代々伝わる魔法術士の末裔、ジョセフはついに召喚の儀式までこぎつけた。

「……これで、有能な俺の名前が残る……!」

王の目の前で、集大成を示すとき……!

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渡る異世界はサルだらけ

 赤いカーペットが敷き詰められた部屋は、そこら中に針が浮いているような空気につつまれていた。刀を鞘におさめる従者も、王座に深く腰をかえる初老の王も、みな描かれた魔法陣に目を奪われていた。

 長年の時を経て、ついに召喚の儀式が復活したのだ。先祖代々の魔法書を読み漁り、断片をあつめ、ようやく出来るようになったのである。

 

「ジョセフ、とくとく召喚せよ。この国の生き死にはこの召喚にかかっておるのだぞ!」

「承知しております、王。ですが、失敗しては元も子もありません」

 

 末裔であるジョセフは、その魔法陣の前に座っていた。金貨やらバナナやら、古書にある通りの材料をならべ、召喚の時を待っている。

 否が応でも、魔法陣から何かを出さなければならない。何も起きませんでした、と素直に引き去れるとは思えない。

 

(……だから国が荒廃しているんだ、とはとても意見できない……)

 

 圧政も圧政、金にモノを言わすプライド高き王である。あとは言うまでもない。

 塩を一面にふりかけ、ついでバナナを中央へ。これで準備は整った。

 

「……これより、召喚の儀を開始する。古書では、光が天より舞い降りて……」

 

 ジョセフが言い切るよりも前に、図体だけ大きいシャンデリアを透過して光が差しこんだ。あのお天道様ですら与えてくれない、純真な光であった。

 王も含め、皆が光の柱に意識を持っていかれている。どのような者が登場するのか、期待と不安が交錯している。

 

 静寂を打ち破ったのは、柱から浮き出たひとつの影だった。

 

「ウキー! ウッキ、ウッキ、ウキー!」

 

 はぁ?

 

 毛むくじゃらな手が空間に現れた。手には皮が剥かれたバナナを持って、その場に踊り跳ねていた。

 

 世界はひとつだけでなく、ジョセフたちとは違う道筋をたどった星もいるのだ。知能ある人間ではなく、進化が止まってしまった世界も……。

 

(……あってたまるか! 俺の名声が、未来が、かかって、る……んだぞ!?)

 

 サルがモンスター討伐に使えるはずがない。むしろ穀物を食い荒らし、とどめの一撃を刺す反逆者、いや反逆動物である。

 

 王は眉間にしわを寄せていた。小さくまとまった暗愚の目でソレをけなし、白く変わったあごヒゲをさすっていた。

 

「キーキーキー! ウキッ?」

 

 何も考えていない目で見てくるな。首を傾げるな。今すぐぶった切ってやる。

 

 重厚な王のしわがれ声が、王室中にこだました。

 

「……サル二匹、片づけろ。ただし、魔法陣は壊すな」

 

 ぶった切られるのはジョセフだったようだ。

 

 見物にまわっていた従者たちの剣が抜かれた。どれもこれもさび付いており、刃こぼれでまともに切れなさそうだ。長く傷みつけるつもりか。

 どちらにせよ、ここで終わりたくない。ジョセフが愚鈍な召喚士もどきだったなど、歴史に刻まれていい話ではない。

 

「……王! もう一度だけ……、もう一度だけ、チャンスを……!」

 

 聞き入れられることは前提にしない。手順にあった通り、金貨を魔法陣の上に乗せた。

 

 忠実な部下たちは、命令があるまで前の状態を保つ。余命はもう幾ばくも残されていないということだ。

 

 剣が振りかざされた刹那、淡い青の光が解き放たれた。

 

 一度目ほどの時間はかからず、光はすぐに魔法陣へと吸収されていく。残ったのは、目をニヤつかせている男だけだった。

 

 男は、見上げることしかできていないジョセフに向かって一言。

 

「ここが異世界ってやつだな。まさに、俺の暴れるところピッタシじゃねえか!」

 

 

 

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 先人たちが残した文書には、ジョセフたちがたどり着けなかった続きがあった。

『……もしこの手順に沿ったならば、まずサルが出てくるであろう。これは、我々の警告である。正真正銘『サル』しか召喚できない、という警告である……』




サルだらけじゃないかこの世界は

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