今日は、年に何度ともない幼馴染と会える日だ。

彼女は、ちっぽけな列車に乗ってやってくる。

彼女といっしょになって、ようやく夏が始まるのだ。

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ほんのり関西に染まった幼馴染ヒロイン! と始まる夏

 入口からどっと出てくるのは、換気された車内の空気たち。足を速めて地に降り立ち、それぞれ散り散りになっていく。

 駅にかけてある日めくりカレンダーは、青色を指している。高校によっては補講があるらしいが、そんなもの知ったこっちゃない。

 

 押し入れからスポーツキャップを探してきた知宏(ともひろ)は、屋根の陰で線路を眺めていた。蒸気が出ていて、触った瞬間に蒸発してしまいそうだ。

 

 時折吹きこむ涼風に、つるされている風鈴が風情な音を奏でている。

 

(去年のこの頃は、いっしょにすすってたんだっけ……?)

 

 幼馴染の遥夏(はるか)と二人ならんで縁台に腰をおき、そうめんを味わっていた。めんつゆの器に浮かぶまるっこい氷をつつき、麦茶を喉に流し込んでいた。

 

 離れ離れになるなんて思いもしなかった、数年前の夏休み。家族の転勤につられ、彼女も遠くへ行ってしまった。

 インターホンを鳴らせば、虫取り網とカゴを持ったやんちゃ少女が飛び出てくる。そんな光景も、見納めになってしまったのだ。

 

 外に置かれた植木鉢には、蜜を求めてハチだちが群がっている。夏は、ハチたちが一年でいちばん躍動する季節でもある。

 

 ホームの警告灯が回り、しばらくの赤色が目を引く。地響きをたずさえて、ちょろっとした編成の列車がやってきたのだ。

 

 初めて遥夏の家を訪れたときは、密度の違いに気を失いそうになった。街中どこでも下を向いた人々に、昼間だろうとお構いなしに流れるモニター。ひっきりなしに列車が到着しては、人間を入れ替えていっていた。

 あの空気に馴染めるとは到底思えない。想像するだけでも鳥肌が立ってしまう。また時が経てば、意味を見出せる日が来るのだろうか。

 

 空気の抜ける音がして、先頭のドアが開く。見覚えのある顔が、運転士に切符を見せていた。うなずかれるままに、運賃箱へとそれは消えていった。

 ああ、夏がようやく訪れたのだ。セミが自由を謳歌するよりも短い、しかし毎年奇跡を運んでくる夏が。

 

 麦わら帽子に、風通しのよさそうな白色の服。風が貫通していきそうな見た目の幼馴染が、手をいっぱいにして振ってくれていた。

 

「知宏、久しぶりー! 元気にしてた? 夏バテ、してない?」

「そっちこそ! 毎回のことだけど、ここまで来るの大変じゃない? 都会みたいに、電車で一本……とは行かないから」

 

 地方の鉄道は、本数もやる気もない。一本逃すと、野宿までありうる。

 

 西日本にほんのり染まった幼馴染は、斜めに鋭い歯を光らせていた。虫歯がみずから逃げていく白さである。

 

「……しっかし、ここも変わらへんなぁ……。いつ来ても、道の横に立ってる樹がお出迎えしてくれてる。こっちの方なんて、公園がかたっぱしから潰されてるんやから……」

 

 唇を噛んで、ジト目をぶつけてきた。中身はいつもの彼女のままでなによりだ。

 

「まあ、そんなにへこまずに。……せっかくここまで来てくれたからには、やっぱり夏っぽいことをやろう、な?」

「高校は窮屈やし、思いっきり体を動かせるところがないからなぁ……。うん、そうしよ。知宏、虫取り網ってまだ残してる?」

「もちろん。……さすがに、昔みたいな木登りはやめてほしいけど……」

「なんか文句あるん? ほら、そのために下に体操服を履いて……」

「遥夏、人前でスカートを持ち上げるのはやめような」

 

 勉強という檻から抜け出せる、ほんのひととき。遥夏といると、横断歩道すら飛び越せそうだ。

 

「……そっか、知宏はこれが好きなんや。……あたしがスカートめくるとき、ココがキューっと赤くなってたやろ?」

「……そんなことない!」

 

 スカートであおいでくる彼女に、おもわず顔をそむけた。

 

 

 

 数か月に一回しか会えない幼馴染に何かを抱くのは、やっぱり間違っているのだろうか。




関西弁って、文字起こしすると標準語になるんですよね……。

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