」

 

 八つ当たりでぶつけた石は障壁に受け止められ、風を纏って投げ返される。

 

 何故か明後日の方向へ飛んだ石は、生まれかけのレギオンの頭を粉々に砕いた。

 

「攻撃は跳ね返されるし、近づくことも出来ない。くそ、どうするか」

 

 その様子を遠くから眺めていた、戦闘開始から今まで障壁の穴を探していたクリアガイアは、一瞬大きく目を見開いた。

 

「……もしかして」

「ガイアちゃん、何か分かったんすか?」

「はい、少し離れます」

 

 傍でクリアガイアの護衛をしていたリードアルファにそう伝えると、彼女はすぐさま耕太郎のもとへと飛び立つ。

 

 そして着地音に振り返る彼の横を通り過ぎ、暴走体に向かって歩き出した。

 

「散々見ただろうけど、ゆっくりでも速くでも、近づくだけで駄目なんだ。こんな感じで、いきなり壁が出て来るから」

「……」

「あ、こら、そんな近づくと」

 

 止めようと咄嗟に手を掴み、強く引いた耕太郎の脳裏に十二月の記憶が蘇る。

 

「って、そうだ、ごめ」

 

 そのため離れかけた手を、クリアガイアは逃がすことなく掴み取った。

 

「貴方も一緒に来て」

「えっ、う、うん」

 

 そのまま緩く引かれ、二人は手を繋いだまま障壁に歩み寄る。

 

 一定の距離まで歩いた瞬間、これまでと同じく半透明の障壁が出現した。

 

 しかし触れるほど近づいても、クリアガイアが実際に触れても、障壁が彼女達を害する様子は見えない。

 

「……やっぱり、何も起こらない」

「やっぱり? えっと、これが何かとか分かったの?」

「ええ。それで、考えがあるの。皆を集めましょう」

 

 こうしてレギオンを撃つ合間を縫い、クリアガイアが説明した結果、

 

「要はカウンタータイプってこと?」

 

 無造作に魔弾を放ちつつ、クリアシャインはそうまとめた。

 

 顔面に魔法が命中したオックスレギオンは倒れ伏し、続いて暴走体の追撃が炸裂する。首が刎ね飛び、レギオンがまた一体消失した。

 

 クリアガイアはその光景を観察してから、再び仲間達に自説を語り始める。

 

「そもそもレギオンと違って、私たちは一度も反撃以外で攻撃されてない。いいえ、する素振りすらなかった」

「……お母さんに意識はないんだよね?」

「ええ。私も確認したけれど、ドクターの言う通りだったわ。貴方のお母さまは眠っているような状態よ」

 

 月原悠乃は並外れた精神力の持ち主ではあるが、普通の人間ではある。

 

 そのため眠る彼女になす術はなく、今はイデアに身を任せることしか出来ない。

 

 だが、彼女の心はそこにある。

 

「眠っていても無意識は残る。イデアはそれを読み取っているから」

 

 だからこそ、その牙が耕太郎達に向くことはない。

 

「……それで姉さん、結局どうするの? いくらあたしたちには攻撃して来ないからって、このまま放っては置けないでしょ」

「もちろんよ。いつ状況が変わるか分からないし、何より暴走の糧になっている悠乃さんの負担が大きすぎるもの」

 

 クリアガイアは一瞬耕太郎へ視線を送った後、クリアシャイン達に力強く告げる。

 

「だから一点集中、最大火力の一撃にかけて、あの障壁を突破する」

 

 続けて杖を振るい、二人に新たな魔法を与えた。

 

「シャイン、オーシャン、この魔法を使って」

「……『クリアレイ・ストリーム』っぽいけど、なんか違う?」

「貴方が昔冗談で言っていた、負担や制御を度外視した強化版よ」

「え!? でも姉さん、危ないし意味ないから駄目って前に」

「そうね。だから今日は私も一緒に撃つわ」

 

 更にさらりと告げてから、クリアガイアは耕太郎にもう一度目を向けた。

 

「俺は?」

「貴方は私たちが空けた穴から飛び込んで、直接イデアの暴走を止めて」

「分かった。だけど、どうやって止めれば」

「そのための力は私が用意しよう」

 

 文字通り飛んで来たヴェインが割り込むように宣言する。その声にクリアシャインは大きく顔を顰めた。

 

 彼はそれを無視、いや一切見向きすらせず、虚空から取り出したカードを差し出す。

 

「封印の魔法を込めたカードだ。直に触れて発動すれば、イデアの暴走であっても抑えることが出来る」

 

 手渡されたカードを確認するように、耕太郎は何度も裏表をひっくり返して眺める。

 

