それがないと、ちっとも無双できないんですけど……。
俺の周りには、光の泡が無数に浮かんでいる。空気ポンプの下に居座ったときのように、泡に持ち上げられている。
身体をひねっても、見えてくるのは輝く壁ばかり。地に足もつかず、宇宙遊泳の気分だ。
「……しゃ……、……よ、よくぞ……」
時代を知るしゃがれ声が、どこからともなく聞こえてくる。
これは、異世界転移のテンプレではなかろうか。いや、きっとそうだ。クラスで独りぼっちの俺には適正がある、みたいなやつだ……。
いや、と冷静な俺が待ったをかける。
仮に召喚されたとして、モンスターと戦わされるのだ。死なない保証はどこにもないし、国が機能しているとも限らないじゃないか……。
せめぎ合いをしている内に、足が地面に着いた。腕をのばすと、そこには制服の袖ではなく銀白の装甲になっていた。触れてみると、ヒンヤリとした金属の心地よさがあった。
「……勇者よ、よくぞ召喚されてくれた。さあ、ステータスを開け」
ああ、いつものやつだ。よぼよぼの王様に、厳かな部屋。鉄カブトをつけたお偉いさんが、感情のこもっていない拍手をしている……。
とりあえず、やってみるか。
「……ステータス、オープン!」
合言葉は合っていたみたいだ。タイルの連なったステータス画面が、俺の目の前に表示された。
『名前:カルイザワ ユウキ ジョブ:勇者』
えっ、これだけ!? もっとこうさ、『魔力がカンストしてます!』だったり、『隠しスキルがありました!』みたいなのじゃないの、これ?
簡素すぎる設計に口がふさがらなかった俺を見てか、王様が怪訝な顔つきになった。
「……どうかしたのか? ジョブはちゃんと『勇者』になっておるぞ?」
「そこが良ければいいのかよ……」
王様への口の利きかたがなっていないが、もうそんなことはどうでもいい。どうせ、わざわざ召喚してきたヤツの首は刎ねないだろうし。
ステータスというからには、何かしら役に立つ情報が載っていなくてはいけない。状態異常しかり、スキルしかり、強さを表すものが。
「……HPは無いの? ヒットポイント、攻撃受けたら減って、ゼロになったら死ぬやつ!」
「……何を言っているのじゃ? おぬしは首を斬られても死なぬというのか?」
ポックリ逝っちゃいます、はい。人間って、そういうつくりになってるので。
「……それじゃあ、スキル。『隠遁』とか、『防御力アップ』とか、最初から備わってるやつ」
「……確かに隠遁術を使える者も、防御が固い者もおるが……。皆、長年の努力をしておる。……もしやそなた、天才か?」
「すみませんでしたさっきのは聞かなかったことにしてください」
話が通じない。いや、変人なのは俺の方なのか。それはそうか。
選ばれし者である可能性を諦めずに、もうちょっと探ってみる。
「……なら、魔力は? 火を放ったり、手をかざすだけで回復させたり……」
「……魔女のことか……?」
お、やっと共通言語を見つけた。そうだよな、やっぱり俺は選ばれし者じゃないと……。
「……あ奴らは出まかせの大ウソつきどもじゃった……。『魔法』などと侮りおって……」
俺は気づいた。求められている勇者像は俺ではない、と。
だってなにもできないもん。剣振れないし、盾持てないし、ゲームばっかりしてきたし……。
うん、ゲームオーバーだな、こりゃ……。
お呼びじゃないの!?