 そして何も理解出来なかった彼はクリアガイアに一旦預け、その性能と説明の真偽を確かめてもらった。

 

「確かに、この魔法ならイデアにも効果があるかもしれないわ。でもこれだと」

「君が察した通り、あくまでもその場しのぎの代物に過ぎない。イデアに通用するのは一度、それも僅かな時間だけだろう」

 

 願いを叶えるためにイデアはあらゆる障害を排除する。無論、封印も。そのため成功しても一時間、数十分も持たない内に封印は解除されるだろう。

 

 だがその程度のものであっても、現状最も求められているものはその時間だ。

 

 よって魔法少女達はそれを理解しつつ、早速作戦のために配置につく。

 

「私が細かい制御を担当するから、二人はいつも通り、ただ撃ち抜くことだけに集中して」

「了解!」

「はい、分かりました!」

 

 砲撃を担当する魔法少女達は、暴走体から少し離れたビルの屋上へ。今は飛行魔法に向ける意識、魔力すら惜しいため、クリアガイアも含め全員が地に足をつけている。

 

 作戦上役割がなく、手の余るヴェインは誕生し続けるオックスレギオンの対処を担当する。時に一人で十数体もの相手取ることになるが、その程度彼からすれば児戯にも等しい。

 

 そしてチャンスを待つ耕太郎は、

 

「末永さん、大丈夫ですか?」

 

 限界を迎えつつあるリードアルファ、末永のことを気遣っていた。

 

「いやぁ、まあ、これくらいの徹夜は慣れっこっす。前に新刊落としかけた時とかはもっと修羅場で、しかもあの時はその後頼める印刷所探して駆け回ったから、ってとにかくあれっす、ボクは全然、まだまだいけるっす!」

「……ありがとうございます。今日も、今日までも」

「いやほんと、気にしないで欲しいっす。ボクが勝手に蒔いた種っすから」

 

 口の中で誤魔化すように転がしてから、リードアルファは呟く。

 

「ヴェインさんなんかに協力してる通り、ボクも人を踏みにじる最低な、れっきとした外道の一人っす。でも、それでも、踏み荒らしちゃいけないことはあるから。だからごめん、グレイくん」

「だけど、末永さんがそうやって踏み荒らして来たから、俺はお母さんと会えました。だから、ありがとうございます」

「……グレイくんはもうちょっと、人を怒ったり憎んだりした方がいいっすね」

 

 呆れたような呟きに苦笑いを浮かべた瞬間、耕太郎の肌がざわつく。

 

 同じ感覚を得たリードアルファと共に見上げた先で、強大な魔力が渦巻いていた。

 

 埒外の力は存在するだけで地響きを起こし、屋上を少しずつ崩壊させていく。

 

「チャージ、完了……!」

 

 それだけの魔力、留めるだけでも魔法少女達の身体を容赦なく蝕んでしまう。

 

 よって予定していた合図をすら出来ず、反射的にその輝きは放たれた。

 

「『クリアレイ・スターストリーム』!」

 

 赤と青、そして黄の魔力が混ざり合った一筋の流星が、暴走体に向かって飛び立つ。

 

 『クリアレイ・スターストリーム』

 

 この魔法は三人の魔力を束ねることで、『クリアレイ・ストリーム』を遥かに上回る威力を発揮する。レギオンどころか結界を破壊しかねない過剰な威力と拭えない隙の多さから、今まで使用されることはなかった。

 

 通常、使用者の異なる魔法は強く反発し合う。

 

 それは世界の理であり、歴史上覆すことが出来たのは『光』の魔力を持つ少年、『クリアクロス』の力のみだ。

 

 魔法少女達はイデアに与えられたその模造品を振るうことで、この力の本質を知らずとも魔法を重ねることが出来ている。

 

 しかしかつて未来を求める八十億の意志を束ねた『クリアクロス』とは異なり、彼女達に繋げられる魔力は極めて少ない。

 

 二つでも限界に近かった負荷は、三つになった途端数倍、数十倍にまで膨れ上がる。

 

 そして生まれた苦痛は全て、人知れず引き受けたクリアガイアに襲い掛かっていた。

 

「っ、ぐっ、ぁ」

「姉さん!?」

「私は、大丈夫っ。だから貴方たちはもっと、もっと全力を出して!」

 

 全身の血管が沸騰するような熱と痛みに呻きつつ、クリアガイアは叫んだ。

 

 その苦しみが伝わらないほど、クリアシャインとクリアオーシャンは愚かではない。そしてここで尻込みするほど、彼女達は弱い少女ではない。

 

 よって二人は互いに頷き合い、持てる力を可能な限り早く、全て解き放つ。

 

「これで、全開だからっ!」

「全部、もってけ!」

 

 一回り大きくなった魔法は障壁をやがて呑み込み、結界内部を眩しく照らした。

 

 光が満ちたのはおよそ十秒ほどのこと。

 

 その輝きに目を焼かれ、また限界を迎え、結界に静寂が戻った瞬間、魔法少女達はその場に膝を着いた。

 

 更にそのまま倒れかけたクリアガイアを、クリアシャイン達は両側から支える。

 

「姉さん、大丈夫!?」

「じっとしててください。なんとか、回復魔法を」

「あり、がとう。でも、それよりも障壁は」

 

 眩み、揺れる視界を堪えながらも捕らえた光景に、クリアガイアは声を漏らした。

 

「そんな、あれでも足りないの……!?」

 

 三人の魔法が直撃したことで、暴走体が全方位に展開した障壁はあちこちに罅が入っており、今にも崩れ落ちそうではある。

 

 だが、それだけだ。

 

 今もなおその守りは健在であり、防ぎ凝縮させた『クリアレイ・スターストリーム』の魔力は反射の時を待ち、障壁の上で『緑』の風に包まれようとしている。

 

 合体魔法で高まり切ったその力は、どこにどう放たれようと結界を、その先を破壊するには十分な代物だ。よって数秒もすれば、外の世界は灰燼と化す。

 

「『穿て』」

 

 その魔力を、巨大な『黒』の魔弾が貫いた。

 

 置き去りになった風の悲鳴、障壁に突き刺さる音が辺り一面に同時に響く。

 

 杭のようなその一撃を、空に浮かぶ魔弾の射手を見た誰もが絶句し、動きを止めた。

 

「行け、耕太郎!」

 

 その男の、空に浮かぶぬいぐるみのような何か、らびらびの叫びを聞いてもなお。

 

「分かった!」

 

 しかしただ一人、耕太郎だけは迷いなく駆け出す。

 

 彼は街路樹、電柱、ビル、その場にあるものを駆使して空を駆け上がり、暴走体に向かって跳躍、跳び蹴りを撃ち放つ。

 

「はああああああッ!」

 

 その一撃はらびらびの放った杭に炸裂し、障壁を見事に突き破った。

 

 無論、耕太郎の動きは止まらない。

 

 彼は勢いそのまま杭を足場に跳ね跳び、握り締めていたカードを暴走体の核に叩きつける。

 

「これで、止まれ!」

 

 瞬間、カードから紫の魔力が解き放たれ、核の表面を走り始める。

 

 それが全身に、羽の先端まで至った時、暴走体は色を失いようやく動きを止めた。

 

「なんとか、なったのか?」

「……いいえ、これは」

「あくまでも緊急措置、元を断たなければイデアは発動したままだ」

 

 耕太郎の元へなんとか駆けつけ、首を横に振るクリアガイアの言葉を繋ぐように、空から舞い降りたらびらびが断言する。

 

 当然だが、彼に注目が集まった。

 

 自身は無力だと繰り返し主張していた彼が、あれほどの魔法を突然繰り出した。怪しいという言葉ではくくれないほどに不審である。

 

 そのため魔法少女達の、特にクリアガイアの見る目は、ヴェインに向けるものと同程度に鋭くなっている。

 

 らびらびはそれら全てを無視しつつ、

 

「そしてその元は、イデアの糧は、悠乃と君の未練だ」

 

 耕太郎だけを見つめながら、そう告げた。

 

 唐突に指摘されたのにもかかわらず、彼は驚くこともなく、ただ気まずげに目を逸らした。まるで、心当たりがあるかのように。

 

「……イデアは強く大きな願いに向けて手を伸ばす。だからこそ、イデアは君の未練をも叶えようとしている。君の意思を、無視してまで」

 

 それを指摘せず、責めもせず、らびらびは慰めるように語りかける。

 

 一方次に続いたヴェインの口振りには、やはり何の温情も感じられなかった

 

「しかし少年はともかく、少年の母君の未練を解消することは難しいだろう」

 

 暴走を抑えるためには、悠乃の意識をイデアから解き放たなければならない。

 

 そしてイデアから解放するためには未練を解消する必要が、つまり悠乃の意識を取り戻さなければならない。

 

 互いが互いの解決策となっている状況、典型的なデッドロックとも呼べる。

 

 困難な状況を前にクリアガイアは溜息を吐き、らびらびへの矛を一度収めた。らびらびの魔法すら、今の彼女にとっては横に置いておくべきことだったからだ。

 

「ドクター、貴方の魔力は『紫』、魂や精神の扱いに長じたもの。何か方法はないのかしら」

「私は色こそ『紫』だが、今は精神を直接操作する魔法は使えない」

「何よ、いっつもあんな偉そうなこと言ってあたしのこと馬鹿にしてるのに。肝心な時に役に立たないの?」

「……君の言葉を認めるのは癪だが、その通りだ。私に提供出来る策と言えば、精々少年の母君の魂を砕くことくらいだろう」

「絶対に手を出さないで」

 

 辛うじて一度暴走を抑えられたものの、根本的な対策は出来ず、レギオンも未だに発生し続けている。

 

 進むのは封印が解除されるまでの時間だけ。提案が浮かんでは否定され、希望はまるで見えて来ない。

 

「くそ、どうすれば」

 

 焦る耕太郎にクリアオーシャンが手を伸ばした瞬間、突然ヴェインの懐から小さな輝きが飛び出した。

 

「きゃあ!?」

「って、うわ、なんだ!?」

 

 光は耕太郎の傍へ辿り着くと、続いて彼とクリアオーシャンの周りをゆっくりと回り出す。

 

 それは無色透明のスフィアクオリアだった。

 

 新たな物体の唐突な登場、それも意味不明な挙動に首を捻る彼に対し、ヴェインは心なしか早口で語り始める。

 

「それはかつて我が神をも退け、世界を救った我が英雄の大いなる輝き。君達が恐れ多くも扱う力の原型とも言える、かの『クリアクロス』の複製品だ」

「複製品ですって?」

「以前伝えたとは思うが、スフィアクオリアは元があれば複製することが出来る。よって我が英雄に許可を願い作成し、扱えないが道しるべとして常に持ち歩いていた」

 

 相も変わらずヴェインの説明は独りよがりであり、知識の足りない耕太郎では分からないことの方が多い。

 

 しかし分からないものの、その輝きの意志については不思議と察することが出来ていた。

 

「……手、貸してくれるんですか?」

『──』

「そっか。ありがとうございます」

 

 礼を告げる耕太郎が手を差し伸べると、輝くスフィアクオリアはそこに柔らかく着地する。

 

 不可思議なそのやり取りを間近で見たクリアオーシャンは、大きく丸い瞳を白黒とさせた。

 

「兄さん、お話出来たの?」

「や、出来てないけど、先輩のそういう気持ちだけは伝わってきたというか」

「……先輩?」

「だって俺達の力のオリジナルなんでしょ? なら先輩として敬わないと」

 

 どこかズレた耕太郎の敬意に応えるように、スフィアクオリアが一本の光を放つ。

 

 輝きは暴走体に、その中にいる悠乃まで届くと、光の魔法陣を描いた。

 

 その魔法陣は一瞬大きく輝いた後、耕太郎との間に薄く光る道を作り上げる。

 

「先輩、これって」

「素晴らしい、さすがは我が英雄の力だ。本来ならスフィアクオリアに意思など宿らないが、まさか自発的に動き、その上このような事象まで起こすとは」

「感心じゃなくて説明お願いします」

「どうやら君と君の母君の繋がりから、彼女の内的宇宙へのゲートを開いたようだ」

 

 内的宇宙、と耕太郎がオウム返しに呟く。無理解の証明だ。

 

 その様子にヴェインはまたしても語り出した。

 

「世界とは一つの命である。つまり、命とは一つの世界である。この理論を」

「要するに、精神世界のようなものよ」

「……その通りだ。よって内部へ進めば、君の母君と話すことも出来るだろう」

 

 語り出したが、クリアガイアにあっさりとまとめられた。

 

「だったら、行かないと」

 

 いきなり与えられたイデアの暴走を抑える、母と自身の未練を断つ絶好の機会。

 

 耕太郎がそれを前に黙っている訳がない。

 

 説明も聞かずに一歩踏み出した彼の袖が、僅かな抵抗で引っ張られる。

 

「兄さん」

 

 袖を摘まみながら、兄を上目遣いで見つめながら、クリアオーシャンはそれ以上の言葉を続けられなかった。

 

 その様子に頬が緩むことで、耕太郎はようやく自分の顔が引きつっていたことに気がついた。

 

 だから彼は妹を安心させるため、自身を落ち着かせるために振り返る。

 

「大丈夫だよ。少し、お母さんと話すだけから」

「……うん」

 

 俯く妹の頭を優しく撫でた後、仲間の二人と頷き合ってから、耕太郎は迷いなく光の道を進む。

 

「じゃあ先輩、お願いします」

 

 そして辿り着いたゲートの前でお辞儀をする耕太郎を、スフィアクオリアは柔らかな光で包み込んだ。

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